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アクセシビリティって何だろう? -アクセシビリティの概念、そして向き合い方まで-

Yu Morita
June 25, 2024

アクセシビリティって何だろう? -アクセシビリティの概念、そして向き合い方まで-

DMIウェビナー『アクセシビリティの本質を考える』(2024年6月25日開催)
https://dmi.jaa.or.jp/general-event/view/3713
上記イベントの第1部にて使用したスライドを公開用に編集したものです。

作者:森田 雄 / 株式会社ツルカメ
https://x.com/securecat
https://turucame.jp/

Yu Morita

June 25, 2024
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Transcript

  1. 講師紹介 • 森田 雄(もりた ゆう) • 株式会社ツルカメ 代表取締役社長 • デジタルマーケティング研究機構

    幹事/人材育成プロジェクト サブリーダー • 四半世紀以上に渡り、Webデザイン界隈で受託をやっています。 • 情報アーキテクチャとUXデザインとアクセシビリティの専門家です。 • 日本最古のアクセシビリティガイドのひとつ「altはつけるだけじゃなくて」の著者 • Web Designing 2024年6月号 特集2「Webアクセシビリティ最前線」企画・執筆 • ウェブアクセシビリティ基盤委員会 賛助会員←New! 3
  2. アクセシビリティの対象者 • 障害のある人のために、アクセシビリティを確保する • ……のではなく、障害の有無に関わらず情報を得たりサービスを利用したりできる ようにするために「アクセシビリティを確保」します。 • 障害の「有」については、内閣府の障害白書で、身体障害・知的障害・精神障害の3区 分で統計されています。 •

    この「有」以外は「無」だということはありません。障害の程度は多様だからです。 • また、人はだれしも歳をとりますが、高齢者も、身体が動きにくくなったり記憶し にくくなったりしますし、生きていれば病気や怪我により一時的あるいは恒久的な 障害者にもなることがあります。 • 状態だけでなく、障害に相当する「状況」も、誰にとっても起こります。 • つまり、アクセシビリティの対象は、「すべての人」であるといえます。 6
  3. 原理 • そもそも、インターネットという新しいメディア自体が、本質的にアクセシブルな のです。 • 「ウェブの父」といわれる、Web、URL、HTTP、HTMLの発明者であるティム・ バーナーズ=リーが、最初に言った言葉「The power of the

    Web is in its universality. Access by everyone regardless of disability is an essential aspect.(ウェブの力はその普遍性にある。障害の有無にかかわらず、 誰もがアクセスできることは不可欠な要素である。)」 • W3C WAIもその使命として「ウェブがアクセシブルになる可能性を最大に引き出 し、障害を持つ人々も平等にウェブを使えるようにする」ことを掲げています。 • メディア特性に従うならば、ウェブはアクセシブルでなければならないといえます。 8
  4. 規格 • 「ウェブアクセシビリティ」の概念は、我が国には2004年にJIS規格となりました。 • JIS X 8341-3:2004(国内外の既存ガイドラインに基づいて策定された独自規格) • JIS X

    8341-3:2010(WCAG 2.0を包含する形で改訂) • JIS X 8341-3:2016(ISO/IEC 40500:2012の一致規格になるように改訂) • JIS X 8341-3:202X(WCAG 2.2に追従する形で改訂されるはず…) • JISは各産業における各仕様の産業標準化(全国的に統一または単純化すること)を 実現するための基準であり、日本の「国家標準」です。 • 実際にも、各産業はJISに準拠することを最低限の品質あるいは達成しなければなら ない事項としていることが多いですね。 9
  5. 法律 • 産業標準化法 第69条により、国及び地方公共団体はJIS規格を尊重しなければなら ないとされています。 • 国及び地方公共団体は、基本的には、それら自体は開発・生産する母体ではなく、 民間企業に対して調達を図ります。このため、産業標準化法 第69条に基づいた実務 を行うものは、実際には民間企業であり一般国民です。

    • もちろん、調達仕様書でもJIS規格への準拠が明示的に求められています。 • 改正障害者差別解消法により、「合理的配慮の提供」が民間事業者でも法的義務と なりました。「合理的配慮の提供」を的確に行うために「環境の整備」が努力義務 として要請されていますが、ウェブアクセシビリティの確保はこれに含まれます。 10
  6. 理念 • すべての企業は、大なり小なり、何らかの理念をもっていますね。 • 広告主企業や上場企業などでは、社会への還元などを掲げるものが多くあります。 • ほとんどの場合において、理念は、対象を若者や健常者に限定していません。 • 特に言及のない限り「すべての人々」を対象にしているといえるでしょう。 •

    すべての人々に対して、貢献したり、愛したり、あるいは、幸せにしたり、笑顔に したり、未来を豊かなものにしたり、、、そうしたことを実現するために、わたし たちは存在するのだという企業理念を、みなさんも目にしたことがあるでしょう。 11
  7. 品質 • そもそも製品やサービスの作り手や提供者として、より良い品質を追い求めるのは 自然ですし、マーケティングや競争社会的な原理原則から鑑みても、至極真っ当な ことです。 • アクセシビリティの確保が、製品やサービスの品質を高めることになるというのは、 これが規格になっていたり、法律上の努力義務に含まれていたり、世界各国では罰 則付きの法律になっていたりすることからも明らかです。 •

    ユーザビリティ的な使いやすさ、提供する便益の幅広さや価値の高さ、造形的な美 しさ、ユーザーの満足度向上、そうしたものの追求に賛同するなら、アクセシビリ ティの確保・改善・向上といった営みにも、同様に賛同できるはずなのです。 • 高齢者・障害者にも、使いやすく利用のしやすい製品やサービスを提供することは、 超高齢化社会に突入している我が国の実情を鑑みても欠かせない観点です。 12
  8. メリットという観点 • 日本を代表するアクセシビリティの専門家や実務者たちによる共著「Webアプリ ケーション・アクセシビリティ」では、アクセシビリティに取り組む理由について メリットという観点でもアプローチしています。 • たとえば「ユーザーを増やせる」という事実です。 • 高齢者の人数:3,627万人(2022年, 総務省統計局)

    • 障害者の人数:身体障害者 436万人、知的障害者 109万人、精神障害者 614万人(令 和6年版 障害者白書, 内閣府) • 現状アクセスできないでいる(アクセスしにくく困っている)人たちを、そのまま ユーザーとすることができます。コンテンツやサービスの内容そのものを変更せず とも、アクセシビリティを確保するだけで可能であるというのは、重要な観点です。 ほかのメリットについては書籍「Webアプリケーション・アクセシビリティ」、または「Web Designing 2024年4月号」を、それぞれ お買い求めのうえ、ご覧くださいませ。 13
  9. 訴訟 • 我が国では、アクセシビリティは法的義務ではありませんが、世界各国では、罰則 付きで法律化されています。 • たとえばアメリカには、Section 508(リハビリテーション法508条, 1986年, 2001年施行の修正508条から罰則付き)、ADA(障害を持つアメリカ人法, 1990

    年成立, 罰則付き)、ACAA(航空アクセス法, 2009年より米国内に乗り入れる外 国の航空会社にも適用されるようになった)等があります。 • アメリカではアクセシビリティにまつわる、訴訟もたくさん起きています。全米ろ う者協会(NAD)が2010年にストリーミングサイトに対して訴訟し、2012年に Netflixが「2014年までに字幕を100%つけること」を条件にNADと和解しました。 • 日本企業もグローバル展開していれば、まったく他人事ではありません。 14
  10. SDGs • SDGsは、2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標」です。 • もちろん日本も取り組んでいます。 • アクセシビリティは、ゴール10「人や国の不平等をなくそう」と密接なかかわりが あります。年齢、性別、障害、人種、民族、生まれ、宗教、経済状態などにかかわ らず、すべての人が、能力を高め、社会的、経済的、政治的に取り残されないよう にするという内容です。

    • 障害の有無に関わらずという観点では、そもそも日本は、国連採択の「障害者権利 条約」にも2007年から批准していますし、 • もっといえば、日本国憲法(1947年施行)第13条、第14条、第25条等で、障害の 有無に関わらず、すべての人は平等に基本的人権が保障されているわけですが。 15
  11. 総論 –アクセシビリティとの向き合い方- • なぜアクセシビリティに取り組むのかについて、さまざまな観点から理由・根拠を 探ってみました。 • しっくりきたものがれば、それを拠り所にするのも良いですし、 • そうでもないなら、とにかくこれだけの理由・根拠があるのだと言い聞かせるのも また良しといえます。

    • いずれにせよ、すべての人はそもそもとして、少なくとも「潜在的な障害当事者」 に該当するのであり、すべての人がアクセシビリティの恩恵を受けるのだという、 このことだけでも、是非お持ち帰りくださいますと幸いです。 16