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エンジニアリング組織論への招待:第2章(プレゼン)
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hirokidaichi
February 09, 2019
Programming
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エンジニアリング組織論への招待:第2章(プレゼン)
書籍執筆時にアウトラインを決めるために作成したプレゼンテーションです。
第2章について。
hirokidaichi
February 09, 2019
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Transcript
メンタリング技術概論 株式会社レクター
メンタリングとは何か?
メンタリングとは? メンタリングとは何か? メンターの由来は、古代ギリシャ神話にまで遡ります。ホメロス の叙事詩「オデュッセイア」の中で、「メントール」という人物が 登場します。彼は、オデュセウス王の息子を立派な王に育てた 賢者として、広く伝承されました。 そのため、良き指導者、良き支援者を「メントール」にちなん で、「メンター」と呼ぶようになったのです。 近年では、ビジネスや教育の現場で「メンター」と呼ばれる年長 者を若いメンバー(メンティ)につけ、良き導き手としてサポート
するようになりました。 この際の指導・支援方法を「メンタリング」と呼びます。しかし、 この「メンタリング」について、年長者であるというだけでうまく いくはずがありません。 そのためには、成長を促すテクニックが必要です。これは、特 殊な技能ではなく意識的に行えば誰もができることです。
メンタリングとエンジニアリングの関係 メンタリングとは何か? コードレビューをする際に、メンタリングのテクニックは重要です。プロ グラミングの良し悪しは、何か1つの正解があるものではないです が、問題に対してより良い考え方というのはあります。その考え方に 気がついて、成長を促すのがコードレビューです。その点で、メンタリ ングそのものとも言えます。 エンジニアリングあるいは技術力というと、知識面が強調されるこ とが多いように思いますが、実際には心理的な課題と技術的な課 題というのはリンクすることが多いものです。
それは、プログラミングひいてはソフトウェア開発自体が複数人で 行われるチームプレイであることもそうですし、個人的な問題解決 においても、自分自身との対話によって制御していくものだからで す。 これらは、3章で深く語ります。 コードレビュー 2つは切っても切れない関係 ペアプログラミングという技法があります。2人で、片方がプログラム を書く人(ドライバー)、もう片方がどんな風に書くか考える人(ナビ ゲーター)にわかれて、ペアでプログラミングを行うものです。これは、 相互に対話的に問題解決を行う実践的なピアメンタリング技法と言え ます。 ペアプログラミング・問題解決 アジャイルなチームマネジメント技法というのが、近年ではソフトウェ ア開発の主流になりつつあります。この技法においても、スクラムマス ターと呼ばれる役職は、メンタリングやファシリテーションの能力を要 求されます。それによってチーム全体を自発的なものに変える集団メ ンタリングでもいえる方法です。 アジャイルなチームマネジメント 技術的課題 心理的課題
メンタリングは、「自ら考える人材を作る」ためのテクニック メンタリングとは何か? 自立型人材 依存型人材 自立型人材は、「自ら問題を発見し解決することができる 人」のことを意味しています。 ビジネスの問題解決が複雑化する中で、自発的に問題 を設定する能力が求められるようになりました。 しかし、自立型の人材の育て方というものがあまり意識さ れない文化的な問題のある組織は多く存在しています。
依存型人材とは、 • 問題を与えられてから考える人 • 問題と解決策を渡されてから動ける人 の両方をさしています。 ソフトウェア開発では、問題の発見と解決は、極めて密 接に関わっています。そのため、依存型人材では、パ フォーマンスを発揮することが難しくなります。
メンタリングの成立する状況:不安と信頼のアービトラージ メンタリングとは何か? 不安が大きいが信頼がない 信頼が大きいが不安がない メンタリングが成立しづらい状況として、 メンターとメンティの信頼関係が作られていないときが一 つあります。そうであっても、メンティの不安の量が大きい 場合、メンタリングを受け変化する場合もあります。 しかし、不安が多い状況では冷静な話し合いは難しいの で、まずは「傾聴」を行い、信頼を勝ち取ることが必要で
す。 一方、信頼が大きくても、絶対的な自信を持った人物が 相手だと、不安と信頼のアービトラージが低く、メンタリ ングによって、考え方の枠を外すことの難易度は上がり ます。 この場合、その自信を肯定(承認)しながら、自ら乗り越 えるのが難しめのハードルを提供してあゲルことが大 事です。自信を持っているように見えても、課題から逃 げているというケースもあります。 信頼 不安 信頼 不安
メンタリングでは、相手の思考を「リファクタリング」する メンタリングとは何か? 感情的な対立を除去する 可視化・単純化する 心理的盲点を取り除く 多くの問題では、大元に感情的な「こじれ」 が発生していて、それをすべて吐き出させ る必要があります。 「あいつの発言がゆるせなかった」という思 いを抱えたまま、問題の解決に向かうと
誤った意思決定をしてしまいます。 感情的な対立を自覚し、客観視できる状態 にまで話を引き出すことで、問題が解決に 向かいます。 単純な問題も、複数乱立すると複雑な問題 に変わってしまいます。 そのためには問題を単純な問題に分けてあ げる必要があります。 分けるための技法は、いくつかのベクトルに 向けて「極論」を考えて、そのケースについ て考えてみてもらうことや、複数当事者を一 人一人について、個別に問題を考えること などがあります。 状況がクリアになったとしても、問題が解決 されない場合、それはメンティの「思い込 み」が解決を阻害しています。 この「思い込み」を取り除くことが重要です。 たとえば、上司=会社だという思い込みをし ていた場合、上司≠会社だと納得すると、 自然と転属希望がベストだなといったように 想像が膨らみます。 対話を通じて、「論理的思考」を阻害する要因を 取り除く。それによって「行動」を促す
「他者説得」から「自己説得」に メンタリングとは何か? 他者説得 自己説得 他者から、たとえや理屈、学習などを通じて、そのことを 説得することを「他者説得」と言います。 「他者説得」の難しい点は2点 • 体感を伴わない •
理解を確認できない そのため、次に述べる自己説得に比べて、効果が持続 せず、また、誤解をもって捉えられていることがあるなど 弊害も多いです。 周りの状況などから、自らいままでわからなかったこと を理解した状況を「自己説得」と言います。 自己説得は、 • 他人が促すのが難しい • 体感を伴う • 行動の変化が発生しやすい といった特徴があり、これを促すようにサポートするの が、メンタリングによる教育効果と言えます。
メンタリングと類似する概念 メンタリングとは何か? 類似した制度に徒弟制(アプレンティス: 見習い)制度があります。いわゆる師匠 (先生)と弟子の関係ですが、これらは 「見て学ぶ」「雑用をこなしながら学ぶ」と いった要素が多分に含まれています。メ ンターはより積極的にメンティの成長に 介入します。 徒弟制度
コーチングの技術とメンタリングの技術 は被っているところが多いです。一方 て、メンターにはその専門分野での経験 や能力がより重視されます。そのため、 信頼と不安のアービトラージが発生しや すく、正しく促せれば、効果も高いです コーチング 直接の上長となるリーダー・マネージャ は、メンバーの成長よりも組織の目的達 成にコミットします。目的の優先順位が 異なるため、同一人物がメンターとリー ダーを兼務するのは大変難しいです。メ ンター制度自体が、従来のマネージメン ト手段の限界をサポートするために生ま れたため、本末転倒なことになってしま います。 マネジメント
メンターとピアメンター メンタリングとは何か? メンター ピアメンター いわゆるメンターには2種類あって、メンターとピアメン ターがあります。 メンターは、メンティにとってのロールモデルとなるよう な、能力と経験を持った人物です。 一定の距離感を持っているため、弱さを見せきれないと か、時間を十分にかけれないなどのむずかしさもありま
す。それを乗り越える信頼があると、メンターの言葉はメ ンティに深く届きます。 ピアメンターは、近年において企業内で数年上の先 輩が新入社員をサポートする形でとられるメンタリン グ制度で導入されるような、比較的距離が近い、しか し、ロールモデルとなる程尊敬度が高いわけではな い状況から始まるメンター関係です。距離が近い分、 悩みを言いやすく、その分、尊敬度や信頼度を勝ち 取るのが難しい関係と言えます。よりコーチングに近 いスキルが要求される形でしょう。 尊敬度が高い 距離が遠い 尊敬度が低い 距離が近い
「悩む」と「考える」の違い メンタリングとは何か? 悩む 考える 「悩んでいる」というのは、頭の中に様々なことが去来し、 ずっと思考をぐるぐるともたげていて、もやもやがとれな い状態だと考えています。これは非常に苦しい上生産的 ではないので、「頑張っている」ように感じるわりに結果が 伴いません。この状態になったときには、サポートが必要 でともに考えるための戦略を立てていく必要があります。
これは手が動いていない状況が続くことでメンターもメン ティも観測できます。 「考える」とは、メモ帳やホワイトボードなどに、課題を書 き出し、分解したり、抽象化したり、具体化したりといっ たことや、次に進むために必要な情報を書き出して調 査したり、様々な事例や論文を調べたり、数値分析をし たり、関連するアイデアをクリップしたり、本を探しに 行ったりと何かと忙しく行動をとっていました。また、答 えがでていなくても次になにしたらよいかは明確で、手 が止まるといったことがあまりなかったのです。これは 習慣となっていたので、「当たり前のことだ」と思い込ん でしまっていたのです。 悩むは「状態」で考えるは「行動」
心 理 的 安 全 性 責任 高 低 高
コンフォート ゾーン ラーニング ゾーン 無関心ゾーン 不安ゾーン
お互いの感情の連鎖が問題vs私たちを崩す 問題 問 題 問 題 お互いの感情を確認する構図 問題vs私たちの構図
共感と同感はちがう。 共感 同感 確かにあの人は 許せない! そういうわけで、 あの人のことを 許せないんですね
コントロールできるものに注目する。 成果 行動 習慣 能力 コントロールできる コントロールできない
ジョハリの窓とストーリーテリング 高 開放の窓 ( open self ) 盲点の窓 ( blind
self ) 秘密の窓 ( secret self ) 未知の窓 (unknown self) 他 人 に わ か っ て い る 他 人 に わ か っ て い な い 自分にわかっている 自分にわかっていない
ジョハリの窓とストーリーテリング 高 盲点の窓 ( blind self ) 秘密の窓 ( secret
self ) 未知の窓 (unknown self) 他 人 に わ か っ て い る 他 人 に わ か っ て い な い 自分にわかっている 自分にわかっていない 開放の窓 ( open self ) 自 己 開 示 フィードバック
メンタリングは、「悩む」を「考える」に変える メンタリングとは何か? 悩む Todo: ・あれをして ・これをして ・それをする メンタリングは、「悩む=停止」から「考える=行動」に変えていくことで、問題解決に近づけていくための 手助けを行います。
「傾聴」と「リフレーミング」の技法
からっぽのコップにしか水は入らない 傾聴とリフレーミングの技法 何かに困っている人がいると、その解決策を知っている・思いつい た人はどうしても教えてあげたくなってしまいます。しかし、あなた が話を聞いて一瞬で思いつく解決策は彼自身ももしかしたら思い ついているかもしれません。そうであっても、頭の中が「迷い」「不 安」などで一杯に埋め尽くされてしまっています。そのため、あなた の言葉はメンティに入らず溢れてしまいます。 これを例えるのに「水で一杯のコップには水は注げない」と言ったり します。まずは頭の中に一杯になった不安や迷いの水を吐き出さ
せてあげることが重要なのです。 空っぽになったコップであれば、あなたの意見や考えはスッと入る かもしれません。そこで重要なのが「傾聴」という行動です。これは メンタリングの基本スキルとなるものですが、とても難しいものでも あります。 傾聴は、話を聞くだけでなく効率的にコップをからにするテクニック なのです。 水を注ぐならどちら?
「傾聴」と「ただ話を聞くこと」の違い ただ話を聞くこと 傾聴 傾聴するというと、長い時間その人の話を聞かないとい けないというイメージがあります。実際にはそんなことは ありません。長時間を必要とせずとも相手のコップを空に することはできます。そのために意識しなければならない テクニックがあります。 ただ、話を聞く場合ときは: •
自分の意見を言ったり • 自分の興味のあることを掘り下げたり • 興味のないことには興味がないというノンバーバ ルな信号を発していたり と、その人が本当に話をして吐き出したい部分を意識的 に探すということをしません。そのため、場当たり的に時 間をかけてしまうのです。 「傾聴」は、次のような点が普通に話を聞く場合と異なり ます。 • 感情への共感を言動で表す • 話の内容を「可視化」しながら聞く • 思考の「盲点」を探索しながら質問をする さらにその人が「見えていない」「意識していない」ところ を探し出し、そこに至る質問をします。 傾聴とリフレーミングの技法
共感をして話を聞き出す「信号」 うなづき・位置関係 表情 あいづち、リピート 相手の話を聞くときの「うなづき」にもテク ニックがあります。 たとえば、ポジティブな話を聞くときは早く細 かくうなづき、ネガティブな話や感情への共 感を示すときは、ゆっくり深くうなづくといっ たことです。
また、メンティとの位置関係も重要で、共感 を引き出すときは、真正面でなく横側に座る といった工夫も効果的です。 相手の苦しさに呼応して、苦しそうな表情を するといったように、同じような感情を表現 するミラーリングという技法があります。 状況に応じて、メンティよりも大げさに表現 したりすることで、話をより引き出しやすくな ります。 あいづちの打ち方も重要で、事実関係の場 合は、というような事柄には、「Aさんが、〜 したんですね」と行ったように主語と術語を 抜き出して、話への相槌を打ちます。 感情的な部分に関してはその部分のみ抜 き出して、「不安なんですね」「それは不安で すね」といったように感情に関わる箇所のみ を抜き出して、リピートすることで、感情も吐 き出しやすくなります。 メンティに「話を聞いている」という ノンバーバルな信号を出し続ける。 傾聴とリフレーミングの技法
問題の「可視化」と「明晰化」 メンティにとっての不安の源泉となっているような問題は、すべて頭の中にある もやもやとした気持ちとして、体感しているものです。人に伝えていくだけでも、 説明力・言語化力の高いメンティであれば、問題が整理されていくことはありま す。俗にいう、「話しただけで解決した」という状態です。これは、メンティの中に 最初から答えがあるわけではなく、頭の中ではごちゃごちゃと絡んだ糸がある 状態で、それを人に伝えようとすることで、整理された結果、答えが見つかった ということです。 そのような現象をより支援するために、話を聞きながら問題を可視化していきま す。ホワイトボードや紙があれば、それに状況を書きながら話すのも良いでしょ
う。例えば、カフェなどでメンタリングを行なっていて、書くようなものが仮に何も なければ、登場人物や構図をグラスや灰皿、携帯電話みたいなもので可視化 していくのも一つの手です。 これによって、互いに目を見ながら話しているという状態よりも、より第三者的 に問題を眺めることができます。 話をしながら互いを見ている 可視化された問題をお互いが見ている 傾聴とリフレーミングの技法
「可視化」の技法 事実と意見を分ける 対立構造を描く 無関係なものを取り除く 強い感情は自らがおびやかされるのではな いかと感じた時に発生します。不安の大本 となるものはこれです。 その結果、対話を通じて「事実でないもの」 が引き出されてきますが、可視化すること はあくまで、事実関係です。
事実として起きたこと、邪推していること、そ ういったことはわけていき、第三者的な課題 を可視化します。 課題の構造をいち早く捉えることが重要で す。悩みの構造は、多くの場合 Aを立てれば、Bが立たないといったように2 つ(ないし複数)のものが衝突している。 といった状況を変形したものが多いです。ま ずは、悩むからには「選択肢」があるはずだ と理解してそれを探していくと、可視化しや すくなります。 感情が高ぶっている場合、様々な現象が、 1つの原因によって起きているのだというバ イアスがかかってしまいます。 そのため、話の中には脱線して、関係のな さそうなことも現れます。それを無視するの ではなくて、一度受け入れてから、この問題 とは関係があるかもしれないけど、今は はっきりとしないから、一度置いておこうとメ ンティと合意して、別の位置に動かすこと で、問題をクリアに記述することができま す。 メンティの感情や不安を取り除いて 第三者的に問題・課題を見せる 傾聴とリフレーミングの技法
事実と認知の差をリフレーミングする 事実 認知 リフレームされた認知 たとえば、「雨が降った」という出来事があっ たときに、人はそれをネガティブに捉えて、 「嫌なことだ」という風に認知を行います。 これは、出来事と認知が短絡していて、不 可分なことであるように捉えてしまうからで す。
出来事と認知の短絡的なつながりのことを 「認知フレーム」と呼びます。あるいは、「心 理的な盲点」と呼ばれることもあります。 たとえば、お金持ちは悪人であるはずだと か、自分に仕事を押し付ける人は悪意があ るはずだとかそういった偏見が認知の歪み となって現れます。 それに対して、一度認知と事実の切り離し を行い、他の人の立場になって考えること や、考え方を変えていく質問をすることで、 この「認知フレーム」を壊して、より広い視野 での「認知フレーム」を獲得する支援をリフ レーミングと言います。 切り離し リフレーミング 傾聴とリフレーミングの技法
認知の歪みとリフレーミング 極論化 目的の明確化 立場の入れ替え 認知の歪みの中に「ゼロイチ思考」がありま す。自分の考えとマッチしていない思考につ いて、悪意を見出し、責め立てるといったよ うな思考です。 このような認知フレームを持ってしまったメ ンティに対しては、あえて、その考えを極論
化したような質問を投げかけます。 たとえば、プロジェクトで自分の意見を聞き 入れないプロジェクトマネージャがいた時 に、「その人はプロジェクトを失敗させたいと 思っているんですか?」といった具合に、極 論化して質問をします。すると、メンティは、 「そんなわけない」と今までの思考過程をも う一度考えはじめます。 認知の歪みの中に「〜すべき思考」というの があります。誰かから、押し付けられたわけ でもないルールをなぜか頑なに守ろうとして しまうのが、この認知の歪みです。 メンティがこのような思考に囚われていると きは、それを「あなたがしたい」ことや「あな たがしたくないこと」は何か?と質問していく ことで、目的を明確にしていきます。 そうすると、メンティが制約条件だと思って いたものが実は、そんなものはないのだとリ フレーミングされ、自由に思考を始めること ができます。 認知の歪みの根本的な原因は、「自分」が 「他人」ではないという当たり前の事実から 発生します。他人の心のうちは決してわか らないので、なぜ、自分の安全を脅かそうと するのか、なぜ自分の思い通りに動かない のかと考えてしまいます。 「もし、あなたが彼だとして、あなたの望む 行動を取らない原因はなんだと思います か?」 というように、状況設定を変えて思考を促し ます。これによって、相手の立場をクリアに したり、「それがわからない」場合、その理 由を知ることがまずすべきことだと次の行動 へと発展させます。 傾聴とリフレーミングの技法
信頼と心理的安全性
信頼と心理的安全性 信頼と心理的安全性 心理的安全性 メンタリングの必要条件として、メンターの話をメンティが「真摯に 受け入れ、自ら考える状態」というのがあります。 単純にメンターとメンティの関係であることや、表面上先輩後輩の 関係であるというだけでは、メンタリングの効果は薄くなります。 上司部下の関係であったり、ある種の師弟のような緊張関係が 強いと、効果的なメンタリングをすることが難しくなります。 そのためには、自分のことについて「なんでも話せる」関係を相互
に気づきあげていくと同時に、その問題を話し合っていくことで解 決できるはずだという相互の信頼関係が必須になります。この関 係性を「心理的安全性が高い」状態と言います。 心理的安全性は、「仲が良い」とか「心配がない」といったような関 係性だと誤解されがちですが、次のような条件が満たされなくて は、成立しません。 イシュー駆動:課題 vs私たち 相互の人間関係や役割分担が問題になると、対立構造がメン ターとメンティーの中で対立が起きます。課題に対してのみ、自分 たちが向き合っている状態がイシュー駆動です。 オープンマインド:失敗と不安の開示 失敗を隠蔽したり、不安なことを隠してしまう状況は心理的安全 性が高いとは言いません。これは自分を強く見せたいという心理 であれ、脅かされたくないという心理であれダメな状況です。 同調圧力の排除 日本人同士の場合、あるいはホモソーシャルなコミュニティの場 合、ある規範に従うようにという同調圧力が発生します。これで は、問題を問題として捉えられなくなります。
メンタリングにおける心理的安全性の確保の技法 アクノレッジメント ストーリーテリング アクノレッジメントは「承認」を意味します。メンティに対し て、メンターはその存在に対して「承認」しているという メッセージを発し続ける必要があります。 これは「褒めること」と似ていますが、褒めることが「結果 を褒めること」と同一視されがちですので、あえて「承認 する」ことだと捉えることで、相手へのポジティブなメッ セージを伝え続けることができます。
ストーリーテリングは、メンターからメンティーに対して の自己開示です。メンター自身の経験から、迷いや不 安がどう乗り越えられてきたのか、どのように考えてき たのかなどを「自分を大きく見せる」ことなくつたえること で、メンティー自身も乗り越えられると感じ、メンターへも 自分と同じ人間であるという理解を獲得することができ ます。 それによって、メンティ自身の自己開示が進みます。 信頼と心理的安全性
アクノレッジメントには、3つの段階がある 存在承認 行動承認 成果承認 存在承認とは、相手が今ここにいてくれて ありがたいというメッセージのことです。 一番単純なものであれば、挨拶をすると いったことでもいいでしょう。あった時に笑顔 であることなども重要です。 前に行っていたことを覚えているとか、頑
張っている様子を見て肩を叩いて励ますと いったことも存在承認です。 「結論から話すようになった」とか 「前よりよく調べてある」とか 「時間通りに来ているね」など ポジティブな行動をとったときに、褒めるでも なく、その行動を言葉に出して伝えます。 これによって、この行動は承認されているの だと相手が感じることがあります。 「〜〜はすごい成果だね」とか 「〜〜はうまくできているね」といったように 出来上がったものに対して、それを主観を 込めて伝えるのが、成果承認です。これは 「ほめる」に近いことですが、「ほめる」ことも 承認の一部ですので、より広い範囲で承認 を捉えることが重要です。 メンティに対して意識を向けているというメッセージを伝えるこ とが「承認」することにつながる。 信頼と心理的安全性
「承認」の示し方 傾聴 言葉 行動 話を注意深くきき、その人の話を引き出すこ とは、それ自体がその人への「承認」です。 逆に、話の途中で「わかった」と切り上げた り、意見を押し付けたりすることは承認され ているという意識を阻害します。 承認をしめす一番わかりやすいものは言葉
をかけることです。 挨拶であれ、「元気?」といった言葉であ れ、言葉をかけることはすなわち承認を与 える行為です。 なかなかしづらいのが、「感謝を伝える」と いうことです。 関わる中で、あるいは関係性の中で当然と 思うようなことが出て来ても、それに対して 相手に感謝を伝えましょう。 何かをしてもらって、感謝すら伝えることが できないのは、存在を認めていないのも同 じです。 上司部下の関係であれば、たとえば、権限 の委譲や、給与や役職を上げるといったこ とも承認の一つになります。 他にも、意見を聞きにくるや、助けを求める といったことも承認になります。 信頼と心理的安全性
YouメッセージとIメッセージ Youメッセージ Iメッセージ メッセージの中で、主語が「あなた」になっているものを Youメッセージと言います。 「あなたは◦◦だね」 という承認の形もありますが、場合によっては思っている ことや効果が薄い場合があります。 逆に、主語が「あなた」になっているために真意が伝わり にくく、攻めているようなニュアンスになってしまうことが
あります。 たとえば、 「なんで、(あなたは)遅れたの?」 と伝えた時に、言外に「なんで、説明もなく遅れて来たの か」と責めるようなニュアンスが伝わってしまうことがあり ます。これをIメッセージに変えることで、ニュアンスを変え ることができます。 Iメッセージは、主語を自分にしたメッセージです。 先ほどの 「なんで、(あなたは)遅れたの?」 であれば、 「連絡がなかったから、(私は)心配したよ」 と伝えれば、責めるようなニュアンスは減ります。 これによって、 「心配させてしまったな」と考えるようになり、メンティは 自分が承認されていると同時に、相手に心配をさせてし まったのだとこの行為を捉えるようになります。 信頼と心理的安全性
怒りと悲しみの変換 怒り 悲しみ 人間の脳は、なにか自分や仲間が脅かされるであると か、ぞんざいに扱われたと感じると、恐怖と感情を司る扁 桃体が発火します。これによって、人間は自分自身を守 るために、「怒り」を発生させ、相手に対する攻撃と防御 を無意識に起こそうとします。これが、誤解を招く「You メッセージ」の発生源です。 「Iメッセージ」は自分の中に起きたことを説明することを
意味しています。つまり、自分が脅かされたのかと心配 した、であるとか、相手に何かあったのではないかと心 配したというようにです。これは、ごく小さなレベルでも 発生します。そのことを意識して、メッセージを変換して いくと、自己開示と承認を相手に与えることができま す。 信頼と心理的安全性
ストーリーテリング3つのポイント 自己開示 感情の共有 価値観の共有 ストーリーテリングとは、自己開示の手法で もあります。メンティにメンターの人となりや 人間性のようなものが伝わるように包み隠 さず、苦労や思いを伝えることが重要です。 それによって、信頼を獲得し、メンティ自身 にも同じような問題を乗り越えられるのだと
いう感覚を得てもらうことが重要です。 それを強化するために、感情の共有が不可 欠です。そのときは、「辛い」と思っていたと か「憎い」と思っていたといった感情を説明 することで、メンティにとってもその話を自分 ごととして理解することができ、話を深く聞こ うとする姿勢を取ることができます。 物語全体を通じて、伝えたい価値観をはっ きりさせておくことが重要です。 そして、それによって上手くいったという実 体験によってメンティは、同じような価値観 を持つことの重要性を理解し、現在の自身 の問題に当てはめて感がようとします。 信頼と心理的安全性 ストーリーテリングとは、抽象的な「伝えたいこと」をわかりやすく理解してもらうために、実際にあった経験を物語として、 相手に追体験をして、理解を深めてもらうために「語る」手法です。 そのためには、メンティが追体験できるだけの事実関係と情緒的な情報が必要になります。 ストーリーテリングとは
内心でなく行動に注目する
内心は見ることができないが、行動は見ることができる 内心でなく行動に注目する メンターの役割は、自転車に乗るときの補助輪のようなものだと考えると いいでしょう。陥りがちなミスや手が止まりがちな仕事をうまく補助して進 めていきます。 このときに、避けるべきなのは「心構え」や「力不足」といったメンター自身 が本来コントロールできないところに注目して、指導をする方法です。 人の内心は、簡単には変えることができませんし、観測することができま せん。 たとえば、メンターが「仕事に対する考えが甘い!」と怒ったとき、メンティ
が「これからは心を入れ替えてしっかりやります!」と言ったとします。 果たしてこのとき、何か状況が変化したでしょうか。メンティは心を入れ替 えたかもしれないし、入れ替えてないのに表面上嘘をついたかもしれませ ん。つまりメンターはメンティの返答から何も情報が得られていないので す。 行動 = 他者が見ることができる 内心 = 他者が見ることができない
内心は見ることができないが、行動は見ることができる 内心でなく行動に注目する それは具体的な行動や、それが起こったら誰にでもわかるもので す。つまり、互いに観測でき、見解がぶれないものに注目することが 大事です。 「仕事に対する甘さ」は、メンティの内心であり観測できません。メン ターは、抽象的で、観測できない仕事上のポイントを明解な「観測で きる行動」に砕いて伝えていく仕事です。 メンターは何が、どうできていないことを「仕事に対する甘さ」と捉え たのでしょうか。それは、「メールでの確認が具体的でなく答えづら
い」とか、「手が止まっている時間が長い」とか「動作確認をせずリ リースした」とかもう少し具体的なことで、感じたはずです。 そして、何ができている人はそれをしないのでしょうか。それを改善 するためにとったら良い具体的な行動はなんでしょうか。それを考え て伝えることが必要です。 行動 = 他者が見ることができる 内心 = 他者が見ることができない
SMARTな行動
スマートな行動とは? 内心でなく行動に注目する スマートな行動 スマートでない行動 メンターとメンティがその行動を見て、 「それが達成できている/できていない」といった評価が同 じになるような行動をSMART化された行動であると言え ます。この場合、できなかったことは、互いに承知できて いるので、どうすればできるようになるかを考えれば良い のです。
逆に同じものを見て、片方ができているといい、片方がで きていないというようなものはSMART化されていない行 動と言えます。 その場合、何が認識のズレを生み出したのかが問題で あって、その行動自体を責めてはいけません。 = ≠
わかった?は意味のない言葉 内心でなく行動に注目する 意味のない言葉 意味のある言葉 たとえば、何かを説明して「わかった?」と聞きます。その ときに、メンティは「わかりました/わかりませんでした」と 答えるとします。 どちらにしても、わかったかわからないかは、メンティの 頭の中にしかなく、必要な情報は得られません。 それに対して、「ためしにこれをやってみて」と行動を促し
た場合、わかっている場合はできる/なにか誤解をしてい る場合はできないといった具合に、理解を確認することが できます。 これは、必要な情報が得られる質問であったためです。 このように意味のある質問を行うことが重要です。 質問 回答 必要な情報 質問 回答 情報が得られない
能力は習慣の積分。習慣は行動の積分。 内心でなく行動に注目する 私がよく使う言葉として、「能力は習慣の積分だ」というものがありま す。習慣とは行動が染みついたものなので、行動や習慣は外から でもコントロールできることです。一方、能力や成果といったものは コントロールできません。人の成長のサイクルは、上の図のような4 つの事柄のループなのだと思います。習慣が能力に変われば、成 果につながり、成果は自信となって次の行動を強化してくれます。 メンターは、このコントロールできる部分にだけ注目していくことが 重要です。また、会議などの議事をするファシリテーションにおいて
も、コントロールできるものに注目し、コントロールできないものを排 除していくのは非常に重要です。綺麗に板書することがファシリ テーションだと勘違いされがちですが、議論の流れを生産的にする ためのフォーカスを作るのがファシリテーションの基本です。 成果 行動 習慣 能力
では、なぜ行動を起こせないのか? 内心でなく行動に注目する 行動の原理はフォースの非平衡 リインフォース ある行動を継続的にとれるかとれないかを決定づけるの は、その人の中でどのような力学がはたらいているのか を理解する必要があります。 ある行動が取れない時は、行動を促進する力よりも阻害 する力の方が大きいからだと考えます。 メンタリングの様々な活動を通じて、行動を促進する力を
増やすことをリインフォースと言います。 たとえば、良い行動を取った時にそれを「承認」したりす ることで、その行動へのインセンティブを深めます。また、 阻害する要因を取り除いてもいいでしょう。 行動を促進する力 行動を阻害する力 行動を促進する力 行動を阻害する力