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ITエンジニアのためのコーポレートファイナンス入門シリーズ! #5 「現在価値」を理解する

ITエンジニアのためのコーポレートファイナンス入門シリーズ! #5 「現在価値」を理解する

次のオンラインイベントの投影資料です。

ITエンジニアのためのコーポレートファイナンス入門シリーズ! #5 「現在価値」を理解する
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Takahiro Esaki

June 05, 2025
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Transcript

  1. ‐ 2 ‐ ‐ 2 ‐ 講師紹介 【経歴】 ◼業務/ITコンサルティング •

    基幹システム運用保守業務改革 • 基幹システム刷新PMO • サプライチェーン最適化/需要予測最適化 • データ分析システム刷新PM/アーキテクチャ設計 など ◼新規事業開発・アジャイル開発・ローコード開発 • クラウドソーシングプラットフォームサービス • アパレルプラットフォームサービス • 海外クリエーター向けe-Learningサービス など ◼CSM (カスタマーサクセスマネージャー) • AI & Cloudソリューションの活用促進 • コミュニティ活動・アドボケート活動 など ※本講演・本資料は所属組織を代表するものではございません ※発表者は財務/金融の専門家ではなく、個人的な勉強目的で調査した内容を共有します 江﨑 崇浩 (Takahiro Esaki) X @t_esaking LinkedIn ファイナンスの研修やクライアント調 査などで有価証券など分析 ※FASなどでガチのDDやバリュエー ションをしていたわけではない 会社設立や資金調達に向けた計画策定 をしようとしていた 社内向けにコーポレートファイナンス の勉強会を実施
  2. ‐ 3 ‐ ‐ 3 ‐ 勉強会の目的 ◼ 目的 •

    コーポレートファイナンスを基軸に、「投資家」「経営層」の視点から企業活動を学んでいく ◼ なぜ? • ITの世界で仕事をする上で、やはりファイナンスリテラシーは大事 ✓ 数多のITプロジェクトは企業や政府にとってはIT投資 ✓ 数字的な裏付けがないとプロジェクトの実施判断/評価ができない • ITエンジニア個人にとってもファイナンスリテラシーを持った方が有利 ✓ 経営戦略・ビジネス環境の変化に対して自分の考えを持てる、大事な情報にキャッチアップできる ✓ クライアント、Manager-Upとのコミュニケーションが円滑になる、共通の話題で話せる ✓ (一般的に)自身もManager-Upになれやすいorなってからもお金の話で苦労しにくくなる ✓ キャリアアップの可能性が広がる。他社だけでなく自分の組織の財務状況も理解できるようになる ◼ 目指すところ • コーポレートファイナンスを「完全に理解した(気になる)」 ✓ 一度や二度話を聞いただけで習熟するのは無理。「ワタシハファナンスチョットデキル」は至難な道 ✓ 情報量が多くて簡単ではないので、すぐ忘れたり分からなくなったりするのは普通 ✓ ベースとなる概念やキーワードに触れながら、興味を持ってアンテナを張れるようになるのを目指す
  3. ‐ 4 ‐ ‐ 4 ‐ レベル コンテンツ Entry Foundat

    ion Practice 学習のロードマップ ファイナンスの 全体像 ファイナンスに 必要な会計 ファイナンス分析 手法 現在価値 (PV) 資本コスト (WACC) 事業価値の算出 (DCF法) 株主市場での評価 M&A 株主還元政策 /IR政策 ◼ EntryレベルからFoundationレベルを勉強会で取り扱う予定 ◼ スコープや内容は適宜様子を見ながら調整します 本日のスコープ
  4. ‐ 6 ‐ ‐ 6 ‐ ファイナンスの全体像 ◼ 財務三表は次のようなスコープの活動結果を示すための資料 事業

    (資産) 有利子負債 (Debt) 株主資本 (Equity) 資金の運用 資金の調達 企業 投資先/取引先 投資 リターン <投資活動> 債権者 株主 投資 リターン 投資 リターン <調達活動> B/S P/L (& C/F) P/L (& C/F) このチャートはしっかり覚えましょう!
  5. ‐ 8 ‐ ‐ 8 ‐ 財務分析指標 ROS 売上高営業利益率 ROA

    総資産事業利益率 ROI 自己資本利益率 ROIC 投下資本利益率 自己資本比率 財務レバレッジ 固定比率 損益分岐点比率 PBR 株価純資産倍率 PSR 株価売上高倍率 PER 株価収益率 CCC キャッシュ コンバージョンサイクル WACC 加重平均資本コスト EBITDAマージン 配当性向 バフェット指標 ◼ 財務分析にはたくさんの指標がありますが、どんなイメージ持っていますか? 出典:『魔法少女まどか☆マギカ』 わけがわからないよ・・・ どうして人間はそんなに、 難しい言葉ばかり使おうとするんだい?
  6. ‐ 9 ‐ ‐ 9 ‐ 原因 結果 財務分析の基本 収益性

    生産性 いかに儲かっているか? (売上の内、利益はどれ程残すか?) いかに効率的に稼ぐか? 安全性 成長性 いかに業績が伸びているか? いかに安定しているか? (余裕があるか?) 本日は主に収益性・生産性に焦点を当てて、ROA, ROE, ROIC, ROI, EBITDAの5つを勉強 ◼ 基本:各種指標は、次の4つの性質にブレイクダウンされる
  7. ‐ 10 ‐ ‐ 10 ‐ ROX四天王のまとめ ROX四天王 英語名称 計算式

    説明 ROA Return On Asset • 「収益性」「生産性」の指標の王様。 総合力を表すと言われる ROE Return On Equity • 「収益性」「生産性」「財務レバレッ ジ」の指標で、投資家から集めた資本 でどれくらい稼げるかを示す ROIC Return On Invested Capital • 経営者目線で、事業に投下した資本(株 主資本・有利子負債)でどれくらい稼げ るかを示す • WACC(資本コスト)と比較することで、 資本運用の効率性を判断できる ROI Return On Investment • 特定の事業・プロジェクトでどれだけ の利益を上げているか示す • ROA・ROE・ROICと違って財務諸表か ら読み取るものではない 営業利益 ×(1 – 実効税率) 投下資本 (当期純)利益 自己資本 (営業)利益 総資産 利益 投資額
  8. ‐ 11 ‐ ‐ 11 ‐ ROA ROA = 利益

    総資産 = 営業利益 売上高 × 売上高 総資産 収益性 生産性 営業利益率 総資産回転率 • 利益のところは当期 純利益にしたりする こともあるみたい 日本の上場企業の平均:ROA=5%(営業利益率8%*総資産回転率6%) ◼ ROA(Return On Assets):総資産利益率 • 「収益性」「生産性」の指標の王様。総合力を表すと言われる • 利益率が高くても、回転率があまりに 低いと困る • 例:総資産1億円で、100万円仕入れ て200万円で売るビジネス。だけど、 年間で1回しか売れない場合 • 利益率 = 1 / 2 = 50% • 回転率 = 2 / 100 = 2% • ROA = 1% * 単位:million
  9. ‐ 12 ‐ ‐ 12 ‐ ROE ROE = 当期純利益

    自己資本 = 当期純利益 売上高 × 売上高 総資産 × 総資産 自己資本 収益性 生産性 売上高当期純利益率 総資産回転率 財務レバレッジ 2014年伊藤レポート「最低限 8%を上回る ROE を達成することに各企業はコミットすべき」 一方、シティ証券G取締役副会長コラム「日本ではROEが過大評価されている」 安全性の指標 (=自己資本比率) の逆数 ◼ ROE(Return On Equity):自己資本利益率 ◼ 「株主から集めた資本でどれくらい利益をあげているか?」 この3要素に分けるこ とをデュポン分析と呼 ぶらしい
  10. ‐ 13 ‐ ‐ 13 ‐ ROIC ROIC = 営業利益

    ×(1 – 実効税率) 投下資本 投下資本は次の2つの計算方法がある • 資本の「調達」面でのアプローチ →投下資本=株主資本+有利子負債 (仕入債務は除外) • 資本の「運用」面でのアプローチ →投下資本=運転資本+固定資産 (投資その他資産、仕入債務は除外) WACCはDCF法による企業価値の算出にあたって大事な要素。今後の勉強会のテーマ ◼ WACCとの比較:ROIC が WACC を上回る時、EV(Enterprise Value/企業価値) は拡大する • WACC (Weighted Average Cost of Capital) :加重平均資本コスト ✓ 簡単に言うと、株主資本・有利子負債それぞれの事情を勘案した期待収益率のこと(ハードルレート) ✓ 経営者はWACC以上の利回りを上げることが資本家(株主・債権者)から期待されている ◼ ROIC(Return On Invested Capital):投下資本利益率 • 企業の「稼ぐ力」を評価する指標 • 投資家目線というより経営者目線 ◼ 参考:ROIC経営 • オムロンのROIC経営 • それ間違ったROIC経営です。~ROIC経営がうまくいかない訳~
  11. ‐ 14 ‐ ‐ 14 ‐ ROI ◼ ROI(Return On

    Investment):投資利益率 • 特定の事業・プロジェクトでどれだけの利益を上げているかが分かる指標 ROI = 利益 投資額 会社全体の成績ではなく、あくまで特定の 事業やプロジェクトの文脈 ROA・ROE・ROICと違って財務諸表から読み取るものではない
  12. ‐ 15 ‐ ‐ 15 ‐ EBITDA ◼ EBITDA(Earnings Before

    Interest, Taxes, Depreciation and Amortization) →利払い前・税引き前・減価償却前利益 • 企業特有の事情や国の税金などの違いによらず、どれだけ稼げるか・キャッシュを作れるかの実力を知るための指標 • 主にグローバル企業の収益分析やM&Aの検討にあたって使われることが多い ◼ CF (キャッシュフロー)との違い • FCF (フリーキャッシュフロー):利息・税金・減価償却後に残ったキャッシュを示す • 基本的な考え方としては、EBITDAと営業CFは似ているが、次のような違い ✓ EBITDA:営業活動による理論的なキャッシュ創出能力 ✓ 営業CF:営業活動を通して実際に創出したキャッシュ (売掛金・買掛金や税金支払などの実績も含まれる) EBITDA = 営業利益+減価償却費 or 経常利益+支払利息+減価償却費 or 税引前当期純利益+特別損益+支払利息+減価償却費 or 当期純利益+法人税等+特別損益+支払利息+減価償却費 支払利息 稼ぎ 有形固定資産の減価償却 税金 無形固定資産の減価償却 ~の前 ◼ EBITDAを使った指標 • EBITDAマージン = EBITDA / 売上高 ✓ 減価償却などの影響を除いた企業の収益力 • EV/EBITDA倍率 = 企業価値 / EBITDA ✓ 企業価値がEBITDAの何倍になっているかを示す。要はどれくらい割安か・どれくらいで投資回収で生きるかを判断できる
  13. ‐ 17 ‐ ‐ 17 ‐ 100万円の価値 ◼ 質問1 •

    あなたには、今日100万円もらうか、1年後100万円もらうかの権利があります。 • どちらを選びますか? ◼ 質問2 • 今日100万円、1年後101万円では? ◼ 質問3 • 今日100万円、1年後105万円では? ◼ 質問4 • 今日100万円、1年後110万円では? ◼ 質問5 • 今日100万円、1年後150万円では? この価値判断はどうやって行われているの?
  14. ‐ 18 ‐ ‐ 18 ‐ 100万円の価値 ◼ 現在価値の概念:「一年後の100万円より、今日の100万円」 •

    100万円を年利5%で運用できれば、105万円になる • 105万円=今日の100万円の将来価値(FV:Future Value) • この時の5%=期待収益率 • 年利5%で運用したら一年後に100万円になるのは、95.2万円 • すなわち、95.2万円=「1年後の100万円」の現在価値(PV:Present Value) • この時の5%=割引率 • コーポレートファイナンスの世界はすべて現在価値で評価する • 例: ✓ 企業価値の算定→買収 ✓ プロジェクト価値の算定→実行判断 ✓ 確定型給付年金の保険料 現在価値が全ての基本。これをどう計算するかが難しいテーマ
  15. ‐ 19 ‐ ‐ 19 ‐ 複利:現在価値の計算の重要な前提 ◼ 100万円を年利5%で10年間運用した場合の将来価値(FV)は? •

    単利:毎年5万円もらえるから、150万円!! • 複利:毎年元本が年利通りに増えて、それをさらに運用していくという発想。 ✓ 1年目 :100万*(1+0.05) = 105万 ✓ 2年目 :100万*(1+0.05)*(1+0.05) = 110.25万 ✓ 5年目 :100万*(1+0.05)^5 = … ✓ … ✓ 10年目 :100万*(1+0.05)^10 = 162.89万 ✓ https://www.fukuri.info/ 「複利」は金融/財務の世界で大前提
  16. ‐ 20 ‐ ‐ 20 ‐ 複利:めっちゃすごい! c.f. 「72の法則」 年利のN%の場合、元本を2倍にするための大体の年数は72/Nで求められる

    →年利3%:24年、年利5%:14.2年、年利10%:7.2年 ◼ アインシュタインの名言: • “Compound interest is man’s greatest invention. He who understands it, earns it. He who doesn’t pays it.” • 「複利は人類による最大の発明だ。知っている人は複利で稼ぎ、知らない人は利息を払う」 ◼ 何がすごい? • 元本が小さくても、指数関数的に増えていく(雪だるま式)
  17. ‐ 21 ‐ ‐ 21 ‐ 「複利」から現在価値を考える:打ち出の小槌 割引率と評価年数を決めれば、現在価値を求めることができる。 ◼ 「毎年大晦日に100万円もらえる打ち出の小槌」はいくらで買う?

    ◼ 考え方のポイント • 期待収益率5%で運用すると、0年目の100万円は10年後162万円になる • つまり、10年目の162万円は0年目の100万円と釣り合う • 要は、将来のお金を現在価値に戻すには期待収益率(割引率)で割引をするのが必要 • ここで、「複利」を考慮して割引を累乗計算していくことが必要 ✓ 1年後の100万円:100万/ (1+0.05)^1 = … ✓ 2年後の100万円:100万/ (1+0.05)^2 = … ✓ 5年後の100万円:100万/ (1+0.05)^5 = … ✓ … ✓ 10年後の100万円:100万/ (1+0.05)^10 =… • あとは、小槌を利用する期間を決めて累計すれば 現在価値を求めることができる
  18. ‐ 22 ‐ ‐ 22 ‐ 参考:永久債(コンソル公債)の発行 ◼ 永久債(コンソル公債) •

    償還期限がなく、永久にリターンを得ることができる債権 • 要は、毎年100万円を永遠もらえる商品のようなもの ◼ 現在価値の計算 • この商品価格も、現在価値と割引率の考え方を使えば、次のように計算できる(無限等比数列の和) • 割引率 (期待収益率:今回で言うと市場利子など)を i とすると、 債権価格 (現在価値) = 100万円 1 + i + 100万円 (1 + i)^2 + 100万円 (1 + i)^3 ・・・ = 100万円 i i = 0.01だったら、 1億円ということになる!
  19. ‐ 23 ‐ ‐ 23 ‐ 企業価値と現在価値 ◼ 企業価値を算出するには? •

    「企業価値」=「将来獲得するキャッシュフローの大きさ」 • 「将来獲得するキャッシュフローの大きさ」を現在価値で計算することが命題となる ◼ 「現在価値」算出の要素は?計算する上で重要なのは? • 資産:今、いくらあるの? • 収益:将来、いくら生み出すの? • 評価期間:将来をどこまで考えるの? • 割引率:将来の生み出すお金は、今と比べるとどれくらい割引されるの? (今のお金が将来どれくらいになるのが期待されているの?) 割引率は指数計算されるので影響が大きい 企業価値算出では、期待収益率=割引率の計算がポイントとなる
  20. ‐ 32 ‐ ‐ 32 ‐ まとめ ◼ コーポレートファイナンスの世界はすべて「現在価値」で評価する ◼

    「現在価値」算出の要素として、「割引率」(期待収益率)が大事 • 複利の効果も相まって、大きな影響を及ぼす ◼ 企業の現在価値の算出にあたっては、 割引率として「資本コスト」(WACC)を考慮する → 次回のテーマ
  21. ‐ 33 ‐ ‐ 33 ‐ レベル コンテンツ Entry Foundat

    ion Practice 次回の予定 ファイナンスの 全体像 ファイナンスに 必要な会計 ファイナンス分析 手法 現在価値 (PV) 資本コスト (WACC) 事業価値の算出 (DCF法) 株主市場での評価 M&A 株主還元政策 /IR政策 ◼ 今回のふりかえりも軽くしつつ、次のテーマも柔軟にやっていこうと思います 次回のスコープ
  22. ‐ 34 ‐ ‐ 34 ‐ 参考書籍 https://amzn.asia/d/2u2fUsi https://amzn.asia/d/40U0ak4 コーポレートファイナンス実践講座

    (中央経済社) コーポレートファイナンス 戦略と実践 (ダイヤモンド社)