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聴いて分かる!インタラクティブミュージック作曲の舞台裏!!

 聴いて分かる!インタラクティブミュージック作曲の舞台裏!!

CEDEC2023の講演資料です。

講演タイトル:聴いて分かる!インタラクティブミュージック作曲の舞台裏!!
講演者:北谷 光浩

セッションの内容:
インタラクティブミュージックは昨今の様々なタイトルにおいて広く採用されています。今や特別な手法ではなく音楽演出の選択肢の一つとして常に考慮すべき普遍的な手法になってきていると感じています。

そんなインタラクティブミュージックの「作曲」面に今回は焦点を当ててみたいと考えています。通常の作曲とは異なりインタラクティブミュージックの作曲には様々なお作法・コツが存在します。どのようなお作法・コツがあるのか、直感的に分かりやすいように実際に音楽を鳴らしながら紹介致します。

また、インタラクティブミュージックのお作法は、時に作曲の幅を奪う制約と成り得ます。制約を踏まえた上で、効果的な音楽演出のためにインタラクティブミュージックをどう活かしていくのがよいか、考察を加えつつ解説致します。

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December 14, 2023
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Transcript

  1. 自己紹介 北谷 光浩(きただに みつひろ) 株式会社バンダイナムコスタジオ Sound Creator / Composer 2015年

    株式会社バンダイナムコスタジオ入社 音楽の作曲・実装を中心としつつ サウンド業務を様々な製品で担当
  2. 携わったタイトル ▪ BLUE PROTOCOL ▪ ACE COMBAT 7 ▪ アイドルマスターシリーズ

    ▪ 鉄拳7 ▪ SOULCALIBUR VI ▪ 太鼓の達人 ▪ サマーレッスン ▪ レイヤードストーリーズ ゼロ ▪ VR ZONE ▪ ポッ拳 ▪ etc.
  3. ⚫ 横の遷移 ゲーム状況に応じてA → B → エンドへと遷移する 音楽を展開させていく手法が横の遷移 A B

    エンド 時間軸 遷移命令までループ 遷移命令が来てから次の展開へ インタラクティブミュージックの基礎知識
  4. ⚫ 横の遷移 インタラクティブミュージックの基礎知識 B エンド 8小節 8小節 B’ 1小節 遷移命令(HP10%)

    遷移命令(ボスを倒す) 遅延 小 エンドへの緩衝材=プリエンド あらかじめ区切りが細かいB’へ遷移しておくことで、 エンド遷移時の遅延を少なくできる
  5. インタラクティブミュージックの基礎知識 ⚫ 手法によって得意不得意がある 1曲の中でどちらかしか使えないわけではないので ケースバイケースで使い分けができるとよい 〇 得意 • 音楽の流れを変える劇的な変化が可能 •

    音楽的に自然な繋がりで変化可能 ✕ 不得意 • 即時の変化が難しい (工夫によって緩和はできる) 〇 得意 • 即時に変化することが可能 • 音楽の流れを変えずに雰囲気を変えられる ✕ 不得意 • 音楽の流れ自体は変わらないため 変化幅に限界がある 縦の遷移 横の遷移
  6. 作曲の舞台裏 BLUE PROTOCOL ⚫ フィールド ⇔ 戦闘のBGM ▪ 敵のレベルが自分と同等以上 →

    全く別の戦闘用BGMへと切り替えて緊張感を演出、戦闘の通知機能 ▪ 敵のレベルが自分よりもかなり低い → 完全なBGM切り替えでは緊張感がやや過剰、通知機能の必要性も薄い → さりげない変化で戦闘の雰囲気を演出したい! ©2019 Bandai Namco Online Inc. ©2019 Bandai Namco Studios Inc.
  7. BLUE PROTOCOL ⚫ フィールド ⇔ 戦闘のBGM ① リズム楽器とピアノの変化で疾走感や厚みをプラス ② メロディと金管楽器は変えずにキープ

    ③ ストリングス低音の和音変化で緊張感のある響きに 変化させる要素、変化させない要素のメリハリをつけて変化幅をコントロール → 区切りを感じさせずに戦闘の雰囲気をさりげなく演出できた 作曲の舞台裏
  8. BLUE PROTOCOL ⚫ ランダムな再生 ① 6種類の伴奏 ② 8種類のメロディ ③ 4種類のピアノフレーズ

    およそ150通り以上の組み合わせ(時間にすると70分の長さ) → 長時間のフィールド滞在でも飽きが来にくいランダム性 作曲の舞台裏
  9. インタラクティブミュージックの基礎知識 A’ 1小節 8分音符 遷移命令 実際の遷移ポイント 遅延 極小 ② 遅延0.2秒以下のプリエンド

    区切りを8分音符にして細かく遷移を場合分けし、遅延を0.15秒以下へ抑えた結果 カットシーンにバッチリ同期した盛り上がりを作れた A’’ A’’ A’’ A’’ A’’ A’’ A’’ A’’ B 0.15秒 ||
  10. ⚫ インタラクティブ VS 音楽の魅力 → 逆に複雑で抑揚が豊かな曲は横の遷移がしにくい • テンポ・調性(キー)が一定 • リズムやハーモニーの変化が少ない

    • 展開が少なく抑揚が少ない • メロディがない、もしくは主張が弱い インタラクティブミュージック作曲の課題 音楽の魅力との両立 横遷移インタラクティブと音楽の魅力はトレードオフの関係になりやすい これが横の遷移 しやすい音楽だ! 遷移しやすい曲の例 遷移しにくい曲の例
  11. インタラクティブミュージック作曲の課題 音楽の魅力との両立 ⚫ インタラクティブ VS 音楽の魅力 縦の遷移は? ▪ 横の遷移に比べると音楽の魅力を損ないにくい ▪

    複雑な曲はやっぱり大変 ▪ アレンジの変化を出すために作曲で考えることも増える 縦の遷移でもある程度は音楽の魅力が出しにくい
  12. インタラクティブミュージック作曲の課題 コストの重さ ⚫ コストとどう向き合うか インタラクティブミュージックを使う価値があるか ▪ せっかくコストをかけて作るので効果が高い場面で使いたい ▪ そのためにBGM全体を見通しての設計が大事 AIに期待したい

    AIに作曲した音楽を学習させると、自動で様々なアレンジを生成したり、 遷移に必要なプリエンドなどを自動で生成するようなソリューションがあれば、 より少ないコスト実現できる。さらに音楽的魅力との両立もできるかも。
  13. アンケート実施と結果 アンケート内容はこんな感じ ⚫ 直近3年間程度でインタラクティブミュージックを作曲する機会がどの程度ありましたか ⚫ インタラクティブミュージック作曲にかかる工数について(縦の遷移) ⚫ インタラクティブミュージック作曲にかかる工数について(横の遷移) ⚫ インタラクティブミュージックの作曲で困ったことをお聞かせください

    ⚫ インタラクティブミュージックの実装経験はありますか? その際に使用したことのあるミドルウェアも教えてください ⚫ インタラクティブミュージックを作曲することへのモチベーションについてお聞かせ下さい ⚫ その他、インタラクティブミュージックに対して思うことなどがあればよろしくお願いします ⚫ インタラクティブミュージックの作曲に関するアンケートを 弊社サウンドチームのコンポーザー業務経験者に対して実施 (回答数14名)
  14. アンケート実施と結果 (一部を抜粋) ⚫ 戦闘時/非戦闘時のアレンジをステムの追加でない、別の曲に聞こえるような作り方をしたのですが工数が膨れ上がって苦労しました。 効果に対してどれくらい工数をかけるのか悩みどころです。 ⚫ インタラクションを追求すればするほど音楽的な魅力表現の難易度が上がる印象があり、その両立に日々試行錯誤です。 状況変化に必要な曲と、場面や心情を印象付ける曲は目的に応じて作り分けるのが良いのだろうなと思っています。 ⚫ 昨今ゲーム音楽がゲーム音楽たる仕様ではあると思うのですが、費用対効果が悪く演出がユーザーに伝わりきっていない印象もあります

    (むしろ伝わらないくらい自然なところが目指すところではあるのかも…?) 追及すると「作家性」と「自然な演出」の綱引きだと思うので、インタラクティブにするとしてもなるべく簡素な仕様にした方が 作家性は活かしやすいかなというのが自分の考え方です ⚫ 複数の素材を任意のタイミングでつなげたり切り離したりする上で、個人的に多様的なコード進行に関するボキャブラリをもっと拡充できるといい。 ⚫ 「自然に遷移してお客さんに気付かせない」ことを大事にしている考えもあれば、「ぜひお客さんに気付いてもらいたい」という考えも世の中にはあり、どのような使い 方がベストなのか、様々な開発者の意見も聞けたら面白そうです。 ⚫ インタラクティブミュージックでの演出の上では手法が限られることもありつつ、そのなかでどうやって最高の音の演出を作っていくかは、限られた容量や発音数の中 で創意工夫を行っていたゲームサウンドクリエイターにとっては大いに腕が鳴る仕事だと思いながら作っています。