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あるRailsエンジニアがビジネスリーダーに転身するまで
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Yuichi Goto
April 07, 2023
Technology
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あるRailsエンジニアがビジネスリーダーに転身するまで
April 5, 2023 @ CTO名鑑 vol.3
Yuichi Goto
April 07, 2023
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Transcript
あるRailsエンジニアが ビジネスリーダーに転身するまで Yuichi Goto (@_yasaichi) April 5,2023 @ CTO名鑑 vol.3
自己紹介 Yuichi Goto ピクスタ株式会社 執行役員CTO @_yasaichi
@
[email protected]
@yasaichi 2
ピクスタ株式会社の紹介 日本本社とグループ会社(海外開発拠点含む)から構成されており,複数の クリエイティブ・プラットフォーム事業を運営している 2015年9月に旧・東証マザーズ市場へ上場し,2020年からはいわゆる第二 創業期を迎えた状態 [1] 2022年末時点のグループ社員数が132名,うちエンジニア,デザイナー, 研究職が約50名で,本社CTOと海外開発拠点代表の2名で管掌している 3
これまでのキャリア 2009年: 大学に入学,授業でプログラミングに出会う 2013年: ピクスタ株式会社にアルバイトのエンジニアとして入社 2015年: 大学院を修了,同社に正社員のエンジニアとして入社 2017年: 同社のリードエンジニアに就任 2020年:
執行役員CTO 兼 開発部長に就任 4
主な著作1: Ruby on Railsの正体と向き合い方 (2019年) 画像出典: https://speakerdeck.com/yasaichi/what-is-ruby-on-rails-and-how-to-deal-with-it 5
主な著作2: パーフェクトRuby on Rails (共著,2020年) 画像出典: https://gihyo.jp/book/2020/978-4-297-11462-6 6
主な著作3: texta.fm (2020年〜) 画像出典: https://podcasters.spotify.com/pod/show/textafm 7
主な著作4: 経営とソフトウェアエンジニアリングの接続 (2022年) 企業価値の向上のために技術組織が行うべき 取り組みをコーポレートファイナンス視点から 説明しようと試みたもの 画像出典: https://web-salad.hateblo.jp/entry/2022/09/30/130000 8
興味を持たれそうなこと 比較的短期間でCTOになっていること: 職業エンジニアになってから7年, フルタイムで働き始めてから5年でCTOに就任している 技術と経営の両方に一定の見識を持つこと: Ruby on Railsとコーポレート ファイナンスに関する話が同一人物から発信されている 技術力にかなり強みのある方という印象なのですが,その方から
「経営とソフトウェアエンジニアリングの接続」のエントリは良い 意味でギャップがありました かわまたさん 9
逆に,個人的にお話したいこと 本イベントの開催概要内のこの一節 画像出典: https://forkwell.connpass.com/event/277994 10
CTOは「エンジニアキャリアにおける一つの着地点」か 過去に私もCTOはマネジメントキャリアの終着点に位置するように見えて いたので,この一節はとても理解できる 現在では,CTOはエンジニアとしてのキャリアの終着点というよりは経営者 としてのキャリアの出発点であり,必要なスキルも異なると考えている なぜCTO観が変化したのか,どのようなスキルが必要だと考えているかを 共有することで,これからCTOを目指す方の一助になるのではないか 11
本発表の目的とアプローチ 本発表の目的: 比較的短期間でCTOになれた理由の説明を試みること 過去と現在でCTO観が変化した(≒技術と経営の両方に一定の見識を 持てた)理由の説明を試みること アプローチ: 自身のキャリアをリードエンジニア就任の前後で二分割し, 各々の期間で起きた出来事からポイントとなる要素を抽出する 12
以降の構成 1. 第一部: エンジニアとして身を立てるまでの道のり 2. 第二部: ビジネスリーダーへ転身するまでの道のり 3. まとめ 13
目次 1. 第一部: エンジニアとして身を立てるまでの道のり i. 重要だった出来事 ii. 比較的短期間でCTOになれた理由 2. 第二部:
ビジネスリーダーへ転身するまでの道のり 3. まとめ 14
2009〜12年: プログラミングとの出会いと独学 「白衣姿で実験する自分が想像できない」という理由で非自然科学分野の 理系学部・学科を選んで進学したところ,授業でプログラミングに出会う 授業を経てプログラミングに適性を感じたが,同時期に「クリティカルイブ (※)」を見て真に受けてしまい,これを稼業にしようとは思わなかった プログラミング自体は専攻の課題でRに触れてさらに面白くなり,Twitterが 採用していたのと日本語情報が多いという理由でRubyを独学し始める RとRubyを使って行ったクチコミ分析で卒論を書き,学部を修了する ※
山下達郎さんの「クリスマスイブ」の替え歌コピペで,「バグは夜更け過ぎに仕様へと変わるだろう」で始まる 15
2013年: 短期インターンでIT業界への印象が変化 時代背景: ビッグデータ元年(例: Hadoop,統計学が最強の学問である) 就活に向けた準備をしておこうと思い,大学院入学前に短期インターンを 行ったところ,ネガティブだったIT業界への印象が良くなる IoT領域のスタートアップでデータ分析と予測モデル実装業務に従事 リモートワークを基本に不定期でオフィスに集まる柔軟な働き方を体験 短期間だったにも関わらず,スキルが伸ばせて給与もしっかり貰えた
16
2013年〜: 和田卓人さんとの出会いと問答 時代背景: Railsがソフトウェア開発の中心地(例: GitHub,RSpec) プログラミングスキルをもっと伸ばそうと考え,大学院入学後ピクスタ社に アルバイトのRailsエンジニアとして入社し,和田卓人さんと出会う 当時,和田さんにはテスト拡充のコンサルティング業務を依頼していた 一緒にペアプロをしたことで和田さんに話しかけやすくなり,それ以降 今日まで続く質疑応答の日々が始まる
17
2015〜16年: プロダクトではなく基盤作りを選択 Webアプリケーション開発の基礎を経験し,インフラ周りに興味が出てきて いたので,開発・運用の両方を行う基盤チームの一員として正社員入社 当時は会社に依存しない働き方を志向しており,正社員入社時に行われた 面接では「IT芸人(※)になりたい」という迷言を吐いていたらしい ID基盤や分散テスト実行基盤の構築などの難度の高い課題に取り組み 短期間で技術力が向上したことで,翌年よりリードエンジニアに就任 ※ 当時の雰囲気はmasuidriveさんの投稿記事「エンジニアのキャリア?『IT芸人』とは
[2]」が詳しい 18
目次 1. 第一部: エンジニアとして身を立てるまでの道のり i. 重要だった出来事 ii. 比較的短期間でCTOになれた理由 2. 第二部:
ビジネスリーダーへ転身するまでの道のり 3. まとめ 19
理由1: 身を置く環境を意図して選んでいたから プログラミングと和田さんに出会えたのは偶然ではあるが,その偶然を引き 寄せる環境を(そのとき考えられる範囲内で)意図して選んでいる 1. 非自然科学分野の学部・学科を選択 → 将来の稼業と出会う 2. 2013年にRails採用企業でアルバイト
→ 学びの師と出会う 3. プロダクトではなく基盤作りを選択 → 成長機会を得る 2023年現在なら,AI,Robotics,Climate Tech分野の専攻・企業を選ぶ 20
理由2: 具体と抽象の往復を心がけたから 和田さんとの質疑応答をはじめとしたあらゆる場面で,より抽象的な概念を 意図して獲得しようとすることで絶対的な経験不足を補おうとしていた 例1: 「早期リターン」の話を入口に「契約による設計」の話にたどり着く 例2: 話の最後に必ず「今まで話したことと全く関係なくてもよいが,これ だけは言っておきたいということはあるか」と聞く(※) 得られた概念を日々の業務に適用(=具体化)することで活用していた
※ これはちきりんさんのブログ記事「アドバイスの正しいもらい方 [3]」の受け売り 21
2023年現在なら,具体と抽象の往復に大規模言語モデルの助けを借りる プロンプトを少し工夫するだけで 「契約による設計」に辿りつけた 画像出典: https://chat.openai.com 22
目次 1. 第一部: エンジニアとして身を立てるまでの道のり 2. 第二部: ビジネスリーダーへ転身するまでの道のり i. 重要だった出来事 ii.
過去と現在でCTO観が変化した理由 3. まとめ 23
2017〜18年: 技術的ベストを尽くしたプロダクトの失敗 担当チームのピープルマネジメントの傍らで当時の新規事業のインフラ・ CD・テーブルの設計に携わり,持てる限りの経験・知識を注ぎ込んだ 当時のCTO観: CTOはマネジメントキャリアの終着点に位置するように 見えていたので,技術を極めたかった自分は目指していなかった 短期では素早く開発ができ,長期では破綻しない技術選定を心がけたが, 事業価値向上への貢献実感は得られないまま,のちに当事業から撤退 24
2019年: 書籍『LeanとDevOpsの科学』との出会い 前述の事業での経験などを通じて開発関連の売上原価・販管費に興味を 持ち,当時の上長から費用管理業務の一部を移譲してもらう 同時期に『LeanとDevOpsの科学』を読み,「ソフトウェアデリバリのパフォ ーマンスが組織の業績(※)に影響を及ぼす」という主張に感銘を受ける 当時のCTO観: CTOは技術,組織,ビジネスの交差点に位置するように 見えていたので,レベル感は違えど近いことをやっていそうと思っていた ※
本書の調査では,「収益性」「市場占有率」「生産性」の観点で組織の業績を測定している 25
2019年: CTO Night & Dayでの大先輩方との出会い 上長の勧めでCTO Night & Dayというイベントに技術責任者として参加し, 「技術だけでなく経営上必要なことは何でもやる,事業計画書も書く」という
大先輩方の姿勢に感銘を受ける 当時のCTO観: イベントを通じてCTOの役割は技術系出身の(執行)役員 として経営の意思決定に技術的な観点を反映させることだと考え始める 数週間後に執行役員人事の打診があり,翌年より執行役員CTOに就任 26
2020年〜: 複数事業経営への対峙 執行役員として経営に携わる中で,複数事業経営にあたってコーポレート (ファイナンス|ガバナンス)の知識が不可欠と実感,関連書を読み漁る 現在のCTO観: CTOはコーポレートファイナンスを共通言語として持ち, 企業価値向上のための経営を執行するOfficer(後述)の一員 もし単一事業経営であれば,上記の考えには至らずに現場を良くすること だけに注力していたはずで,ここでも環境選びが偶然を引き寄せている 27
目次 1. 第一部: エンジニアとして身を立てるまでの道のり 2. 第二部: ビジネスリーダーへ転身するまでの道のり i. 重要だった出来事 ii.
過去と現在でCTO観が変化した理由 3. まとめ 28
理由: CTOの負う結果責任に対する認識が変化したから 前述の大先輩方との出会いとコーポレートガバナンスの学習により,CTOが 何に対して結果責任を負うのかという認識が次のように変化した 過去: 最高技術責任者の文字通り,担当企業の技術全般に責任を負う 現在: 企業価値向上のための経営を執行する責任を負う 負っている結果責任がマネジメントキャリアの時と根本的に異なるので, エンジニアとしてのキャリアの終着点ではなく,求められるスキルも異なる
29
なぜ「企業価値向上のための経営」なのか 次の事実から,企業がその存在意義を果たすには企業価値を向上し続ける 必要があるから(※)。 企業がその存在意義を果たすには,株主のキャピタルゲイン(株価の値上 がり)期待に応えることで,株式会社として存続し続ける必要があること 理論株価は企業価値から有利子負債額を除いた株主価値を株式総数で 割ったものなので,企業価値の向上に伴って値上がりすること ※ 詳しくは冒頭に紹介したブログ記事「経営とソフトウェアエンジニアリングの接続」を参照のこと 30
+ 企業価値 事業価値 ⾮事業価値 FCF 営業利益 売上⾼ WACC 1 -法⼈税率
減価償却費 運転資本増加額 設備投資額 売上原価 販売費 ⼀般管理費 ÷ − − − 技術組織が改善可能 × + − − DCF(※)法により算出される企業価値の分解例 コーポレートガバナンスを学習すると 企業価値を要素分解して改善できる ※ 「Discounted Cash flow」の略で,事業の将来FCFをWACCを用いて現在価値に換算したものを事業価値とする手法 31
なぜCTOは「経営を執行する責任を負う」べきか 次の事実から,日本企業におけるCTOはアメリカの企業統治形態における 一機関である「Officer」の一員とみなせるから。 主にコーポレートガバナンス・コードの制定・改訂により,日本の株式会社の 統治形態をアメリカ型に近づける試みが過去10年間行われてきたこと [4] アメリカ型の企業統治形態(※)では経営の監督と執行を担う機関が分離 されており,前者がDirector,後者がOfficerであること [5] ※
アメリカ型の企業統治形態を専門的には「Anglo-American model」と呼ぶ 32
アメリカにおける一般的な企業統治形態 OfficerはBoard of Directorsに対して 経営の執行に対する結果責任を負う 図出典: Corporate Governance and Strategic
Decision Making [5] 33
日本の会社法における公開会社かつ大会社の統治形態 執行役がアメリカ型の Officerに相当する 図出典: サステナブル経営とコーポレートガバナンスの進化 [4] 34
余談: なぜ執行役員制度を導入するのか 指名委員会等設置会社は他の形態よりも必要な社外取締役の数が多く, 人員確保の難易度や役員報酬が増加するため,導入の障壁が高い(※) 他の形態であっても執行役に相当する役職として執行役員を独自に導入 すれば,経営の監督と執行を分離でき,企業統治体制を強化できる 一方で,執行役員が処遇のためのポストとして悪活用されることも多く [6], このような場合は特にその役割や結果責任が不明瞭になりやすい ※
2022年8月時点で東証上場企業3770社のうち,指名委員会等設置会社はわずか88社しかない [7] 35
目次 1. 第一部: エンジニアとして身を立てるまでの道のり 2. 第二部: ビジネスリーダーへ転身するまでの道のり 3. まとめ 36
本発表で伝えたかったこと 比較的短期間でCTOになれた要因として,「身を置く環境選び」と「具体と 抽象の往復」を意識して行っていた点が挙げられること CTOはエンジニアとしての終着点でなく経営者としての出発点であり,企業 価値向上のための経営を執行する責任を負うOfficerの一員であること 上記の考えに至るにはコーポレートガバナンスの,その役割を果たすには コーポレートファイナンスの知識が必要だと考えていること 37
前哨戦としての一冊: LeanとDevOpsの科学 本書の調査研究の成果の構造(付録A 図1)は, CTOとしてコーポレートファイナンスの観点から 技術組織改善を考える時のそれに近い 裏を返せば,本書の構造に興味を持てると経営者 としてのキャリアにも興味を持てる可能性がある これからOfficerの一員であるCTOを目指す方で, 未読であれば一度読んでみるとよいかも
本書を本イベントの CTOの一冊とします! 38
参考: 『LeanとDevOpsの科学』 以外で思考に影響を与えた書籍 ※ 免責: 『テスト駆動開発』と『チームトポロジー』の出版にはレビュアーとして関与しています 39
ご清聴ありがとうございました This presentation is created by Marp. Great thanks @yhatt!
40
参考文献 1. ピクスタ+(プラス) 「PIXTAとは何者か? 第二創業期にも等しい思い切った挑戦がしたい」,URL: https://plus.pixt a.co.jp/n/na4e025d0d8be 2. masuidrive 「エンジニアのキャリア?『IT芸人』とは」,URL:
https://qiita.com/masuidrive/items/8d9bb0cfc20 96c4eb8db 3. Chikirin 「アドバイスの正しいもらい方」,URL: https://chikirin.hatenablog.com/entry/20090121 4. 松田千恵子(2021) 『サステナブル経営とコーポレートガバナンスの進化』,日経BP 5. Emeagwali,O.L.(Ed.)(2017),Corporate Governance and Strategic Decision Making: InTech 6. 柴田彰,酒井博史,諏訪亮一(2021) 『経営戦略としての取締役・執行役員改革』,日本能率協会マネジメントセンタ ー 7. 株式会社東京証券取引所 「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設 置状況」,URL: https://www.jpx.co.jp/equities/listing/ind-executive/nlsgeu000005va0p-att/nlsgeu00000 6jzi1.pdf 41