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リアルタイムの記号論と〈未完了相〉の技術的条件

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May 19, 2026
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 リアルタイムの記号論と〈未完了相〉の技術的条件

本発表は、リアルタイムに進行する出来事を記号論はいかに記述できるのか、という問いを出発点に、〈未完了〉な経験とテクノロジーの関係を検討する。前半では、実況中継におけるインデックス、ダイクシス、反復が、受け手を生成中の出来事の〈いまここ〉へ投錨する過程を分析する。後半では、スティグレールの第三次記憶論を手がかりに、〈いま〉の開かれ方や記憶の呼び出しが、技術的配置やプラットフォームによって重層的に条件づけられることを論じる。最終的には、〈未完了〉は意識の内部だけで生じるものではなく、記号と技術的環境によって開かれ、管理され、社会的ランドスケープへ接続されるものとして捉え直される。

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May 19, 2026

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Transcript

  1. 目次 2 / 22 本発表は4部構成。リアルタイムの記号論をめぐる問いを、事例と理論から検討する。 01 問いの設定 〈未完了〉の複数層と、記号論にとっての課題 p.04 –

    06 02 実況の記号論 インデックス・実況中継・原発事故報道の事例 p.08 – 13 03 プラットフォームと技術的記憶 スティグレールと〈未完了〉の技術的制御 p.15 – 19 04 まとめ 〈未完了〉の技術的条件 p.21 – 22
  2. 3 / 22 S E C T I O N

    0 1 問いの設定 本発表の問い 〈未完了〉の複数層 記号論は〈つつある〉を扱えるか
  3. 本発表の問い 4 / 22 〈未完了〉という時間性を、記号論はどう受け止めるか 発表の前提 • 〈未完了〉には、知覚・記憶・実存・社会的ランドスケープ の層がある •

    まず「起こりつつある」「意味づけられつつある」リアル タイム性に注目する • 受け手にリアルタイム的な情報処理を要求する記号を、 記号論はどう扱うか • 補助線:インデックス/実況の記号論/第三次過去把持 問いの焦点 「つつある」出来事に受け手を巻き込み 、リアルタイム的な情報処理を要求する 記号実践を、記号論はどう記述できる か 。
  4. 補助線:〈未完了〉の複数層とスティグレールの過去把持論 5 / 22 四層を、スティグレールの過去把持論と対応する 〈未完了〉の四層 スティグレールの過去把持 1 知覚の〈未完了〉 いま何が起きているかの捉え方

    → 2 記憶の〈未完了〉 過去の経験の位置づけ → 3 実存の〈未完了〉 自分の存在の仕方 → 4 社会的ランドスケープの〈未完了〉 行動・価値判断を支える地形 → 第一次過去把持 第二次過去把持 記憶・実存をまとめる 集合的第二次過去把持 論点先出し 「第三次過去把持(想起)は、第一次過去把持と第二次過去把持の接合を重層決定する。」
  5. 記号論は〈つつある〉をどのように扱えるか 6 / 22 得意としてきたもの • すでに成立した記号関係 • 解釈済みの意味 •

    コード・制度・慣習 〈未完了〉が問うもの • いま意味が生じつつある局面 • まだ閉じていない経験 • 変わりつつある主体 • 掘り直されつつある社会的地形 問い 成立済みの記号関係だけでなく、記号が創発しつつある現場を扱えるか。
  6. 7 / 22 S E C T I O N

    0 2 実況の記号論 〈いまここ〉を開くインデックス 実況の記号論という試み 事例:実況中継がはじまるとき 三つの指標的実践 指標の三層構造 アナウンサーの発話の文字起こし
  7. 〈いまここ〉を開くインデックス 8 / 22 解釈を出来事の場へ投錨する記号 パースのインデックス • 対象との現実的・事実的連関によって機能する記号 • 解釈者の注意を、具体的な対象・出来事・状況へ差し向け

    る • 解釈項を、特定の〈いまここ〉へ投錨する 本発表での位置づけ 記号過程を完結した意味へ閉じるので はなく、解釈者を生成中の出来事の場へ 巻き込む記号として働く。 足跡や写真のように、過去の痕跡もインデックス。 重要なのは、解釈を具体的な時空間へ差し戻す働き。
  8. 事例:実況中継がはじまるとき 10 / 22 2011年3月12日 17時5分頃 / 骨組みだけになった一号機 映像で起きていること •

    午前と午後4時半の映像が比較される • 一号機の外壁がなくなり、骨組みが見えている • 映像が、政府/東電発表に先行して事態を示す ポイント 語りは確定情報を伝えるのではなく、受け手の知覚を〈いま何が見えているか〉へ 投錨する。
  9. アナ:画面でご覧いただいているのは、午後4時半過ぎの福島第一原発の様子です。いま、小さく 四角のなかに映っているのが、午前中の映像です。比べてみますと、画面の一番左に見えていま す、この建物が、明らかに、外壁が、なくなっていると、いうことがこの画面から読み取れます。 (間)画面が、上と下の二分割になりました。上が、午前中の、福島第一原発の様子です。そして、下 が、午後四時半時点の映像です。上下で比べてみますと、この、四つの四角い建物が並んでいます が、一番左側の建物、上と下で比べてみますと、外壁が、なくなっているように見えます。構造体、 骨組みが見えているのが、下、午後四時半現在の映像です。福島第一原子力発電所の映像です。 福島県の太平洋側にあります。大熊町と双葉町にまたがるところにあります。福島、第一原子力 発電所の映像です。いま、上に映っているのが、午前中の、今日午前中の様子です。そして下が、 午後四時半時点です。(間)画面に向かって、一番左側が、一号機です。一号機、二号機、三号機、

    四号機という順に並んでいます。いま、注目しておりますのは、この一番左側の、一号機です。上 の段にある、午前九時前の、福島第一原子力発電所、一号機の、建物、この建物には、外壁が見え ます。それに比べますと、午後四時半ごろの映像では、下の段ですが、外壁が、はがれて、中の骨 組みが、表面に出ていると、いう状況が見て取れます。 アナウンサーの発話の文字起こし ※下線はダイクシス的表現、下線強調は特に実況的な発話 11 / 22
  10. 三つの指標的実践 12 / 22 受け手の知覚の〈未完了〉はどう開かれるか 01 映像のインデックス性 事例での現れ 骨組みだけの一号機 開かれる〈未完了〉

    何が起きたのか 02 ダイクシス 事例での現れ 「この建物」「上」「左」 開かれる〈未完了〉 どこを見るべきか 03 実況的反復 事例での現れ 短文・反復・言い直し 開かれる〈未完了〉 どう読み取るべきか 要点 映像・指示詞・反復が、受け手を未確定な出来事の場へ巻き込む。
  11. 13 / 22 S E C T I O N

    0 3 プラットフォームと技術的記憶 技術的に重層決定された〈いまここ〉 開かせ続けるプラットフォーム テクノロジーは層を貫く 層間接続の管理 第三次記憶と接合の重層決定
  12. 技術的に重層決定された〈いまここ〉 14 / 22 実況の記号論が扱ったもの • インデックスによる〈いまここ〉への投錨 • 進行中の出来事への知覚的関与 •

    知覚の〈未完了〉の開け スティグレール的に見ると • 第一次過去把持が「いま」の厚みを構成する • その「いま」は画面・録音・映像によって制御 されうる • 知覚の〈未完了〉は第三次過去把持に重層決 定される 要点 技術は〈いま〉の外部にある補助物ではない。〈いま〉の開かれ方そのものを条 件づけるのでは?
  13. 開かせ続けるプラットフォーム 15 / 22 プラットフォームは〈未完了〉を閉じない UPDATE 更新 常に「新しいもの」が来ると いう期待を作る REAL-TIME

    リアルタイム性 いま反応すべき出来事が絶 えず立ち上がる N(YOU) 個別化 「あなた向け」の呼びかけで 反応主体として編成する 要点 ある種のプラットフォームは〈未完了〉を閉じることではなく、開かせ続けること で、ユーザーのハビトゥスを書き換えていく。 Wendy Hui Kyong Chun, Updating to Remain the Same: Habitual New Media. MIT Press, 2016 「危機マシン」としてのSNSプラットフォーム (谷島貫太『アテンション資本論』新曜社、7月末刊行予定)
  14. テクノロジーは層を貫く 16 / 22 層 プラットフォーム上の現れ 管理される未完了 知覚 通知・ライブ・トレンド 何が〈いま〉反応すべきか

    記憶 履歴・検索・おすすめ 何が想起・再文脈化されるか 実存 プロフィール・各種履歴 どんな〈私〉が形成されるか 社会的ランドスケープ 可視性・評価指標・アルゴリズム どの行動様式が自然化され るか 要点 テクノロジーを四層の一つではなく、各層を貫いて条件づける審級と考えてみる 技 術 的 記 憶 / プ ラ ッ ト フ ォ ー ム
  15. 層間の接合の管理 17 / 22 〈いま〉にどの過去が接続されるか リアルタイムの反応 記録・履歴化 想起のトリガー 再文脈化 プラットフォーム上の〈私〉

    集合化・規範化 社会的ランドスケープ 接続される回路 反応は記録され、次の〈いま〉で呼び出される。プ ラットフォームは、現在・記憶・自己・社会的ランド スケープを接続する回路そのものを管理してい る。
  16. 第三次記憶と接合の重層決定 18 / 22 tertiary memory inherently overdetermines the articulation

    of primary and secondary retentions. — Stiegler, Technics and Time, 3 第一次過去把持 何が〈いま〉として現れるかを条件づける (集合的)第二次過去把持 どの記憶・経験が利用可能かを条件づける 第一次・第二次の接合 〈いま〉にどの記憶が呼び出されるかを条件づける 第三次記憶(技術的記憶) 上記の接合の全体を重層決定する 要点 第三次記憶は、〈いま〉と記憶を別々にではなく、その接合そのものを重層決定する
  17. 19 / 22 S E C T I O N

    0 4 まとめ 開けを条件づける技術的環境 まとめ:リアルタイムの記号論
  18. 〈未完了〉を条件づける技術的環境 20 / 22 問うのは技術との関係ではなく、〈未完了〉の条件 1 知覚の〈未完了〉は、ある種のテクノロジーによって技術的に制御されうるのではないか? 2 記憶の再編成(〈未完了〉)もまた技術的に条件づけられている(されうる)のではないか? 3

    主体の再編成(〈未完了〉)は、技術的足場を必要とするのではないか? 4 社会的ランドスケープの〈未完了〉は、たんに基層からの〈未完了〉の連鎖としては位置づけられないの ではないか? 5 リアルタイムの記号論は、リアルタイムを生み出す記号それ自体の作用だけでなく、それがどのような技 術的・産業的編成のなかに置かれ、どのような社会的ランドスケープを生み出すものとして機能してい るかを考える必要があるのではないか? 要点 重要なのは、〈未完了〉の技術的編成と、それが社会的ランドスケープを形 作っていく動態に目を向けていくことではないか?
  19. まとめ:リアルタイムの記号論 21 / 22 特定の技術的配置のなかで、リアルタイム的な情報処理を要求するインデックスが、〈いま〉を開き、記憶を呼び 出し、主体形成・社会的ランドスケープへ接続される――その過程を問う記号論。 インデックス 解釈者を〈いまここ〉へ投錨する 技術的配置 何が〈いま〉として現れるかを条件づける

    第三次記憶 〈いま〉と記憶の接合を重層決定する プラットフォーム その接合を更新・推薦・通知で管理する 最後の問い 〈未完了〉は意識の〈内部〉(だけ)で開かれるのではなく、記号と技術的配置という 〈外部〉に媒介されることによって(も)、開かれ、管理され、接続される。 予告:この問いは、平井靖史さんのベルクソン記号論の議論とも接続しうる(『繭の記号論』(叢書セミオトポス、7月刊行予定)。
  20. 追加の論点:〈予測〉という補助線 22 / 22 過去把持は、未来予持と絡まり合っている 本セッションでは〈予測〉という語を使わなかった。だが本来この問いは、予測の主題と切り離せない。 ベルクソンの〈持続〉 厚みのある現在は、直近の過去を保持しつつ、直近の未 来を先取りする(anticipate)。予持は〈持続〉に内在す る。

    スティグレールの過去把持 第三次過去把持は〈いま〉と絡み合う未来予持の在り方 を、根源的に条件づけるのではないか? 論点 〈いま〉における未完了は、意識の予測システムという問いと切り離せない ── この問 いは7月の記号学会大会に(たぶん)持ち越し。