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国産クラウドを支える設計とチームの変遷
“技術・組織・ミッション”

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November 20, 2025

 国産クラウドを支える設計とチームの変遷
“技術・組織・ミッション”

国産クラウドを支える設計とチームの変遷
“技術・組織・ミッション”
アーキテクチャConference 2025

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November 20, 2025
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  1. Me • 長 野雅広(ながのまさひろ) • @kazeburo (X, GitHub, mixi2) •

    さくらインターネット株式会社 クラウド事業本部 副本部 長 テクノロジー室(旧SRE室)ファウンダー • mixi、livedoor (現 LINEヤフー) 、 mercariを経て2021年から現職 コロナ禍でランニングをやりはじめ、 ハーフマラソン・フルマラソンにも挑戦してます
  2. “さくらのクラウド” • 2011年11 月 15 日 IaaS型クラウドとしてサービス開始 • 15年 目

    に 入 りました • 仮想サーバ、ストレージ、ネットワークを中 心 とするIaaS型クラウドとして提供開始 • DNS、仮想ルータ、ロードバランサ、RDBMSなどマネージメントサービスも順次展開 • 特徴 • ソブリニティ(データ主権、技術主権、運営主権) • わかりやすい料 金 体系(データ転送量による従量課 金 なし、為替の影響を受けない)
  3. “さくらのクラウド” • リージョンは東京と北海道” 石 狩”の2拠点 • ゾーンは東京2ゾーン、 石 狩3ゾーン •

    各ゾーンを閉域網で接続、 オンプレミスや他社CSPとも接続できる ネットワークサービスも展開
  4. ガバメントクラウド認定* • 2023年 「ガバメントクラウド整備のためのクラウドサービス」に認定* • 国産クラウドとしては唯 一 の認定 • 2025年度末までに”技術要件”を全て満たすことを前提に認定

    • ガバメントクラウド認定の狙い • クラウド最適化、モダンなアプリケーション開発というデジタル庁の狙いはさくらインター ネットの中 長 期の取組みとも合致 • IaaS型のクラウドから、フルスペックのクラウドプラットフォームとして進化させ、モダン なクラウドサービスに適合する
  5. 「IaaS型クラウドサービス」の 立 ち位置 年 抽象度/統合度 2006 2010 2015 2020 2025

    IaaS(仮想サーバ) マネージドサービス(DB) コンテナ/Kubernetes サーバレス AI/機械学習 SaaS・業界特化
  6. 「IaaS型クラウドサービス」の 立 ち位置 年 抽象度/統合度 2006 2010 2015 2020 2025

    IaaS(仮想サーバ) マネージドサービス(DB) コンテナ/Kubernetes サーバレス AI/機械学習 SaaS・業界特化 IaaS型クラウド サービス
  7. 「IaaS型クラウドサービス」の 立 ち位置 年 抽象度/統合度 2006 2010 2015 2020 2025

    IaaS(仮想サーバ) マネージドサービス(DB) コンテナ/Kubernetes サーバレス AI/機械学習 SaaS・業界特化 IaaS型クラウド サービス
  8. 「フルスペック・クラウドプラットフォーム」へ • さくらのクラウドは、クラウドを前提としたアーキテクチャに必要な主要コ ンポーネントを揃えるフルスペックのクラウドプラットフォームを 目 指す • 濃淡はあれど、抽象度/統合度の 高 いサービスへ移

    行 は間違いなく進む • これまでのサービス、やり 方 では広い顧客の課題を解決することができない • ガバメントクラウドの技術要件はクラウドでITシステムを作る上での必要な機 能のサブセットをうまく選択している • 技術要件を満たし、正式な認定を得ることが「 入口 」
  9. 「フルスペック・クラウドプラットフォーム」へ 年 抽象度/統合度 2006 2010 2015 2020 2025 IaaS(仮想サーバ) マネージドサービス(DB)

    コンテナ/Kubernetes サーバレス AI/機械学習 SaaS・業界特化 IaaS型クラウド サービス ガバメント クラウド技術要件
  10. ガバメントクラウド • デジタル庁が整備する、政府全体で共通利 用 するクラウドサービス基盤 • 既存の「パブリッククラウド」を活かし、柔軟迅速にセキュアなシステム基盤の 調達を可能とする • 政府や

    自 治体アプリケーション開発を現代的なものとし、国 民 に利便性の 高 い サービスをいち早く提供することにつなげる • ガバメントクラウド対象クラウドサービスはデジタル庁にて認定 • デジタル庁から出ている技術要件を満たす必要がある
  11. ガバメントクラウド技術要件 • 17項 目 /約300件の技術要件を「全て」満たす必要がある • 基本事項、(1)コンピュート(サーバ)機能、(2)ストレージ、(3)データベース、 (4)サーバレス・コンテナ関連機能、(5)API関連機能、(6)アプリケーション連携機能、 (7)データ分析機能、(8)コードリリース機能、(9)ネットワークとCDN、 (10)システム運

    用 管理機能、(11)ユーザ管理、(12)バックアップ、 (13)データポータビリティ・移 行支 援機能、(14)セキュリティ機能、 (15)暗号 管理とデータ保管セキュリティ、(16)機械学習関連機能 • ※令和5年度募集の技術要件 • リストは以下のURLから参照可能 https://www.digital.go.jp/procurement/3058bc41-ee8f-49bb-8f22-8def725f6f3f
  12. 開発進捗 • 9 月 末時点で80%を超える技術要件を充 足 • デジタル庁からの評価 • 2025年9

    月 末時点の進捗状況を確認した結果、体制及び計画の 見 直しが必要とな る開発項 目 があることを確認しましたが、開発計画全体には影響なく、引き続き 進捗状況を注視し確認を 行 っていくこととします。 • 年内の技術要件の充 足 に向けて最 大 のパフォーマンスをもって開発
  13. リリースした機能・サービス( 一 部) 機能名 概要 サービス・ウェブサイトの稼働情報 「さくらのクラウド」の各サービスおよび各種サイトの稼働状況を表 示 するサービスです。 AppRun

    コンテナイメージから簡単にアプリケーションをデプロイし、 自 動的にスケーリングできるマネージドサー ビスです。 シンプルMQ ソフトウェアコンポーネント間でのデータの送受信ができるマネージド型のメッセージキューサービスで す。 シンプル通知 メールや Webhook※1 を利 用 して、簡単に通知を送信できるサービスです。 Webhook は Slack、Discord、Microsoft Teams、IFTTT、および Zapier で利 用 可能です。 EventBus イベント検知サービスとジョブスケジュールサービスを統合したマネージドサービスです。スケジュールト リガーを利 用 して、 自 動的にジョブを実 行 可能となります。 シークレットマネージャ お客さまのシークレット情報を管理・保管するためのサービスです。 KMS (Key Management Service) 暗号 のライフサイクル管理を 行 うためのサービスです。
  14. リリースした機能・サービス( 一 部) 機能名 概要 APIゲートウェイ Web API のルーティング /

    リクエスト・レスポンス変換 / 認証認可を 行 うマネージドサービスです。 NoSQL パフォーマンスを犠牲にすることなくスケーラビリティと 高 可 用 性を実現した、Apache Cassandra 互換の マネージドデータベースサービスです。 クラウドHSM HSM(Hardware Security Module)※2 のリソースをクラウド上で提供するサービスです。 モニタリングスイート システム監視を 行 うためのプラットフォームです。 「さくらのクラウド」およびその他のクラウド、オンプレミス等の多様な環境を 一 元管理し、可視化するこ とが可能となります。 Work fl ows 「さくらのクラウド」上に、ワークフローを実 行 する基盤を提供するサービスです。 ワークフローを 用 いて、反復実 行 するための特定操作をYAML(YAML Ain ’ t Markup Language)で定義す ることが可能となります。 マイグレーションサービス (移 行 ツール) VMware環境から「さくらのクラウド」への移 行 を効率的に 行 うためのツールです。
  15. リリースした機能・サービス( 一 部) • 認証認可(IAM) • SSO連携 • 専有ストレージ •

    プレミアムサポート(さくらのクラウド) • DNS プライベートホストゾーン • サービスエンドポイントゲートウェイ • PITR(データベース) • 暗号化 BYOK対応 • 高火力 VRT (GPUプラン)
  16. 垂直統合・ 自 前主義 • さくらインターネットのビジネスモデルの特徴 • データセンターの所有から開発、運 用 サポートまで 自

    社 一 貫で担う • 垂直統合で事業の成 長 と顧客への 提供価値の最 大 化 ͘͞ΒͷϨϙʔτ౷߹ใࠂॻ2025 ͘͞ΒͷϨϙʔτ౷߹ใࠂॻ
  17. さくらのクラウドの垂直統合モデル ϗετ ෺ཧαʔό ωοτϫʔΫ ετϨʔδ データセンター 基盤システム(API, Controller, Database, MQ)

    仮想ネットワーク ハイパーバイザ 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 課 金 システム Linux + KVM、QEMUを 自 社ソフトウェアで制御
  18. さくらのクラウドの垂直統合モデル ϗετ ෺ཧαʔό ωοτϫʔΫ ετϨʔδ データセンター 基盤システム(API, Controller, Database, MQ)

    仮想ネットワーク ハイパーバイザ 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 課 金 システム Open vSwitchを制御する ソフトウェアを開発し、 ネットワークを作成制御 Linux + KVM、QEMUを 自 社ソフトウェアで制御
  19. さくらのクラウドの垂直統合モデル ϗετ ෺ཧαʔό ωοτϫʔΫ ετϨʔδ データセンター 基盤システム(API, Controller, Database, MQ)

    仮想ネットワーク ハイパーバイザ 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 課 金 システム Open vSwitchを制御する ソフトウェアを開発し、 ネットワークを作成制御 Linux + KVM、QEMUを 自 社ソフトウェアで制御 データセンター、 ハードウェアの 自 社運 用
  20. さくらのクラウドの垂直統合モデル ϗετ ෺ཧαʔό ωοτϫʔΫ ετϨʔδ データセンター 基盤システム(API, Controller, Database, MQ)

    仮想ネットワーク ハイパーバイザ 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 課 金 システム Open vSwitchを制御する ソフトウェアを開発し、 ネットワークを作成制御 Linux + KVM、QEMUを 自 社ソフトウェアで制御 データセンター、 ハードウェアの 自 社運 用 IaaS基盤のコントロール プレーンは 自 社開発・運 用
  21. さくらのクラウドの垂直統合モデル • IaaS基盤ソフトウェアの機能や運 用 最適化を 行 い、ビジネスモデルにあった プランの作り込みが可能 • 逆に作り込みが必要とも

    言 え、そのコストは 小 さくない • 自 社外の変化に影響されにくい、強靭なサプライチェーン • ライセンス形態の変更やOSSプロジェクトの運営による影響を受けにくい • 変化を起こしていくためのモメンタムを維持しなければならない
  22. 多層アーキテクチャ データセンター・仮想ネットワーク・ハイパーバイザ 基盤システム(API, Controller, Database, MQ) 7. 7. 7. 7.

    "1* 共通サービス 課 金 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 仮想マシン 7. 7. 7. アプライアンス "1* 7. 7. 7. SaaS
  23. 多層アーキテクチャ データセンター・仮想ネットワーク・ハイパーバイザ 基盤システム(API, Controller, Database, MQ) 7. 7. 7. 7.

    "1* 共通サービス 課 金 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 仮想マシン 7. 7. 7. アプライアンス "1* 7. 7. 7. SaaS APIや物理HWの制御など 多数のソフトウェア
  24. 多層アーキテクチャ データセンター・仮想ネットワーク・ハイパーバイザ 基盤システム(API, Controller, Database, MQ) 7. 7. 7. 7.

    "1* 共通サービス 課 金 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 仮想マシン 7. 7. 7. アプライアンス "1* 7. 7. 7. SaaS IaaS基盤上でマネジメント サービスを構築 APIや物理HWの制御など 多数のソフトウェア
  25. 多層アーキテクチャ データセンター・仮想ネットワーク・ハイパーバイザ 基盤システム(API, Controller, Database, MQ) 7. 7. 7. 7.

    "1* 共通サービス 課 金 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 7. 仮想マシン 7. 7. 7. アプライアンス "1* 7. 7. 7. SaaS 「さくらのクラウド」上で 様々なサービスを組み合 わせ、SaaSを構成 IaaS基盤上でマネジメント サービスを構築 APIや物理HWの制御など 多数のソフトウェア
  26. さくらのクラウドに含まれる「サービス」 • アプライアンス・サービス • 1台以上のVMにソフトウェアを 自 動構成し、顧客のプライベートネットワークに接続 • ミドルウェア・ソフトウェアの運 用

    監視をマネージドで提供する • 例:データベース、VPNルータ、ロードバランサ(アプライアンス) • 共通サービス(グローバルサービス) • 複数台のVM(サービスホスト)にソフトウェアを構成。共有リソースとして顧客に払い出す • 複数のリージョンに分散して可 用 性を担保するサービスもあり • 例:DNS(アプライアンス)、GSLB、エンハンスドロードバランサ、コンテナレジストリ
  27. 多層アーキテクチャ例 • IaaS基盤の上にVMがあり、VMの上にアプライアンス、アプライアンスの上に 共通サービス、共通サービスの上に別のサービスが層となり重なっている • 例1: データベースアプライアンスを共通サービスのリソース管理に利 用 • 例2:

    エンハンスドLBはVIPフェイルオーバー機能DNSを利 用 • ただし、サービス間の依存ループはNG • 依存がループすると障害時に復旧が不可能 • ポリシー、サービスのレイヤーを定め、循環依存を回避
  28. 2023年のさくらのクラウド開発体制 • ガバメントクラウド認定前(2023年)の クラウド開発チーム • ソフトウェア開発で10 人 強 • クラウドの多様なサービス、レイヤーを

    アメーバ状のチームで担当 • メンバーが少ない、固定される状況では意思疎通 がしやすい • オンボーディング、ノウハウ共有に 長 時間かかる 認知負荷が 高 い
  29. “開発 生 産性”へのチャレンジ • ガバメントクラウド認定のためには、短期間で多くの開発を並 行 で 走 らせる 必要。圧倒的に

    足 りない開発 生 産性 • 「ガバメントクラウドのための体制」ではなく「ガバメントクラウドを契機 にサービスを改善し続ける体制に」 • チーム、メンバーの変化と成 長 をこの取り組みの最も 大 きな成果としたい
  30. チーム分割と担当機能の責任を明 示 • 機能単位でのチーム分割、担当機能にチームで責任を持つ • 技術要件から何をサービスとして開発を 行 うのか、どうつくるのかを責務とする • 4+1チームへの分割

    • API開発チーム、データベース・課 金 チーム • コンテナ実 行 基盤チーム、IaaS基盤チーム • テクノロジー室 (監視、SDK、暗号化、共通サービス系)
  31. チーム分割と担当機能 データセンター・仮想ネットワーク・ハイパーバイザ 基盤システム(API, IAM) 7. 7. 7. 7. 7. 7.

    顧客VM アプライアンス 7. 7. 7. 7. "1* 共通サービス 課 金 Controller, DB, MQ "1* "1* • 4+1チームへの分割 • API開発チーム • データベース・課 金 チーム • コンテナ実 行 基盤チーム • IaaS基盤チーム • テクノロジー室 (共通サービス系)
  32. アーキテクチャ上の課題と変化 • モノリシックなコントロールプレーンの存在 • サービス開始当初から存在し、さくらのクラウドのリソースの多くを制御する基盤 • 多層アーキテクチャもIaaSのコントロールプレーンに最終的に依存してしまう • ハードウェア・ネットワークとも密結合で開発、検証、テストの上でもボトルネック •

    コントロールプレーンからの機能分割・依存の削減 • IAM(認証認可)を 大 幅に強化するにあたり、コントロールプレーンから認証認可機能を切り出し • 新規サービスの 一 部ではコントロールプレーンに密結合させず、IAM、課 金 システムなどとAPIで 疎に結びつくアーキテクチャの採 用
  33. 開発チームの”今” • ソフトウェア開発に関わるメンバーは 10 人 程度から100 人 以上に拡 大 •

    2025年度後半に 入 り、毎 月 のリリースが 当初の3-4倍 行 えるように 大 きく変化・成 長
  34. 提供価値に基づいた体制 • 機能サービス・利 用 技術だけではなく、提供価値・責務に基づいたチームの 編成・ロール明 示 を検討 • ユーザ価値の最

    大 化と顧客視点のサービス開発部 門 • サービス提供に共通して必要とされる実 行 基盤と インフラ開発のプラットフォーム部 門 • 組織全体の技術的整合性、品質の観点から技術的な意思決定の 支 援を 行 う部 門 • アーキテクチャへも影響させていく (逆コンウェイ戦略)
  35. まとめ • リリースから15年 目 に 入 ったさくらのクラウドは 大 きく進化していきます •

    顧客価値ファーストに根差した組織、サービス開発を志向していきます • 国産クラウドの開発にこれからも注 目 をいただけると幸いです