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NFTとは何ではないか

Yuta Okamoto
December 30, 2021

 NFTとは何ではないか

プライベートな勉強会で、ソフトウェア技術者ではない人に向けて暗号通貨や NFT について解説した際に使った発表資料です。

2021/1/5: 誤字等を修正。
2021/1/30: フォローアップ記事を公開しました。 https://okapies.hateblo.jp/entry/2022/01/30/193604

追記:
このスライドで指摘した内容を、歴史的経緯を含めてより掘り下げて論じている記事があったので併せてご紹介します。

1. 「新しいアートのフォーマット ― ハイブリッド・エディション,ブロックチェーン(NFT)と物理世界」 https://goh.works/ja/post/10299/

2. 「ブロックチェーン:膨張する看板に偽りはないか - 誠実なプロセスの必要性 -」 https://shanematsuo.medium.com/%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%B3-%E8%86%A8%E5%BC%B5%E3%81%99%E3%82%8B%E7%9C%8B%E6%9D%BF%E3%81%AB%E5%81%BD%E3%82%8A%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%8B-%E8%AA%A0%E5%AE%9F%E3%81%AA%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%BB%E3%82%B9%E3%81%AE%E5%BF%85%E8%A6%81%E6%80%A7-fe9f5d38eb37

Yuta Okamoto

December 30, 2021
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Transcript

  1. 「分散型」とは? • 中央集権型 ◦ 一つの主体 (X) が集中管理する ◦ X の例:

    金融当局、銀行、… • 分散型 ◦ 互いに独立した管理者を持つ複数の コンピュータが連携して管理 経済産業省: 平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロック チェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査)報告書概要資料
  2. スマートコントラクト ブロックチェーン上でプログラムを実行する仕組み。 • 単純な送金だけでなく、より複雑な「取引」を自動的に実行できる ◦ ユーザはプログラムを自由に登録でき、これを使ってブロックチェーン上で様々なサービス を展開できる • スマートコントラクト・アプリケーションの例: ◦

    ブロックチェーン上でお金を貸して利息を取る(DeFi; 分散型金融) ◦ 既存のブロックチェーン上で新たな暗号通貨(トークン)を創設して取引する ◦ NFT(Non-Fungible Token; 非代替性トークン)を作って取引する
  3. NFT の保有権とその移転 ユーザは個々の NFT を排他的に保有でき、また他のユーザと取引できる。 識別子 保有者 メタデータ 1 A

    { “名前”: “作品A”, …} 2 B → A { “名前”: “作品B”, …} 3 C { “名前”: “作品C”, …} … … …
  4. NFT ビジネスの事例 • Beeple: “Everydays: the First 5000 Days” •

    最初のツイート • Crypto Punk #7804 • CryptoKitties • NBA Top Shot • 仮想空間の土地売買
  5. Beeple: “Everydays: the First 5000 Days” 無名作家の NFT デジタルアートが、 オークションハウス「クリスティー

    ズ」で 6,900 万ドル(約 75 億円) で落札。 BeepleのNFT作品が75億円で落札、アート界に変革の兆し - jp.techcrunch.com より
  6. Crypto Punk #7804 CryptoPunks という 10,000 枚の デジタルアイコンのコレクション。 その中の 7804

    番のアイコンが 4200 ETH(約8億円)で取引された。 https://www.larvalabs.com/cryptopunks/details/7804
  7. NBA Top Shot NBA が CryptoKitties の開発元と協 業して発行している NFT トレーディ

    ングカードで、試合中の名場面をカ ード化している。これまでの最高額 は 23 万ドル(2,600 万円)。 https://nbatopshot.com/moment/easyaces+c1c29a9a-327f-47fe-a570-f4bd806b1ae3
  8. NFT が抱えるリスク • 詐欺 ◦ 一攫千金を狙って品質の低い NFT アートが粗製濫造され、市場に大量供給されている ◦ 自作自演による価格の吊り上げやインサイダー取引が容易で、法規制も未整備

    • 課税 ◦ 雑所得扱いなら最大 55% 課税される • マネーロンダリング・テロ資金供与規制 (AML/CFT) との整合性 ◦ ソニー生命社員の不正送金、仮想通貨で170億円全額押収 ◦ みずほ外為法違反 「犯意なき過ち」が映すテロへの意識
  9. GreaterFool.NFT 日本のコミッション支援サービス “Skeb” 創設者が制作・出品した NFT アート。 NFT メタデータ自身が作品の一部を構成 しているのが特徴で、その中で NFT

    市場 は Greater Fool Theory(「誰かが高 値で買ってくれるだろう」という共同幻 想)に陥っていると論じている。 73 ETH(約 3,000 万円)で落札後に、 88 ETH で発行者に買い戻された。 https://opensea.io/assets/0x495f947276749ce646f68ac8c248420045cb7b5 e/6462680555690972485237793552020012464748858976424215133539 5501827037390176257/
  10. ビットコイン前史 • ビットコイン論文の発表 ◦ サトシ・ナカモトが 2008 年に The Cryptography Mailing

    List に投稿した “Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System” という論文で基本的なアイデアが示された • Cryptography(暗号)メーリングリストとは? ◦ 「暗号システムの技術的側面やその社会的影響、輸出規制や暗号規制法のような暗号政策」 について議論するオンラインコミュニティ ◦ サイファーパンク運動の拠点となっていたメーリングリストの一つ
  11. サイファーパンク (Cypherpunk) 運動 • 80年代末に始まった草の根の政治運動 ◦ 通信やプライバシーの監視を強める政府や企業に暗号技術 (cypher) を用いて対抗し、言論 と経済活動の自由を追求する

    ◦ 暗号技術を用いたソフトウェアの開発・公開(「サイファーパンクスはコードを書く」)や、 暗号技術規制への反対運動などを行ってきた ◦ 著名なサイファーパンクに、Wikileaks のジュリアン・アサンジや、Tor(いわゆるダークウ ェブ)や BitTorrent(P2P ファイル共有ソフト)の開発者などがいる • 代表的な声明: ◦ クリプトアナーキスト(無政府主義者)宣言 ◦ サイファーパンク宣言
  12. ニール・スティーヴンスン • メタバースという言葉を発明した SF 作家 • 90年代の作品でサイファーパンク運動を描いた ◦ 「クリプトノミコン」「サモリオンとジェリービーンズ」 •

    作中のモチーフ: ◦ 政府による私的通信の監視 ◦ 民間の電子通貨と、通貨の独占的地位を保ちたい政府との対立 ◦ 暗号技術を通じて、通信の秘密・商取引のプライバシー・課税からの自由を実現する
  13. ブロックチェーンがなぜ必要か • 機能要件の観点では、本来は中央集権型が優れている • ブロックチェーンの本質は非機能要件にある ◦ 非中央集権性 (decentralization): 特定の国家や企業に支配されない ◦

    継続性 (continuity): ある主体がサービス継続できなくなっても他が引き継げる ◦ 匿名性 (anonymity): 個人と、その取引履歴を切り離す • 中央集権型ではない方法で二重支払いを防ぐために暗号技術を用いる ◦ 暗号技術の役割は、情報を秘密にするだけでなく情報の改ざんを防ぐことを含む
  14. ブロックチェーンがなぜ必要ではないか • ブロックチェーンはデジタル資産の取引を実現する唯一の方法ではない ◦ 取引証明だけなら時刻認証方式でも実現できる ◦ 初期費用はかかるが、一件 10 円程度なので現在の ETH

    のガス代より安い • ブロックチェーンへの支持は機能的優位性によるものではない ◦ 本来、分散型台帳は政治的動機によって選択されるものである ◦ 非機能要件への支持(非中央集権性、継続性、匿名性、…)と、投機的資金の流入から得ら れる利益への期待が区別されずに語られている現状は踏まえておく必要がある ◦ 仮想通貨の高騰が、某国富裕層の資産逃避から始まったことは象徴的
  15. 作品はブロックチェーン上に存在しない • ブロックチェーンは作品のメタデータ(へのリンク)を記録している ◦ 「NFT アート」というデータは存在しないし、メタデータは作品の説明書に過ぎない ◦ 作品データ自身は、普通のウェブサーバや IPFS 等のファイル共有サービスに置かれる

    - 名前 - 説明 - サムネイル - … メタデータ https://example.com/work_001.json 作品データ ※ NFT 自体に作品データを入れ込むこと (オンチェーン)は可能だが、データ量が増 えると登録手数料が高額になり現実的でない。
  16. 法的な所有権の例: 不動産 • 公示の原則(民法第177条) ◦ 不動産取引は売り主と買い主の合意だけでは十分でなく、登記をしなければ第三者の権利主 張に対抗できない • Q. 不動産に紐付けた

    NFT は登記の代わりになるか? ◦ A. ブロックチェーンは不動産登記法などに定められた登記簿ではないので、不動産 NFT を 売買しても権利主張はできない • 法の裏付けのない所有権の主張は無効、という原則を理解する必要がある (「デジタル所有権」などという権利はない)
  17. NFT は複製できる 一つの対象に対して何個でも NFT を発行(紐付け)できる。希少性が保たれる かは発行者の意向と契約次第。 - 名前 - 説明

    - サムネイル - … 作品データ - 名前 - 説明 - サムネイル - … - 名前 - 説明 - サムネイル - … - 名前 - 説明 - サムネイル - …
  18. NFT は改ざんできる メタデータには URL しか書いていないことが多いので、対象の作品データが改 ざんされたり、保存されているサービスが無くなったりするリスクがある。 - 名前 - 説明

    - サムネイル - … メタデータ https://example.com/work_001.json ??? IPFS に保存するなどの方法で回避できる が、購入者が見分ける必要がある。
  19. 所有感の売買 現在の NFT は、所有権ではなく所有感を売買するビジネスだと言える。 • 「所有感」を売買するビジネスの例: ◦ 月の土地の権利書 ◦ 電子書籍、ゲーム内アイテムの購入・ガチャ

    • この事が必ずしも NFT の価値を損なうわけではないが、一般に喧伝されて いるイメージと、その実態には大きく差があることに注意する必要がある
  20. NFT の保有自体に価値を感じられる体験の提供 • Twitter の NFT サポート ◦ プロフィール画面にユーザが保有している NFT

    を表示したり、NFT 保有者であることを示 す特別なバッジが表示される、といった機能の追加を検討しているとされる • VR アバターのスキンや装飾品 ◦ コピーしたスキンを装備するのは誰でもできるが、認証マークが出るのは NFT 保有者だけ、 といった機能をプラットフォームから提供する、とか • この場合、NFT を活用したサードパーティのサービスが登場し、エコシステ ムとして確立するか否かがカギになる