副作用と戦う PHP リファクタリング ─ ドメインイベントでビジネスロジックを解きほぐす

PHPカンファレンス関西2025登壇資料

副作用が絡み合うロジックを触るたび「どこで何が起きるか分からない」――そんな不安をドメインイベントで断ち切ります！

ドメインイベントは「〇〇が起きた」という事実をクラス化し、処理の流れを“出来事”をベースに組み立て直すことで、依存を一方向に整えることができます。

本トークでは実務でのリファクタリングを題材に、

- 従来のメソッド分割との違いや限界を体感
- 同期イベント導入
- 非同期化
の3ステップでリファクタリング前と後のコードで比較しながら順に解説します。

チームでドメインイベントをわいわい議論できるようになるきっかけを提供します！

https://fortee.jp/phpcon-kansai2025/proposal/f1dec853-4070-44ad-8eda-ef8b127dda3f

Transcript

1. 1/35
2. Goal 既存コードの問題点をドメインイベントで解決する ドメインイベントの実装方法を知る 2/35
3. 梶川 琢馬 / 𝕏 @kajitack 株式会社 TechBowl / プロダクトエンジニア 複数のプロダクトで PHP を使った開発を経験してきました。 運動不足解消のために始めたトライアスロンにハマってます。 初 PHPカンファレンス関西！ 初 神戸！ 3/35
4. 4/35
5. ドメインイベント導入前 例:ユーザー登録のフロー 5/35
6. シンプルにデータを永続化する class UserController { public function create($userData) { $user = new User(); $user->setEmail($userData['email']); $user->setName($userData['name']); $this->userRepository->save($user); } } 6/35
7. 副作用と共に肥大化していくコード 実際はデータの保存と一緒に色々な副作用が発生する class UserController { public function create($userData) { $user = new User(); $user->setEmail($userData['email']); $user->setName($userData['name']); $this->userRepository->save($user); // 副作用1 メール送信 // 副作用2 運営に通知 // 副作用3 契約プランの作成 // 副作用4 招待コード利用処理 // 副作用5 関連サービスへの連携 // etc... } } 7/35
8. 実装してみると... コードの見通しが悪くなる 変更の影響範囲が予測しづらい テストケースが複雑になり、保守が困難 class UserController { public function create($userData) { try { // DB保存 $user = new User(); $user->setEmail($userData['email']); $user->setName($userData['name']); $this->userRepository->save($user); // メール送信 $this->mailService->sendWelcomeEmail([ 'to' => $user->getEmail(), 'name' => $user->getName() ]); // 運営に通知 $this->notificationService->notifyToAdmin([ 'message' => "新規ユーザー作成: {$user->getName()}", 'channel' => 'user-Create' ]); // 契約プランの作成 $plan = $this->planService->createFreePlan($user->getId()); // 招待コードがある場合の処理 if (isset($userData['invitation_code'])) { $this->invitationService->markAsUsed($userData['invitation_code'], $user->getId()); // 紹介者にポイント付与 $inviter = $this->invitationService->getInviter($userData['invitation_code']); $this->planService->addReferralPoints($inviter->getId(), 1000); } // 関連サービスへの連携 $this->externalService->syncUser([ 'user_id' => $user->getId(), 'email' => $user->getEmail(), 'name' => $user->getName() ]); return $user; } catch (Exception $e) { // エラーハンドリング } } } 8/35
9. 処理を切り出したところで... 作成処理が副作用の 処理に依存 どんな処理を行うかを全て知っている必 要がある 9/35
10. テスト時に副作用の数だけモックが必要 #[Test] public function ユーザーを作成する() { $repo = $this->mock(UserRepository::class); $mailService = $this->mock(MailService::class); $notification = $this->mock(NotificationService::class); $planService = $this->mock(PlanService::class); $externalService = $this->mock(ExternalService::class); // 全てのモックに期待値設定... $repo->expects($this->once())->method('save'); $mailService->expects($this->once())->method('sendWelcomeEmail'); // ...etc } 10/35
11. ドメインイベントを導入すると... イベント中心に処理が 独立 ユーザー作成の処理に集中できる 11/35
12. イベントの発行と副作用のテストを分けることができ... テストが書きやすくなる #[Test] public function ユーザーを作成する() { // ユーザー作成時にイベントが発行されることを確認 $this->mock(DomainEventPublisher::class) ->expects($this->once()) ->method('publish'); app()->make(UserCreateUsecase::class)->exec($input); } #[Test] public function ウェルカムメールを送信する(): void { $mailService = $this->mock(MailService::class); $mailService->expects($this->once()) ->method('sendWelcomeMail') ->with($this->equalTo(new Email('user@example.com'))); $event = new UserCreatedEvent( new UserId('123'), new Email('user@example.com') ); app()->make(WelcomeMailSubscriber::class)->handle($event); } 12/35
13. まとめ ドメインイベントを使う メリット 処理に集中することができる 副作用を独できる副作用立することができる テストが書きできるテストやすくなる 13/35
14. ドメインイベントとは ドメイン=扱っている事業・業務領域 EC サイト：商品・注文・決済 SNS：ユーザー・投稿・フォロー ドメインで発生する「出来事」を表現するモデル 「ユーザーが登録された」 「注文が確定した」 「在庫が切れた」 14/35
15. イベントの洗い出し 「ユーザーが登録された時」に「ウェルカムメールを送りたい」 「ユーザーが登録された時」に「運営に通知したい」 「ユーザーが登録された時」に「契約プランを作成したい」 → ビジネス側の「〜したら」「〜のとき」という言葉がドメインイベントのヒント 15/35
16. イベントを図にまとめる 重要なビジネスイベントを洗い出し、コンテキス トごとにまとめる 図でまとめると分かりやすい TechBowl流ドメインモデルでの情報設計 https://speakerdeck.com/hiroki_nakamura/techbowlliu-domeinmoderingu-2025-02-28 DDD × Whimsicalで快適モデリングライフ！ https://zenn.dev/techtrain_blog/articles/334ac36e79d946 16/35
17. ドメインイベントを使った実装 17/35
18. イベントを中心に実装 Publisher（パブリッシャー） イベントを発行 Subscriber（サブスクライバー） イベント発行時に処理を実行 18/35
19. Subscriber Publisher Repository Domain Model Usecase Subscriber Publisher Repository Domain Model Usecase インスタンス作成 イベント作成 Publisher の登録 永続化処理 ドメインイベントを取得 イベントの発⾏ イベントを受け取る ドメインイベントの発行 と処理の流れ 1. ドメインオブジェクトでドメインイベントを作成 と保持 2. 永続化した後にドメインイベントを取り出し、パ ブリッシャーで発行 3. サブスクライバーでイベントの通知を受け取って 処理 19/35
20. Subscriberはどのタイミングで実行するかを検討 同期的に実行 従来の処理をクラスに切り出すだけなので実装は楽 イベントが増えるたびにトランザクションが長くなる 非同期で実行 結果整合性を保つための工夫が必要 イベントが増えてもユーザーへ早くレスポンスを返すことが出来る まずは同期処理で実装して、非同期にする流れで紹介します！ 20/35
21. ドメインモデルがドメインイベントを作成する 「ユーザー作成時」に「ユーザーが作成された」イベントを作成し、保持する class User implements IDomainEventStorable { use DomainEventStorable; public static function create(UserId $userId, Email $email): self { $user = new self($userId, $email); // ドメインイベントを内部に保持 $user->pushDomainEvent(new UserCreatedEvent($userId, $email)); return $user; } } interface IDomainEventStorable { public function pushDomainEvent(DomainEvent $event): void; public function pullDomainEvents(): array; } 21/35
22. パブリッシャーとサブスクライバー ドメインイベントをサブスクライバーに発行する処理を実装 final class UserCreatedEventPublisher { public function __construct( WelcomeMailSubscriber $mailSubscriber, CreateStripeCustomerSubscriber $stripeSubscriber, SendSlackMessageSubscriber $slackSubscriber, ) { // コンストラクタでsubscribersに追加する } public function publish(DomainEvent $event): void { foreach ($this->subscribers as $subscriber) { $subscriber->handle($event); } } } class WelcomeMailSubscriber { public function handle(UserCreatedEvent $event): void { // イベントに応じた処理を実行 $this->mailService->sendWelcomeMail($event->email()); } } 22/35
23. 永続化のタイミングでイベント発行 リポジトリでドメインイベントをパブリッシュしなければいけないということを明示的にする class UserCreateUsecase { public function exec(UserId $userId, Email $email): void { // ドメインモデルを生成（ここでイベントが内部的に作成される） $user = User::create($userId, $email); DB::transaction(function () use ($user) { //　パブリッシャーの登録 $this->userRepository->create($user, $this->eventPublisher); }); } } class UserRepository { public function create( User $user, UserCreatedEventPublisher $eventPublisher ): void { $this->dao->save($user); // 永続化後にイベントの発行 foreach ($user->pullDomainEvents() as $event) { $eventPublisher->publish($event); } } } 23/35
24. ここまででドメインイベントの同期処理の流れはok 24/35
25. ここから非同期にしていくと... ユーザーへのレスポンスが速くなる（ユーザー作成完了だけで OK） 時間のかかるシステムだけスケールさせてパフォーマンスを得られる トランザクションの範囲を狭くすることができる 25/35
26. 非同期処理の実装方針 1. ドメインイベントをメッセージできるドメインサービスに Publish する 2. メッセージングサービス Subscribe するエンドポイントを用意する 26/35
27. メッセージングサービス (Pub/Sub型) Google Cloud Pub/Sub など外部のメッセージングサ ービスを使う 送信者と受信者の間の仲介するトピックがあり、お 互いの動作に影響を与えない 27/35
28. 非同期処理での注意点 「ドメインの状態更新」と「外部への通知」が 別タイミングになる 何らかの理由でロールバックしてしまった際に、 データは無いのにイベントだけ発行されてしまう... 28/35
29. 解決策 イベントを DB に保存 同じトランザクションの中でイベントも保存してお いて、後で取り出す 29/35
30. Subscriber Pub/Sub Batch Event Store (DB) Subscriber Pub/Sub Batch Event Store (DB) 未処理イベントを取得 (status = 'pending') UserCreatedEvent のリスト メッセージを送信 (Topic: user-events) メッセージを送信 (Topic: user-events) イベントを処理済みにマーク (status = 'processed') DBに保存したイベントを バッチ処理でpublish 1. ドメインモデルがドメインイベントを作成 2. イベントをDBに保存 3. バッチ処理で未処理のドメインイベントをメッセ ージングサービスにPublish 4. メッセージングサービスからSubscribeしたイベ ントに対応する処理を行う 30/35
31. メッセージングサービスへの保存 class EventStore { // イベントの保存 public function save(DomainEvent $event): void { $stmt->execute([ Uuid::generate(), get_class($event), $event->aggregateId(), json_encode($event->toArray()), 'pending', // 未処理状態 new DateTimeImmutable() ]); } // 未処理のイベント取得 public function findUnprocessedEvents(int $limit = 100): array {} // 処理済みとして更新 public function markAsProcessed(UUID $eventId): void {} } 31/35
32. バッチ処理の実装 class PublishPendingEventsCommand { public function handle(): void { $events = $this->eventStore->findUnprocessedEvents(); foreach ($events as $event) { // メッセージングサービスにパブリッシュ $this->queueClient->publish( 'user_events', json_encode([ 'id' => $event['event_id'], 'event_type' => $event['event_type'], 'payload' => json_decode($event['payload'], true), 'created_at' => $event['created_at'] ]) ); // 処理済みとしてマーク $this->eventStore->markAsProcessed($event['event_id']); } } 32/35
33. イベント処理 class UserEventController { public function onCreated(Request $request): Response { $payload = $request->json()->all(); $eventId = $payload['id']; // イベントの復元 $event = $this->restoreEvent($payload); // イベントに対応するハンドラを取得 $handler = $this->resolver->resolve($event); // イベントの処理を実行 $handler->handle($event); // 処理済みとしてマーク $this->processedEventStore->markAsProcessed($eventId); } } 33/35
34. 実装上のポイント 1. 「何が起きているか」を整理しよう 2. 出来事をコードに落とす 3. 同期処理から始めて、必要に応じて非同期化 4. 段階的にリファクタリングしていく 34/35
35. まとめ ドメインイベントはビジネスロジックにおける 「出来事」を表現 リファクタリングによって コードが「機能の手順」から「出来事」中心に変わ る 疎結合な設計になり、 テスト容易性もあがった 35/35