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容積率オーバー物件の購入を考える際のポイント

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May 02, 2025
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 容積率オーバー物件の購入を考える際のポイント

不動産投資を行う際に必ず確認すべき重要な指標として「建ぺい率」と「容積率」があります。特に容積率オーバーの物件は、高い収益性を示す一方で、融資や将来の売却に大きな影響を与える可能性があります。
この発表では、建ぺい率と容積率の基本的な概念から、容積率オーバー物件が存在する背景、そして投資判断における注意点まで、実務的な観点から解説します。適切な投資判断のための知識を身につけ、将来のリスクを最小限に抑えるための考え方をご紹介します。

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西本豪

May 02, 2025
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  1. 建ぺい率と容積率の基本 建ぺい率とは 敷地面積に対して建てられる建物の建築面積の割合です。 計算式:建ぺい率=建物の建築面積÷敷地面積 建築面積は通常、1階部分の床面積が基準ですが、真上から見 た水平投影面積を指します。用途地域ごとに30%~80%の上 限が定められています。 容積率とは 敷地面積に対する建物の延べ床面積の割合です。 計算式:容積率=建物の延べ床面積÷敷地面積

    延べ床面積は各階の床面積の合計を指します。用途地域ごとに 50%~1300%の上限が定められています。敷地前面の道路幅 によっても制限されることがあります。 これらの制限が設けられている理由は、災害時の被害拡大防止、周辺環境の風通しや日照権の確保、地域の景観保全、適正な人口 密度の維持などが挙げられます。投資家としては収益最大化を目指したいところですが、これらの規制は社会的に重要な意味を持 っています。
  2. 容積率オーバー物件が存在する背景 設計段階 建築計画の作成後、建築確認申請を提出し、建築確認済証を取得します。この段 階で建ぺい率・容積率などの法的要件を満たすことが求められます。 工事段階 建築の着工後、一定規模の建物では中間検査があります。阪神大震災後の1999年 に導入され、2007年には3階建て以上の鉄筋コンクリート造共同住宅には全国一 律で義務付けられました。 完了検査 建物完成後4日以内に申請が必要です。設計計画と異なると検査済証を取得でき

    ませんが、ペナルティがないため未受検の建物も多く存在します。 容積率オーバーの物件は、①設計変更により当初の要件を満たせなくなった、②完了検査非承 認のまま、③完了検査を受けていない、④増改築・リフォーム後、⑤用途変更などの理由で「 違法建築物」となる場合と、法令改正により「既存不適格建築物」となる場合があります。罰 則が明確でないため、多くの物件が野放しになっているのが現状です。
  3. 融資への影響 購入時の融資評価への影響 容積率オーバー物件は金融機関から の融資評価が著しく低くなります。 特に数千万円を超えるアパートや1棟 マンションでは、十分な融資が下り なければ購入自体が困難になります 。 積極的な金融機関でも借入可能な場 合、金利が高かったり返済期間が短

    かったりと不利な条件になりがちで す。 売却時の影響 出口戦略に大きなマイナス影響を与 えます。次の購入者への融資額も下 がるため、購入できる人が限られ、 売却可能価格も下落します。 高収益を維持できていても、売却時 の価格下落が大きければ、投資とし ては失敗に終わる可能性があります 。 将来的なリスク 今後、規制やコンプライアンスが強 化されれば、さらに条件が厳しくな る可能性があります。金融機関の判 断基準は異なりますが、長期的には 売却条件が厳しくなることが予想さ れます。 容積率オーバー物件の最大の問題点は、このように融資に関わる部分です。短期的な収益だけでなく、長期的な資産価値の変動も 考慮する必要があります。
  4. 容積率オーバー物件の種類と特徴 違法建築物 建築基準法を無視して建てられた物件です。地域住民からのクレームや悪質な場 合は、使用禁止や改善命令、最悪の場合は強制執行による取り壊しなどの処置が 下される可能性があります。是正費用も所有者負担となります。 既存不適格建築物 建築当初は適法だったものの、その後の法令改正により不適格となった物件です 。基本的には使用禁止や改善命令が出る可能性は低く、一定の緩和措置を受けら れますが、増改築や建て替え時には現行法規に従う必要があります。 居住権の効力

    実際に人が住んでいる住宅を取り壊すことは非常に困 難なため、違反状態でも野放しになっているケースが 多いです。 地域差 容積率オーバー物件は全国に存在しますが、特に関西 、とりわけ大阪に集中しています。地域によっては比 較的許容されている場合もあります。 規制強化の可能性 将来的に規制が強化される可能性があり、そのタイミ ングは予測困難です。安定経営を目指すなら避けるべ き物件と言えます。 違法建築物と既存不適格建築物では、法的な扱いや将来的なリスクが異なります。購入を検討する際には、どちらのカテゴリーに属するのかを明確に把握することが重要です。
  5. 高利回り訳あり物件の特徴 物件の種類 特徴 主なデメリット 容積率オーバー物件 容積率が法定上限を超過 融資評価額が下がる 建ぺい率オーバー物件 建ぺい率が法定上限を超過 融資評価額が下がる

    再建築不可物件 建築基準法を満たせない 将来的に再建築ができない 市街化調整区域の物件 市街化を抑制する地域 融資評価額低下、入居困難 旧耐震基準法の物件 1981年5月31日以前の認可 倒壊リスク高、保険料高額 容積率オーバーの物件は、他の訳あり物件と同様に通常より安値で購入できたり、高利回りである場合が多いです。投資額を短期 間で回収できる見込みがある場合や、長期保有を想定する場合は検討の余地があります。 しかし、外見から判断しづらいこともあり、広告に「本物件は容積率オーバーです」と小さく記載されているケースもあるため、 購入前の慎重な調査が必要です。高利回りの裏に隠れたリスクを見極める目を養いましょう。
  6. 購入判断のポイント 物件の法的状況確認 違法建築物か既存不適格建築物かを明確にす る 収益性評価 短期・長期の収益見込みとリスクのバランス を検討 融資可能性調査 複数の金融機関に融資条件を確認する 出口戦略の検討

    将来の売却時の価格予測と対象者を想定 社会的評価の考慮 違法性への姿勢が将来の信用に影響する可能 性 容積率オーバー物件の購入を検討する際は、短期的な高利回りだけでなく、長期的な視点での投資判断が重要です。筆者自身も多数の物件を検 討してきましたが、容積率オーバー物件の購入には消極的であり、所有物件には含まれていません。 ただし、デメリットを十分理解した上で、それを上回るメリットが明確に見込める場合は、検討の余地があります。投資目的、投資期間、リス ク許容度などを総合的に考慮し、慎重に判断することをおすすめします。
  7. まとめ:容積率オーバー物件の投資判断 徹底調査 物件の正確な法的状況と将来リスクを把握する 収益計算 短期的高利回りと長期的価値減少のバランスを考える 出口戦略 将来の売却可能性と価格下落リスクを想定する 総合判断 自己のリスク許容度と投資方針に照らして決断する 容積率オーバー物件は、高い収益性と引き換えに融資の制約や将来の売却時の価格下落リスクを伴います。建築基準法で定められ

    た制限を超えることで生じる法的リスクも無視できません。 一方で、適切な価格と条件であれば、投資対象として検討の余地もあります。重要なのは、表面上の利回りだけでなく、物件の法 的状況、融資への影響、将来の売却可能性など、総合的な視点から判断することです。最終的には、ご自身の投資目標やリスク許 容度に基づいた判断が必要です。適切な知識と判断力を身につけ、長期的に安定した不動産投資を実現しましょう。