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プログラミング教育における生成AIの影響

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October 14, 2025
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 プログラミング教育における生成AIの影響

このプレゼンテーション資料は、エストニア・タルトゥ大学におけるプログラミング教育における生成AIの影響に関する論文" Does generative AI help in learning programming: Students’ perceptions, reported use and relation to performance" https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2451958825000570?via%3Dihub をもとに作成しました。

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October 14, 2025
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  1. 本日の内容 01 研究の背景と問い なぜこの研究が重要なのか 02 学生のAI利用実態 どのくらい、どのように使っているか 03 AIの「光」 メリットと学生の評価

    04 AIの「影」 デメリットと懸念 05 使用頻度と成績の関係 重要な発見 06 教育実践への示唆 私たちにできること
  2. 研究概要 研究論文 Lepp & Kaimre (2025)エストニア・ タルトゥ大学 対象コース オブジェクト指向プログラミングJava 言語

    参加者 231名の学生男性68%、女性32% 調査時期 2023/2024年春学期16週間のコース 調査方法 コース中間(8週目)にアンケート実施 位置づけ 1年生の2つ目のプログラミングコース Python経験あり
  3. どのくらいの頻度で使っているか? 使用者184名の内訳を見ると、興味深いパターンが見えます。 47% 低頻度利用 1回または数回のみ 53% 定期的使用 隔週以上の頻度 3.9% 毎週使用

    全体231名中わずか9名 使用者の約半数は「試してみた」程度で、毎週依存している学生は極めて少数です。「AI依存」の懸念は現時点では限定的と言えます。
  4. 非使用者が大切にしていること 独立学習の重視 「独立して問題を解決し、調べるこ との方が面白い」 「助けが必要なほど困っていないし 、できる限り自分の頭で解決したい 」 従来リソースへの信頼 「単にGoogleで問題を検索する方 が、より良い理解と60%の確率で

    より正確な回答が得られる」 長期的視点 「AIの使用はその瞬間便利で時間を 節約しているように見えるが、長期 的には時間を失う。なぜなら、後で 自分で学ばなければならないから」 非使用者の声は、教育者として非常に示唆的です。彼らは単にAIを知らないのではなく、意識的に選択しています。特に注目すべきは「長期的 視点」を持つ学生の存在です。
  5. メリット①: 即座の回答と24時間利用可能 学生の声 「すぐに応答する」 「すぐに答えが得られる。資料を検索する時間を使わない」 「いつでも答えを得られる」 「昼夜を問わず利用できる」 従来の方法との比較 「Googleより速くて正確」 「教員やTAに聞くと待たなければならないが、AIは待たせない」

    速度 瞬時の応答 可用性 深夜でも質問できる 効率性 検索時間の削減 最も頻繁に挙げられるメリットは「速さ」です。学習の流れが中断されず、つまずいた瞬間に支援を得られる点はポジティブですが、「自分で 調べる」「試行錯誤する」という重要な学習プロセスをスキップしてしまう可能性もあります。
  6. メリット③: 明確で段階的な説明 シンプル化 「小さな子供に説明するように説明してくれる」 段階的説明 「ステップバイステップでコードがなぜ、どのように動作する かを説明する」 対話的学習 「非常にシンプルに説明できるので、より良く理解できる。追 加の質問もできる」

    視覚的例 「理論的な説明に加えて視覚的な例を提供する」 AIの説明能力は、特に個別最適化された学習において強みを発揮します。同じ概念を、理解度に応じて様々な方法で説明できること。一度で理 解できなければ、言い換えを求められること。これは、教員が全学生に個別に提供することが難しい支援です。
  7. メリット④: 判断のない個人チューター 学生の声 「プライベートな教師のようで、すぐに質問に答えてくれる」 「恥ずかしがらずに愚かな質問ができる」 「すべての小さな質問で教員を煩わせる必要がない」 心理的メリット 判断されない安全な環境。何度でも質問で きる。「愚かな質問」への恐怖がない。 学習支援として

    繰り返し説明を求められる。AIが質問を理 解しなければ、アプローチを考え直す必要 があり、それがより良い学習につながる。 教育的意味 質問のハードルを下げる。試行錯誤を促進 。教員への質問の「質」を向上させる可能 性。
  8. デメリット①: AIは間違える ハルシネーション 「AIが答えを知らない場合、認めるのではなく、何かをでっ ち上げる」 コンパイルエラー 「かなり頻繁に論理エラーやコンパイルすらできないコード を生成する」 批判的評価の必要性 「AIの答えには非常に批判的でなければならない」

    検証の手間 「AI生成の答えは追加の事実確認が必要で、それが自分で問 題を解決するよりも時間がかかることがある」 最も多く挙げられたデメリットは「AIが間違える」ことです。これは教育的に深刻な問題です。なぜなら、初心者はAIの誤りを見抜けないか らです。AIは便利ですが、その出力を批判的に評価するスキルが必要です。これは新しいリテラシーとして教える必要があります。
  9. デメリット②: 複雑すぎる・理解 できない 学生の声 「AIは時々不必要に複雑な解決策 を提案する」 「まだ学んでいない関数やライブ ラリを使うことが多い」 「自分のミスを直すように頼むと 、ヒントをくれるのではなく、コ

    ード全体を書き直してしまう」 具体的な問題 • レベルに合わない複雑な解決策 • 未習事項の使用 • 求めていない修正 • 質問の誤解 教育的問題 • 学習順序の無視 • コピペして「動くが理解できない 」コード • 教育的な「足場かけ」の欠如 AIの問題は、単に間違うだけでなく、「複雑すぎる」「レベルに合わない」解決策 を提示することです。これは、AIが教育的な「足場かけ」を理解していないことを 示しています。
  10. デメリット③: 学習を妨げる? 「AIを使えば使うほど、自分で考えなくなる」 「AIに慣れすぎて、自分の個人的な発達を遅らせるリスクが 常にある」 「自分で問題を解決できるようになりたいので、AIは使いす ぎないようにしている」 「すべてにAIを使い続けたら、将来、AIなしで物事を解決で きるだろうか?」 批判的思考の低下

    問題解決能力の未発達 過度の依存 長期的なスキル不足 非常に示唆的なのは、学生自身が「AIに頼りすぎると学習が妨げられる」と認識している点です。学生が短期的な便利さと長 期的な学習のトレードオフを理解していることを示しています。
  11. AIは学習プロセスをどう変えるか? 学習態度への影響を5つの質問で測定しました(5段階評価)。 14% 異なる解決策の試行が減った 同意側 / 反対側58% 17% 宿題での苦労が減った 同意側

    / 反対側58% 2% 教材を読まず、AIに頼った 同意側 / 反対側90% 44% 教員への質問が減った 同意側 / 反対側39% 31% モチベーションが高まった 同意側 / 反対側41% 多くの学生は「試行が減った」「楽になった」を否定しています。特に重要なのは、90%が「教材を読まずにAIに頼った」を強く否定してい る点です。これは、学生がAIを教材の「代替」ではなく「補完」として使っている証拠です。
  12. 衝撃の発見: 使用頻度と成績の負の相関 使用頻度が高いほど、成績が低い傾向が見られました。 -0.315 プログラミングテスト1 p < 0.001 (中程度の負 の相関)

    -0.227 プログラミングテスト2 p < 0.001 (弱い負の相関) -0.175 期末試験 p < 0.01 (弱い負の相関) -0.208 総合点 p < 0.01 (弱い負の相関) すべて統計的に有意な負の相関 また、使用頻度と宿題の難易度認識には正の相関 (r = 0.176, p < 0.01) が見られ ました。よく使う学生ほど宿題を「難しい」と感じています。
  13. 相関の強さと意味 評価項目 相関係数 p値 相関の強さ テスト1 -0.315 <0.001 中程度の負 テスト2

    -0.227 <0.001 弱い負 期末試験 -0.175 <0.01 弱い負 総合点 -0.208 <0.01 弱い負 宿題難易度認識 +0.176 <0.01 弱い正 相関の強さの解釈 (Akoglu, 2018) • 弱い: r < 0.29 • 中程度: 0.30 < r < 0.39 • 強い: 0.40 < r < 0.69 • 非常に強い: r > 0.70 最も強い負の相関はテスト1(コース中盤)で見られます。テスト2、試験では相関が弱まります。これは興味深いパターンです。
  14. 解釈①: 因果関係の方向性 仮説: AIが成績を下げたのではなく、成績が低い学生がAIをより使った A) AI使用 → 成績低下 (AIが原因) B)

    学習困難 → AI使用増 (成績が原因) 解釈Bを支持する証拠 1 宿題難易度との正の相関 よく使う学生ほど宿題を「難しい」と 感じている。困難を感じるからこそAI に頼る。 2 過去の研究との一致 苦手な学生ほど補助教材を多く使う傾 向(Lepp & Kaimre, 2022)。低成績学 生の補償戦略としてのツール使用。 3 使用目的の分析 デバッグ、エラー理解が主な使用目的 。「つまずいたから使う」パターン。 結論: AIを使うから成績が下がるのではなく、苦戦している学生がAIを多用している可能性が高いです。
  15. 解釈②: 使い方による学習効果の違い しかし、もう一つの可能性も... 使い方によっては学習を妨げる 効果的 説明を求めるエラーを理解ヒントとして使 う 中立 コード例を見るアイデアを得る 有害

    答えをコピペ考えずに頼る完全に依存 先行研究の示唆 • 「個人チューターとして使う」→ 学習効果あり(Lehmann et al., 2024) • 「答え生成に使う」→ 学習を妨げる(Smith et al., 2024; Johnson et al., 2024) 本研究のデータ • 「コード解決策取得」の使用は最も少ない(14%) • しかし、頻繁に使う学生の使い方は不明 可能性: 解釈①と②は両方とも真かもしれません。困難な学生が頼る + 不適切な使い方 → 二重の問題
  16. 既存研究との比較: 矛盾する結果 研究 結果 対象 測定内容 Abdulla et al. (2024)

    ✓ ChatGPT使用 成績向上 Gardella et al. (2024) ✓ AI支援 自己効力感向上 Yilmaz & Yilmaz (2023) ✓ プログラミング学習 スキル向上 Sun et al. (2024) = 使用者vs非使用者 差なし 本研究 (2025) ✗ 使用頻度と成績 負の相関 Johnson et al. (2024) ✗ ChatGPT依存 成績低下 Prather et al. (2024) ✗ 初心者の過度使用 スキル低下 なぜ矛盾するのか? 測定対象の違い 自己効力感 vs 実際の成績 使用パターンの違い 構造化された使用 vs 自由な使用 対象者の違い 実験群 vs 実際の授業 使用頻度の違い 使用の有無 vs 使用の頻度
  17. なぜ頻繁な使用が問題になりうるのか? 1 正常な学習プロセス 問題に遭遇 試行錯誤 エラーから学ぶ 理解の深化 スキル獲得 2 AIに頼りすぎた場合

    問題に遭遇 すぐAIに質問 AIの答えを得る (理解せずに)次へ進む スキル未獲得 問題の本質: 「苦労」「試行錯誤」こそが学習の核心です。AIは「苦労」を取り除く = 学習機会を奪う可能性がありま す。短期的な効率 vs 長期的な学習のトレードオフです。 「AIを使えば使うほど、自分で考えなくなる」「今は便利でも、後で学ばなければならない」— 学生自身の洞察
  18. 実践的対応策: 教員にできること 明確な使用ガイドラインの提示 どんな場面で使ってよいか、どんな使い方が望ましいか、どんな 使い方は避けるべきかを明示します。 「良い使い方」の教育 推奨: エラーメッセージの説明、既存コードの論理説明、複数の解 決策の比較。避けるべき: 考える前にすぐ質問、答えをコピペする

    だけ。 AI使用を前提とした課題設計 AIで簡単に解ける問題を避け、説明や創造性を求める課題、プロ セスを評価する課題を設計します。 AIリテラシーの教育 AIの限界と誤りを教え、検証の重要性を強調します。実際のAIの 誤り例を示し、批判的思考を育成します。 困難な学生への早期介入 AIに過度に依存する兆候を察知し、個別の学習支援を提供します 。基礎的理解の確認と適切な学習戦略の指導が重要です。 対話の機会の維持 AI質問だけでなく、教員との対話を促します。オフィスアワーの 活用、理解度の定期的確認、人間的なつながりの維持が大切です 。
  19. AIと共存する教育の未来 AIは消えない技術です。禁止ではなく、共存の道を探る必要があります。 「考えるプロセス」を評価する 結果だけでなく、プロセスを重視。説明を求 める課題、複数解の比較を求める、意思決定 の根拠を問う。 AIでは代替できない能力の育成 問題発見能力、創造性と批判的思考、メタ認 知(自分の学習を振り返る)、協働とコミュニ ケーション。

    AIを学習ツールとして活用 AIを「敵」ではなく「学習パートナー」に。 AIとの対話を通じた学習、AIの出力を題材と した批判的分析。 「AIは教育を変えるが、教育の本質を変えるものではない。理解し、考え、創造する力は、今後も人間にしかできない。」 学生は将来、AIと協働して働きます。AIを効果的に使うスキルも重要です。ただし、基礎的理解なしには使えません。バランスが鍵です。
  20. まとめ: 生成AIとプログラミング教育 主要な発見 ✓ 約80%の学生がAIを使用(多くは低頻度) ✓ 速さ、デバッグ支援、説明の明確さが高評価 ✗ 不正確さ、複雑さ、学習への懸念も認識 使用頻度と成績に負の相関(要注意)

    解釈 • 苦戦する学生ほどAIに依存 • 使い方によっては学習を妨げる可能性 • 適切な使用ガイダンスが重要 教員への提言 • AIを禁止するのではなく、適切な使い方を教える • 「良い使い方」「悪い使い方」を明示 • 困難な学生への早期支援 • プロセスを重視した評価 • AIと共存する教育デザイン
  21. 参考文献 主要研究: • Lepp, M., & Kaimre, P. (2025). Students'

    perceptions and use of generative AI in an object-oriented programming course. 関連研究: • Abdulla, A., et al. (2024). ChatGPT and programming education. • Gardella, J., et al. (2024). AI-assisted learning and self-efficacy. • Johnson, M., et al. (2024). Negative effects of ChatGPT dependency. • Lehmann, K., et al. (2024). AI as personal tutor in programming. • Prather, J., et al. (2024). Skill degradation in novice programmers. • Smith, R., et al. (2024). Code generation and learning outcomes. • Sun, L., et al. (2024). No significant difference in performance. • Yilmaz, R., & Yilmaz, F. (2023). Programming skill improvement with AI. 統計手法: • Akoglu, H. (2018). User's guide to correlation coefficients. Turkish Journal of Emergency Medicine.