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[2026後期火5] 論理学(京都大学文学部 後期 第4回)「∃ の規則と存在具体性」

[2026後期火5] 論理学(京都大学文学部 後期 第4回)「∃ の規則と存在具体性」

科学哲学科学史 (演習) 後期 第4回 論理学 (京都大学文学部・矢田部俊介)
「∃ の規則と存在具体性」
2026年10月27日(火)1645〜1815(予定)

前回の ∀ の規則に続けて、∃ の導入規則と除去規則を入れ、最小述語論理の規則をそろえます。∃ を導入するには証人を名指す必要があり、仮定なしに ∃x A[x] が証明できるなら証人が取り出せます(存在具体性、existence property)。切り裂きジャックの「誰かがメアリを殺した」はその例です。∃ の除去は無限個に場合分けする ∨ の除去で、仮の名前 x に余計な条件を持ち込まないための固有変数条件がつきます。条件を破ると「2 でも 3 でもある数がある」や「犯人は左利き」が出てしまうことを確かめ、二つの「ある」を同じものにする誤りが人間にも LLM にも出ることを見ます。

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Shunsuke Yatabe

October 25, 2026

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  1. 科学哲学科学史 (演習) 後期 第 4 回 論理学 ∃ の規則と存在具体性 (「誰かがやった」は、どうやって証明するのか)

    2026 年 10 月 27 日(火)16:45–18:15 文学部第 4 講義室 担当:矢田部俊介(西日本旅客鉄道株式会社) [email protected]
  2. 本日のメニュー 1. 最小述語論理の最後の部品と、前回の要約 2. 宿題の答え合わせ 3. 数学の「存在する」 4. ∃ の導入規則と存在具体性

    5. 証人は入力に依存する 6. ∃ の除去規則 7. 固有変数条件(∃E) 8. 前回の持ち越し:「最大の自然数はない」 9. 無限選言としての ∃ 10. 三層で見る/人間も LLM も 11. 演習と宿題 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 3
  3. 今日で最小述語論理がそろう 最小命題論理 前期の 8 規則 言語 + 項・述語・量化子 (第 2

    回) + ∀I・∀E 第3回 + ∃I・∃E 今日 最小述語論理 8 + 4 = 12 規則 ∀ の二つの規則(前回) ∃ の二つの規則(今日) ∀E は代入するだけ。 ∀I には固有変数条件がつく。 向きが逆になる。 ∃I は代入を戻すだけ。∃E に固有変数条件 がつく。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 5
  4. 前回の要約:∀ の規則 .. . A[x] ∀I ∀x A[x] 固有変数条件(∀I) ∀x

    A[x] ∀E A[t] A[x] が依存している、まだキャンセルされて いない仮定に、x が自由に出てこない。 = x について何も仮定していない。x は本当に 「勝手にとった」もの。 前回の教訓 特別な例で示したことを、任意の例で示したことと取り違えない。条件を破ると、 (x = 0) ∧ (y = 0) から ∀x (x = 0) が出てしまう。 今日の問い: 「ある x について」のほうは、何に気をつければよいのか。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 6
  5. 「解がある」と言うとき(1):見つけて言う 中学校の方程式 2 + 2 = 4 である。 だから、方程式 x

    + 2 = 4 には解がある。 2+2=4 ∃x (x + 2 = 4) やっていること 具体的な数 2 で確かめた式の、2 の ところを x に置き換えて、「ある x について」と言っている。 「解がある」と言う前に、私たちは解を一つ見つけている。 これが ∃ の導入規則になる。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 9
  6. 「解がある」と言うとき(2):あるものとして使う 解があるなら、それを使って先へ進む このときの x x + 2 = 4 をみたす

    x がある。 その x を一つとる。 両辺から 2 を引くと x = 2。 それを代入すれば 2 + 2 = 4。 未知数である。x + 2 = 4 をみたす、 ということしかわかっていない。中 身を知らないから、文字で書いて いる。 「ある」と言われたものに仮の名前をつけて、それについて推論する。 これが ∃ の除去規則になる。仮の名前には、知っていること以外を書き込んではいけない。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 10
  7. ∃ の導入規則(∃I) .. . A[t] ∃I ∃x A[x] t は任意の項

    読み方 ある項 t について A[t] が示せたら、∃x A[x] と言っ てよい。 t を証人(witness)と呼ぶ。 どの 2 を x にするかは選べる 2 + 2 = 4 からは、∃x (x + 2 = 4) も ∃x (2 + x = 4) も ∃x (x + x = 4) も出る。A[x] を どう読むかで、A[2] が同じ 2 + 2 = 4 になるからである。 ∀E と比べる ∀E は「∀x A[x] から A[t]」。∃I は「A[t] から ∃x A[x]」。線の上下が入れ替わっている。 どちらにも条件はつかない。 2021 年度と書籍原稿は前提に項 t を並べて書いていた。前期・前回と同じく省く。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 12
  8. ジャック: 「誰かがメアリを殺した」 事件 1888 年 8 月 31 日の未明、ロンドン東部ホワイト チャペルのバックス・ロウで、メアリ・アン・ニ

    コルズが殺された。いわゆる「正典の 5 人」の最 初の犠牲者とされる。犯人は、いまも特定され ていない。 Oxford DNB, “Jack the Ripper”(Davenport-Hines)。それ以前の殺人 ∃I で出せるか K( ? ) ∃I ∃x K(x) 線の上に置く項 t がない。 だから ∃x K(x) は、∃I では証明でき ない。 を最初に数える説もある。 ∃I で「誰かが殺した」と言うには、その誰かを名指せなければならない。 K(x) =「x がメアリを殺した」(第 2 回)。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 13
  9. 存在具体性(存在特性、existence property) 最小述語論理で、仮定なしに ∃x A[x] が証明できるなら、 ある項 t について、A[t] も(仮定なしに)証明できる。

    言っていること 名前について 仮定なしの ∃ の証明からは、証人を取り出 せる。証人なしの「ある」は、この論理で は証明にならない。 英語では existence property(EP)。∨ につ いての選言特性(disjunction property)と対 で呼ばれる。日本語の定訳は「存在特性」。 この授業では、証人が具体的に出る、とい う意味を込めて「存在具体性」とも呼ぶ。 Troelstra & Schwichtenberg 2000, 4.2.4(explicit definability の名で);照井 2013, 定理 3.5。直観主義論理でも成り立つ。古典論 理では成り立たない(第 8・9 回) 。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 14
  10. 注意:これは ∃I の形から「明らか」ではない 証明の最後が ∃I とは限らない 証人を取り出すには ∃x A[x] の証明は、最後に

    →E や ∨E を使っ ているかもしれない。たとえば 遠回りを全部消して(正規化)、最後の 規則を ∃I にしてから読む。仮定がなけ れば、正規形の証明は導入規則で終 わる。 P P → ∃x A[x] →E ∃x A[x] これだけでは、証人がどこにあるのかわから ない。 前期の正規化定理を述語論理に延ばすのは 第 7 回。 存在具体性は、規則一つの性質ではなく、体系全体の性質である。 自然演繹での証明は Prawitz(1965)の正規化による。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 15
  11. 名指せるなら、なぜ ∃ と書くのか 疑問 存在具体性があるなら、∃x P (x) が言えるときは P (t)

    も言える。それなら最初から P (t) と書けばよい。∃ は情報を捨てているだけではないか。 答え:証人が入力しだいで変わるとき ∀x ∃y (x < y)。 x が 5 なら y は 6、10 なら 11。 一つの数を書いて済ませることはできない。 ∀x (x < x + 1) ∀E x<x+1 ∃I ∃y (x < y) ∀I ∀x ∃y (x < y) 証人は項 x + 1。x を含んでいる。 前提 ∀x (x < x + 1) は自然数についての事実として仮定した。∀I の時点の仮定に x は自由に出ないので、条件を満たす。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 17
  12. 証人は関数になる x y 0 1 5 6 10 11 y

    = f (x) = x + 1 ∀x ∃y の証明が与えるもの x を受け取って y を返す手順、つまり関数。構 成的な立場(BHK 解釈)では、これが ∀x ∃y の証明の意味そのものである。 ∃ と書く理由 どの関数なのかを名指さずに、「入力ごとに証 人がある」とだけ言える。 古典論理では、証人を関数として選ぶのに選択公理を使う(スコーレム関数、Skolem 1920)。型理論では証明の意味から出 る(Martin-Löf 1984 の型理論版の選択公理) 。依存性は第 7 回でもう一度扱う。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 18
  13. ∃ の除去規則(∃E) [A[x]]1 .. . ∃x A[x] C 1 ∃E

    C 読み方 A[x] をみたす x がある。その x を一つとって A[x] と仮定し、C が出せたとする。そのとき は、∃x A[x] から C を結論してよい。仮定 A[x] はキャンセルする。 ここで使う x は 「A[x] をみたす何か」の仮の名前である。中身は知らない。だから x について、A[x] 以外のことを仮定してはいけないし、結論に x を持ち出してもいけない。これが今日 の固有変数条件である(次の節)。 キャンセルの仕方は前期の →I・∨E と同じ。番号で対応をつける。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 20
  14. 例:方程式を解く [x + 2. = 4]1 .. . x= ..

    2 .. ∃x (x + 2 = 4) 2 + 2 = 4 1 ∃E 2+2=4 右の枝でやっていること 点検 x + 2 = 4 をみたす x をとる。式を変形し て x = 2。x に 2 を入れて 2 + 2 = 4。 結論 2 + 2 = 4 に x は出てこない。右の枝 で使った仮定は x + 2 = 4 だけ(キャンセ ル済み)。 (点線の部分は算術の計算。中身は省く。) x は最後まで未知数のまま。x が何であったかは、結論には残らない。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 21
  15. ∃E は、無限個に場合分けする ∨E ∃E ∨E(前期) [A]1 .. . A∨B C

    C [B]2 .. . C ∨E1,2 場合ごとに一本ずつ証明を書く。 [A[x]]1 .. . ∃x A[x] C 1 ∃E C A[0] ∨ A[1] ∨ A[2] ∨ · · · の場合分けを、一本の証 明で全部片付ける。 ゲンツェン(1935) 「∃ の除去と ∨ の除去にはある類比がある。一般に、存在記号が ∨ の一般化であり、全 称記号が & の一般化であるのと同じである。」[Math. Z. 39, S. 187] 一本の証明がどの場合にも通用するには、x に特別な性質を持ち込んではいけない。それを保証 するのが固有変数条件である。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 22
  16. 例題:∃x (A → B[x]) → (A → ∃x B[x]) A

    に x は出てこないとする(2021 年度の例題)。 [A]2 [A → B[x]]3 →E B[x] ∃I ∃x B[x] 3 [∃x (A → B[x])]1 ∃E ∃x B[x] 2 →I A → ∃x B[x] →I1 ∃x (A → B[x]) → (A → ∃x B[x]) ∃E3 の点検 結論 ∃x B[x] に x は自由に出てこない(∃x で束縛してから ∃E をかけた) 。 右の枝のまだ開いている仮定は A だけ。A に x は出てこない。 順番が大事:先に ∃I で x を束ねてから、∃E をかける。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 23
  17. 仮定から受け継ぐ ∃ [K(x)]1 ∨IL K(x) ∨ M (x) ∃I ∃x

    K(x) ∃x (K(x) ∨ M (x)) 1 ∃E ∃x (K(x) ∨ M (x)) M (x) =「x がメアリを殺そうと企てた」など何で もよい 名前は一度も出てこない 仮定 ∃x K(x) から、証人を名指さずに 別の ∃ が出た。証人の役をしているの は、∃E の仮の名前 x である。 存在具体性は「仮定なし」でしか言えない ∃x K(x) を仮定すれば、∃x K(x) そのものが証人なしに出る。証人なしで ∃ が言えるの は、∃ を仮定から受け継ぐときだけである。 日常の「誰かがやった」は、たいてい証拠からの推定として仮定の側に入ってくる。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 24
  18. ∃E の固有変数条件 ∃E で ∃x A[x] と、[A[x]] から C への証明とを合わせて

    C を出してよい のは、次の二つが成り立つときに限る。 (a) 右の枝で C が依存している、まだキャンセルされていない仮定のう ち、A[x] 以外のものに、x が自由に出てこない。 (b) 結論 C に、x が自由に出てこない。 (a) が言っていること (b) が言っていること 仮の名前 x について、A[x] 以外のこと を仮定しない。 仮の名前 x を、結論に持ち出さない。 ゲンツェン(1935, S. 186)は ∀I と同じく「変数条件」 (Variablenbedingung)として述べている。固有変数を ∃x A[x] の x と別の文字で書く流儀では、「∃x A[x] にも出てこない」が三つ目の条件として加わる。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 26
  19. ∀I の条件と並べる ∀I(前回) ∃E(今日) x とは 勝手にとった何か A[x] をみたす何か(未知数) 仮定

    x を含む開いた仮定があって はいけない A[x] 以外に x を含む開いた仮 定があってはいけない 結論 ∀x A[x]。x は ∀ が束縛する C に x が自由に出てはいけな い 破ると 特別な例を任意の例と取り違 える 未知数に、知らない性質を持 ち込む どちらも「x について、言われたこと以外は何も仮定していない」を記号で言ったもの。 ∀I では「何も」、∃E では「A[x] 以外は何も」。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 27
  20. 条件がないと、何が起きるか 条件を無視した証明 [x + 2. = 4]1 .. . x=2

    x = 3 ∧I ∃x (x + 2 = 4) (x = 2) ∧ (x = 3) 1 ∃E ? (x = 2) ∧ (x = 3) ( ) ∃I ∃x (x = 2) ∧ (x = 3) 結論がおかしい どこが悪いか 仮定は ∃x (x + 2 = 4) と x = 3。どちらも 真にできる(x を 3 とすればよい)。なの に結論は「2 でも 3 でもある数がある」。 ∃E の仮の名前 x は「x + 2 = 4 をみたす何 か」でしかない。そこに x = 3 という別の x についての仮定が紛れ込んだ。 2021 年度の授業と書籍原稿の例(書籍原稿の式の誤植は直した)。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 28
  21. どこを見ればよいか [x + 2. = 4]1 (a) 違反:開いた仮定 x =

    3 に .. x が自由に出ている . x=2 x=3 ∧I ∃x (x + 2 = 4) (x = 2) ∧ (x = 3) 1 (x = 2) ∧ (x = 3) ∃E (b) 違反:結論に x が 自由に出ている 点検の手順 1. 結論 C に x が自由に出ていないか見る。 2. 右の枝を上へたどり、キャンセルの印がまだついていない仮定を拾う。 3. その中に、A[x] 以外で x を含むものがあったら、∃E はかけられない。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 29
  22. 条件を守った証明 [x + 2. = 4]1 .. . x=2 y=3

    ∧I (x = 2) ∧ (y = 3) ( ) ∃I ∃x (x + 2 = 4) ∃x (x = 2) ∧ (y = 3) ( ) ∃E1 ∃x (x = 2) ∧ (y = 3) 変えたところ 点検 別の数についての仮定は、別の文字 y で書 (a) 開いた仮定 y = 3 に x は出てこない。 く。結論は ∃x で束ねてから ∃E をかける。 (b) 結論の x は束縛されている。 結論の意味: 「x + 2 = 4 をみたす x があり、y が 3 なら、x は 2 で y は 3」 。おかしなところは ない。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 30
  23. ジャックで同じ失敗をする:犯人は左利き? 仮定 ∃x K(x):誰かがメアリを殺した。 ∃x L(x):左利きの者がいる。 [K(x)]1 [L(x)]2 ∧I K(x)

    ∧ L(x) ∃I ∃x L(x) ∃x (K(x) ∧ L(x)) 2 ∃E ? ∃x K(x) ∃x (K(x) ∧ L(x)) 1 ∃E ∃x (K(x) ∧ L(x)) 結論は「犯人は左利き」 正しくは 二つの「誰か」を、同じ仮の名前 x で呼ん でしまった。内側の ∃E2 の時点で、K(x) は まだ開いている。(a) 違反。 二つ目の「誰か」には新しい名前 y を使う。 すると出るのは ∃x ∃y (K(x) ∧ L(y)) まで。 犯人と左利きの者が同じ人かどうかは、わ からないままである。 2021 年度の宿題のヒント(x − 2 = 0 と x − 5 = 0 はどちらも解を持つが、連立させると解はない)と同じ形。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 31
  24. ∀x ∃y (x < y) から ¬∃x ∀y (y <

    x ∨ y = x) を出す 略記:M (x) = ∀y((y < x ∨ y = x)(x が最大) )。前提 P1 = ∀x ∃y (x < y)、 P2 = ∀x ∀y x < y → ¬(y < x ∨ y = x) (< についての事実)。 2 [M (x)] y < x ∨ y = x ∀E P1 ∀E ∃y (x < y) 1 ⊥ 2 [∃x M (x)] ∃E ⊥ 1 →I ¬∃x M (x) [x < y]3 ⊥ P2 ∀E × 2 x < y → ¬(y < x ∨ y = x) →E ¬(y < x ∨ y = x) →E ∃E3 読み方 点検 最大の数 x があるとする。P1 からそれより大 きい y がとれる。ところが x は最大なので y ≤ x。P2 と食い違う。 ∃E3 :結論 ⊥ に y はない。開いた仮定 M (x) の y は束縛。 ∃E2 :⊥ に x はない。P1 , P2 に x は自由に出 ない。 ¬A は A → ⊥ の略記。矛盾律は使っていないので、最小述語論理の証明である。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 33
  25. 逆向きは、まだ出ない ¬∃x M (x) から ∀x ∃y (x < y)

    は? 「最大の数はない」から「x より大きい数がある」 へ進むには、 「どの y も x 以下、ではない」から 「x 以下でない y がある」と言う一歩が要る。 ¬∀y φ → ∃y ¬φ これは最小論理でも直観主義論理でも出ない。 古典論理(第 8 回)で出る。 ¬∃x ∀y (y < x ∨ y = x) 今日 (最小) 古典 (第 8 回) ∀x ∃y (x < y) 第 2 回の「規則しだい」の矢印のうち、片方が今日の規則で埋まった。 前提が P2 と三分律くらいの純粋な論理での話。自然数の算術を全部背景にすれば、∀x ∃y (x < y) はそれだけで(y = x + 1 とし て)証明できるので、事情が変わる。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 34
  26. ∀ は無限連言、∃ は無限選言 ∀x φ(x)(前回) ∃x φ(x)(今日) 素朴な読み φ(0) ∧

    φ(1) ∧ φ(2) ∧ · · · φ(0) ∨ φ(1) ∨ φ(2) ∨ · · · 各 n で証明で きる ∀x φ(x) → φ(0) ∧ · · · ∧ φ(n) φ(0) ∨ · · · ∨ φ(n) → ∃x φ(x) 使う規則 ∀E を n + 1 回 ∨E で場合分けし、各場合で ∃I 矢印の向きが逆 有限の記号で無限の役をする ∀ からは有限の連言が出る。∃ へは有限の 選言から入れる。この左右の入れ替わり を双対性と呼ぶ。 長さ無限の式は書けない。量化子は、それ を有限の文字列と有限の規則で代わりに果 たしている。 あくまで類比である。領域のすべての要素に名前(項)があるとは限らないし、無限個の前提から ∀ を出す規則は通常の体系には ない。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 36
  27. [案 B] 局所のハーモニー:∃I のすぐ後に ∃E 近道 遠回り Σ [A[x]]1 A[t]

    Π[x] ∃I ∃x A[x] C 1 ∃E C ⇒ Σ A[t] Π[t] C Π の中の x を全部 t に置き換え、仮定 A[t] のところに Σ をつなぐ。 条件がここで効く (a) があるから、x を t に替えても Π のほかの仮定は変わらない。(b) があるから、結論 C も変わらない。条件は、証人を入れてすぐ取り出す遠回りを消せるようにしている。 前回の ∀ と同じ形である。 固有変数は、∃E の中だけで使える持ち出せない仮の名前である。持ち出せる名前を足すやり方 (ヘンキン定数)は第 12 回。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 38
  28. 人間の側:二つの「ある」を同じものにしてしまう 三段論法の実験 「ある A は B である」 「ある B は

    C である」から何が言えるかを、参加者に自分で書かせ る。正しい答えは「何も言えない」(二つの「ある B」が同じものとは限らない)。 答え 割合 「ある A は C である」 約6割 「何も言えない」(正答) 約3割 規則で言えば 二つの「ある」に、同じ仮の名前を使って いる。さっきの「犯人は左利き」と同じ形 で、∃E の条件 (a) の違反に当たる。 6 研究の集計。Khemlani & Johnson-Laird 2012, Table 6。 実験が調べたのは三段論法の形であって、∃x F (x) ∧ ∃x G(x) → ∃x (F (x) ∧ G(x)) という式そのものではない。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 39
  29. LLM の側:未知の「誰か」に名前を書き込む 第 1 回の実演から(2026 年 10 月 4 日、手元の小さなモデル)

    1 回目の答え:「本名は X とも、Y とも言われています」。同じ答えの最後で「正体は 特定されていません」。 3 回目の答え:「彼は 1891 年に名前を Y に変えました」。 人名は伏せた。X・Y が実在の容疑者かどうかは確かめていない。 規則で言えば 実験の報告 犯人は ∃E の仮の名前 x でしかない。そこ へ x = X と x = Y を書き込み、食い違い を「改名」でつないだ。x = 2 かつ x = 3 と 同じ形である。 三段論法では、LLM は人間以上に「何も言 えない」と答えない。正答が「何も言えな い」の問題で、条件によっては正答率がほぼ 0% だった。[Eisape et al. 2024] 大きなモデルは「特定されていない」と答え、どの人物を指すかの解釈を明示した(第 1 回) 。違い は、仮の名前を仮の名前のまま扱えるかどうかである。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 40
  30. 演習(3 問) その場で考える (1) 次の ∃E は固有変数条件を満たすか。 [K(x)]1 ∃I ∃x

    K(x) ∃y K(y) 1 ∃E ∃y K(y) (2) 仮定 ∃x K(x) と L(x) から、次のように ∃x (K(x) ∧ L(x)) を出してよいか。 [K(x)]1 と L(x) から ∧I、∃I で ∃x (K(x) ∧ L(x))、最後に ∃E1 。 (3) 証明せよ:A ∧ ∃x B[x] → ∃x (A ∧ B[x])(A に x は出てこない)。 ヒント:(1)(2) は「結論に x はあるか」「A[x] 以外の開いた仮定に x はあるか」の二つを見る。 (3) は ∧E で二つに分け、∃E の中で ∧I と ∃I。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 42
  31. 宿題 証明できる場合は、自然演繹で証明せよ A には x が出てこないとする。 問 1 ∀x B[x]

    → ∃x B[x] 問 2 ∃x B[x] → ∀x B[x] 問 3 ∃x (B[x] → A) → (∀x B[x] → A) 問 4 ∃x F [x] ∧ ∃x G[x] → ∃x (F [x] ∧ G[x]) 証明できないと思う問は、どこで詰まるかを書けばよい。問 4 のヒント:x − 2 = 0 にも x − 5 = 0 にも解はある。では連立方程式は? エクストラ(解かなくても不利にならない) ¬∃x B[x] → ∀x ¬B[x] と、その逆 ∀x ¬B[x] → ¬∃x B[x]。 ヒント:¬A は A → ⊥ の略記。前者は B[x] を仮定して ∃I。後者は ∃E を使う。 解くのにかかった時間も書くこと。∀I と ∃E を使うたびに、固有変数条件を点検したことがわかるように書 くこと。締切:11 月 10 日(火)の授業開始前(11 月 3 日は祝日で授業はない)。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 43
  32. 今日のまとめ 1. 最小命題論理の 8 規則に ∀・∃ の 4 規則を足して、最小述語論理ができた。 2.

    ∃I:ある項 t で A[t] が示せたら、∃x A[x]。証人 t を名指す必要がある。 3. 存在具体性:仮定なしで ∃x A[x] が証明できるなら、証人がとれる。体系全体 の性質で、証明には正規化が要る(第 7 回)。 4. 証人は入力に依存してよい。∀x ∃y の証明は関数を与える。 5. ∃E:A[x] をみたす仮の名前 x で推論する。無限個に場合分けする ∨E に当 たる。 6. 固有変数条件:x について A[x] 以外を仮定しない。x を結論に持ち出さない。 7. 二つの「ある」を同じものにする誤りは、人間にも LLM にも出る。条件 (a) がそれを止める。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 45
  33. 次回予告。等号と個体化 11 月 3 日は祝日(文化の日)で授業はない。次の授業は 11 月 10 日。 今日の

    ∃x K(x) の x は、仮の名前だった。 では「切り裂きジャック」という名前は、何を導入しているのか。 名前を導入するには、何が同じで何が違うかを決める基準が要る。等号の規則とブ ランダムの議論から考える。 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 46
  34. 参照文献 スライドで引いたもの Davenport-Hines, R. “Jack the Ripper.” Oxford Dictionary of

    National Biography. Oxford UP. Eisape, T. et al. (2024). A Systematic Comparison of Syllogistic Reasoning in Humans and Language Models. NAACL 2024. Gentzen, G. (1935). Untersuchungen über das logische Schließen I. Mathematische Zeitschrift 39, pp. 176–210. (S. 186–187) Khemlani, S. & P. N. Johnson-Laird (2012). Theories of the syllogism: A meta-analysis. Psychological Bulletin 138(3), pp. 427–457. Martin-Löf, P. (1984). Intuitionistic Type Theory. Bibliopolis.(pp. 50–51) Prawitz, D. (1965). Natural Deduction: A Proof-Theoretical Study. Almqvist & Wiksell. Skolem, Th. (1920). Logisch-kombinatorische Untersuchungen über die Erfüllbarkeit und Beweisbarkeit mathematischer Sätze nebst einem Theoreme über dichte Mengen. Skrifter Videnskapsselskapet i Kristiania 1920, no. 4. Troelstra, A. S. & H. Schwichtenberg (2000). Basic Proof Theory, 2nd ed. Cambridge UP.(4.2.3–4.2.4, pp. 106– 107) 照井一成 (2013).「直観主義論理への招待」数学基礎論サマースクール 2013 講義資料.(定理 3.5) さらに読みたい人へ van Dalen, D. (2001). Intuitionistic Logic. In L. Goble (ed.), The Blackwell Guide to Philosophical Logic.(選言特 性・存在特性と、古典論理との違い) Stanford Encyclopedia of Philosophy, “Intuitionistic Logic”, §4.2. 科学哲学科学史 (演習) 論理学(後期) 担当:矢田部俊介 48