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September 17, 2026

負債のメタファと2026年 / Debt Metaphor in Agentic Engineering Age 202609 Edition

2026年9月17日(木)
技術的負債に向き合うConference 2026
https://technical-debt-con.findy-tools.io/2026

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  1. 負債のメタファと2026年 Sep 17, 2026 @ 技術的負債に向き合うConference 2026 rev.3 Takuto WADA

    id:t-wada fi 📷🙆 🙆 @t̲wada @twada @twada #技術的負債con̲ ndy
  2. From Technical Debt to Cognitive and Intent Debt (2026) by

    Margaret-Anne Storey Nicole Forsgren の SPACE 論文の 共著者でもある https://queue.acm.org/doi/10.1145/3807966
  3. Triple Debt Model From Technical Debt to Cognitive and Intent

    Debt: Rethinking Software Health in the Age of AI, ACM Queue 24(2), 2026 年 6 月, DOI 10.1145/3807966 https://queue.acm.org/doi/10.1145/3807966
  4. Technical Debt(技術的負債) From Technical Debt to Cognitive and Intent Debt:

    Rethinking Software Health in the Age of AI, ACM Queue 24(2), 2026 年 6 月, DOI 10.1145/3807966 https://queue.acm.org/doi/10.1145/3807966
  5. Technical Debt(技術的負債)の定義を『Managing Technical Debt』に求める 訳 翻 • In software-intensive systems,

    technical debt consists of design or implementation constructs that are expedient in the short term but that set up a technical context that can make a future change more costly or impossible. Technical debt is a contingent liability whose impact is limited to internal system qualities primarily, but not only, maintainability and evolvability. • ソフトウェア集約型システムにおいて、技術的負債とは、短期的には都合がよいが、将来の 変更をより高コストまたは不可能にする技術的文脈を作り出してしまう、設計上または実装 上の構成物からなる。技術的負債は偶発債務(※)であり、その影響はシステムの内部品 質、主として(これらには限らないが)、保守性と進化可能性に影響を及ぼす。 (翻訳、強調は講演者) ※偶発債務: 将来の事象次第で債務になるかどうかが決まるもの 『Managing Technical Debt』 p.5 —­ https://www.amazon.co.jp/dp/013564593X
  6. Technical Debt に対する AI の影響 • そもそもコードを読み書きする主体が AI になった •

    初期のコーディングエージェントは保守性に優れないコードを量産しがちだった • 2025年11月以降、保守性に優れないコードは生成されにくくなってきた (November 2025 in ection) • コード生成速度が人が読める速さを超え、レビューが形骸化しはじめている • 技術的負債の影響を受ける対象にも AI が加わった • 保守性に優れないコードやアーキテクチャには、コーディングエージェントもトークン と時間を余計に使う • 昨今では技術的負債を「AI が馬力を出して返済する」選択肢も出てきた fl • これは AI によるポジティブな影響といえる
  7. Cognitive Debt(認知負債) From Technical Debt to Cognitive and Intent Debt:

    Rethinking Software Health in the Age of AI, ACM Queue 24(2), 2026 年 6 月, DOI 10.1145/3807966 https://queue.acm.org/doi/10.1145/3807966
  8. Cognitive Debt(認知負債)の定義 訳 翻 • Cognitive debt is a team-level,

    project-level property re ecting the erosion of shared understanding across a software system over time. This erosion manifests as increasingly inadequate shared mental models that developers rely on to reason about the system and change it safely and con dently. • 認知負債とは、ソフトウェアシステムをめぐる共有理解が時間とともに侵食されていくこと を表した、チームレベル・プロジェクトレベルの性質である。この侵食は、開発者がシステ ムについて推論し、安全にかつ自信を持ってシステムを変更する際に頼る共有メンタルモデ ルが、次第に不十分になっていくという形で現れる。 (翻訳、強調は講演者) From Technical Debt to Cognitive and Intent Debt: Rethinking Software Health in the Age of AI, ACM Queue 24(2), 2026 年 6 月, DOI 10.1145/3807966 fl fi https://queue.acm.org/doi/10.1145/3807966
  9. Cognitive Debt は以前からあった 訳 翻 • 認知負債は新しいものではない。開発者は長らく、複雑なシステムについての不完全で分散 した理解とともに働いてきた。新しいのは、このギャップが蓄積しうる速さと、AI 支援開 発においてそれを検出することの難しさである。

    • 開発者がコードを一から書くとき、たとえ汚いコードであっても、その摩擦と労力によっ て、少なくとも部分的なメンタルモデルがその過程で作られる。実装が不完全であっても、 開発者はそのコードが何をしようとしているか理解しようと努める。AI が同じコードを生 成すると、開発者は同じ水準の理解を築かないまま受け入れてしまうかもしれない。 • 規模が大きくなり、チームにまたがり、時間が経つと、これはチーム全体にわたる「知らな いこと」の蓄積を生む。コードは動くが、システムがどう振る舞い、それをどう推論すれば よいかの理解とメンタルモデルは欠けているか、もしくは誤っている。 (翻訳、強調は講演者) From Technical Debt to Cognitive and Intent Debt: Rethinking Software Health in the Age of AI, ACM Queue 24(2), 2026 年 6 月, DOI 10.1145/3807966 https://queue.acm.org/doi/10.1145/3807966
  10. Cognitive Debt に対する AI の影響 • コードを人が書かなくなり、開発過程で形成されるメンタルモデルが形成されなくなった • 以前はコードを書くという生産行為が副産物として理解を作っていたので、認知負債は 主に離職で生じた

    • 生成 AI は生産と理解の結びつきを切ったので、誰も辞めずチームが存続したままでも 認知負債が積み上がるようになった • 開発における摩擦が減り、理解の不足がさらに見えにくくなった • 結果として、認知負債が積み上がる速度が圧倒的に速くなった
  11. Intent Debt(意図負債) From Technical Debt to Cognitive and Intent Debt:

    Rethinking Software Health in the Age of AI, ACM Queue 24(2), 2026 年 6 月, DOI 10.1145/3807966 https://queue.acm.org/doi/10.1145/3807966
  12. Intent Debt(意図負債)の定義 訳 翻 • There is a third layer

    of debt that has received less attention, but which becomes increasingly critical as AI systems take on larger roles in software development: Intent debt refers to the absence or erosion of explicit rationale, goals, and constraints that guide how a system evolves. • 負債には第三の層がある。これまであまり注目されてこなかったが、AI システムがソフト ウェア開発でより大きな役割を担うにつれて、この層はますます重要になる。意図負債と は、システムがどのように進化していくかを導くための明示的な根拠、目標、制約が存在し ない、または侵食されていることを指す。 (翻訳、強調は講演者) From Technical Debt to Cognitive and Intent Debt: Rethinking Software Health in the Age of AI, ACM Queue 24(2), 2026 年 6 月, DOI 10.1145/3807966 https://queue.acm.org/doi/10.1145/3807966
  13. Intent Debt も以前からあった した非コード成果物に宿る。要求文書、アーキテクチャ決定記録、実装計画、テスト、仕様 といった成果物は、システムが何をすべきかについての外部化された記憶である。これらの 情報が存在しないか、不完全か、断片化しているか、古くなっていると、意図負債は返済で きず、システムは本来の目的から徐々に離れていく。そして開発者チームにも、AI エージェ ントにも、信頼できる指針の源がなくなる •

    意図負債もまた、ソフトウェアエンジニアリングにおいて、とりわけ大きなチームにとって 馴染みのある課題である。プロジェクトは昔から、右往左往する要求、明文化されない仕様 や判断、少数のステークホルダーの頭の中にしか存在しない目標や制約に苦しんできた。意 図を捕捉する最善のタイミングは、重要な判断が下されるその瞬間である。意図を後から回 復するのは難しく、ときには不可能になる(後から対処できる技術的負債と異なる) (翻訳、強調は講演者) From Technical Debt to Cognitive and Intent Debt: Rethinking Software Health in the Age of AI, ACM Queue 24(2), 2026 年 6 月, DOI 10.1145/3807966 https://queue.acm.org/doi/10.1145/3807966 訳 翻 • 技術的負債がコードに宿り、認知負債が人に宿るのに対して、意図負債は不完全または欠落
  14. Intent Debt に対する AI の影響 • AI エージェントが能動的参加者になったことで緊急性が増した • 意図の読み手に

    AI が加わったが、 AI は書かれた意図しか読めない • 意図が充分に残っていないと、 AI エージェントは誤った目的に最適化する • AI が生成したコードコメントやドキュメントに残った意図の多くは AI がもっともら しく行間を埋めた結果であり、人の判断と見分けがつきにくい • そもそも判断が速く多くなり、意図を記録できる唯一の瞬間を逃しやすくなった
  15. 生成 AI の影響により、三つの負債は互いに増幅/減衰しあう From Technical Debt to Cognitive and Intent

    Debt: Rethinking Software Health in the Age of AI, ACM Queue 24(2), 2026 年 6 月, DOI 10.1145/3807966 https://queue.acm.org/doi/10.1145/3807966
  16. 3つのなかでも特に認知負債が手強い • これまで人間は(良くも悪くも)対象を理解していないとコードは書けなかった • 速度と内容と理解の同期が取れていた • 現在は理解していなくとも(理解より速く)コードが生成されるようになった • 速度と内容と理解がそれぞれ乖離している •

    開発の過程で形成されるはずだったメンタルモデルが形成されなくなった • Agentic Coding がより大規模並列化するとこの傾向が強まる • 技術的負債(※狭義)は見えるが、認知負債は見えない • いまのところ理解の乖離を測るメトリクスはない • これまでは出力内容が理解の度合いの代用特性になっていた • 現在では設計の理解をおきざりにして開発速度(例えば DORA メトリクス)を上げられる • 「生産性」を上げたい組織と個人の共犯関係が成り立ってしまう • 人事評価制度のアップデートが急務となる(インセンティブを変える必要がある)が、 測れない問題に対処しなければならないので、手強い
  17. Thinking̶Fast, Slow, and Arti cial: How AI is Reshaping Human

    Reasoning and the Rise of Cognitive Surrender fi fi https://www.researchgate.net/publication/399711077̲Thinking-Fast̲Slow̲and̲Arti cial̲How̲AI̲is̲Reshaping̲Human̲Reasoning̲and̲the̲Rise̲of̲Cognitive̲Surrender
  18. Cognitive Surrender(認知的降伏)の定義 訳 翻 • We de ne cognitive surrender

    as the behavioral and motivational tendency to defer judgment, e ort, and responsibility to System 3's output, particularly when that output is delivered uently, con dently, or with minimal friction. • 私たちは認知的降伏を、判断、労力、責任をシステム3の出力に委ねてしまう行動上および 動機上の傾向と定義する。とりわけ、その出力が流暢に、自信ありげに、あるいはほとんど 摩擦なく届けられるときに起きる。 • ※ システム3: D.Kahneman のシステム1(速い直感)とシステム2(遅い熟慮)に、 Shaw らがシステム3(AI)を足した (翻訳、強調は講演者) Shaw, S. D., & Nave, G. (2026). Thinking̶Fast, Slow, and Arti cial: How AI is Reshaping Human Reasoning and the Rise of Cognitive Surrender. The Wharton School, University of Pennsylvania. SSRN 6097646 / PsyArXiv fi fi fi fl ff fi https://www.researchgate.net/publication/399711077̲Thinking-Fast̲Slow̲and̲Arti cial̲How̲AI̲is̲Reshaping̲Human̲Reasoning̲and̲the̲Rise̲of̲Cognitive̲Surrender
  19. Cognitive Surrender(認知的降伏)の仕組み • 熟慮(システム2)は自動では動かず、直感(システム1)が「何かおかしい」という 摩擦を検知したときに起動する • AI の流暢で自信ありげな出力はその摩擦を起こさず「有識者の意見」 として受け取られ、疑いが起動しにくくなる(流暢性のヒューリスティック) •

    思考を熟慮(システム2)へ回すはずの「ちょっと待てよ」というメタ認知の信号が弱まる • 熟慮の段階を飛ばして、覆すことも、理由を自分の言葉で言うこともないまま、AI の答え が自分の答えになる • しかも人間の自信は(AI が間違っていたときでさえ)上がる。だから本人には認知的降伏 が自覚できない Shaw, S. D., & Nave, G. (2026). Thinking̶Fast, Slow, and Arti cial: How AI is Reshaping Human Reasoning and the Rise of Cognitive Surrender. The Wharton School, University of Pennsylvania. SSRN 6097646 / PsyArXiv fi fi https://www.researchgate.net/publication/399711077̲Thinking-Fast̲Slow̲and̲Arti cial̲How̲AI̲is̲Reshaping̲Human̲Reasoning̲and̲the̲Rise̲of̲Cognitive̲Surrender
  20. 理解の自動化の誘惑に抗う: 「理解したつもり」の方が危ない • コードだけでなく、説明やドキュメントも AI に書かせたくなる • すると、誰も理解していないのに「システムの説明」だけが出来上がる • それは見せかけの理解であって、本物の理解ではない

    • しかも流暢で自信ありげなので、理解がないことに気づきにくくなる • 重要なメンタルモデルを築く手間を省いて理解の成果物だけを作るプラクティスには慎重に ならなければならない • 将来の開発者の中核スキルはコードを書くことではなく「システムが何をするもので、なぜ そうなっていて、どう進化できるかについての正しい理解を維持すること」かもしれない From Technical Debt to Cognitive and Intent Debt: Rethinking Software Health in the Age of AI, ACM Queue 24(2), 2026 年 6 月, DOI 10.1145/3807966 https://queue.acm.org/doi/10.1145/3807966
  21. Ward Cunningham の Debt Metaphor を2026年から見てみると • Ward の Debt

    Metaphor (1992) • (※ 「技術的」がついて意味が希薄化する前の「負債」のメタファー) • 学びを得るためにそのときの理解でコードを書く • 得られた学びをコードに反映しないでいると、開発と共に得られていく知識 や理解と目の前のシステムとの乖離が生産性低下を引き起こす • 人間達の理解が先行し、コードがついてきていない状態 • 認知負債 (2026) • AI によるコード生成が先行し、人間の理解がついてきていない状態 • 34年の時を経て構図が逆転し、より手強くなった https://t-wada.hatenablog.jp/entry/ward-explains-debt-metaphor