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Marketing

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マーケティングは「販売を不要にする価値づくり」

加藤拓巳

April 01, 2022
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  1. 価値とは コスト 販売価格 (付加)価値 価値とは「販売価格 ­ コスト」 • 価値とは「価格の⾼さ」ではない •

    価値とは「機能の多さ」ではない • 価値とは「技術の新しさ」ではない
  2. 価値は問題解決から⽣まれる 顧客はなんらかの問題を解決するために商品を買っている1 1: Christensen, C. M., Cook, S., & Hall,

    T. (2005). Marketing malpractice. Harvard business review, 83(12), 74-83. 消費者⾃⾝も⾔われないと気づかない 潜在的な困りごと(実⽤的+⼼理的)を発⾒する 価値づくりに最も重要な仕事 この仕事をおろそかにすると,顧客にとってなんの役にも⽴たない商品を 頑張って売る仕事(≠マーケティング)に追われることになる
  3. 消費者は問題解決にお⾦を払う ソファーが洗えていなくて 気持ち悪い 欲しいものがあるけど 外出が⾯倒 ⽔・お茶だと 油っぽいものを⾷べにくい クリエイターの仕事の効率 をもっと⾼めたい 仕事に疲れて

    現実逃避したい 情報が氾濫しすぎて 必要な情報が得られない 家族と⼀緒に 楽しく過す時間が少ない スポーツでまだ ⽬標スコアに達していない 消費者がわざわざ⾼いお⾦・貴重な時間を使うのは,問題を解決してくれる商品・サービス
  4. 時代は「価格競争」or「感性的価値競争」へ 1: 延岡健太郎. (2006). 意味的価値の創造: コモディティ化を回避するものづくり. 國⺠經濟雜誌, 194(6), 1-14. 技術発展のSカーブと競争領域1

    時間 顧客ニーズ 性能 技術 技術競争 価格競争 感性的価値競争へ移⾏ ⾃動運転等の⼀部先端技術を除き,多くの技術で性能向上が価値にならない状態
  5. 機能的価値の役割 価値 = 機能的価値 (前提条件) 感性的価値 (価値の差別化) これなしに価値創造 などありえない これなしに価格競争を

    脱することは難しい 機能的価値は”時代遅れ”なのではなく,商品・サービスの「前提条件」であり,極めて重要。 しかし,価値として差別化する役割は,感性的価値が果たす。
  6. 「差」と「違い」 差ではなく違いを活かせ (本⽥宗⼀郎) 競 合 ⾃ 社 性能 価値観2 価値観1

    競合A 競合C 競合D 競合B 空いてる 既存の性能指標・価値観での「差の競争」 「違いの競争」 必要な問い 競合・消費者が既存指標に 囚われている現在の状況で (1)まだ解決されていない 消費者の問題は︖ (2)それを解決したら 喜んで⾼い⾦を払うか︖
  7. マーケティングプロセス 研究 商品企画 量産設計 広告宣伝 営業・販売 カスタマー サクセス ⼯程 部署

    中央研究所 / R&D / マーケティング R&D / マーケティング R&D / マーケティング/ デザイン マーケティング / 広報 営業 / マーケティング 営業 / サービス / マーケティング タスク 顧客理解 デザイン設計 テレビ広告 店舗設計 営業フォロー 基礎研究 競合分析 デザイン検証 デジタル広告 営業ツール ロイヤルティ プログラム 応⽤研究 コンセプト策定 技術設計 Web・SNS 販促DM送付 苦情対応 開発研究 コンセプト検証 技術保証 需要予測 商談シナリオ設計 品質不良対応 先端技術調査 マーケティングの真の範囲 (商品ブランドマネジメント)
  8. コンセプトがすべての出発点 研究 商品企画 量産設計 広告宣伝 営業・販売 カスタマー サクセス ⼯程 部署

    中央研究所 / R&D / マーケティング R&D / マーケティング R&D / マーケティング/ デザイン マーケティング / 広報 営業 / マーケティング 営業 / サービス / マーケティング タスク 顧客理解 デザイン設計 テレビ広告 店舗設計 営業フォロー 基礎研究 競合分析 デザイン検証 デジタル広告 営業ツール ロイヤルティ プログラム 応⽤研究 コンセプト策定 技術設計 Web・SNS 販促DM送付 苦情対応 開発研究 コンセプト検証 技術保証 需要予測 商談シナリオ設計 品質不良対応 先端技術調査 コンセプトは,あらゆるマーケティングプロセスの礎となる コンセプト に向けた研究 コンセプト の具現化
  9. 消費者が価値を判断する「真実の瞬間」 商品・広告・販売店を分断せず,コンセプトを⼀貫して具現化することが重要 Concept ZMOT (Zero Moment of Truth) Webサイトや⼝コミを⾒たとき FMOT

    (First Moment of Truth) 店頭で商品を⾒たとき SMOT (Second Moment of Truth) 商品・サービスを利⽤したとき Moment of Truth (真実の瞬間)
  10. 機能要件・デザイン要件はコンセプトの後で 機能要件 ・5GBの超薄型ハードディスク ・最⾼1,000曲までのCD品質の⾳楽を保存 ・CD1枚の⾳楽を10秒以内でダウンロード デザイン要件 ・スクロールホイールにより素早く⽚⼿で操作 ・ほんの数秒で⽬的の曲を探せるUX ・ポケットに⼊るシンプルなデザイン Who

    What How 楽曲の⼊れ替えに不便を感じている⼀般消費者 全ての楽曲をポケットに⼊れて聴くことができる 1,000曲がCD品質で⼊るポケットサイズの記憶媒体 Apple. (2001).アップル、iPodを発表. 10/24, https://www.apple.com/jp/newsroom/2001/10/23Apple-Presents-iPod/ (2020/4/1アクセス) iPod (2001) ポケットに1,000曲を
  11. 普遍的な⼈間の欲求 (マズローの欲求段階説, Maslow's hierarchy of needs) 技術進化によって⼿段は変わり続けても,⼈間の欲求(価値の源泉)はいつの時代も普遍的 ⽣理的欲求 (美味しいものを)⾷べたい /

    (快適に)寝たい / 異性にモテたい(⼦孫を残したい) 安全欲求 安⼼・安全・快適に⽣活したい / 健康でいたい / ⽣活に困らない収⼊が欲しい 社会的欲求 社会的集団に所属していたい / 友⼈と楽しく会話したい / 家族で良い思い出をつくりたい 承認欲求 褒められたい・評価されたい / 何者かとして認められたい / 時代の先端にいると⾒られたい ⾃⼰実現欲求 理想を実現したい / ⾃分らしく⽣きていきたい / ⽬標に向けて成⻑したい ⾃⼰超越欲求 世の中を良くしたい / 後世のために社会を変えたい / 社会的弱者を救いたい 1 2 3 4 5 6 Maslow, A. H. (1954). Motivation and personality. New York: Harper & Row.; Maslow, A. H. (1971). The farther reaches of human nature (Vol. 19711). New York: Viking press. Maslow A. H. (1969). The farther reaches of human nature. Journal of Transpersonal Psychology, 1(1), 1–9.
  12. 普遍的な⼈間の欲求 (マズローの欲求段階説, Maslow's hierarchy of needs) ⽣理的欲求 (美味しいものを)⾷べたい / (快適に)寝たい

    / 異性にモテたい(⼦孫を残したい) 安全欲求 安⼼・安全・快適に⽣活したい / 健康でいたい / ⽣活に困らない収⼊が欲しい 社会的欲求 社会的集団に所属していたい / 友⼈と楽しく会話したい / 家族で良い思い出をつくりたい 承認欲求 褒められたい・評価されたい / 何者かとして認められたい / 時代の先端にいると⾒られたい ⾃⼰実現欲求 理想を実現したい / ⾃分らしく⽣きていきたい / ⽬標に向けて成⻑したい ⾃⼰超越欲求 世の中を良くしたい / 後世のために社会を変えたい / 社会的弱者を救いたい 1 2 3 4 5 6 レベル⾼ ⼈間的欲求に突き刺さる,⽣理的欲求〜承認欲求までを狙う⽅が効果的 Maslow, A. H. (1954). Motivation and personality. New York: Harper & Row.; Maslow, A. H. (1971). The farther reaches of human nature (Vol. 19711). New York: Viking press. Maslow A. H. (1969). The farther reaches of human nature. Journal of Transpersonal Psychology, 1(1), 1–9.
  13. アップデート時のコンセプト策定プロセス 問題認識 時代洞察 今のお客様の 潜在的な問題 ⾼い確率で想定される 技術進化・社会変化が 新たに⽣み出す問題 Step1 Step2

    本質的な価値の決定 Step3 コンセプト策定 Step4 input output 守るべき価値 + 変えるべき価値 誰に・何を・どのように 「現在の問題」 + 「⾼い確率で想定される技術進化・社会変化によって新たに⽣まれる問題」
  14. 提案コンセプト︓「あれ俺詐欺」の撲滅 Kato, T., Koizumi, M. (2024). Verification of the concept

    of utilising personal computer log management technology to improve employee motivation. Communications in Computer and Information Science, 1-10. Springer. 「あれ俺詐欺」を撲滅し、真の⽴役者を適切に評価 部下に任せきりなのに、成功の⽴役者とみなされている⼈。 内容を理解してすらいないのに、 ⼝のうまさで成果をとっていく⼈。 こうした「あれ俺詐欺」が横⾏している企業の⼈事評価は実に不公平。 真の⽴役者を⾒逃しているこの状態は、企業にとって⼤きな損失です。 そこで、各従業員の成果物ファイルの更新内容、議事録やメールの⽂⾯、 社内承認システムのログ等から、各従業員のパフォーマンスを可視化します。 「なぜあの⼈が昇進︖」という謎が発⽣せず、成果に応じた報酬が得られる制度へ。
  15. ランダム化⽐較試験の結果 「サボりの検知」ではなく,「真の⽴役者の検知」を⽬的にしたシステムなら,従業員の⼠気を向上 サボりの検知 健康問題の検知 真の⽴役者の検知 モチベーションが⾼まる割合a 有意差なし (p-value=0.992) 有意差あり (p-value=0.007)

    0% 10% 20% 30% Kato, T., Koizumi, M. (2024). Verification of the concept of utilising personal computer log management technology to improve employee motivation. Communications in Computer and Information Science, 1-10. Springer.
  16. ランダム化⽐較試験の結果 技術訴求するよりも,求められていないバズワードよりも,「移動を感じない」快適さの価値が⾼い コネクテッド AIコンシェルジュ エンタメ 移動 を感じない 魅⼒ 0% 10%

    20% 30% 40% 50% p=0.987 p=0.817 p=0.012* Kato, T., Tsuda, K. (2024). Concept development to increase the consumer value of autonomous driving technology. Proceedings of the 2024 International Conference on Decision Aid Sciences and Applications, 1-5, IEEE.
  17. 「エシカル消費」の注⽬度 1:Yoon, S., & Park, Y. (2021). Does citizenship behaviour

    cause ethical consumption? Exploring the reciprocal locus of citizenship between customer and company. Asian Journal of Business Ethics, 10(2), 275-292. 2:Johnson, O., & Chattaraman, V. (2019). Conceptualization and measurement of millennial's social signaling and self-signaling for socially responsible consumption. Journal of Consumer Behaviour, 18(1), 32-42. 3: Google Trend. 2013/4­2023/9. 「エシカル消費」 消費者は社会問題に配慮した商品重視の姿勢を強めており1,若い世代ほどその傾向が強い2 0 20 40 60 80 100 2013-04 2014-04 2015-04 2016-04 2017-04 2018-04 2019-04 2020-04 2021-04 2022-04 2023-04 検索量(相対値) Googleでの「エシカル消費」の検索量3
  18. 気候変動対策に対する認識 気候変動対策は,世界の⼈々には⽣活の質を良くする機会,⽇本⼈には⽣活の質を下げる脅威 World Wide Views on Climate and Energy. (2015).

    The WWViews Results Report. https://climateandenergy.wwviews.org/download-results/ 66% 81% 81% 75% 67% 65% 62% 49% 43% 17% 7% 6% 7% 2% 8% 21% 11% 0% 5% 23% 27% 13% 11% 23% 25% 14% 27% 51% 52% 60% 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 世界 (n=8,685) フランス (n=1,094) イタリア (n=202) インド (n=104) アメリカ (n=272) 中国 (n=100) 韓国 (n=84) イギリス (n=100) ベトナム (n=100) ⽇本 (n=100) ⽣活の質を向上させる機会になる ⽣活の質には影響しない・わからない ⽣活の質に対する脅威になる
  19. 常飲するコーヒーの要因 (1/2) コーヒーの既存⽂献から主要な要因を抽出,エシカル消費の既存⽂献からエシカル要因を抽出 ブランド 商品品質 販売チャネル エシカル要因 • ブランドコンセプト •

    評判 • 広告 • 味 • ⾹り • 産地 • 価格 • ⽴地 • キャンペーン • 環境配慮 • ⼈権配慮 • 社会的責任 エシカルの既存⽂献 本研究 コーヒーの既存⽂献
  20. ロイヤルティに対して主要要因は正の影響,エシカル要因は負の影響に 常飲するコーヒーの要因 (2/2) 加藤拓⺒, 潮崎真惟⼦, 伊熊結⾐, 池⽥亮介, ⼩泉昌紀. (2024). エシカル消費における態度-⾏動の乖離メカニズムとエシカル要因を価値に転換するコンセプトの検討.

    マーケティングレビュー ロイヤルティ ブランド因⼦ エシカル因⼦ 商品品質因⼦ 販売チャネル因⼦ 0.207* 0.515*** 0.270*** -0.149* CFI=0.975, GFI=0.938, AGFI=0.907, SRMR=0.035, RMSEA= 0.063 ***p<0.001; **p<0.01; *p<0.05.
  21. ランダム化⽐較試験の結果 貧困・児童労働の深刻さを訴えるよりも,労働条件による商品品質の⽅が魅⼒が⾼い 0 1 2 3 4 5 1 魅力の平均値

    統制群 労働条件の良さ 環境の良さ 貧困問題 労働条件 環境 p値=0.022* p値=0.069 0 1 2 3 4 5 1 魅力の平均値 統制群 労働条件の良さ 環境の良さ 統制群 労働条件 環境 p値=0.022* p値=0.069 統制群 処置群1 処置群2 魅⼒の平均値 貧困問題を解決する コーヒー⾖ 児童労働によって成り⽴っている ビジネスの⼀つにコーヒー農園があります。 私たちはこの問題に⽴ち向かっています。 フェアトレード認証を受けたコーヒー⾖は 低価格で買い叩かれる問題をなくし、 農園の働く環境を守っています。 誰かの苦労の上に成り⽴つ商品をなくし、 より良いビジネスを⽬指します。 優れた働く環境だからこそ⽣まれる⾼品質 コーヒー⾖は、⾮常に繊細な性質を持っています。 ちょっとした⼿⼊れの積み重ねで、品質はまったく変わります。 つまり,産地以上に、⽣産者の環境の⽅が味を左右します。 劣悪な環境で働いて、良いコーヒー⾖になるわけがありません。 私たちは、世界有数の優れた環境の農園のみと契約しています。 だからこそ、美味しいんです。 ⼟が良いからこそできる良質なコーヒー⾖ 品質の低い⾖は焙煎しても本来の酸味・⽢味が出ず、苦みが際⽴ちます。 コーヒーの味を決める最⼤の要因は、⾖を育む⼟です。 したがって、良質なコーヒー⾖を⽣産するためには、 まずはじめに優れた環境を整える必要があります。 私たちは、⽬指す味わいから逆算し、⼟壌づくりからはじめています。 こだわり抜いたこの⼟だからこそ⽣まれる⾵味を、ぜひお楽しみください。 統制群︓貧困問題 処置群 1︓労働条件の良さ 処置群 2︓環境の良さ 加藤拓⺒, 潮崎真惟⼦, 伊熊結⾐, 池⽥亮介, ⼩泉昌紀. (2024). エシカル消費における態度-⾏動の乖離メカニズムとエシカル要因を価値に転換するコンセプトの検討. マーケティングレビュー
  22. アニマルウェルフェアを価値に転換するコンセプト 0% 20% 40% 60% 80% 肯定的な回答率 美味しそう p値=0.014* 動物衛⽣の向上を⽬的として、狭いケージに押し込めるのではなく、

    放牧して飼育しています。 広い環境で⽜を飼育しているため、ストレスが少なく、美味しさを引き出された⽜⾁です。 さらに、よく運動をしているため、⾝が引き締まっており、良質な⾚⾝になっています。 エシカル訴求 価値訴求 Kato, T., Yuasa, C., Takita, N. (2025). Proof of concept to increase the perceived value of ethical produce. Proceedings of the 11th International Symposium on Affective Science and Engineering, 1-4.
  23. END