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記号論に基づく情報科の「中核的な概念」を学ぶ教育実践

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March 17, 2026

 記号論に基づく情報科の「中核的な概念」を学ぶ教育実践

日本情報科教育学会(JAEIS)第26回研究会で発表。

学習指導要領の改訂に向けた諮問では,各教科で「中核的な概念」等を中心とした内容の構造化が求められている.本稿では,情報科を初めて学ぶ高校生が情報科の「中核的な概念」を段階的に学べるよう設計したモデルに基づき,実際に高校生に行った教育実践の結果を報告する.大学生を対象に行った先行実践を元に,内容を精選した上で学習活動を追加した.情報系専門学科の高校1年生を対象とする実践の結果,専門学科の生徒に対する結果であるものの,参加した生徒は概念を学ぶ意義を認識し,情報科で扱う概念に対する理解をある程度深めることができたと考えられる.

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March 17, 2026
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  1. 背景 学習指導要領の改訂に向けた諮問(2024/12): 「各教科等の中核的な概念等を中心とした、目標・ 内容の一層分かりやすい構造化」が求められた 直近の総則・評価特別部会資料: • 「中核的な概念の深い理解」 → 「知識及び技能の統合的な理解」 •

    「複雑な課題の解決」 →「思考力・判断力・表現力等の総合的な発揮」 昨年の先行実践: 教材などのさらなる充実が必要 2 (参考) 文科省(2026)「資質・能力の構造化の状況を踏まえた更なる検討の方向性(案)」p.3 https://www.mext.go.jp/content/20260219-mxt_kyoiku01-000047485-06.pdf
  2. 先行実践: 基礎情報学研究会での授業実践 • 基礎情報学・社会システム論に基づく授業 (旧課程の学校設定科目において実施) • 課題: 他の単元より「とても有意義だった(4)」が 少なく、「どちらかといえば有意義ではなかった (2)」が多い

    5 (出典) 藤岡ら(2018)「「情報I」実施を見据えた学際型・教科横断型情報教育の検討と実践」, 京都市立西京高校H29年度SGH研究開発実施報告書, p.75-86. https://www.edu.city.kyoto.jp/hp/saikyo/2017SGH.pdf 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% (1)情報セキュリティ (2)知的財産権 (3)情報 (4)コミュニケーション (5)ユニバーサルデザイン (6)メディアリテラシー (7)レポート作成 (8)プレゼンテーション (9)ビジュアルプログラミング (a)Excel(Excel関数,VBA) (b)プログラム自由製作 4 3 2 1
  3. 先行実践: 筆者の提案モデル • 記号論をベースに、基礎情報学・社会システム論 などの知見を取り入れたもの • 筆者(2016, 2018)を一部修正 • 詳細はJAEIS・全高情研のスライドを参照

    • https://speakerdeck.com/saireya/slide-jaeis2025 • https://www.zenkojoken.jp/18chiba/20250713399/ 6 (参考) 大西(2018)「コミュニケーション/メディア概念と関連付けた情報概念の形式化」, 第11回全国 高等学校情報教育研究会全国大会. https://www.scribd.com/document/385336249 位置づけ 先行実践の内容 基礎 1. 科学理論と記号 中核的な 概念 2. 情報 3. コミュニケーション 4. メディア 発展 5. デザイン
  4. 受け手B 送り手A 先行実践: 筆者の提案モデル (全体像) 7 生命情報 (𝜀, 𝛽) 生命情報

    (𝜀, 𝑑𝐵 (𝑒𝐴 𝛽 )) 1. 情報の選択 2. 表現の選択 4. 理解の受容の選択 次の コミュニケーション 社会情報 (𝑒𝐴 (𝛽), 𝛽) 符号化(encode) 機械情報 (𝑒𝐴 (𝛽), 𝜀) 3. 理解の選択 社会情報 (𝑒𝐴 (𝛽), 𝑑𝐵 (𝑒𝐴 𝛽 )) 復号(decode) 前の コミュニケーション 伝播メディア 成果メディア × (参考) 大西ら(2016)「コミュニケーション・情報・メディアの統合モデルに基づく教育実践」 http://www.scribd.com/doc/299911454
  5. 先行実践: 筆者による今年度の実践 • JAEIS・全高情研で発表済 • JAEIS2025: 「情報科の「中核的な概念」を段階的 に学ぶ指導計画の設計」 https://speakerdeck.com/saireya/slide-jaeis2025 •

    全高情研2025: 「情報科の「中核的な概念」を段階 的に学ぶ教材の開発」 https://www.zenkojoken.jp/18chiba/20250713399/ • 大学生を対象とする自由参加講座での教育実践 • 先行実践を整理・体系化した資料を作成・公開 • 50分×5回の講座を実施 • 「科学理論と記号」「情報」 • 「コミュニケーション」「メディア」「デザイン」 • 課題: 高校生が対象でない・対象者数が少ない 8 (参考) 大西(2025)「ミニ講座「情報学の基礎概念」」 https://info-programming.github.io/concept/
  6. 授業設計: 本実践の要件 • 対象: • 地方所在の公立高校・情報系専門学科 • 高校1年生・1クラス・40名(男子26名・女子14名) • 時間:

    • 45分×2回 (1回目は3/3, 2回目は3/16に実施) • 専門科目「情報産業と社会」のゲスト講義で実施 • 年度末のため、科目の内容を学習し終えた状態 9 位置づけ 先行実践の内容 本実践の内容 基礎 1. 科学理論と記号 1. 記号と情報 中核的な 概念 2. 情報 3. コミュニケーション 2. コミュニケーションとメディア 4. メディア 発展 5. デザイン (実施せず)
  7. 学習活動の設計 先行実践の講座に参加した学生1名と共に検討 10 回 対象の概念 学習活動 1 表現・内容 教員が提示した隠し絵(多義図形) の解釈をペアで共有

    情報 教員が提示した情報の例をグルー プで分類 2 コミュニケー ション 教員が提示したお題を列ごとに ジェスチャーゲームで伝達 メディア 特定の集団で通用する成果メディ アの例をグループで検討
  8. 学習活動の設計1-1: 表現・内容 目的: 「表現」と「内容」の差異の理解 • 先行実践での課題: 参加学生から、表現と内容 の違いを理解しにくかったとの意見あり • 難しさの理由は、「内容」は生命の内側にしか存

    在しないが、授業で説明しようとすると、何らかの 「表現」にしないと説明できないことと考えられる 11 表現 内容 「ネコ」 「イヌ」 (参考) 大西(2025)「ミニ講座「情報学の基礎概念」」 https://info-programming.github.io/concept/
  9. Work1-1: この絵は何でしょう? (表現と内容) 12 (出典) Jastrow(1899)「The mind’s eye.」Popular Science Monthly

    Vol. 54. Blätter(1892)「RABBIT AND DUCK」Harper's Weekly, Vol 36, Issue 1874, p.1114.
  10. 学習活動の設計1-2: 情報 目的: 生命情報・社会情報・生命情報の差異の理解 • 先行実践の課題: 高校生に「情報の例」を考える ブレインストーミングを実施したが、出てくる例が 多く、教員からのフォローを徹底できない 情報(information):

    表現𝜶と内容𝜷の組(𝜶, 𝜷) • ただし、𝜶または𝜷の一方は空列𝜺でもよいとする • 生命情報: 組(𝜺, 𝜷) (𝜷: 内容) • 社会情報(記号): 組(𝜶, 𝜷) (𝜶: 表現, 𝜷: 内容) • 機械情報(データ): 組(𝜶, 𝜺) (𝜶: 表現) 14 (参考) 大西(2025)「ミニ講座「情報学の基礎概念」」 https://info-programming.github.io/concept/
  11. Work1-2: 情報の分類 次のものを、生命情報・社会情報・機械情報に分類 してみましょう (分類の理由も考えましょう) 1. 日本語 2. 恋愛感情 3.

    カメラで撮った画像データ 4. 喜び 5. マイクが拾った音の波形 6. 化学式 7. 怒り 8. ジェスチャー 9. 温度センサーが記録した数値 15
  12. Work1-2: 情報の分類 次のものを、生命情報・社会情報・機械情報に分類 してみましょう (理由: 表現・内容にあたる部分は?) 1. 日本語 2. 恋愛感情

    3. カメラで撮った画像データ 4. 喜び 5. マイクが拾った音の波形 6. 化学式 7. 怒り 8. ジェスチャー 9. 温度センサーが記録した数値 16
  13. 学習活動の設計2-1: コミュニケーション 目的: 情報伝達の過程の理解 • 先行実践の課題: 提案モデルに基づくコミュニ ケーションの過程における符号化・復号・恣意性 について、体験的に理解できる学習活動がない •

    2つの「お題」についてのジェスチャーゲーム • お題: 「駅伝」「ラーメンをすするカンガルー」 17 表現 内容 「何で来るの?」 (どの交通手段で 場所に来るのか?) (どうしてあなたが 来るのか?)(反語) 復号(decode) 𝑑𝐵 符号化(encode) 𝑒𝐴 (参考) 福井県「令和元年度 青少年のネット非行・被害対策情報 <児童・生徒向け第6号>」(2019) https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/kenan/nettohigaitaisaku1.html 国立教育政策研究所「令和3年度 全国学力・学習状況調査 中学国語 第2問」(2021)
  14. Work2-1: ジェスチャーゲーム 各列で、言語を使わず身振り手振り(gesture)で 伝えるジェスチャーゲームを行いましょう • お題は2つ出します • 先頭から最後の人まで順に、 ジェスチャーでお題を伝えましょう 1.

    先頭の人以外は後ろを向いておく 2. 前の人から肩をたたかれたら振り向く 3. 前の人のジェスチャーを見る 4. 次の人の肩をたたき、ジェスチャーで伝える (言葉や音を発することは禁止します) 18
  15. 学習活動の設計2-2: メディア 目的: 成果メディアの理解 • 先行実践の課題: 成果メディアは伝播メディアに 比べて抽象度が高く、理解できている生徒と理解 できていない生徒の差が顕著 (考査で出題)

    メディア: コミュニケーションにおいて情報を媒介 • 伝播メディア: 機械情報を物理的に媒介 • 成果メディア: 社会情報を論理的に媒介 • 特定の組織・集団(社会システム)で通用するもの: 内輪ネタ、暗黙のルール、常識、組織文化、伝統など • 一般の人間社会(社会システム)で通用するもの: 真理、愛、貨幣、法、権力、宗教、芸術など 19 (参考) 大西(2025)「ミニ講座「情報学の基礎概念」」 https://info-programming.github.io/concept/
  16. 評価: 授業参加者を対象とする調査 各回終了後に参加者にアンケートを実施 項目: • 選択式: 講座内容全般、講座で扱った概念・用語 • 記述式: 質問・感想

    回答者の基本情報: 21 回 回答者数 男子 女子 1回目 (授業内) 33名 (回収率86.8%) 20名 (83.3%) 13名 (92.8%) 2回目 (授業後) 24名 (回収率63.1%) 13名 (54.1%) 11名 (78.5%) ※訂正: 予稿表4の3/16(月)の「回答者」にある、予稿作成時点の回答者19名の内訳について、 誤「男子:8,女子:11」→正「男子:11,女子:8」です。
  17. 評価: 講義の内容全般について 「0:あてはまらない」から「3:あてはまる」の4段階の 回答を合計(上限:(33 + 24)名 × 3点 = 171点)

    22 33 11 31 29 30 29 46 14 43 39 44 41 29 21 29 29 28 30 31 25 31 30 33 28 0 20 40 60 80 100 120 140 160 分かりやすかった 既に知っている 事柄が多かった 今後の 役に立ちそうだ 身近で 応用できそうだ 多くの人に 価値がありそうだ 一般的な現象を 広く説明できそうだ 第1回(女子) 第1回(男子) 第2回(女子) 第2回(男子)
  18. 評価: 講義で扱った概念について 74 68 74 70 83 68 74 70

    60 59 61 58 58 59 61 58 58 83 82 74 70 83 82 74 70 59 61 58 58 59 60 58 58 59 83 82 74 64 83 82 74 64 60 60 58 59 60 60 59 63 61 0 50 100 150 200 250 300 表 現 内 容 記 号 恣 意 性 情 報 生 命 情 報 社 会 情 報 機 械 情 報 符 号 化 復 号 情 報 の 選 択 表 現 の 選 択 理 解 の 選 択 理 解 の 受 容 の 選 択 メ デ ィ ア 伝 播 メ デ ィ ア 成 果 メ デ ィ ア 理解 例示 説明 「理解できた」「具体的な例を示す」「他者に説明で きる」の3観点で、0~3の4段階の回答結果を合計 (上限: 3観点 × 回答者数 × 3点) 23 第1回 第2回 max:297点 max:216点
  19. 評価: 参加者からの質問 1回目: • 「機械情報について内容がわからないのが不思 議でした」 • 「恣意性とはなにか」 2回目: •

    「なぜカンガルーはラーメンをすすれるのかが気 になった」 • 「伝播メディアと成果メディアは大きくどう違うの か」 24 ※原文のまま記載。
  20. 評価: 参加者からの感想 (1回目) 女子生徒: • 「情報」とは?という概念を知ることができた. • 「情報」について深く考える機会はあまりな かったため,情報に関する講座を受けることが できてとてもためになった.

    • あまり考えたことがなかったので今回深堀りす ることができて楽しかったです. • 今までしっかり考えたことのなかった「情報」や 内容・表現について考えて役に立った. • 今まで表現と内容を意識したことがなかったの で改めて考えると全部にあって面白かったです • 自分が考えたことがないような内容ばかりで 考え方の勉強にもなった.事象と表現と内容を 置き換えると,一気に話が難しくなった気がす る. • 同じ絵を見ていても,人それぞれで見え方が 違っていて不思議だった. • 例えが分かりやすく,考えながら楽しく受けるこ とができました. 男子生徒: • 「表現と内容」「情報の定理(※「定義」の誤りと 思われる)」について,周りと話し合いをしながら問 題を解いたりして知ることができた. • おもしろかったです • おもしろかったです • わかりやすかった • わかりやすくて,情報のことを詳しく知れてとても興 味を持った • 楽しかったです • 楽しかったです 次回も楽しみにしてます • 見方によって絵が変わるのが面白かった • 初めて知ったことがたくさんあったこれからの生活 に役に立ちそう • 情報が一言では,説明できないものだと理解した. • 情報の授業と聞いていたから機械系の話をするの かなと思っていたけど,普段の会話に必要なスキ ルのような感じだったので次の授業が楽しみだと 思った • 情報の表現や内容について詳しく知り,学ぶこと ができました.それを,説明するとなると難しいと思 いました. • 情報はデータや数値ことばかりかと思っていたか ら,表現や内容,恣意性だったりが関係あることに ついて驚いた 25 ※原文のまま記載。注釈は筆者による。
  21. 評価: 参加者からの感想 (2回目) 女子生徒: • コミュニケーションの難しさを改めて 知りました. • コミュニケーションに関して楽しく学 べました

    • ジェスチャーゲームなどで現象につ いてわかりやすく知ることができて良 かった. • ジェスチャーゲームなどの身近な ゲームを例示してくださったおかげ で簡単に理解することができた. • 特定の集団のみで通用する価値観 や恣意性があることで違うことが伝 わってしまったり成果メディアがある ことでコミュニケーションが成立した り,面白いなと思いました. • 例がわかりやすく理解しやすかった です ありがとうございました • (実施地を特定できる感想1件を略) 男子生徒: • ジェスチャーは個人が理解できても解釈 の違いによって伝わるのが変わってくるの が難しいと思った • わかりやすく,身近なことで起きているこ とがわかったので,気をつけよう思った • 楽しかった. • 最初に説明された日本語の難しさはとて も共感できた • 人との解釈の違いで,思い浮かべるもの が違うということがわかった. • 前回の内容に続いてコミュニケーション 能力を底上げできるような講座をしてくだ さり,コミュニケーション能力があまりない 自分にはとても有意義な講座でありがた いと思いました • 表現や内容を相手に伝える難しさなどを 知ることができた. • 恣意性は人により異なるので気おつけて 行動したいです • 情報を伝えるのに自分と相手の思う内容 が違うから言葉選びや詳しく伝えることに 気を使えるコミュニケーションをしたいと 思った。 26 ※原文のまま記載。
  22. 考察: 講座内容・実施状況 • 実施時の状況 • ほとんどの生徒が積極的に参加 • 興味がなさそうな生徒も数名 • アンケートの結果は、大学生対象の先行実践に

    比べ得点が10ポイント程度低下したが、依然とし て高い値 • 対象が高校1年生になったこと、任意参加ではなく全 員参加になったこと、そもそも先行実践のアンケートの 回答者が少ない(3名)ことが原因? • 2回目のアンケートは好意的な生徒のみが回答した 可能性があり、1回目ほど顕著な結果になっていない • 主観に基づく回答なので、客観的な理解度・定着 度を測るものではないことには注意が必要 27
  23. 考察: 講座内容と性差 28 0.5 1 1.5 2 2.5 3 0.5

    1 1.5 2 2.5 3 女子の平均 男子の平均 1回目 2回目 直線𝑦 = 𝑥 ※「▲」の点は、他と異なる傾向になる想定で設けた項目「既に知っている事柄が多かった」に対応。 女子生徒の方が好意的な回答 (内容に由来するのか、対象者に 由来するのか、原因は不明)
  24. 結論 • 情報科における「中核的な概念」について学ぶ学 習活動を設計 • 高校生を対象とするゲスト講義を行い、アンケート 評価を実施し、一定の評価を得た 今後の課題: • 学習活動に対するフィードバックの強化

    参考文献: • 大西「情報学基礎 補助資料」 https://info-programming.github.io/informatics/ 29 (画像素材の出典) acspike「male user icon」https://openclipart.org/detail/4749 dagobert83「female user icon」https://openclipart.org/detail/1646