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円周率の日スペシャル 量子コンピューターと円周率の話

円周率の日スペシャル 量子コンピューターと円周率の話

Ayumu-walker

March 12, 2021
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  1. Quantum Tokyo アジェンダ • 円周率とは • 円周率にまつわる話 • いろいろな円周率の求め方 •

    量子コンピューターと円周率 1. 量子位相推定(QPE)を使って円周率を推定する • Estimating Pi Using Quantum Phase Estimation Algorithm 2. ビリヤードボールの衝突とGroverのアルゴリズムと円周率 • Playing Pool with |ψ>: from Bouncing Billiards to Quantum Search 3. 1量子ビットを使って円周率を推定する • Calculation of π on the IBM quantum computer and the accuracy of one-qubit operations
  2. Quantum Tokyo 円周率とは 円周と直径の比率 つまり 𝜋 = 円周 直径 𝜋

    =3. 141592653589 793238462643 383279502884 197169399375 105820974944 592307816406 286208998628 034825342117 067982148086 513282306647 ... 直径 円周
  3. Quantum Tokyo 円周率にまつわる話 • 4000年前から「3より少し大きい」ことが知られていた • 当時の幾何学が生活上重要なため円周率を使うこと場面があったとされる • 円周率𝝅は無理数であり、超越数である •

    無理数とは「有理数でない」つまり整数同士の分数では表現できない数 • 超越数とは有理数係数の代数方程式(𝒂𝒏 𝒙𝒏 + ⋯ + 𝒂𝟎 = 𝟎)の解には表れない数 • 円周率の近似として22/7 ≈ 3.142857142857・・・が計算上使われていた • 355/113 ≈ 3.14159292035もよく利用されていた • 2002年 文科省が提示した学習指導要領で小学校での円周率の計算は「およそ3」になる • 翌年2月、東京大学2003年理系第6問で「円周率が3.05より大きいことを証明せよ」と いう、受験業界をざわつかせた問題が出題される
  4. Quantum Tokyo いろいろな円周率の求め方 • 幾何学的手法により求める • 円に内接する正n角形の外周の長さがと円に外接する正n角形の円周に近い値と考えられるため、それを測るないしは三 角比などを使って求める • nが大きいと円に近づく

    • 数値計算的に求める • ライプニッツの円周率公式 バーゼル問題 • 0に収束する有理数を足し続けているのに、無理数であるπが出現する! • ラマヌジャンの円周率公式 • 数値計算的にはかなり速く収束する(n=0で小数第6位まで一致!!!!!) • 計算機科学的に求める • モンテカルロシミュレーションを使って、ランダムに打たれた点の面積から推察する • 量子コンピューターを使って求める NEW!!!! 𝑛 → ∞ 正6角形 正8角形 正10角形 正12角形
  5. Quantum Tokyo 量子位相推定(Quantum Phase Estimation:QPE) 量子位相推定とは、ユニタリ行列𝑈の固有状態| ۧ 𝜓 としたときに、固有値の係数𝜃を推 定する方法である。

    𝑈| ۧ 𝜓 = exp(2𝜋𝑖𝜽)| ۧ 𝜓 → 𝜃 = 0. 𝜃1 𝜃2 ⋯ = 𝜃1 21 + 𝜃2 22 + ⋯ (ただし、𝜃𝑖 = 0 𝑜𝑟 1)
  6. Quantum Tokyo 量子位相推定(Quantum Phase Estimation:QPE) 量子位相推定の肝は量子逆フーリエ変換! 量子フーリエ変換は2進数表記で量子状態にエンコードされた10進数の整数𝑗を位相に埋 め込む処理であった。(量子ビット数は𝑛とする) | ۧ

    𝑗 = | ۧ 𝑗1 𝑗2 ⋯ 𝑗𝑛 𝑄𝐹𝑇 1 2𝑛 ෍ 𝑘=0 2𝑛−1 exp( 2𝜋𝑖 2𝑛 𝑘𝑗)| ۧ 𝑘 = 1 2𝑛 ෍ 𝑘=0 2𝑛−1 exp(2𝜋𝑖𝑘 0. 𝑗1 𝑗2 ⋯ 𝑗𝑛 )| ۧ 𝑘 量子逆フーリエ変換は量子フーリエ変換を戻す処理であり、上記の状態の位相に埋め込 まれた固定の整数𝑗を2進数で表現する量子状態にエンコードする方法とも言える。 1 2𝑛 ෍ 𝑘=0 2𝑛−1 exp( 2𝜋𝑖 2𝑛 𝑘𝑗)| ۧ 𝑘 = 1 2𝑛 ෍ 𝑘=0 2𝑛−1 exp(2𝜋𝑖𝑘 0. 𝑗1 𝑗2 ⋯ 𝑗𝑛 )| ۧ 𝑘 𝑄𝐹𝑇† | ۧ 𝑗1 𝑗2 ⋯ 𝑗𝑛 = | ۧ 𝑗
  7. Quantum Tokyo QPEの復習 1. 𝑛量子ビットの重ね合わせ状態を作る(規格化定数は無視する) | ۧ 0 ⨂𝑛 𝐻⨂𝑛

    | ۧ 0 + | ۧ 1 + ⋯ + | ۧ 2𝑛−1 = | ۧ 00 ⋯ 00 + | ۧ 00 ⋯ 01 + ⋯ + | ۧ 11 ⋯ 11 (10進数表記) (2進数表記)
  8. Quantum Tokyo QPEの復習 2. ユニタリ操作𝑈についての固有状態| ۧ 𝜓 に対して、制御𝑈ゲートを作用させる (| ۧ

    00 ⋯ 00 + | ۧ 00 ⋯ 01 + ⋯ + | ۧ 11 ⋯ 11 )⨂| ۧ 𝜓 𝑐−𝑈2𝑛−1 (| ۧ 00 ⋯ 00 + | ۧ 00 ⋯ 01 + ⋯ + 𝑒2𝜋𝑖𝜃∗2𝑛−1 | ۧ 11 ⋯ 11 )⨂| ۧ 𝜓 𝑐−𝑈2𝑛−2 (| ۧ 00 ⋯ 00 + | ۧ 00 ⋯ 01 + ⋯ + 𝑒2𝜋𝑖𝜃∗(2𝑛−1+2𝑛−2)| ۧ 11 ⋯ 11 )⨂| ۧ 𝜓 ⋯ 𝑐−𝑈20 (𝑒2𝜋𝑖𝜃∗0| ۧ 00 ⋯ 00 + 𝑒2𝜋𝑖𝜃∗20 | ۧ 00 ⋯ 01 + ⋯ + 𝑒2𝜋𝑖𝜃∗(2𝑛−1+2𝑛−2+⋯+20)| ۧ 11 ⋯ 11 )⨂| ۧ 𝜓 = ෍ 𝑘=0 2𝑛−1 exp 2𝜋𝑖𝜃𝑘 | ۧ 𝑘 ⨂| ۧ 𝜓 各状態の位相は、2進数表 記での量子状態を10進数 表記した時の倍数がかかる
  9. Quantum Tokyo QPEの復習 3. 逆フーリエ変換をかけて、位相の中の𝜃(0 ≤ 𝜃 < 1)の値を2進数表記での量子状態 にエンコードする

    ෍ 𝑘=0 2𝑛−1 exp 2𝜋𝑖𝜃𝑘 | ۧ 𝑘 𝑄𝐹𝑇† | ۧ 𝜃 逆フーリエ変換 ෍ 𝑘=0 2𝑛−1 exp(2𝜋𝑖𝑘 0. 𝑗1 𝑗2 ⋯ 𝑗𝑛 )| ۧ 𝑘 𝑄𝐹𝑇† |𝑗1 𝑗2 ⋯ ۧ 𝑗𝑛
  10. Quantum Tokyo QPEを使うエッセンス 位相推定は、𝑈| ۧ 𝜓 = 𝑒𝑖𝜑| ۧ 𝜓

    の𝜑の値を求めるアルゴリズム 位相推定の式は次のようにも書き直せる 𝑈| ۧ 𝜓 = 𝑒2𝜋𝑖𝜃| ۧ 𝜓 ここで𝜃 = 0. 𝜃1 𝜃2 ⋯ = 𝜃1 21 + 𝜃2 22 + ⋯ (ただし、𝜃𝑖 = 0 𝑜𝑟 1の2進数の値のどちらかになる。) このことから、 𝜑 = 2𝜋𝜃 ⇒ 𝜋 = 𝜑 2𝜃 となる。 ここで、𝝋はこのデモにおいて実験者が任意に設定可能な値であり、𝜽はQPEの観測 によって測定可能な値である。
  11. Quantum Tokyo QPEを使うエッセンス QPEによって、量子ビット数の精度で位相を推定できる。 | ۧ 𝜃1 | ۧ 𝜃𝑛

    | ۧ 𝜃2 𝜃 ≈ 0. 𝜃1 𝜃2 ⋯ 𝜃𝑛 = 𝜃1 21 + 𝜃2 22 + ⋯ + 𝜃𝑛 2𝑛 十進数表記 二進数表記
  12. Quantum Tokyo デモの設定 | ۧ 𝜓 = | ۧ 1

    = 0 1 、𝑈 = 𝑈1 𝜑 = 1 0 0 𝑒𝑖𝜑 ⇒ 𝑈| ۧ 1 = 𝑒𝑖𝜑| ۧ 1 さらに、𝜑 = 1と設定しておくとデモが構成しやすい。つまり、𝜋 = 1 2𝜃 となる。 以上の状況で、𝜃(の近似値)をQPEを構成して求める。
  13. Quantum Tokyo 2.ビリヤードボールの衝突とGroverの アルゴリズムと円周率 • Playing Pool with |ψ>: from

    Bouncing Billiards to Quantum Search • https://arxiv.org/abs/1912.02207 • 完全弾性体でできたビリヤードのボール2つと壁が存在して、下図のようなシチュエー ションでのボールと壁のそれぞれの衝突回数を合算した回数から円周率が推定できる M 1 M 1 X回の衝突を繰り返す 始状態 終状態 𝑋 = [𝜋 𝑀] (ただし、[]はガウス記号で、[a]はaを超えない最大の整数とする)
  14. Quantum Tokyo M=1のケースを考えてみる 1 1 1 1 始状態 終状態 1

    1 左のボールが衝突し(衝突回数+1) 右のボールに運動量(速度)が移る 衝突回数=0 衝突回数=1 1 1 衝突回数=2 1 1 衝突回数=3 1 1 衝突回数=2 壁にぶつかると速度が反転する (衝突回数+1) 右のボールが衝突し(衝突回数+1) 左のボールに運動量(速度)が移る 𝑋 = 𝜋 1 = 3
  15. Quantum Tokyo M>1の場合は? M 1 始状態 M 1 左のボールが衝突し(衝突回数+1) 右のボールに運動量(速度)が一部移り

    右のボールが減速する 衝突回数=0 衝突回数=1 M 1 衝突回数=2 M 1 衝突回数=3 M 1 衝突回数=2 壁にぶつかると速度が反転する (衝突回数+1) 右のボールが衝突し(衝突回数+1) 左のボールに運動量(速度)が一部移り 右のボールが減速する ・・・ M 1 終状態 いずれ質量Mのボールに 追いつけなくなる
  16. Quantum Tokyo 参考)数値計算で確かめてみた 完全弾性衝突の公式(高校物理の復習) M m M m M m

    V v v’ V’ 運動量保存則:𝑀𝑉 + 𝑚𝑣 = 𝑀𝑉′ + 𝑚𝑣′ 完全弾性衝突:𝑒 = − 𝑉′ − 𝑣′ 𝑉 − 𝑣 = 1 𝑉′ = 𝑀 − 𝑚 𝑀 + 𝑚 𝑉 + 2𝑚 𝑀 + 𝑚 𝑣 𝑣′ = 2𝑀 𝑀 + 𝑚 𝑉 − 𝑀 − 𝑚 𝑀 + 𝑚 𝑣 *完全弾性衝突の場合は系の運動エネルギーに対して保存則も成り立つ 1 2 𝑀𝑉2 + 1 2 𝑚𝑣2 = 1 2 𝑀𝑉′2 + 1 2 𝑚𝑣′2
  17. Quantum Tokyo Groverのアルゴリズムの復習 • Groverのアルゴリズムは、計算に利用できる量子ビットを使って表現できる全て の状態の重ね合わせ状態の中から、正解の状態とそれ以外の状態の確率振幅をそ れぞれ別のルールで変化させるアルゴリズムである。 確率振幅 ・・ ・・

    ・・ ・・ ①初期状態で全 状態の均等な重 ね合わせを作る ②正解の状態をマー キング(正解の状態 の確率振幅の符号を 反転) ・・ ・・ ③全確率振幅の平均 値に対して、確率振 幅の頭の位置を折り 返し ・・ ・・ ④何回か②と③を繰 り返す ・・ ・・ ・・・ ⑤正解の状態が十分 に高い確率で観測で きるような所で観測 を実施する
  18. Quantum Tokyo Groverのアルゴリズムの復習 • 正解の状態は1つの状態でなく複数の場合でも利用可能 • 正解が十分高い確率で観測できるようになる繰り返しの回数は、正解の状態数 (𝑁)と不正解の状態数(𝑀)に依存する • 最適な回数は

    𝜋 4 𝑁+𝑀 𝑁 • 多くの例では、正解が1つ、つまり𝑁 = 1のケースで紹介される • 初期状態が均等な重ね合わせでなくても利用可能 • ただし、正解の状態が十分高く観測できるための最適な繰り返し回数は、初期状態に依存 してしまうため、おススメはしない
  19. Quantum Tokyo Groverのアルゴリズムの復習 • | ۧ 初期状態 = 1 𝑁

    + 𝑀 ( | ۧ 不正解1 + | ۧ 不正解2 + ⋯ + | ۧ 正解1 + ⋯ + | ۧ 正解𝑁 + ⋯ + | ۧ 不正解𝑀 ) = 𝑀 𝑀 + 𝑁 (| ۧ 不正解1 + | ۧ 不正解2 + ⋯ + ۧ 不正解𝑀 𝑀 + 𝑁 𝑀 + 𝑁 (| ۧ 正解1 + ⋯ + | ۧ 正解𝑁 ) 𝑁 = cos ҧ 𝜃 |不 ۧ 正解 + sin ҧ 𝜃 | ۧ 正解 ( ただし、 cos ҧ 𝜃 = 𝑀 𝑀+𝑁 、 sin ҧ 𝜃 = 𝑁 𝑀+𝑁 ) この式から、横軸| ۧ 不正解 、縦軸| ۧ 正解 の単位円上に量子状態をマッピングできる!
  20. Quantum Tokyo Groverのアルゴリズムの復習 幾何学的な解釈 ҧ 𝜃 ①| ۧ 全状態の重ね合わせ |

    ۧ 不正解 | ۧ 正解 ҧ 𝜃 ②| ۧ 正解 だけが反転された状態 ③| ۧ 正解 の状態が増幅された状態 ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ҧ 𝜃 = arcsin 𝑁 𝑀 + 𝑁 𝑁:正解数、𝑀:不正解数 ④②と③と何度か繰り返した状態 2 ҧ 𝜃 ・・ ・・
  21. Quantum Tokyo Groverのアルゴリズムの復習 幾何学的な解釈 ҧ 𝜃 ①| ۧ 𝑠 =

    | ۧ 1 + | ۧ 2 + ⋯ + | ۧ 𝑑 =cos ҧ 𝜃| ۧ ҧ 𝑠 + sin ҧ 𝜃| ۧ 𝑤 | ۧ ҧ 𝑠 | ۧ 𝑤 ҧ 𝜃 ②𝑈𝑤 | ۧ ҧ 𝑠 = cos ҧ 𝜃| ۧ ҧ 𝑠 − sin ҧ 𝜃| ۧ 𝑤 ③ ۧ 𝑠1 = 𝑈𝑠 ۧ 𝑠′ = 𝑈𝑠 𝑈𝑤 | ۧ 𝑠 2 ҧ 𝜃 𝑈𝑤 = 2| ۧ ҧ 𝑠 ۦ ҧ 𝑠| − 𝐼 =𝐼 − 2 ۧ 𝑤 ۦ𝑤 = | ۧ ҧ 𝑠 ൻ ҧ 𝑠| − | ۧ 𝑤 ۦ𝑤| 横軸| ۧ ҧ 𝑠 に対しての反転操作) 𝑈𝑠 = 2| ۧ 𝑠 ۦ𝑠| − 𝐼 (斜めの軸| ۧ 𝑠 に対しての反転操作) 単位行列𝐼 = ۧ ҧ 𝑠 ۦ ҧ 𝑠 + | ۧ 𝑤 ۦ𝑤|であることに注意する ④| ۧ 𝜃 = 𝑈𝑠 𝑈𝑤 𝑈𝑠 𝑈𝑤 ⋯ 𝑈𝑠 𝑈𝑤 | ۧ 𝑠 ҧ 𝜃 = arcsin 𝑁 𝑀 + 𝑁 𝑁:正解数、𝑀:不正解数
  22. Quantum Tokyo ビリヤードの球のケースを考える 初期設定 𝑑個のボールがあり、それらの番号を𝑖として、それぞれの速度を𝑣𝑖 とする。その場合 の全ボールの速度の情報を持った”量子状態っぽい”ベクトルは以下のように書けると する。(それぞれの速度を確率振幅に対応させているとみなせる) ۧ 𝑣𝑒𝑙𝑜𝑐𝑖𝑡𝑦

    = 𝑣1 ۧ 1 + 𝑣2 ۧ 2 + ⋯ + 𝑣𝑑 ۧ 𝑑 この実験では完全弾性衝突を考えるので、運動エネルギーは保存する。 ۦ𝑣𝑒𝑙𝑜𝑐𝑖𝑡𝑦| ۧ 𝑣𝑒𝑙𝑜𝑐𝑖𝑡𝑦 = ෍ 𝑖=1 𝑑 |𝑣𝑖 |2 = 1 簡単のために全ボールの質量は1とすると、エネルギーは1/2である。 このうち、𝑤番目のボール1つと、それ以外の𝑑 − 1個のボールを分離して考える。 Groverの表現では、𝒘は正解の状態、それ以外は不正解の状態とみなせる。 1 1 1 1 𝑑 = 4の場合
  23. Quantum Tokyo ビリヤードの球のケースを幾何学的に考える 𝑀𝑣𝑖≠𝑤 𝑣𝑤 エネルギー保存則 1 2 𝑣𝑤 2

    + 1 2 𝑀𝑣𝑖≠𝑤 2 = 1 2 ⇒ sinθ = 𝑣𝑤 、 cos 𝜃 = 𝑀𝑣𝑖≠𝑤 Groverのアルゴリズムの幾何学的見方と一致してる! 重いボール(不正解) 軽いボール(正解)
  24. Quantum Tokyo ビリヤードの球のケースを幾何学的に考える | ۧ ҧ 𝑠 :重いボールだけが動いている状態(初期状態) = 1

    𝑑 − 1 (| ۧ 1 + ⋯ + | ۧ 𝑤 − 1 + | ۧ 𝑤 + 1 + ⋯ + | ۧ 𝑑 ) | ۧ 𝑤 :軽いボールだけが動ている状態 ҧ 𝜃 | ۧ 𝑠 :全てのボールが同じ速度で動いている状態 = 1 𝑑 (| ۧ 1 + ⋯ + | ۧ 𝑑 ) | ۧ 𝜃 :何回か衝突を繰り返した状態= 𝑣1 | ۧ 1 + ⋯ + 𝑣𝑑 | ۧ 𝑑 𝜃
  25. Quantum Tokyo 数学的準備:内積を保存する写像について 「任意の状態に対して、| ۧ 𝝓 との内積が保存する写像として、 単位行列𝑰もしくは෡ 𝑶| ۧ

    𝝓 ≡ 𝟐 ۧ 𝝓 ۦ𝝓 − 𝐈を考えることができる。」(O(2)写像) つまり、任意の状態| ۧ 𝜃 に𝑂| ۧ 𝜙 を作用させた状態𝑂| ۧ 𝜙 | ۧ 𝜃 と| ۧ 𝜙 の内積は変わらない。 ۦ𝜙| ෠ 𝑂| ۧ 𝜙 | ۧ 𝜃 = ۦ𝜙| 2 ۧ 𝜙 ۦ𝜙 − I | ۧ 𝜃 = ۦ𝜙| ۧ 𝜃 この数学的性質を「内積の保存」と「運動量の保存」を結び付けることができる!
  26. Quantum Tokyo 軽いボールが壁に衝突するケースでは M 1 重いボールの運動量は保存するが、 軽いボールの運動量は保存してないことに注意! = ෍ 𝑖≠𝑤

    𝑣𝑖 = 𝑑 − 1 ۦ ҧ 𝑠| ۧ 𝜃 衝突前後で重いボールの運動量 は保存する ۦ ҧ 𝑠| ۧ 𝜃 が保存する ෡ 𝑶𝒘𝒂𝒍𝒍 ≡ 𝟐 ۧ ത 𝒔 ۦത 𝒔 − 𝐈を| ۧ 𝜃 に作用させた状態(壁に衝突後の状態)でも内積が保存される M = d − 1 ෠ 𝑂𝑤𝑎𝑙𝑙 軽いボールが壁に衝突して速度(という確率振幅)を反転させる操作෡ 𝑶𝒘𝒂𝒍𝒍 と Groverのアルゴリズムのマーキング(正解の状態の確率振幅の符号を反転させる操作)と一致している!!! | ۧ ҧ 𝑠 :重いボールだけが動いている状態(初期状態)= 1 𝑑−1 (| ۧ 1 + ⋯ + | ۧ 𝑤 − 1 + | ۧ 𝑤 + 1 + ⋯ + | ۧ 𝑑 ) | ۧ 𝜃 :何回か衝突を繰り返した状態= 𝑣1 | ۧ 1 + ⋯ + 𝑣𝑑 | ۧ 𝑑
  27. Quantum Tokyo 2つのボールが壁に衝突するケースでは 系全体の運動量は保存している = ෍ 𝑖 𝑣𝑖 = 𝑑

    ۦ𝑠| ۧ 𝜃 衝突前後で系全体の運動量 は保存する ۦ𝑠| ۧ 𝜃 が保存する ෡ 𝑶𝒄𝒐𝒍𝒍𝒊𝒔𝒊𝒐𝒏 ≡ 𝟐 ۧ 𝒔 ۦ𝒔 − 𝐈を| ۧ 𝜃 に作用させた状態でも内積が保存される M 1 ෠ 𝑂𝑐𝑜𝑙𝑙𝑖𝑠𝑖𝑜𝑛 2つのボールの速度(という確率振幅)を変化させる操作෡ 𝑶𝒄𝒐𝒍𝒍𝒊𝒔𝒊𝒐𝒏 と Groverのアルゴリズムの全状態の確率振幅を変化させる操作が一致している!!! | ۧ 𝑠 :全てのボールが同じ速度で動いている状態 = 1 𝑑 (| ۧ 1 + ⋯ + | ۧ 𝑑 ) | ۧ 𝜃 :何回か衝突を繰り返した状態= 𝑣1 | ۧ 1 + ⋯ + 𝑣𝑑 | ۧ 𝑑
  28. Quantum Tokyo Groverのアルゴリズムと ビリヤードのボールの衝突の対応まとめ ・・ ・・ ②正解の状態をマー キング(正解の状態 の確率振幅の符号を 反転)

    ・・ ・・ ③全確率振幅の平均 値に対して、確率振 幅の頭の位置を折り 返し ・・ ・・ M 1 ෠ 𝑂𝑤𝑎𝑙𝑙 M 1 ෠ 𝑂𝑐𝑜𝑙𝑙𝑖𝑠𝑖𝑜𝑛
  29. Quantum Tokyo Groverのアルゴリズムと ビリヤードのボールの衝突微妙な違い 正解が1つの場合のGroverの最適な繰り返し回数 𝜋 4 𝑀 + 1

    に対して、ビリヤードの 球の衝突回数は[𝜋 𝑀]となる4倍係数の違いはどこにあるのか? 1. “2倍”の違いは、Groverでは反転と増幅を1回と数えるのに対し、ビリヤードで は壁の衝突とボール同士の衝突を1回ずつ計2回と数えることによるもの。 2. 残りの”2倍”の違いは、終了条件の違い。 1. Groverは約 𝜋 2 回転すれば終了 2. ビリヤードは約𝜋回転すれば終了 ビリヤードのケースの初期状態 Groverの初期状態 ビリヤードのケースの最終状態 Groverの最終状態
  30. Quantum Tokyo 3.1量子ビットで円周率を求める • Calculation of π on the IBM

    quantum computer and the accuracy of one-qubit operations • https://arxiv.org/abs/1912.12037 • 1量子ビットの測定結果を使って、実験結果に統計的処理を施すことで円周率を推定する 手法を紹介している
  31. Quantum Tokyo 1量子ビットで円周率を求める アイデア 初期状態| ۧ 0 に𝑅𝑦 (𝜃)回転させた状態は、 𝑅𝑦

    𝜃 | ۧ 0 = cos 𝜃 2 | ۧ 0 + sin 𝜃 2 | ۧ 1 この計算基底(| ۧ 0 と| ۧ 1 )で状態を測定すると、| ۧ 0 である確率はcos2 𝜃 2 = 1+cos 𝜃 2 とな り、同様の| ۧ 𝟏 である確率は𝐩 𝜽 = 𝐬𝐢𝐧𝟐 𝜽 𝟐 = 𝟏−𝐜𝐨𝐬 𝜽 𝟐 となる。 理論的に| ۧ 1 が観測される確率
  32. Quantum Tokyo 1量子ビットで円周率を求める アイデア 𝐩 𝛉 = 𝐬𝐢𝐧𝟐 𝜽 𝟐

    = 𝟏−𝐜𝐨𝐬 𝜽 𝟐 = 1 2 ⇒ 𝜃 = 𝜋 2 , 3𝜋 2 ⇒ 2つの解の差は𝜋!!! 理論的に| ۧ 1 が観測される確率𝑃(𝜃) 0.5 𝜋 𝜋 2 3𝜋 2 この実測値を実験的に得ることで、円周率を求めることができる!!!!
  33. Quantum Tokyo 1量子ビットで円周率を求める アイデア 実験上の課題 • 実験値は次ような関数でプロットされると考える • 𝜃 =

    𝑐𝑡として、𝑡は実験で制御可能な変数 𝑃 𝑐𝑡 = 𝛼 1 − cos(𝑐𝑡 + 𝜙0 ) 2 + 𝛽 𝛼: 縦の幅の伸縮 𝛽:縦の位置の押し上げ 𝜙0 :横の位置のズレ 𝑐:横幅の伸縮
  34. Quantum Tokyo 1量子ビットで円周率を求める アイデアの改良 • まずは、𝑐だけが理想値からずれている場合を考える。 • 𝑃 𝑐𝑡 =

    1−cos(𝑐𝑡) 2 = 1 2 ⇒ 𝑡1 = 𝜋 2𝑐 、𝑡2 = 3𝜋 2𝑐 ⇒ ׬ 𝑡1 𝑡2(𝑃 𝑐𝑡 − 1 2 )𝑑𝑡 = 1 𝑐 ⇒ 𝜋 = 𝑡2−𝑡1 ׬ 𝑡1 𝑡2 𝑃 𝑐𝑡 𝑑𝑡 • 𝑐の値が不明でも、確率が0.5になる𝑡が判明し、上記積分を計算すれば𝑐が推定できて、円 周率が推定できる!!!!! • 同様に不明なパラメーター𝛼、𝛽、𝜙0 を実験データを解析することができれば、 p 𝑐𝑡 = 1−cos(𝑐𝑡) 2 = 𝑃 𝑐𝑡−𝜙0 −𝛽 𝛼 が推定できる。 • (今回の実験では𝜙0 = 0として以降は考える。)
  35. Quantum Tokyo 1量子ビットで円周率を求めるアルゴリズム の流れ 1. α、𝛽を実験値𝑓(𝑡)の最大最小値から、“ラフ”に決める。 – 𝛽 = min

    𝑡 𝑓(𝑡) – 𝛼 + 𝛽 = max 𝑡 𝑓(𝑡) 2. 𝑓1 𝑡 = 𝑓 𝑡 −𝛽 𝛼 によって、規格化した値を考える。 3. ҧ 𝑓1 (𝑡)は𝑓1 を連続関数として補完したものを考える。 – スプライン保管のようなイメージ 4. ҧ 𝑓1 𝑡 = 0.5となる𝑡1 、𝑡2 を“ラフ”に求める – Root search法により𝑡1 は1.5付近で、𝑡2 は4.5付近を対象とする 𝛼 + 𝛽 𝛽 𝑡1 𝑡2
  36. Quantum Tokyo 1量子ビットで円周率を求めるアルゴリズム の流れ 5. 𝛼、𝛽を調整する – mean 𝑓1 𝑡

    ∥ 𝑡 − 𝑡𝑚𝑖𝑛𝑣𝑎𝑙 < 𝛿 = β – mean 𝑓1 𝑡 ∥ 𝑡 − 𝑡𝑚𝑎𝑥𝑣𝑎𝑙 < 𝛿 = 𝛼 + β – 𝑡𝑚𝑎𝑥𝑣𝑎𝑙 = 𝑡1+𝑡2 2 : P(t)が最大になるであろう付近 – 𝑡𝑚𝑖𝑛𝑣𝑎𝑙 は0か2𝜋付近のどちら – 𝛿:1 − cos cδ ≪ 𝑃(𝑡)(1 − 𝑃(𝑡)) • 実験結果のばらつきがそれほど大きくならない範囲を取る 6. 調整した𝛼、𝛽でステップ2から繰り返して、さらに調整する 𝛼 + 𝛽 𝛿 𝑡𝑚𝑎𝑥𝑣𝑎𝑙
  37. Quantum Tokyo 1量子ビットで円周率を求めるアルゴリズム の流れ 7. ある程度𝛼、𝛽が調整できたら、𝑡1 と𝑡2 を調整する – |𝑡

    − 𝑡𝑖 | < 0.5の範囲の𝑓1 (𝑡)の値を準備する – この範囲はほぼ直線に近似可能であると仮定して – 最小二乗法により 𝛾𝑡 + 𝑘という関数にfitさせる – Fitした𝛾𝑡𝑖 + 𝑘 = 0.5を𝑡𝑖 について解く 8. 𝐼 = ׬ 𝑡1 𝑡2 𝑓 𝑡 − 1 2 𝑑𝑡 を求める 9. 円周率の近似として、𝑡2−𝑡1 𝐼 を推定する 1.0 1.0
  38. Quantum Tokyo 実験結果 #3と#5は、𝜃 = 4 付近で実験結果が 不連続になってい るため、この結果 は解析には利用し

    ないとしている。 *各点の確率を実測するために、8192ショットずつ実行
  39. Quantum Tokyo 解析結果 • 各実験結果に対して、50回の𝛼、𝛽の調整繰り返しを実行 • 𝜋 ≈ 3.157 ±

    0.017 • (𝑡2 − 𝑡1 )の分散は0.009 • Iの分散は0.006 アルキメデスが導出した 𝟐𝟐𝟑 𝟕𝟏 ≈ 𝟑. 𝟏𝟒𝟎𝟖 < 𝝅 < 𝟑. 𝟏𝟒𝟐𝟖 ≈ 𝟐𝟐 𝟕 にはまだまだ及ばない・・・
  40. Quantum Tokyo 本日のまとめ • 量子位相推定で実験パラメーターを上手く選ぶことで円周率を推定できる • 完全弾性衝突によるビリヤードの球同士と壁の衝突回数回数がGroverのアルゴリ ズムに対応していた • Groverのアルゴリズムの最適繰り返し数には円周率が係数としてかかっているため、上手

    く不正解数(重いビリヤードのボールの重さ)を選ぶことで、円周率の近似値が測定でき る • 1量子ビットでの|1>の状態の観測確率を上手く調整し、古典的統計処理を施すこ とで円周率を推定できるが、精度はかなり粗い • 実験点をもう少し細かくするか?
  41. Thank you Ayumu Shiraishi [email protected] © Copyright IBM Corporation 2020.

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