Upgrade to Pro — share decks privately, control downloads, hide ads and more …

J-POPの歌詞から見る社会 計量テキスト分析入門

Yuichiro Kobayashi
November 26, 2019
1.8k

 J-POPの歌詞から見る社会 計量テキスト分析入門

Yuichiro Kobayashi

November 26, 2019
Tweet

More Decks by Yuichiro Kobayashi

Transcript

  1. 先行研究 O 社会学的研究 O 歌謡曲や流行歌の歌詞を題材として、特定の時代にお ける文化や社会思想を議論 O 見田(1968) O 明治元年から昭和38年までの451曲を対象

    O 怒り 、 喜び 、 孤独、 あこがれなどのモチーフ因子を分 析 O 戦前から戦後にかけての日本人の心情の変化を調査 O 久保(1995) O 1965年から1989年までの間に発表された302曲 O 1960年代に見られた「若者モノ」が1975年以降に減少し、 「恋愛モノ」が台頭していく過程を明らかに 9
  2. O 情報学的研究 O 歌謡曲や流行歌の歌詞を題材として、新たな分析手法 の模索・確立 O 水谷(1982) O 昭和初期の歌謡曲における語彙使用の類似度を調査 O

    数量化III類など O 細谷・鈴木(2010)、小林・狩野・鈴木(2013) O 女性歌手の歌詞 O 主成分分析、ランダムフォレストなど 10
  3. 分析データ O 歌詞データベース(コーパス) O 1977年から2012年までの36年間 O オリコン年間チャートのシングルトップ20位以内 O 両A面シングルは、2曲とも分析対象 O

    複数年にわたってランクインした曲は、最初にランク インした年のデータ O 2013年10月の時点で、「歌ネット」および「うたまっ ぷ」で歌詞が入手できなかった14曲は対象外 ↓ O 合計773曲 O 総文字数: 564922 O 総語数: 306033 12
  4. どんな言葉に注目するか? O 従来研究 O 単語の表層形 O 全ての出現語彙(小林・狩野・鈴木, 2013) O 高頻度語(金城,

    2013; 細谷・鈴木, 2010) O 名詞(茅根, 2002) O 動詞(茅根, 2002) O 人称代名詞(茅根, 2002; 藤掛・西村・菅沼・田賀・澤柳, 1994; 藤川, 1999) O 文末表現(鈴木・山口, 2000) O 単語の組み合わせ(塚本, 2014) O 漢字とルビの組み合わせ(鈴木・山口, 2000) O 英語表現(藤掛・西村・菅沼・田賀・澤柳, 1994) 13
  5. O 本研究 O 26種類の語彙指標 O 品詞、語種、文字種、語彙レベルから構成 O 日本語文章難易度判別システムjReadabilityによって算出 O 計量テキスト分析において、品詞構成率や語種の有効性

    は古くから認識(樺島・寿岳, 1965; 安本, 1958; 安本, 1965) ↓ O 総語数の極めて少ない「歌詞」というテキストにおい ても安定した頻度情報 O 文章の内容による影響を軽減し、文体の違いを明らか に(Tabata, 2002) 14
  6. 分析結果 O 統計処理の結果は、基本的に数字 ('A`)ヴァー 18 Estimate Standard Error t value

    p (>|t|) Significance (Intercept) 1073.83 208.6 5.15 0.00 *** 形状詞 -10.01 3.18 -3.14 0.00 ** 助動詞 3.83 0.92 4.15 0.00 *** 接続詞 -40.83 14.42 -2.83 0.01 ** 代名詞 -2.77 1.5 -1.84 0.08 動詞 -3.05 0.89 -3.43 0.00 ** 固有名詞 10.82 5.32 2.04 0.05 連体詞 21.81 4.37 4.99 0.00 *** 初級前半語 -1.71 0.55 -3.09 0.01 ** 初級後半語 1.84 0.62 2.98 0.01 ** 中級後半語 1.02 0.79 1.29 0.21 カタカナ -1.68 0.63 -2.66 0.01 * 和語 8.77 2.1 4.19 0.00 *** 漢語 14.27 2.39 5.98 0.00 *** 外来語 13.12 2.65 4.95 0.00 *** (註)AICによる変数選択を行った重回帰分析の結果
  7. またしても、問題です O 時代が進むと、漢語は増えるでしょうか? そ れとも、減るでしょうか? O 漢語とは、日本固有の語である和語と違い、中国など から輸入された語 O 基本的に漢語は音読み(春風=しゅんぷう)、和語は

    訓読み(春風=はるかぜ) O 時代が進むと、外来語は増えるでしょうか? それとも、減るでしょうか? O 外来語とは、主に西洋から輸入された語(オレンジ、 ワイン、など) 20
  8. O 椎名林檎「歌舞伎町の女王」(1998年) 蝉の声を聞く度に 目に浮かぶ九十九里浜 皴々の祖母の手を離れ 独りで訪れた歓楽街 ママは此処の女王様 生き写しの様なあたし 誰しもが手を伸べて 子供ながらに魅せられた歓楽街

    十五に成ったあたしを 置いて女王は消えた 毎週金曜日に来ていた男と暮らすのだろう “一度栄えし者でも必ずや衰えゆく” その意味を知る時を迎え足を踏み入れたは歓楽街 22
  9. タイトルが英語なのに O 浜崎あゆみ「A Song for XX」(1999年) どうして泣いているの どうして迷ってるの どうして立ち止まるの ねえ教えて

    (中略) 居場所がなかった 見つからなかった 未来には期待出来るのか分からずに O タイトルが英語だが、歌詞中に英語は「La La La」のみ O カタカナも「解らないフリ」の「フリ」だけ 28
  10. どうして日本語回帰しているの? O いくつかの可能性 O 1970~80年代ほど、海外の文化や言葉が「クール」な ものではなくなってきた O 1970~80年代には、年間オリコンチャート10位以内に洋 楽がランクインすることもしばしば O

    日本独自の文化の発達 O J-POP、ヴィジュアル系、日本語ラップなど(あるいは、 アニメなどの音楽以外のサブカルチャー) O 日本のガラパゴス化 O カラオケ文化の普及 O 英語の曲は、歌いにくいという事実! 30
  11. 文字種・語種以外の変化 O 品詞 O 連体詞や副詞が増加 O 固有名詞や普通名詞が減少 ↓ O 文章の情報量が減少

    O 語彙レベル O 初級後半語が増加 O 上級後半語が減少 ↓ O 簡単な表現が増加 31
  12. おわりに O 結果のまとめ O 1977年から2012年までの36年間に発表された773曲の 歌詞における26種類の語彙指標の使用傾向の推移を分 析 ↓ O 1990年頃を境に、語種と文字種の頻度が大きく変化

    O 特に、外来語とカタカナの頻度の減少と、漢語と漢字 の頻度の増加 O 本研究の知見は体系的な歌詞データと計量文献学の技 法に基づくものであり、日本の現代文化を対象とする 社会学研究に客観的な資料を与え得るもの 32
  13. 2015年度メディコミ卒業論文より O カラオケランキングの歌詞のテキスト分析 O 所属アーティストの歌詞からみる国内レーベル の特徴分析 O 日本のロックバンドの歌詞のテキスト分析 O 日本レコード大賞からみる流行歌の特徴と変化

    O ボーカロイド人気曲の歌詞のテキスト分析 O ミュージカルWicked歌詞のテキスト分析—ブ ロードウェイ版と劇団四季版の比較 O メディアと流行—流行歌から見るメディアと ヒットの相関性及び変容 etc. 34
  14. 主な参考文献 O 小林雄一郎 ・天笠美咲 ・鈴木崇史 (2015). 「語彙指標を 用いた流行歌の歌詞の通時的分析」 『人文科学とコン ピュータシンポジウム論文集―じんもんこんの新たな役

    割』(pp. 23-30). 東京: 情報処理学会. O 見崎鉄 (2002). 『Jポップの日本語―歌詞論』 東京: 彩流社. O 山田敏弘 (2014). 『あの歌詞は、なぜ心に残るのか―J ポップの日本語力』 祥伝社新書. 36
  15. 37