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量子クラウドサービスの裏側 〜Deep Dive into OQTOPUS〜

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February 09, 2026

量子クラウドサービスの裏側 〜Deep Dive into OQTOPUS〜

本発表では、大阪大学 量子情報・量子生命研究センター(QIQB)で開発・運用しているクラウド量子コンピューティング基盤 OQTOPUS を題材に、量子クラウドサービスの実際の構成と運用の裏側について紹介します。

量子コンピューティングの議論はアルゴリズムや応用に焦点が当たりがちですが、実際に量子コンピュータをクラウドサービスとして運用するためには、量子デバイス制御、ジョブ管理、キャリブレーション運用、システムソフトウェア設計など、多くの実務的な課題が存在します。本発表では、ユーザーが構築した量子回路がどのようにクラウドを経由して実機上で実行され、結果が返却されるのかを、フロントエンド・クラウド・バックエンドの3層構造を例に解説します。

また、超伝導量子ビットの運用において重要となるキャリブレーションサイクルと、その運用課題に対する取り組みとして開発した運用プラットフォーム QDash についても紹介します。

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February 09, 2026
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Transcript

  1. コンテンツ • 自己紹介 • 私は誰? • QIQBについて • 運用中のクラウド量子コンピュータ •

    理研と阪大で稼働中の実機 • OQTOPUSについて • OQTOPUSの概要 • OSSで開発する目的 • 量子コンピュータのシステムソフト ウェアは自明? • システムソフトウェア開発の課題 X/GitHub: @orangekame3 2 • 量子ビットの制御 • 量子ビットの実体 • 量子ゲートの作り方 • キャリブレーション事例 • クラウド量子コンピュータの運用 • キャリブレーションサイクル • 従来の運用方法と課題 • QDash: 運用プラットホームの構築 • まとめ • 量子コンピュータから結果が返ってくるまで • 全体像 • フロントエンド層 • 量子回路の基本構成 • 量子回路のテキスト表現 • Pythonで量子回路を構築 • QURI Partsからクラウドに量子回路送信 • クラウド層 • クラウド構成 • ポータブルな環境 • バックエンド層 • クラウドのジョブ取得 • Engineの役割 • Tranquの役割 • Device Gatewayの役割 • Mitigatorの役割 • ラップアップ • 利便性を上げるための取り組み • Server-Side Execution • Multi-Programming 5min. 15min. 7min. OQTOPUS Deep Dive 運用 OQTOPUS Deep Dive 運用
  2. 私は誰? ## 略歴 • 大阪大学 量子情報・量子生命研究センター • 2023 – 現在

    • フューチャー株式会社 • 2021 – 2023 • 東京理科大学理学研究科 • 2019 - 2021 • 東京理科大学理学部 • 2015 - 2019 X/GitHub: @orangekame3 4 自己紹介 宮永 崇史 Miyanaga Takafumi 超伝導デバイスのクラウド 量子コンピュータの運用 IoTデバイスのバックエンド システム開発・運用 技術書の翻訳・出版 超伝導デバイスの研究 OQTOPUS Deep Dive 運用 大阪大学でクラウド量子コンピュータのソフトウェアを開発しています T Miyanaga, A Tomonaga, H Ito, H Mukai, JS Tsai Physical Review Applied 16 (6), 064041, 2021
  3. QIQBについて X/GitHub: @orangekame3 5 自己紹介 • 2018年に発足した研究センター • 6つの研究領域で構成 •

    量子コンピュータのシステム開発及び研 究者やコミュニティに向けた量子クラウ ドサービスの提供を行っている 量子コンピュー ティング 量子情報融合 量子通信・セキュ リティ 量子計測・センシ ング 量子生命科学 量子情報デバイス ▼研究センターを支える6つの研究領域 https://qiqb.osaka-u.ac.jp/en/ ここに所属してます OQTOPUS Deep Dive 運用 Quantum Information and Quantum Biology Center(QIQB)です
  4. クラウドサービスには OQTOPUSを利用 理研と阪大で稼働中の実機 • 初号機 • 理化学研究所に設置 • 64量子ビット実機 •

    3号機 • 大阪大学に設置 • 64量子ビット実機 • アルバック機 • 大阪大学に設置 • 144量子ビット実機 • 冷凍機を含めた完全国産機 X/GitHub: @orangekame3 7 運用週のクラウド量子コンピュータ 現在3台の量子デバイスをクラウドで運用中 ← 国産初の超伝導量子コンピュータ 主に共同研究者向けにサービス提供 Powered by OQTOPUS → 国内3台目の量子コンピュータ実機 冷凍機内部品を国産部品で構成 Powered by OQTOPUS ← 希釈冷凍機含め完全国産化 大阪万博で会場から接続 Powered by OQTOPUS OQTOPUS Deep Dive 運用
  5. OQTOPUSの概要 • Open Quantum Toolchain for Operators and Usersの略称 •

    量子回路構築、クラウド、実機での制御、運用ま で含めたソフトウェア群の総称 • 複数デバイス方式に対応 • 現行では超伝導とイオントラップで稼働実績 • ライセンスはApache License 2.0 • 商用利用・改変・公開・再配布可 etc. X/GitHub: @orangekame3 9 OQTOPUSについて OQTOPUSはクラウド量子計算のためのフルスタックOSS GitHub ArXiv IEEE QCE 2025, DOI: 10.1109/QCE65121.2025.00092 OQTOPUS Deep Dive 運用
  6. 量子コンピュータのシステムソフトウェアは自明? • アプリケーションソフトウェアとシステムソフトウェア • アプリケーションソフトウェアの定義 • 量子コンピュータを使って何かしらの目的を達成するためのソフトウェア • 例えば:量子化学計算、量子金融計算 •

    古典だと:Excel、PowerPoint、Word、ChatGPT、各種アプリケーション • システムソフトウェアの定義 • 量子コンピュータを動かすために必要なソフトウェア • 例えば:量子デバイス制御ドライバ、スケジューラ、デコーダー、エンコーダー、クラウドサービス • 例えば:OS(Window/Linux)、CPUを制御するソフトウェア、デバイスドライバ、スケジューラ X/GitHub: @orangekame3 11 OSSで開発する目的 量子コンピュータのシステムソフトウェアは考えないといけないことが山積している OQTOPUS Deep Dive 運用
  7. システムソフトウェア開発の課題 • バックエンドがクローズド • 各社の量子システムソフトウェアは非公開で開発されており、 • 実装の詳細 • 設計上のトレードオフ •

    運用上の制約 • が外部から見えない • 標準的なSDK/参照実装が存在しない • 共通のベースラインがないため、 • 各社が似た問題を個別に解いている • いわば車輪の再発明が繰り返されている • 「動くもの」がない • アーキテクチャ提案や設計論は多く存在するが • 実際に動かせる • 気軽に検証できる • 環境がないため、提案止まりになりがちである X/GitHub: @orangekame3 12 OSSで開発する目的 量子コンピュータのシステムソフトウェアはブラックボックス OQTOPUS Deep Dive 運用 ※Copyright; RIKEN Center for Quantum Computing ※
  8. • 量子計算は量子ビットに対して量子ゲートという演算を作用させて計算を行う • 量子回路は量子ビットと量子ゲートで構成されており図の横線が量子ビットに相当 • 量子回路は左から右に流れていき、断りがない限り原則量子ビットの初期状態は0状態 量子回路の基本構成 X/GitHub: @orangekame3 16

    量子コンピュータから結果が返ってくるまで 量子ビットを使った演算は量子回路で表現できる 量子ゲート 量子回路 量子ビット 演算は左から右へ 1 量子ビットゲート 2 量子ビットゲート OQTOPUS Deep Dive 運用
  9. QURI Partsからクラウドに量子回路送信 X/GitHub: @orangekame3 19 量子コンピュータから結果が返ってくるまで OQTOPUSではQURI Partsで構築した量子回路を送信するためのプラグインを提供 • `sample()`を実行することでOQTOPUSクラウドに量子回路を送信

    • `sample()`には実行したいデバイスや各種実行オプションを渡す デバイスを指定 実行回数を指定 この関数を実行すると HTTPでジョブを送信する HTTP OQTOPUS Deep Dive 運用
  10. クラウド構成 X/GitHub: @orangekame3 21 量子コンピュータから結果が返ってくるまで クラウドではREST APIでエンドポイントを提供、AWS上にWebサービスを構築 ジョブを送信 HTTP Trigger

    Record ジョブを保存 AWS Cloud Powered by FastAPI ユーザー毎の量子回路が テキスト表現で保存されている ユーザー クラウド OQTOPUS Deep Dive 運用
  11. クラウドのジョブを取得 X/GitHub: @orangekame3 24 量子コンピュータから結果が返ってくるまで バックエンド層にあるEngineがクラウドからジョブを取得 AWS Cloud OQTOPUS Engine

    ジョブを送信! ここにジョブが 溜まっている 次のジョブを ください! OK,これが次の ジョブだよ! フロント クラウド バックエンド • ユーザーに公開しているエンドポイントとほぼ対称にバックエンド用のエンドポイントが存在 • Engineはクラウドから未処理のジョブを取得 OQTOPUS Deep Dive 運用
  12. Engineの役割 X/GitHub: @orangekame3 25 量子コンピュータから結果が返ってくるまで Engineはバックエンド層でジョブのオーケストレーションを担う OQTOPUS Engine バックエンド •

    クラウドから取得したジョブは「Tranqu」→「Device Gateway」→ 「Mitigator」の順に処 理されてクラウドに戻される Tranqu Device Gateway Mitigator 処理順 クラウド OQTOPUS Deep Dive 運用 HTTP gRPC
  13. Tranquの役割 X/GitHub: @orangekame3 26 量子コンピュータから結果が返ってくるまで 量子回路のトランスパイルを担う OQTOPUS Engine バックエンド •

    ユーザーが送信した量子回路に対して • 量子デバイスがサポートしている量子ゲートに置き換える • 量子デバイスの配線状況に合わせて回路の変換、合成を行う Tranqu Device Gateway Mitigator OQTOPUS Deep Dive 運用 送信した回路 使えるゲート 回路を変換 (トランスパイル)
  14. Device Gatewayの役割 X/GitHub: @orangekame3 27 量子コンピュータから結果が返ってくるまで ゲートをパルスに変換して量子デバイスに実行 OQTOPUS Engine バックエンド

    • トランスパイルされた回路を事前に校正済みのパルスに変換 • 変換したパルスを制御装置に渡して量子デバイスで演算、結果を取得する Tranqu Device Gateway Mitigator OQTOPUS Deep Dive 運用 回路をパルスに変換 (パルス・コンパイル)
  15. Mitigatorの役割 X/GitHub: @orangekame3 28 量子コンピュータから結果が返ってくるまで ノイズの乗ったサンプリング結果にエラー緩和のテクニックを適用 OQTOPUS Engine バックエンド •

    サンプリング後に測定結果にエラー緩和のテクニックを適用する • 現行でサポートしているのは「読み出しエラー緩和」と呼ばれる手法 Tranqu Device Gateway Mitigator OQTOPUS Deep Dive 運用 Noisy リザルト Mitigated リザルト Mitigation 𝐶𝑖𝑑𝑒𝑎𝑙 = 𝐸−1𝐶𝑛𝑜𝑖𝑠𝑦 𝐶𝑛𝑜𝑖𝑠𝑦 = 𝐸𝐶𝑖𝑑𝑒𝑎𝑙
  16. ラップアップ X/GitHub: @orangekame3 29 量子コンピュータから結果が返ってくるまで ユーザーがジョブを送信してから結果が返ってくるまでのフローを確認した • フロント層 • ユーザーは量子回路を構築してジョブを送信

    • クラウド層 • ジョブをDBで管理 • バックエンド層 • エンジンがジョブをオーケストレーション • Tranquでトランスパイル • Device Gatewayでジョブ実行 • Mitigatorでエラー緩和 • 処理結果を来たルートを戻ってユーザーのもとへ OQTOPUS Deep Dive 運用
  17. Server Side Execution • 従来の方法: • ジョブのパラメータを変更しつつループを回すためにクラウドに繰り返しジョブを送信しなければならない • Server Side

    Execution: • 量子デバイスの近くでコンテナを展開し、Pythonスクリプトをコンテナ上で実行 X/GitHub: @orangekame3 31 利便性を上げるための取り組み 量子デバイスの近くで処理ループを回すことでスループットを向上する 他人のジョブ ×10のジョブを実行 したい ×10のジョブを 実行するPython スクリプトを送信! 他人のジョブ ×10= ジョブキュー ジョブキュー コンテナを起動して ジョブを実行 Server Side Execution 従来の方法 Server Side Execution OQTOPUS Deep Dive 運用
  18. Multi Programming 利便性を上げるための取り組み • 従来の方法: • 1ジョブ実行するたびにQPU全体を占有 • Multi Programming:

    • 実行条件が同じジョブをひとまとめにして実行し、スループットを上げる • ユーザー自身がジョブまとめて実行したいグループを作って送信 複数の量子回路をまとめて実行することでスループットを向上する ジョブ送信! 従来の方法 Multi Programming OQTOPUS Deep Dive 運用 ジョブキュー 結果 クラウド QPU 結果取得! ジョブ送信! ジョブキュー クラウド QPU 結果取得! 結合 結果 分解
  19. 量子ビットの実体 • 量子ビットは希釈冷凍機内の~10mK下で稼働 • 量子ビットの制御配線と状態読み出し配線を別々 に配備 • 量子ビットの制御・読み出しいずれもマイクロ波 で制御(4GHz~10GHz) •

    Device Gatewayでパルスに変換後は制御装置 を介して量子ビットを制御する X/GitHub: @orangekame3 34 量子ビットの制御 阪大で運用しているのは3次元配線された固定周波数型・固定結合のトランズモン 量子ビット 制御配線 読出配線 読出共振器 OQTOPUS Deep Dive 運用 ※ ※Copyright; RIKEN Center for Quantum Computing
  20. 量子ゲートの作り方 • 64量子ビットであれば、64量子ビット分のSXゲート、112ペアのCNOTゲートの校正が必要 • 実際にはいきなりゲートの校正ができるわけではなく、量子ビットの特徴を洗い出すための 実験をいくつも行う X/GitHub: @orangekame3 35 量子ビットの制御

    それぞれの量子ビットの最適な振幅、パルス長をキャリブレーション(校正)する OQTOPUS Deep Dive 運用 校正する ゲート 0 1 4 5 2 3 6 7 8 9 12 13 10 11 14 15 0量子ビットのSXゲートの振幅 はxxでパルス長はxx μsだ。 ※ ※Copyright; RIKEN Center for Quantum Computing
  21. キャリブレーション事例 • 1量子ビットのキャリブレーションの例 • 量子ビットの周波数探索(Spectroscopy) • 更に細かく量子ビットの周波数探索(Chevron) • 特定した周波数でのRabi回転 •

    更に細かく量子ビットの周波数探索(Ramsey) • 量子ビットの性能評価(T1) • 1量子ビットゲートの校正(DRAG) • 読み出しの校正(Readout) • 1量子ビットゲートの評価(RB) • この後2量子ビットのキャリブレーションに進む X/GitHub: @orangekame3 36 量子ビットの制御 複数の実験を繰り返して最適なパルスを探索する OQTOPUS Deep Dive 運用 Spectroscopy Chevron pattern Rabi Ramsey T1 DRAG Readout RB HPI Pulse
  22. 従来の運用方法と課題 • 従来の運用法 • 実行環境 • PythonスクリプトもしくはJupyter Notebookによる実行環境 • 結果の集計

    • ファイルベースでの出力結果(画像もしくはJSON)の確認 • Notebook上の出力結果の確認 • 従来の運用方法の課題 • 実行環境 • ipykernelの管理が面倒 • 少し重い処理をすると止まることもしばしば • 差分がわかりにくい • Jupyter Notebookあるある • 結果の集計 • 検索性が低い • データのトレースやプロセスの改善がしにくい X/GitHub: @orangekame3 39 クラウド量子コンピュータの運用 量子ビットの集積化が進むとスクリプトでのキャリブレーション管理では限界がある OQTOPUS Deep Dive 運用
  23. QDash: 運用プラットフォームの構築 • 実行環境 • Prefect(Python製のワークフロー環境) • ログの管理保存が容易 • 実行情報のトレースが容易

    • 典型的なキャリブレーションフローをモジュー ルとしてワークフローを構築 • 差分管理が容易 • 複数制御ソフトウェアに対応 • 結果の集計 • 各量子ビットの過去の全実験結果をトレース • 代表的なメトリクスについては分析画面を実装、 結果の把握を容易に X/GitHub: @orangekame3 40 クラウド量子コンピュータの運用 キャリブレーションに特化したプラットフォームを構築して運用サイクルの効率する OQTOPUS Deep Dive 運用