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がんばらないアクセシビリティ / Accessibility Without the Stru...

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April 23, 2025

がんばらないアクセシビリティ / Accessibility Without the Struggle

Qiita Conference 2025での登壇資料です。

Google Slides版はこちら

以下は資料内に登場するリンクです

おすすめの書籍・資料
見えにくい、読みにくい「困った!」を解決するデザイン
ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック
Webアプリケーションアクセシビリティ――今日から始める現場からの改善(7章の連載:
アクセシビリティを組織で向上させる-──たった一人から始めて-社内に認知されるまで

モバイルアプリアクセシビリティ入門⁠─iOS+Androidのデザインと実装
altディシジョンツリー
武器になるHTML

ツール
axe-core
Accessibility Visualizer

Web記事
「誰でも使える」ように、アクセシビリティ向上に向けて取り組んだこと
「Webアプリケーションアクセシビリティ」どこから読む?
freee、「合理的配慮の対応方針」公開のお知らせ 障害のあるお客様等が「合理的配慮」について相談できる専用のお問い合わせ窓口を設置

楽天ブックス キャンペーン
Webアプリケーションアクセシビリティ(アクリルスタンド・サイン本)
Webアプリケーションアクセシビリティ(アクリルキーホルダー・サイン本)
モバイルアプリアクセシビリティ入門(アクリルスタンド・サイン本)
モバイルアプリアクセシビリティ入門(アクリルキーホルダー・サイン本)
Webを支える技術(アクリルスタンド・サイン本)
Webを支える技術(アクリルキーホルダー・サイン本)
オブジェクト指向UIデザイン(アクリルスタンド・サイン本)
オブジェクト指向UIデザイン(アクリルキーホルダー・サイン本)
縁の下のUIデザイン(アクリルスタンド・サイン本)
縁の下のUIデザイン(アクリルキーホルダー・サイン本)

調査資料等
令和4年 生活のしづらさなどに関する調査
障がいのある方々のインターネット等の利用に関する調査研究
令和6年版高齢社会白書
令和6年末現在における在留外国人数について

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April 23, 2025
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Transcript

  1. ⾃⼰紹介 • ymrl (やまある‧⼭本伶) ◦ フリー株式会社 UIデザイナー/フロントエンドエンジニア • 2017年ごろからfreee社内のアクセシビリティの活動を始める ◦

    2019年、社内デザインシステムの構築のためにデザイナーに転⾝ • 2023年、共著書「Webアプリケーションアクセシビリティ」出版 • 他社のアクセシビリティ改善の⽀援や、 アクセシビリティチェックのためのツール開発などもしています
  2. 「いまはそういうユーザー、いないから……」 • 本当にいない? • そのユーザーにとって使えない状態なせいで、使ってもらえてないのでは? • これからもそういうユーザーはいないまま? ◦ 会社が、⾼齢者や障害者や外国ルーツの⼈を雇うかもしれない ◦

    たまたま、⾼齢者や障害者や外国ルーツの⼈が使い始めるかもしれない ◦ いまのユーザーが、病気や怪我で障害者になるかもしれない ◦ 10年後、30年後、50年後には、いまのユーザーは⾼齢者になっている
  3. アクセシビリティについてのよくある誤解 • ❌ 視覚障害者のためのもの • ❌ ⾳声読み上げのこと • ❌ 障害者や⾼齢者のためのもの

    • ❌ 障害者や⾼齢者にしかメリットがないもの • ❌ Webの話だから私の仕事(アプリ、業務システム、ゲーム、etc)には関 係のないもの
  4. 障害の社会モデル • 障害の医学モデル: 医学的な観点から「障害者」を定義 ◦ あなたの⾝体や⼼がこういう状態なので、あなたは障害者です ◦ 「障害」は個⼈の側に存在する • 障害の社会モデル:

    社会が不便なせいで、その⼈は「障害者」になっている ◦ 社会の側が、あなたの⾝体や⼼の状態に対応できていません ◦ 「障害」は社会の側に存在する
  5. アクセシビリティの法的位置付け • ⽇本では、障害者差別解消法の改正で、合理的配慮の提供が義務化(2024) ◦ 過重な負担にならない範囲で、障害者の求めに応じて対応を⾏う ◦ アクセシビリティは「環境の整備」として努⼒義務に位置付け • 海外では⺠間に対しても法的な義務付けをしている場合がある ◦

    ⽶国: リハビリテーション法508条、障害を持つアメリカ⼈法など ◦ 欧州: 欧州アクセシビリティ指令 • ⽇本は法的な義務付けがなく、公共機関のWebサイトでも実践できていない ◦ 総務省の求める基準を達成できていないWebサイトが約半数
  6. アクセシビリティは、特別なことではない • ⾊やフォントやレイアウトを⼯夫して、⾒やすい画⾯にする ◦ 弱視や⽼眼の⼈が使えるようになる ◦ そうでない⼈にとっても、⾒やすいほうがいい • キーボードだけで操作できるようにする ◦

    ⼿や腕の障害でマウスが使えない⼈、⾳声読み上げで操作する⼈も使える ◦ ⼿をホームポジションから動かしたくない⼈にとっても助かる • 動画に字幕をつける ◦ 聴覚に障害のある⼈も、⽇本語が得意でない⼈も、動画の内容がわかる ◦ ⾳量を上げなくても内容がわかる、早送りで内容を把握できる
  7. 丁寧に作る • Webやモバイルアプリのアクセシビリティで、まず求められるのは、 “丁寧な” 設計(デザイン)や実装(コーディング)を徹底すること ◦ ⾒やすい画⾯、理解しやすいUI、わかりやすい⾔葉 ◦ 標準にのっとった実装、⼀貫した挙動 •

    それぞれはさほど難しくなく、意識している⼈も多いものだが、 「やらなければいけないこと」として⾔語化されず、徹底されていない • 後回しにして「アクセシビリティ対応」として切り出すと、 「丁寧な作り直し」になってしまい、莫⼤な⼯数がかかる
  8. がんばらないポイント: いきなり全部やろうとしない • 「Webアプリケーションアクセシビリティ」は分厚いことで有名 ◦ それでも載せきれなかったことが沢⼭ある ◦ 読むだけでも⼤変、実践するのはさらに⼤変 • ⼊⾨おすすめルート

    ◦ 「困った!」と「導⼊ガイドブック」をみんなで読む ◦ 「Webアプリケーション」7章から読む(無料で読めます!) ◦ 気になる章から読む(読む順番のガイドがあります!) ◦ 机の上に積んでおいて、必要そうなときに開いてみる
  9. わかりやすい⾔葉を使う • ⽤語や表記のルールを決めて、あらゆる場所で徹底する ◦ ⽤語の混乱(例: 「新規作成」と「作成」と「新規」と「追加」) ◦ 漢字のひらく‧閉じる(例: 「ください」と「下さい」) ◦

    送りがな(例: 「⾏なう」と「⾏う」) • ⽂章を簡潔に、わかりやすく ◦ 専⾨⽤語を避け、ユーザーの知っていそうな⾔葉を使う ◦ ⼀⽂⼀⽂を短くする、⼆重否定を避ける、など
  10. 快適なユーザーフローを実現する • 初めて使う⼈が、彼らのゴールを迷わず達成できるようにできているか? ◦ ⽬的のものを発⾒できるようになっているか? ◦ 使っているうちに迷⼦にならないか? ◦ エラーの修正⽅法が理解できるようになっているか? •

    ある程度使い慣れた⼈が、効率よく操作できるようになっているか? ◦ 毎回同じことを繰り返させられていないか? ◦ ユーザーの好みが分かれそうな設定を変更できるようにしているか?
  11. HTMLを適切に使えば、アクセシビリティは⾼くなる • HTMLの要素は、デフォルトでキーボード操作ができる ◦ Tabキーでフォーカスを移動し、Enterキーでボタンやリンクを押下、上 下⽮印キーでラジオボタンやセレクトボックスの変更など • ⾒出し(h1〜h6要素)、ランドマーク(main, header, nav要素など)で、

    スクリーンリーダーの使⽤者が素早く⽬的のものを⾒つけられる • ページ内の情報の意味(セマンティクス)が機械によって認識できるので、 Webページの閲覧‧操作をサポートする道具が作りやすい ◦ マシンリーダブル(機械可読性)
  12. アクセシビリティを上げられるHTMLの書き⽅の例 • ページ内の区切りごとに<h1>〜<h6> 要素で⾒出しを配置 ◦ ⾒出しだけを読んでページの概要を把握できるようにしておく • ⼊⼒欄の要素(<input> <select> <textarea>)には、

    <label> 要素を使う ◦ 何を⼊⼒する欄なのかを、スクリーンリーダーが認識できるように ◦ ラジオボタンやチェックボックスがクリックしやすくなる効果も • 画像(<img>要素)には、必ずalt属性をつける ◦ altデシジョンツリーを参考に ちゃんとしたHTMLの書き⽅を学ぶには 「武器になるHTML」(柴⽥宏仙 著‧技術評論社)がオススメ
  13. 標準に従うのは、UIライブラリやネイティブアプリも同じ • UIライブラリには、アクセシビリティについての考慮のあるものが多い ◦ 公式ドキュメントにAccessibilityという項⽬があればよく読む ◦ 可能であればライブラリ⾃⾝のコードを確認しながら選ぶ‧使う • iOSやAndroidも、アクセシビリティ機能が豊富 ◦

    Webよりも洗練された形で機能が提供されている ◦ 標準のコンポーネントに寄せるだけでも改善する モバイルアプリアクセシビリティ⼊⾨ ──iOS+Androidのデザインと実装(阿部諒,伊原⼒也,本⽥雅⼈,めろん 著‧技術評論社)
  14. axe-coreを利⽤する • axe-coreはアクセシビリティチェックに よく使われているライブラリ • Lighthouseのスコアリングもaxe-core • ブラウザでは、axe DevTools拡張機能が便利 •

    Playwright等と組み合わせて、CI/CDで 他のテストと同時にチェックすることもできる Qiitaの記事ページは32個の問題があった ⾒出しの先頭の空のリンクは、視覚障害者がかなり不便と⾔ってました
  15. Accessibility Visualizer • axe-coreだけでは、テキストの内容などまで 踏み込んだチェックができない • Accessibility Visualizer というブラウザ拡張機能 を開発して、その問題を改善しようとしている

    • ⽀援技術にどんな情報が伝わるかを視覚化する ことができる • 問題のあるマークアップには警告する 画像は「 駒瑠市〜アクセシビリティ上の問題の体験サイト〜」上で Accessibility Visualizerを使⽤したもの https://a11yc.com/city-komaru/
  16. 当事者に向き合う • 当事者がいないところでの改善は、なかなか当事者のためのものにならない ◦ ここまでの「がんばらない」は、当事者がいない状況でできるもの ◦ Nothing about us without

    us(私たち抜きで私たちのことを決めないで) • 本当に困っている⼈の問題に向き合うことこそ、がんばるポイント ◦ 困っている状態を解消できれば、ユーザーの幅を広げられるチャンス ◦ ユーザーの声を集めたり、困りそうな属性の⼈に会いにいく ◦ ここからが本当のアクセシビリティへの取り組みのはじまり