Upgrade to Pro — share decks privately, control downloads, hide ads and more …

emruby: ブラウザで動くRuby

emruby: ブラウザで動くRuby

Yusuke Endoh

April 23, 2021
Tweet

More Decks by Yusuke Endoh

Other Decks in Programming

Transcript

  1. emrubyの狙い • ブラウザでRubyが動くのは楽しい • 頑張ればTryRuby(お試し環境)くらいにはなるか? • 将来的にJavaScriptの代替になるかはWASM次第? • Rust /

    Go / KotlinなどもWASM出力に対応してるので • おことわり • この発表にはRailsもRuby言語もほとんど出てきません • Rubyのビルドの知識が少し身につきます 4
  2. Rubyをブラウザで動かす関連研究 • Opal: JavaScriptで書かれたRubyインタプリタ • https://github.com/opal/opal • Artichoke: Rustで書かれたRubyインタプリタ(WASM出力対応) •

    https://github.com/artichoke/artichoke • repl.it: Ruby 1.8をEmscriptenしたもの(らしい) • https://github.com/replit-archive/emscripted-ruby • Ruby on WebAssembly: mrubyをEmscriptenしたもの • https://github.com/blacktm/ruby-wasm • RubyのNaClサポート(2012~2017) • よくまとまってる記事 • https://blog.unasuke.com/2021/products-about-webassembly-and-ruby/ 5
  3. Emscriptenの基本的な使いかた 9 #include <stdio.h> int main() { printf("hello, world!¥n"); return

    0; } emcc hello.c –o hello.js && node hello.js emcc hello.c –o hello.html
  4. 前提知識:Rubyのふつうのビルド • Rubyソースのディレクトリで次のコマンドを打つ • ./configure: 環境ごとにビルド方法を調整する • どのシステム関数が使えるか、コンパイラオプションが使えるか • OS、コンパイラ、バージョンなどの違いを調べる

    • make: ソースコードをコンパイルする • まずminirubyという制限版ruby実行ファイルを作る • minirubyを使ってスクリプト(Rubyで書かれている)を動かし、 拡張ライブラリや最終的なruby実行ファイルを作る 11 ./configure && make
  5. ./configure && makeのEmscripten化 • Emscriptenはconfigure+makeに対応している • emconfigure / emmakeはビルドをうまくだまして Emscriptenコンパイラを使わせる

    • これだけ……ではない • 実用プログラムがゼロ変更でビルドできることは無いと思う 13 emconfigure ./configure && emmake make
  6. Emscriptenが未実装のC関数に対処する • 問題:Emscriptenで利用できないC関数がいっぱいある • popenがない • pthread_createはあるがpthread_killはない • pthread_createはあるがpthread_attr_getguardsizeがない •

    pthread_sigmaskはあるけど実際には動かない (!) 、など • configureの盲点をつくような未実装がいろいろあった • 対処:Rubyのconfigureを改善して対応した • コミッタなので、Ruby側を直接変更しまくった 14
  7. Rubyは関数の引数の数にルーズだった • C言語では、関数に引数を余分に渡しても良い (!?) • C言語仕様違反だが、 多くのCコンパイラで動く • Rubyはこれに依存していた •

    Emscriptenのオプションで 対応した • -s EMULATE_FUNCTION_POINTER_CASTS=1 15 int foo(int a) { printf("%d¥n", a); } int main() { int(*foo2)(int,int) = (int(*)(int,int))foo; foo2(42, 43); // 42 } 1引数の関数fooを2引数で呼び出す例
  8. miniruby.wasmできた! • 2018年はこの段階で公開した • 残念なお知らせ • EMULATE…オプションがEmscirptenから削除された • コンパイルできなくなった •

    どうしたか • 放置した → 3年経ったら、Ruby側が直っていた! • 微修正で2021年1月に再ビルドに成功した 16
  9. ruby.wasmを作るには • ふつうのrubyのビルドには、minirubyが必要 • しかしminiruby.wasmはLinuxで実行できない • クロスコンパイルする • ビルド環境とはちがう環境の実行ファイルを作ること •

    Linuxでruby.exe(Windowsの実行ファイル)を作る、とか • 今回はLinuxでruby.wasmを作る • emconfigureはかえってややこしくなるのでやめた 18
  10. 問題:Rubyの保守的GC • 保守的GCとは • マシンスタックの値がオブジェクトの参照であると仮定して マーク対象とするガベージコレクタの方式 • https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%83%BC%E3% 83%97#%E4%BF%9D%E5%AE%88%E7%9A%84%E3%81%AA%E3%82%AC%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%82%B3%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%82%BF •

    つまり意図的にC言語仕様違反なメモリアクセスをする • Emscriptenのメモリモデルでは全然動かない • 対処:Emscriptenが保守的GC用のAPIを用意していた • emscripten_scan_stack / emscripten_scan_registers • スタックの先頭と終端がわかる、これらを使うようにした 20
  11. 余談:Fiberに対応する(未完) • Rubyは2018年末にFiberの一部をアセンブリで実装した • Emscriptenでx86アセンブリはコンパイルできないので コンパイルエラーになっていた • 対処:EmscriptenのAPIを使って実装した • emscripten_fiber_init

    / emscripten_fiber_swap • コンパイルオプション -s ASYNCIFY と合わせて使う • miniruby.wasmでは動いたが、ruby.wasmでは動かない • 原因未解明、今後の課題 • とりあえずFiber使わなければ問題ない 21
  12. 問題:動的リンクができない • つまり、拡張ライブラリの require ができない • require "ripper"したらripper.soを動的リンクする • しかしEmscriptenは動的リンクに未対応(たぶん)

    • 解決:ripperを静的リンクした • 他にも必要な拡張ライブラリを色々足した 22 $ ./configure ¥ --with-static-linked-ext --with-ext=ripper … $ make
  13. その他Emscripten特有っぽい話 • リンクが失敗する(htonsが見つからない、とか) • -lcでlibcを明示的にリンクすれば動いた • -fstack-protectorも対応してないようなので消した • すぐメモリ不足エラーになる •

    Emscriptenはデフォルトでメモリサイズを固定確保する • サイズ可変にするオプションをつけた (-s ALLOW_MEMORY_GROWTH=1) • stack overflowの検出が動かないので止めた、など 23
  14. xterm.jsを組み込む • xterm.js: ブラウザで動く端末エミュレータ • https://xtermjs.org/ • VS Codeでも使われている •

    残念なお知らせ • Emscriptenは標準入出力の実装がいまいち • とりあえずの対応 • ライン編集はxterm.js側でやり、irbには行単位で送る • reline(irbの新しい編集機能)の活用は今後の課題 28
  15. CPU 100%を防ぐ • Emscriptenの生成物はほぼ同期で動く(asyncでない) • 入力待ちをポーリングでやるみたい(ゲーム想定?) • 対処:別スレッド(Web Worker)で動かすようにした •

    通信方法はvim.wasmに習った(SharedArrayBuffer使用) https://rhysd.hatenablog.com/entry/2019/06/13/090519 • 残念なお知らせ:5月に動かなくなる見込み 30
  16. Emscripten所感 • 夢の技術ではない • 現実のC言語コードをゼロ変更でビルドできることは無い • いっぱい問題に遭遇する • が、とてもよくできている •

    一生懸命調べればたいてい対処方法やAPIがある • 検索に頼らずドキュメントを通して読むのが早道 • 動いたらとても嬉しい 33
  17. まとめ • ブラウザで動くRuby、emrubyを紹介しました • 大体Ruby側で対応したのでたったこれだけでビルドできる 34 $ ./configure ¥ --build

    x86_64-pc-linux-gnu ¥ --host wasm32-unknown-emscripten ¥ --with-static-linked-ext ¥ --with-ext=ripper,date,strscan,io/console,…,psych ¥ optflags=-Os debugflags=-g0 ¥ CC=emcc LD=emcc AR=emar RANLIB=emranlib $ make