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未知の原因によるDB負荷の上昇とその対応プロセス

 未知の原因によるDB負荷の上昇とその対応プロセス

Taiki Shimizu

June 02, 2024
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Transcript

  1.   freee のデータベース利⽤状況 • RDBMS には Amazon Aurora for MySQL

    を採⽤している ◦ Aurora2 (MySQL 5.7互換)とAurora3 (MySQL 8.0互換) が混在 ◦ Writer/Reader 構成 • 各プロダクトは原則として 1 つ以上の RDBMS を持つ ◦ 本番環境で数⼗クラスタが稼働中
  2.   今回 DB 負荷が上昇したプロダクトの構成 • Rails 6 製のアプリケーション ◦ ORM

    として ActiveRecord を利⽤ • 接続先の DB が複数ある ◦ いずれも Aurora2 (MySQL 5.7互換) • ワークロードとして書き込みが多いことに加え Writer インスタンスに流れている SELECT クエリも多い
  3.   Performance Insights によるモニタリング • Performance Insights の有効化で可視化されるもの(⼀部) ◦ DBLoad

    とその内訳 ◦ 負荷が⼤きいクエリの統計情報 • 負荷の指標としては DBLoad を重要視している ◦ アクティブなセッションの同時実⾏数の平均 ◦ vCPU 数を超えると性能が劣化し始める傾向がある
  4.   • 内部的な処理(待機イベント)ごとに使われている時間 ◦ 待機イベントは MySQL の Performance Schema の

    イベントに対応 ◦ 例: synch/cond/innodb/row_lock_wait が増えていると、 ⾏ロック待ちに時間が使われていることが分かる DBLoad の内訳
  5.   • 毎年同時期にリクエストが増加するイベント ◦ 2-3 ヶ⽉ほどかけて徐々に増え、 さらに期間最後の 1 週間程で急激に負荷が増える •

    事前にキャパシティプランニングを⾏いリソースを増強 ◦ 過去の傾向をもとに DB もインスタンスクラスを上げていた 季節性イベント イベント期間最終⽇にかけて増え続ける qps の様⼦
  6.   • CPU やメモリなどリソース的な観点では問題がなかった • DBLoad のベース部分が⼤きくなっていた ◦ イベントの性質上書き込みが増えるため、 redo_log_flush

    イベントが DBLoad を押し上げていた ◦ vCPU を超える時間はクエリが遅くなっていたが、 今回の事象ほどの性能劣化を引き起こすレベルではない 原因調査
  7.   • 特徴的だった待機イベント fil_space_latch に注⽬ ◦ Aurora や MySQL のドキュメントに説明はなかったため、

    mysql-server のソースコードや AWS サポートとのやりとり などを通して情報を収集した • fil_space_latch は内部⼀時テーブル作成時に発⽣する ラッチ獲得に関するイベントらしいことがわかってきた ◦ Performance Insights で上位の SQL にも 内部⼀時テーブルを作成するクエリが多く⼊っていた 原因調査
  8.   • MySQL ではクエリの中間結果を記録するため 暗黙的に内部⼀時テーブルが作成されることがある • グローバル⼀時テーブルスペース ◦ 実体としてはスレッド間で共有されるファイル ◦

    内部⼀時テーブル作成でディスク使⽤時にアクセスされる • スペースへのアクセス時にラッチが獲得される ◦ 獲得待ちで記録されるイベントが fil_space_latch 内部⼀時テーブル作成時の動作 Thread (Session) Thread (Session) shared temporary tablespace ‧‧‧ SELECT * FROM t1 JOIN t2 ON t1.id = t2.t1_id ... ORDER BY t2.id SELECT * FROM t3 JOIN t4 ON t3.id = t4.t1_id ... ORDER BY t4.id
  9.   • 最⼩限のテストケースを使った実験設計 ◦ 内部⼀時テーブルを作るサンプルクエリを作成 ▪ JOIN と ORDER BY

    を組み合わせたクエリ ◦ mysqlslap を利⽤してクエリを並列に実⾏ • fil_space_latch が急激に増えた後 DBLoad が徐々に下がる 様⼦が再現して仮説を確認することができた 仮説検証のための再現実験
  10.   • 緊急度の⾼さから組織横断的に並⾏で対策を打っていった ◦ DB パラメータの調整 ◦ アプリケーションコードの修正 ◦ ActiveRecord

    の対応 組織横断で並⾏に対策を実施 DB Product プロダクト チーム プロダクト チーム ‧‧‧ ‧‧‧ ‧‧‧ DBRE 基盤チーム ライブラリ‧ ミドルウェア ‧‧‧ アプリケーションコードの 修正 ActiveRecord の対応 DB パラメータの調整
  11.   • tmp_table_size (max_heap_table_size) を上げる ◦ 各セッションで内部⼀時テーブルに使うメモリの最⼤値で、 これを超えるとディスクに書き出し始める ◦ OOM

    を避けるためセッション数やメモリ残量から 値を⾒積もり段階的に上げていった • fil_space_latch に対する効果を適⽤前に確認 ◦ 先述の検証で作成したテストケースを利⽤できた DB パラメータの調整
  12.   • 内部⼀時テーブル作成数が多いクエリを DBRE でリストアップ • プロダクトチーム側で可能なものは修正 ◦ クエリを Reader

    インスタンスに向ける ◦ 内部⼀時テーブルを作成しないようにクエリを修正 アプリケーションコードの修正
  13.   • 内部⼀時テーブルを作成するクエリで最も多かったのは SHOW COLUMNS ... などスキーマ情報を取得するもの ◦ ActiveRecord がモデル構築のため

    DB コネクション作成時に 発⾏していた ◦ MySQL5.7 の場合これらのクエリは必ずディスクを使って⼀ 時テーブルを作成するため、 tmp_table_size を変えても効 果がなかった ActiveRecord の対応
  14.   • 事前にスキーマ情報をダンプしたファイルを アプリケーションに読ませてクエリ発⾏をなくす ◦ Rails の機能としても存在するが、対象プロダクトで使われ ていた Rails 6

    では MultiDB に未対応だった ◦ ActiveRecord に Monckey Patch をあてることで解決した • 結果的にはこの対応による効果が最も⼤きく、 問題の fil_space_latch イベントは発⽣しなくなった ActiveRecord の対応 内部⼀時テーブルの作成数が急激に下がる様⼦
  15.   継続的な DB 改善活動の強化 • DB のパフォーマンス改善が進みづらい課題があった ◦ 関わる開発者が多い DB

    はオーナーシップが弱くなりやすい ◦ DBRE で課題を⾒つけても、アプリケーションコードに直接 ⼿を⼊れるのは効率が悪い • DB の運⽤やパフォーマンスの改善を推進するチームが 今回の問題が起きたプロダクトで発⾜ ◦ プロダクト内の各機能の開発チームからメンバーが集合 ◦ DBRE の知⾒と組み合わせて DB の改善を進め始めている
  16.   • DBLoad 全体の⼤幅な減少 ◦ 書き込み中⼼のワークロードであったため⼤きな割合を占め ていた redo_log_flush の処理の性能が向上した ◦

    ピークタイム同⼠の⽐較で約 2/3 まで減少した • 内部⼀時テーブルのディスク使⽤率の減少 ◦ 内部⼀時テーブル作成に関する実装の変更 ◦ ディスクを使いがちだったメタデータへのアクセスが改善 Aurora2 から Aurora3 への移⾏ Aurora2(redo_log_flush がトップ) Aurora3(redo_log_flush がトップではなくなった)
  17.   まとめ • 季節性イベントによる負荷の上昇 ◦ Rails と MySQL を組み合わせたアプリケーションで 同時実⾏性が⾼い場合に発⽣する問題

    • 収束までの対応プロセス ◦ 再現実験による検証を⾏い原因を特定 ◦ チーム横断で問題に取り組み早期に収束 • 問題収束後の取り組み ◦ 継続的な DB 改善活動の強化 ◦ Aurora3 への移⾏