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実践vs理論 叩き上げのスクラムマスターが実践した手法を研究者が学術的に分析する / ...

ShinoP
August 26, 2024

実践vs理論 叩き上げのスクラムマスターが実践した手法を研究者が学術的に分析する / Practical Scrum Master vs. Theoretical Scrum Researcher

スクラムフェス仙台2024の共同登壇の資料です。

ShinoP

August 26, 2024
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Transcript

  1. 今井健男(ぼのたけ) @bonotake フリーランスアジャイルコーチ • スクラム / アジャイル導入支援、プロダクトマネ ジメント支援、開発組織づくり支援 • 現在は主にログラスで、スクラムマスター

    からのアジャイルスケーリング支援など • チーム焼肉 ソフトウェア工学研究者 • 以前、某電機メーカーの研究所にて企業研究 • 現在、国立情報学研究所にてスクラム / アジャイルの研究 自己紹介
  2. ・Case1:転ばぬ先の杖スタイル ・実践 ・学術的考察 ・ディスカッション ・Case2:忍耐スタイル ・実践 ・学術的考察 ・ディスカッション ・Case3:薪をくべるスタイル ・実践

    ・学術的考察 ・ディスカッション セッションの流れ Case毎に実践経験を 話します! Case毎に学術的考察を 行います! 学術的考察時にディスカッションもしていくよ🗣
  3. リーダーの予防的思考(preventive focus) 予防的思考 … チームの過ちを未然に防ぎ、安定した状況を維持することに重きを置く思考 Pearsall et al. (2023). Preventing

    Success: How a Prevention Focus Causes Leaders to Overrule Good Ideas and Reduce Team Performance Gains より • リーダーの予防的思考がチームのパフォーマンスにどのような悪影響が生じるか、 84組の 5人チームを作って実験 • 結果、予防的な思考を持つリーダーはメンバーの良いアイデアを過度に否定・修正し、 チームの成長機会を逃しがちな傾向 にあった ◦ チームのリスク回避傾向が強まり、新しいチャンスを探索するような活動が減少 ◦ チーム内のポジティブなムードが育たず、パフォーマンス向上が阻害される傾向
  4. パス・ゴール理論(1)概要 状況適合理論の1つ フォロワーの状況に応じて必要なリー ダーシップのスタイルは 4つの間で変化 する、とする説 転ばぬ先…スタイルは、そのうちの指 示型に相当 • やるべきことやどうすれば良い

    かをリーダーが全て指示 ※ マネージャーを意識した分類なの で、SMのスタイルとは相違点あり 不確実なタスク 自分でできる という感覚 自分では できない という感覚 明確なタスク 指示型 支援型 参加型 達成志向型 もう1つの視点から
  5. パス・ゴール理論(2) 指示型のメリット・デメリット 指示型は、やるべきタスクの不確実性 が高く、自分ではできないという感覚を 持つメンバーに効果がある 一方、自分でできるという感覚 を持つ人には受け入れられにくい = 自分で何とかしよう、と思えなく なってしまう

    つまり自律心やオーナーシップが育ち にくい 指示型 支援型 参加型 達成志向型 もう1つの視点から 不確実なタスク 自分でできる という感覚 自分では できない という感覚 明確なタスク
  6. レッセフェール型(放任型)リーダーシップ フォロワーの自律性を最大限重んじ、干渉を最低限に抑えるスタイル しかし、このスタイルは大抵うまくいかない ことが多くの研究で明らかになっている 最近の研究でも、 • ストレス、いじめ、心理的苦痛の原因になる (Skogstad et al.,

    2007) • リーダーや組織への信頼低下を招く (Tosunoglu & Ekmekci, 2016) • 組織的市民行動(OCB)を著しく損なう (Klasmeier et al., 2021) • メンタルヘルスを損ない抑うつ症状を招く (Robert & Vandenberghe, 2022) • etc.
  7. サーバントリーダーシップはレッセフェールに陥りやすい Singfiel (2018). When Servant Leaders Appear Laissez-faire: The Effect

    of Social Identity Prototypes on Christian Leaders (「サーバントリーダーがレッセフェールと見なされるとき」) より • キリスト教指導者がサーバントリーダーであろうと振舞ってい るのに、フォロワーからレッセフェールと見なされる現象を社会 的アイデンティティ理論を元に考察 ⇒ 理想的なサーバントリーダーになってると思い込んで行動 をするが実態が伴っておらず、レッセフェールになってしまう • そうならないためには、 ◦ フォロワーとの関係を重視する ◦ 理想ではなく、具体的な行動を意識する ◦ スキルを磨く (サーバントリーダーシップには多くのスキルが必要) ◦ フィードバックを重視し自己認識を高める
  8. チームメンバーからスクラムマスターの 指摘が辛いとの声が... より良くなる部分 がある所に、 関心が向けられる ようになった 問題を未然に防ぐ ことができるようになった 結果 実際の振る舞い

    伸び代の指摘 は常に行うが、 アクションに関して自分だけではやらない 転ばぬ先の杖スタイル と忍耐スタイル の良いとこ取り ができると乗り切れる 仮説 Case3:薪をくべるスタイル(まとめ)
  9. 変革型リーダーシップで考慮すべきこと Podsakoff et al. (1990). Transformational leader behaviors and their

    effects on followers’ trust in leader, satisfaction, and organizational citizenship behaviors. より • 変革型リーダーシップのフォロワーへの影響は直接的ではなく、フォロワーから リーダーへの信頼向上が仲介する 間接的なもの ◦ この研究は組織的市民行動( OCB)を対象にしているが、チームのパフォーマンス等に対しても同 様であることが定説となっている (たとえば (Schaubroeck et al., 2011)) • 一方で、短期的に知的刺激はフォロワーからの信頼を低下させる ◦ 不安定な状況、対立、ストレスを生むため ◦ Case 3において「チームメンバーからスクラムマスターの指摘が辛いとの声」があったのは、 まさにこの現象を示していそう
  10. おまけ:学術的考察で参照した文献リスト(1/2) 転ばぬ先の杖編 • Pearsall, M. J., Christian, J. S., Burgess,

    R. v., & Leigh, A. (2022). Preventing Success: How a Prevention Focus Causes Leaders to Overrule Good Ideas and Reduce Team Performance Gains. Journal of Applied Psychology, 108(7), 1121–1136. https://doi.org/10.1037/APL0000596 • ロビンス P. , スティーブン. (2009). 【新版】組織行動のマネジメント―入門から実践へ. ダイヤモンド社, 268-270. • 鈴木竜太, & 服部泰宏. (2019). 組織行動. 有斐閣, 144-148. 忍耐編 • Skogstad, A., Einarsen, S., Torsheim, T., Aasland, M., & Hetland, H. (2007). The destructiveness of laissez-faire leadership behavior.. Journal of occupational health psychology, 12 1, 80-92 . https://doi.org/10.1037/1076-8998.12.1.80. • Tosunoglu, H., & Ekmekci, O. (2016).Laissez-Faire leaders and organizations: how does Laissez-Faire leader erode the trust in organizations?. , 3, 89-89. https://doi.org/10.17261/PRESSACADEMIA.2016116538. • Klasmeier, K., Schleu, J., Millhoff, C., Poethke, U., & Bormann, K. (2021). On the destructiveness of laissez-faire versus abusive supervision: a comparative, multilevel investigation of destructive forms of leadership. European Journal of Work and Organizational Psychology, 31, 406 - 420. https://doi.org/10.1080/1359432X.2021.1968375. • Robert, V., & Vandenberghe, C. (2022). Laissez-faire leadership and employee well-being: the contribution of perceived supervisor organizational status. European Journal of Work and Organizational Psychology, 31, 940 - 957. https://doi.org/10.1080/1359432X.2022.2081074.
  11. おまけ:学術的考察で参照した文献リスト(2/2) 忍耐編(続き) • Yang, I. (2015). Positive effects of laissez-faire

    leadership: conceptual exploration. Journal of Management Development, 34, 1246-1261. https://doi.org/10.1108/JMD-02-2015-0016. • Pahi, M., Shaikh, S., Abbasi, Z., Shahani, N., & Hamid, K. (2018). Effects of Laissez-Faire Leadership on Commitment to Service Quality. Journal of Humanities and Social Sciences, 4, 110-124. • Singfiel, J. (2018). When Servant Leaders Appear Laissez-faire: The Effect of Social Identity Prototypes on Christian Leaders. Journal of Applied Christian Leadership, 12(1). https://digitalcommons.andrews.edu/jacl/vol12/iss1/7 薪をくべる編 • 野村克也. (2020). 「問いかけ」からすべてはじまる. 詩想社. • Forsgren Ph.D., N., Humble, J., & Kim, G. (2018). LeanとDevOpsの科学[Accelerate] テクノロジーの戦略的活用が組織変革を 加速する. インプレス. • Podsakoff, P. M., MacKenzie, S. B., Moorman, R. H., & Fetter, R. (1990). Transformational leader behaviors and their effects on followers’ trust in leader, satisfaction, and organizational citizenship behaviors. The Leadership Quarterly, 1(2), 107–142. https://doi.org/10.1016/1048-9843(90)90009-7 • Schaubroeck, J., Lam, S. S. K., & Peng, A. C. (2011). Cognition-Based and Affect-Based Trust as Mediators of Leader Behavior Influences on Team Performance. Journal of Applied Psychology, 96(4), 863–871. https://doi.org/10.1037/A0022625