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成功するコミュニティには理由がある: コミュニティマーケティングの理論的枠組みと研究最前線

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June 12, 2025
1.2k

成功するコミュニティには理由がある: コミュニティマーケティングの理論的枠組みと研究最前線

Community Marketing Conference 2025 6.13(金)
https://communitymarketing.jp/CMC2025#c-3

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Akiko Nagahashi

June 12, 2025
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Transcript

  1. #CMC_2025 澁谷覚 | SATORU SHIBUYA • 東京電力(株) → 大学教員 •

    専門: デジタルクチコミ、デジタルマーケティング • コミュニティマーケティング推進協会 理事 • 好きなもの:コーヒー(中毒)
  2. #CMC_2025 太宰 潮|Ushio Dazai • 福岡大学商学部教授(博士) • 専門:マーケティング、消費者行動 特に:プライシング、サブスクリプション ・趣味:

    X : @ushiodazai • CMCをはじめデータ周りのコミュニティに学生たちと参加 ※「ワタシの推しは小島さん」と豪語する学生が現れたりするゼミ
  3. #CMC_2025 長橋 明子 | AKIKO NAGAHASHI • Asana Japan株式会社 マーケティング・リード

    • 一般社団法人 コミュニティマーケティング推進協会 B2B担当フェロー • 慶應義塾大学 大学院商学研究科 後期博士課程(2年 ) • 好きなもの: X : @akiko_n note : akiko_nagahashi
  4. #CMC_2025 BI導入 4%に改善 製造業(車載部品) 専門学校(デザイン) 売上予測 誤差12% 年商 42億円 平均年齢

    54.6歳 営業情報 Excelで 管理 (手作業) 社員数 270名 売上予測 誤差10% 年商 60億円 平均年齢 52.2歳 営業情報 Excelで 管理 (手作業) 社員数 70名 共有属性 共有属性 共有関係 共有属性 結合関係 BI導入 -%に改善! 帰納推論 共有属性
  5. #CMC_2025 超有名な枠組みですが: Granovetter (1973) “Strength of weak ties”「弱い紐帯の強さ」 • 「紐帯」=人とのつながりのこと。

    • 強い紐帯=いつもつるむ仲間、親友、仲良し組 • 強い紐帯内では外部との接続が弱く、持つ情報は 似通う • 弱い紐帯=いつもは関わらない、弱い関係性の人 • 弱い紐帯から、価値のある情報が得られたり、 転職の機会が生まれる →学生は、意地でも仲良しこよしで固まって、安全なところから出ようとしない。 学外の、今まで出ていない場に参加し、弱い紐帯からチャンスを得て欲しい。
  6. #CMC_2025 【参考】ゼミ運営上のパターン 【学習】 • Tableau, Pythonなどをある程度は(数十~100、200時間)学ぶ • 学ぶ過程で十分に先輩とやり取りしながら学ぶ • マーケの面白さやお金を稼ぐインパクトと共に学ぶ

    • その技術でインターンをして実際社会貢献できる、お金になると知る 【外部勉強会、コミュニティ参加】 • まずは先輩のLTの様子を知る、実際見る、他の人と話している姿、活躍の様子をみる • その先輩たちからみんな「全然できる」と言われる • とりあえず参加してLTやってみる、名刺交換してホクホクする、facebook等でつながる • 社会人から「すごい」「学生のときこんなことしたかった」「うらやましい」と言ってもらう ※太宰がいくら褒めても伝わらない。外部の人から褒められて初めてわかる。 • この経験を2-3回くらいしたらだいたい「自走」する
  7. #CMC_2025 概念で説明: Psychological Safety(心理的安全性) • 原著タイトルからわかるように、 チームのコミュニケーションが論点 PSとは: • チームにおいて、他のメンバーが自分が

    発言することを恥じたり、拒絶したり、 罰を与えるようなことをしないという確信を もっている状態であり、チームは対人リスク をとるのに安全な場所であるとの信念が メンバー間で共有された状態
  8. #CMC_2025 結論 心理的安全性を • (年が離れてない、近しい)先輩のお手本がある • その先輩から「できる」と言ってもらえる ことで感じ、 どこかで思い切ってコミュニティに出たら、 •

    社会人(弱い紐帯)から褒められ、様々なお話をし、 自ら世界を広げていくこと で、その価値を実感する これが今まで参加してなかった場に出てもらい、 その後もコミュニティが継続する形、です。 https://tokyoco.jp/psychological-safety/
  9. #CMC_2025 発信するメンバーと発信しないメンバーは 何が違うのか? 水面 受動的 行動 能動的 行動 “Passive Lurker”

    黙って参加し、 読む、見るだけ “Active Lurker” 読むだけでなく、 他のチャネルを通じ て情報を転送する 潜伏者 (Lurker) Carroll et al.(2008) リーダー • 投稿する、他の参加者に回答する • 参加を促進する、初心者を指導する、 方針を設定し維持する Burnett (2000) ; Preece and Shneiderman (2013) 反 復 的
  10. #CMC_2025 自己効力感の源泉体験 能動的 参加行動 利用継続 制御体験 代理体験 言語的説得 自己効力感 (Self

    efficacy) 推奨意向 ブランド・ロイヤルティ (長橋&及川 2025) + + + + + + 自己効力感を醸成する体験のデザインが鍵 • 能動的行動の裏には「自己効力感」とそれを刺激する「きっかけ体験」がある • 自己効力感=「ある結果を生み出すために必要な行動をどの程度うまく行うことができる か」(Bandura, 1997)(心理学者Banduraの社会的認知理論より) • コミュニティの中で「代理体験」(他の人がやっているのを見る)または「言語的説得」 (背中を押す)により「制御体験」(=成功体験)を経験すると、能動的な参加行動につ ながりやすい
  11. #CMC_2025 澁谷おすすめ書籍&論文 J. H. ホランド, K. J. ホリオーク, R. E.

    ニスベット, P. R. ザガード著, 市川伸一ほか訳(1991) 『インダクション: 推論・学習・発見の統合理論へ向けて』 新曜社. https://www.amazon.co.jp/dp/478850393X 人間が行う推論の仕組みを包括的に論じた名著中の名著。1991年の刊行で少し 古いですが、認知心理学の古典として読み継がれています。今回の議論では、 他社の事例を参考に自社の将来を推論する過程がインダクション(帰納)に該 当します。 澁谷覚(2013)『類似性の構造と判断: 他者との比較が消費者行 動を変える』有斐閣. https://www.amazon.co.jp/dp/4641164150 本日お話した内容を、より広範な先行研究に基づいて詳述している書籍です。 人間が表象と表象、または他者と自己の間にさまざまな共通点を見いだす仕組 みやプロセスと、その影響を包括的に議論しています。
  12. #CMC_2025 太宰先生 作成お願いします(1分) 太宰おすすめ書籍&論文 増田直紀, 今野紀雄 (2006)『「複雑ネットワーク」とは何か 複雑な関係を読み解く新しいアプローチ』講談社. https://www.amazon.co.jp/dp/B01851E0WE/ 読み物として面白いです!ブルーバックスなのですぐ読めますし。

    Granovetterなどの論文ももちろん紹介ありますが、”6次の隔たり”やベーコン 数・エルデシュ数、スモールワールドやベキ則などの複雑系の話あり、伝染病 の話やSNS(ミクシィ:当時足あとを気にした人はわかる)、ビジネスの話 まで幅広く取り上げられている。なお増田先生のブログも超面白いです。 エイミー・C・エドモンドソン, 村瀬俊朗 (その他), 野津智子 (翻訳) (2021)「恐れのない組織――「心理的安全性」が学 習・イノベーション・成長をもたらす」 https://www.amazon.co.jp/dp/4862762883/ 最近読んだ本の中では面白かった一冊&私の箇所の「外部コミュニティへの 参加」に関わるので。ただし、チームやコミュニケーションを中心に議論され ており、ネットワーキング方面がメインというわけでは無いことに注意。でも 外部コミュニティとつながること、と置き換えながら読むと非常に示唆が 多いのでおススメ。 1999年の原著論文にもできたら触れてみてください!
  13. #CMC_2025 長橋おすすめ書籍&論文 山本晶. (2014). キーパーソン・マーケティング: なぜ, あの 人のクチコミは影響力があるのか. 東洋経済新報社. https://amzn.asia/d/gIqxBoF

    クチコミ、コミュニティ、インフルエンサーなどについて実務上の悩みを 理論で解説している恩師の著書。11年前の本ですが、今も余裕で通用します 長橋明子 & 及川直彦. [Early access] (2025). B2B ブラン ド・コミュニティ活性化のメカニズム―自己効力感の形成プ ロセスと能動的参加行動―. マーケティングジャーナル. https://doi.org/10.7222/marketing.2025.031 今日ご紹介した論文が2025年6月発行予定の『マーケティング・ジャーナ ル』に掲載予定です(現在は早期公開版)。オープンアクセスなので、誰で も読めます その他おすすめ論文(英語) • James H. McAlexander, J. W. S. a. H. F. K. (2002). Building Brand Community. Journal of Marketing doi.org/10.1509/jmkg.66.1.38.18451 (古典的 名著論文。Jeepのコミュニティフェスティバルなど複数コミュニティを4年間に渡って調査+前後の定量調査。顧客中心のコミュニティのモデルも) • Baldus, B. J., Voorhees, C., & Calantone, R. (2015). Online brand community engagement: Scale development and validation. Journal of Business Research, 68(5), 978-985. doi:10.1016/j.jbusres.2014.09.035 (オンラインコミュニティ参加動機の尺度開発。動機を網羅している)