Upgrade to Pro
— share decks privately, control downloads, hide ads and more …
Speaker Deck
Features
Speaker Deck
PRO
Sign in
Sign up for free
Search
Search
RuboSensei
Search
Kuniaki IGARASHI
November 09, 2023
0
230
RuboSensei
リアルタイムアドバイスツールRuboSenseiによる学習体験の向上
RubyWorld Conference 2023
Kuniaki IGARASHI
November 09, 2023
Tweet
Share
More Decks by Kuniaki IGARASHI
See All by Kuniaki IGARASHI
KaigiOnRails2024
igaiga
9
7.9k
Shibuya.rb-2023-04-27-igaiga
igaiga
1
460
Ginza Rails27 igaiga
igaiga
9
13k
tork09igaiga
igaiga
2
280
Road to white mages
igaiga
1
630
Road to white mages
igaiga
8
3.9k
dive_into_code_rails_ruby_books
igaiga
0
200
ginza_rails_vol3_igaiga
igaiga
0
4.8k
rgt2016
igaiga
0
130
Featured
See All Featured
個人開発の失敗を避けるイケてる考え方 / tips for indie hackers
panda_program
93
16k
Design and Strategy: How to Deal with People Who Don’t "Get" Design
morganepeng
126
18k
Practical Tips for Bootstrapping Information Extraction Pipelines
honnibal
PRO
10
720
Become a Pro
speakerdeck
PRO
25
5k
Practical Orchestrator
shlominoach
186
10k
How STYLIGHT went responsive
nonsquared
95
5.2k
Raft: Consensus for Rubyists
vanstee
136
6.6k
Building a Scalable Design System with Sketch
lauravandoore
459
33k
Testing 201, or: Great Expectations
jmmastey
38
7.1k
GitHub's CSS Performance
jonrohan
1030
460k
For a Future-Friendly Web
brad_frost
175
9.4k
What's new in Ruby 2.0
geeforr
343
31k
Transcript
リアルタイムアドバイスツールRuboSenseiによる学習体験の向上 RubyWorld Conference 2023 五十嵐邦明 ガーネットテック373株式会社 https://garnettech373.com
自己紹介 五十嵐邦明 ガーネットテック373株式会社 https://garnettech373.com 技術顧問(育成、レガシー対応、コード健康診断などなど)のお仕事募集中 著書: 「ゼロからわかるRuby超入門」「RubyとRailsの学習ガイド」「Railsの教科書」 「パーフェクトRails」「Railsの練習帳」 プログラミングスクール「フィヨルドブートキャンプ」顧問 島根県Ruby合宿
アシスタント講師 謝辞: この講演を応援して送り出してくれた妻と子に感謝します
None
リアルタイムに支援するコーディング環境RuboSensei 私がつくっている開発体験向上ツールRuboSenseiについて今日は話します
リアルタイムに支援するコーディング環境RuboSensei 背景: まつもとゆきひろさんが提示するRubyの向かうべき方向の1つ Rubyの開発体験の向上 初学者向けにエディタ上でリアルタイムに支援するコーディング環境RuboSensei https://github.com/igaiga/rubocop-sensei コードを書いているときにより良いRubyコードの書き方をリアルタイムにアドバイス・ 置換できるコーディング環境 コードの意味、より良い書き方を教えてくれる わかりやすい文章で正しい内容を伝える
AIはつかっていない
本講演で話すこと エディタ上でリアルタイムに支援するコーディング環境RuboSenseiについて Rubyでコードを書くときのAIなどのソフトウェアによる支援の現状をまとめ、比較 GitHub Copilot, GitHub Copilot chat, ChatGPT 今後の方向性の考察と自由研究
講演後、聴講した方々が各種支援を受けてコーディング可能になることを目標とします
RuboSensei デモ 動画ファイル: https://github.com/igaiga/rubocop-sensei/blob/v0.1.6/demo.gif
リアルタイムに支援するコーディング環境RuboSensei 初学者向けにエディタ上でリアルタイムに支援するコーディング環境RuboSensei https://github.com/igaiga/rubocop-sensei コードの意味、より良い書き方を教えてくれる RuboSenseiで役立ちたい場面 より良い書き方の提示 初学者が初見で読みづらいコードの解説 新しめの文法の解説
RuboSenseiで実装したアドバイス elsifはcaseで書き換えよう unless else はやめてifに書き換えよう このeachはmapで書けるかも method(&:method) で書けるかも method(&:method) の説明
ナンバーパラメータの説明 パターンマッチcase inの説明 1行パターンマッチinの説明 1行パターンマッチ=>の説明 ぼっち演算子の説明 ||= の説明 !!variable の説明
elsifはcaseで書き換えよう
このeachメソッドはmapメソッドで書けるかも
!!variable の説明
コーディング中にリアルタイムアドバイス表示する仕組みの検討 構成案: アドバイスプログラム - LSP - エディタ LSP(Language Server Protocol)
エディタを制御するためのプロトコル LSPがエディタ間の差を吸収してくれる LSPに対応しているエディタ、たとえばVSCodeやEmacsで利用可能になる この構成でも良いが、RuboCopのエコシステムに乗ると楽ができる RuboCop: Rubyコード向け静的解析検査ツールとその検査ルール集
RuboCopを利用したときの構成 構成: RuboSensei - RuboCop - LSP - エディタ RuboCopにはLSP機能が標準でついていて、リアルタイムに検査結果をエディタで表示
アドバイス対象のコード判定と表示文章をRuboCopカスタムCop(検査ルール)で実装 実行や表示などLSPより後ろはRuboCopがやってくれる RuboCopのオートコレクト機能をつかってコード置換も可能
RuboSenseiのつかい方 1 https://github.com/igaiga/rubocop-sensei READMEに書いてあります Railsアプリでのつかい方は以下です Gemfile に以下を追加 group :development do
gem "rubocop", require: false gem "rubocop-sensei", require: false end bundle installを実行 $ bundle install
RuboSenseiのつかい方 2 .rubocop.yml を以下の内容で作成または追記 RuboSenseiの各種アドバイスはLectureカテゴリに入っているので有効化 (LectureはRuboCop標準ではつかわれていない独自カテゴリ) require: - rubocop-sensei Lecture:
Enabled: true もしも、RuboSenseiのアドバイスだけに限定して、RuboCopの他の表示を消すときは 以下を追加してください AllCops: DisabledByDefault: true
RuboSenseiのつかい方 3 VSCodeをインストール https://code.visualstudio.com VSCode拡張 vscode-rubocop をVSCodeへインストールして有効化 https://marketplace.visualstudio.com/items?itemName=rubocop.vscode- rubocop rubocopコマンドが実行可能になっていれば、自動実行して結果を表示します
手動でLSPを起動するコマンドを実行する必要はありません
RuboSenseiの実装解説 RuboCopではコードを静的解析したASTをつかって、対象コードを判別します 要素技術 静的解析 構文解析 Parser gem: コードを解析してASTを得ます(後述) 静的解析 型解析
TypeProf : 一部の解析に型推論をつかっています RuboCop: カスタムCop(判定ルール)としてアドバイス表示を実装 LSP(Language Server Protocol): エディタと情報をやりとりする仕様 VSCode: LSPに対応したエディタ 今日は要点だけ説明します RuboCopカスタムCopのつくり方については以下のページに書きました Railsの練習帳: RuboCop カスタムCopのつくり方 https://zenn.dev/igaiga/books/rails-practice- note/viewer/rails_rubocop_custom_cop
RuboSensei実装例: アドバイス対象コード !!foo def enable? !!foo end このRubyコードの !!foo に対してアドバイスを表示
!!foo に対するアドバイス 真偽値を反転するnot演算を行う!を2回つかっているコード 真偽値true, falseに変換したいときにつかう fooに代入されたオブジェクトがfalseかnilのときはfalseを返す それ以外のオブジェクトではtrueを返す 末尾が?で終わるメソッド(真偽値を返す)などでよくつかわれる
!!foo の意味をアドバイスするRuboSenseiのコード class ExplainBangBang < Base MSG = <<~STRING `!!`
はオブジェクトをtrue またはfalse に変換する書き方です。 # 略 STRING def on_send(node) if node.send_type? && node.method_name == :! if node.children.any?{|n| n.respond_to?(:send_type?) && n.send_type? && n.method_name == :! } add_offense(node) return end end end end https://github.com/igaiga/rubocop- sensei/blob/main/lib/rubocop/cop/lecture/explain_bang_bang.rb
AST(Abstract Syntax Tree: 抽象構文木)をつかって対象コード判定 ASTはRubyコード実行時につくられる中間表現 Rubyコード直接判定と比べてAST判定では楽になることが多い スペース有無や個数を考えなくて良い 文字列の書き方の種類を考えなくて良い シングルクオート、ダブルクオート、ヒアドキュメント など
Rubyコード !!foo AST s(:send, s(:send, s(:lvar, :foo), :!), :!)
RuboCopカスタムCopを実装して判定する流れ Parser Gemの支援 RuboCopは標準でParser Gemをつかうようになっている 対象コードを静的解析してASTを生成 コールバックメソッド: on_send AST中にメソッド呼び出しである :send
が出てきたら呼び出してくれる 解析結果ASTをon_sendメソッドの引数(node)に渡してくれる ほかにもいろいろな便利なコールバックメソッドがある
RuboCopカスタムCopを実装する方法 RuboCopカスタムCopをつくるときの主な作業 表示するメッセージを用意する ASTを調べてアドバイス表示したいコードかどうかを判定する 判定の結果、表示するときはadd_offenseメソッドを呼び出す class ExplainBangBang < Base #
表示するメッセージ MSG = "`!!` はオブジェクトをtrue またはfalse に変換する書き方です。( 略)" def on_send(node) # メソッド呼び出しのときに呼ばれる if # ここでAST を判定 add_offense(node) # メッセージを表示する return end end end
Parser Gem が生成するAST コード !!foo AST on_sendメソッドの引数nodeに代入されて渡ってくる s(:send, s(:send, s(:lvar,
:foo), :!), :!) 判定コード def on_send(node) # ここでAST を見て判定する add_offense(node) # アドバイス対象のときadd_offense メソッドを呼ぶ end
ASTが対象コードかを判定するコード s(:send, s(:send, s(:lvar, :foo), :!), :!) ASTを観察して判定条件を考える (:send, xxx,
:!) の中にもう1つ (:send, xxx, :!) が存在する (:send, xxx, :!) 判定 node.send_type? && node.method_name == :! 中にあるか判定 node.children.any?{|n| # ここで(:send, xxx, :!) か判定 }
対象コードかを判定するコード できあがった判定コード def on_send(node) if node.send_type? && node.method_name == :!
if node.children.any?{|n| n.respond_to?(:send_type?) && n.send_type? && n.method_name == :! } add_offense(node) return end end end
一般的なRuboCopカスタムCopとRuboSenseiの差異 理解のためのアドバイスか、問題点の指摘か RuboSenseiでは学習者が理解しやすいアドバイスを(問題点以外でも)出力する 一般的なRuboCop Copは問題のあるコードを指摘する 難易度 RuboSenseiでは初学者も理解しやすい難易度のアドバイスを目指す 一般的なRuboCop Copのメッセージを初学者が理解するのは難しい RubyKaigi
2022 講演 "The Better RuboCop World to enjoy Ruby" でも問題提起 有効設定、無効設定 RuboSenseiでは学習者が学んだらアドバイスをオフにしたい Lectureカテゴリを用意 RuboSenseiのアドバイスだけON/OFF可能に 一般的なRuboCop Copはコード品質向上を目的として永続的に有効にする
リアルタイムに支援するコーディング環境RuboSensei まとめ 初学者向けにエディタ上でリアルタイムに支援するコーディング環境RuboSensei https://github.com/igaiga/rubocop-sensei コードの意味を解説したり、より良い書き方を教えてくれる わかりやすい文章で、正しい内容を伝える RuboCopエコシステムを利用してエディタ上でリアルタイムにアドバイス表示 ASTを調べてアドバイス対象コードかどうかを判定 (現在は)AIはつかっていない 課題:
便利と感じるレベルにするには相当数のアドバイスを実装する必要がある
AI支援の現状とそれぞれの特徴 Rubyをつかってコードを書くときの以下のAI支援の現状をまとめ、特徴を比較する ChatGPT GitHub Copilot GitHub Copilot chat
ChatGPT ブラウザやAPIでチャット形式で質問したりコードを提案してもらったりできる テンプレート的なソースコードの叩き台をもらうのに便利 クラス名、変数名などの名前付けの相談に便利 返答の真偽を実装者が判断する必要がある https://chat.openai.com ユーザー登録して利用可能
GitHub Copilot VSCode上でコードを提案、挿入してくれる コメントを書くとその内容に沿ったコードを提案 コードを途中まで書くとその先のコードを提案 生成されたコードは良い確率で意図通りになっている ただし、生成されたコードにバグがないか、意図通りかを実装者が判断する必要がある つかい方 https://docs.github.com/ja/copilot/getting-started-with-github-copilot 料金:
https://docs.github.com/ja/billing/managing-billing-for-github- copilot/about-billing-for-github-copilot 10 USD/月 or 100USD/年
GitHub Copilot chat VSCode上でチャット形式で質問したりコードを提案してもらったりできる 広範囲の質問に答えられる 返答は多くのケースで良い回答をもらえる 「その」などの指示語が出てきたときに、何を指すかを読み解く必要はある 返答の真偽を実装者が判断する必要がある Google検索で調べた結果の妥当性を判断することと本質的には同じ作業 揚げ足取りになってしまいますが、次のページから注意が必要な例を説明します
つかい方 https://docs.github.com/ja/copilot/github-copilot-chat/using-github-copilot-chat 「GitHub Copilotのアクティブなサブスクリプションが必要」
GitHub Copilot chat 注意が必要な回答例 ActiveRecordのLIKE検索について質問したときの答え where("title LIKE ?", "%#{search}%") 動作はするが、LIKE節に関するサニタイズがなく、SQLインジェクションの可能性あり
通常のwhereではプレースホルダをつかえばOKだが、LIKE節ではサニタイズが必要 詳しい解説: https://zenn.dev/igaiga/books/rails-practice-note/viewer/ar_sql_injection
GitHub Copilot chat 注意が必要な回答例 つづき1 SQLインジェクションを回避するサニタイズについて尋ねると正しく教えてくれる
GitHub Copilot chat 注意が必要な回答例 つづき2 反映したコードを欲しいと伝えると正しいコードを教えてくれる where("title LIKE ?", sanitize_sql_like("%#{search}%"))
RuboSenseiとAI支援の比較とまとめ RuboSensei 情報の正しさは(それなりに)担保されている 学び方を設計することができる 支援を受けられる範囲は狭い 課題: 便利と感じるレベルにするには相当数のアドバイスを実装する必要がある AI支援 幅広い範囲で支援を受けられる 支援可能範囲を実装ではなく学習で広げることができる
質問時に動的な会話を繰り返せるメリットがある (現状では)正しさを判別する能力が利用者に必要
RuboSenseiの今後 RuboSenseiでのアドバイスの拡充 アドバイスの実装を増やしていく アドバイスの実装をAIに任せられたら楽(方法模索中) 直接LSPをつかってエディタ上での表現力を上げてみたい LSPとエディタUIの対応表みたいなものが欲しい LSPに詳しい方はぜひ教えてください
どんな世界をつくりたいか 書籍、資料とコーディング環境の距離を縮めたい 例: 「このコードはこの本のこの部分で説明されています」と教えてくれる 書籍「Ruby超入門」「パーフェクトRails」「Railsの練習帳」など 例: 「もっと学びたいときはこの資料が役立ちます」と教えてくれる 書籍「RubyとRailsの学習ガイド」など 目指したい良い学びとは 書いたコードに対して学ぶと良いことがあることを知れる
それを学ぶための正しさが担保された、現在の能力で理解できる資料を読める 深掘りしたいときに学ぶ資料、質問できる人やコミュニティへアクセスできる 地道な設計実装計画: RuboSensei 夢のある計画: AIに自分の資料を学習させて質問対応 LLM(大規模言語モデル)+RAG(検索強化済み文章生成)などのアプローチ (後述) AIに学習させやすい書籍資料の形を模索、ライセンス面でAI学習材料許諾
自由研究: LLM(大規模言語モデル)+RAG(検索強化済み文章生成) 自分の資料を学習させて回答させる実験 LlamaIndex https://www.llamaindex.ai 自分で用意したデータを学習させてChatGPT APIで回答させるサービス 学習コード(Python): https://gist.github.com/igaiga/9a38e557aef1e0f1925a48958ef2ec44 「Railsの練習帳」を学習させて前述の「LIKE検索について教えて」を質問する
自由研究: LlamaIndexで自分のデータを学習させて答えさせた結果 「Railsの練習帳」を入力して前述の「LIKE検索について教えて」を質問する 下記の(SQLインジェクションについて考慮された)良い答えが返ってきた LIKE演算子は、通常の場合には位置指定ハンドラや名前付きハンドラを使用することでサニ タイズ(悪意のあるコードを無害な形に変換すること)が行われますが、LIKE演算子の場合 は自動的にサニタイズが行われません。具体的には、WHERE句のサニタイズはされるもの の、LIKE句のサニタイズは行われないという動作になります。 Railsでは、LIKE句のサニタイズにはActiveRecord::Base.sanitize_sql_likeメソッドを使用し ます。このメソッドでは、LIKE句で使用される特殊文字の%と_がそれぞれ\%と\_に置き換え
られます。 したがって、LIKE検索を安全に行うためには、パラメータを ActiveRecord::Base.sanitize_sql_likeメソッドでサニタイズしてからクエリに組み込む必要が あります。例えば、Package.where("code like ?", "%" + ActiveRecord::Base.sanitize_sql_like(params[:str]) + "%")のように記述します。
「Railsの練習帳」を機械学習の学習データとして活用してもらいたい 「Railsの練習帳」の内容は非商用の範囲において、LLMなど機械学習への入力データと して利用可能です。 商用利用の場合はご相談ください。できるだけ柔軟に対応できればと考えております。 https://zenn.dev/igaiga/books/rails-practice-note/viewer/preface 個人で権利を自由につかえる書籍は学習データとして利用してもらいやすい 商業誌での文章は権利者への調整が必要になるかもしれない 機械学習へ入力可否はライセンスで明記すべきなのか
ご清聴ありがとうございました
None