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FLOSSむかしばなし

 FLOSSむかしばなし

Tatsuki Sugiura

April 29, 2023
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Transcript

  1. みなさん OSS 使ってますか?
 • 今やなくてはならないオープンソース・ソフトウェア
 • Ruby も Rails も

    Python も Django も PHP も laravel も nodejs も React も VSCode も Linux も みんなオープンソース!
 • Github / GitLab … を見ると無尽蔵な便利なコードがあります
 • こんなも自由にソフトウェアのコードを見たり、豊かな資源を利用して新し いものを作り出せる時代はかつてありません
 • どうやって今の状態になったんでしょうか?

  2. こんなことがありました!
 • 1973: UNIX 公開 (AT&T ベル研究所)
 • 1977: BSD

    誕生
 • 1983: RMS が GNUプロジェクトを開始
 • 1985: RMS が FSF 設立
 • 1986: RMS が Free Software の定義を発表
 • 1989: GPL (v1) 制定
 • 1991: Linux の最初のリリース
 • 1991: GPL v2 制定
 • 1992: BSDi に対し USL が訴訟
 • 1993: Ian murdock が Debian を作成
 • 1995: 4.4BSD-Lite でライセンス問題が解決
 • 1997: ESR 「伽藍とバザール」
 • 1997: DFSG, Debian 社会契約の制定 (Bruce Perens)
 • 1998: Netscape がソースコードを公開, Mozilla プロジェクト開始
 • 1998: Open Source Software という用語誕生
 • 1998: Bruce Perens, ESR ら OSI を設立, OSD 制定
 • 1998-2004: ESR がハロウィーン文書発表
 • 1999: OSIライセンス認定プログラム開始
 • 1999: Bruce Perens が OSI を退任
 • 2003: SCO が Linux に訴訟を起こす
 • 2005: GPL v3 制定
 • 2014: MS "Microsoft ♥ Linux"
 • 2019: RMS が FSF と MIT を辞任
 • 2019: redis, mongodb, kafka などが AWS に対抗してライセンスを変更
 • 2020: OSI が ESR を追放
 • 2021: Elasticsearch がライセンスを変更
 • 2021: RMS が FSF理事に復帰

  3. Richard M. Stallman (1)
 
 
 • MIT AIラボのの伝説的なハッカー
 •

    Emacs, gcc... の作者
 • 凄い変人 / 凄い頑固 / 凄い闘士で諦めない
 ◦ 極端すぎて真似できないけど、一貫して行動する人
 • 当時ソフトウェアはハードウェアのオマケだった
 ◦ 通常はソースコードが付属していた
 ◦ みんなソースコードを見て学んだり変更して使っていた
 • RMS 自身は MIT で Xerox レーザプリンタのファームウェアを変 更して便利に使っていた

  4. Richard M. Stallman (2)
 
 
 • このころ AT&T ベル研究所で

    UNIX が生まれ、その後 BSD が誕生
 • だんだんソフトウェアビジネスが広がって制限が掛け られるようになった
 • ある時プリンタのファームウェアが変更できなくなった
 • RMS怒る!
 • 曰く、ソフトウェアユーザの自由を制限することは 「人道に対する罪 (crime against humanity)」で ある

  5. Richard M. Stallman (3) - GNU
 
 
 • 不自由なソフトウェアを拒否し、全部自分達で作ろ

    う! として行動を始める
 • 私財を投入して Free Software Foundation (FSF) を設立
 • UNIX の全てを自由なソフトウェアで置き換える
 GNU (GNU is not UNIX) Project を開始
 ◦ 遠大な目標だけどやり続けた
 ◦ カーネル (GNU Hard) / コンパイラ (gcc) / ユーザラン ドのすべてのツール (coreutils, fileutils...)

  6. Richard M. Stallman (4) - FreeSoftware
 
 
 • Free

    Software (自由ソフトウェア) の定義を作成 
 • 4つの自由を定義 (0-3)
 ◦ どんな目的に対しても、プログラムを望むままに実行する自 由 (第零の自由)
 ◦ プログラムがどのように動作しているか研究し、必要に応じ て改造する自由 (第一の自由)
 ▪ ソースコードへのアクセスは、この前提条件となります
 ◦ ほかの人を助けられるよう、コピーを再配布する自由 (第二 の自由)。
 ◦ 改変した版を他に配布する自由 (第三の自由)
 ▪ これにより、変更がコミュニティ全体にとって利益となる 機会を提供できます。
 ソースコードへのアクセスは、この前提条件となりま す。

  7. Richard M. Stallman (5) - GPL
 
 
 • 強制的に自由でい続ける仕組み:

    GPL を制定
 ◦ 著作権を利用した逆著作権、みたいなトンチ
 ◦ 著作権を根拠に自由の制限を禁止する
 ▪ 禁止することを禁止。GPLはソフトが人類に対して自由
 • ついに 1990 年後半に、GNU project はカーネル以外はだいたい できあがり、実際に使えるものに!
 ◦ カーネルとしては Linux を利用して一式のシステムに仕上げる 
 → 「“GNU/Linux” と呼べ!」
 • 35年以上活動を続け初志を貫いている

  8. Eric S. Raymond (1)
 
 
 • UNIX 用メール取得ツール fetchmail

    の作者
 • Linux スタイルのソースを公開してオープンに開発するスタイ ルの開発を自分の fetchmail 開発で試す
 • その良さを文書「伽藍とバザール (The Cathedral and the Bazaar)」という文書で発表してバズる
 ◦ 「これからはバザール型開発がいいぞ!」
 ◦ その後 「ノウアスフィアの開墾 (Homesteading the Noosphere)」

  9. Eric S. Raymond (2)
 
 
 • Microsoft の社内文書のリークにコメントを付けて公表
 ◦

    ハロウィーン文書 (1-3) と呼ばれる
 ◦ この頃 Microsoft はオープンなソフトウェアに完全に否定的「オープンソースはウイルス性がある」
 ◦ 内部では脅威と認めて対抗方法を検討している、という事実が分かる社外秘文書
 ▪ 得意の FUD があまり効かない事を認めつつ、どうやって取り込み対抗するかを分析
 ◦ このあと実際 MS は大規模な FLOSS 批判キャンペーンを展開 
 (2001年の GPL 批判キャンペーンなど)
 • バザール型開発(後のオープンソース)のスポークスマン的立場に
 • Netscape のソースコード公開のきっかけを作る
 • 「自由」の側面ではなく「オープン」の側面に注目

  10. Bruce Perens (1)
 
 
 • Busybox の原作者
 • Linux

    Standard Base Project 発起人
 • 2代目 Debian Project リーダー
 ◦ ian murdock が始めた Debian GNU/Linux は FSF と関わりが深い
 ◦ 当時のソフトウェエアプロジェクトとしては珍しく、マニフェスト(理 念) が定義されていた
 ◦ Debian は完全に動作することを目指す、自由で非商用な Linux ディ ストリビューション
 ◦ 実は RMS も Debian とちょっとだけやりとりがある

  11. Bruce Perens (2)
 
 
 • Debian Social Contract と

    Debian Free Software Guidelines (DFSG) をまとめる
 ◦ Debian 開発者メーリングリストで1ヶ月以上の議論!
 ◦ DFSG は Debian が Free Software と考える定義と基準
 ▪ ざっくり要約:
 • 再配布の自由
 • 完全なソースコードの提供
 • 派生物作成の自由
 • 差別禁止
 • ESR とともに Open Source Initiative (OSI) を設立
 ◦ 翌年方針の対立で辞任

  12. Open Source Initiative
 • Netscape ソース公開のタイミングで、
 "Open Source Software" という用語を決めて団体を設立


    • OSS の普及を目指す
 • 設立とともに Open Source Definition (OSD オープンソースの定義) を 発表
 ◦ だいたい DFSG そのまま (Debian 特有の項目を削除など)
 • OSI はライセンス が OSD に準拠しているかの認証プログラムを開始
 ◦ 現在では認定済みは 90 を超える
 • “FreeSoftware” とは微妙な距離感

  13. 発展
 
 
 • OSI による OSS の「発明」はかなりの成功に
 ◦ ビジネスでも利用が可能だった


    ▪ 合法的なダンピングツールでもある
 ◦ コミュニティの成長
 • OSS を利用した開発はすっかり身近で当然なものに
 ◦ 2000年頃は「誰が書いたか分からない信頼できないものを業務で使うな」な どと言われていた
 ◦ 今では9割以上のソフトウェアプロダクトが何らかの OSS を利用していると言 われる

  14. さらに大発展
 
 
 • Linux は SCO からの訴訟をコミュニティの協力で対応
 • Free

    Software と Open Source は微妙に重なりながら発展
 • GPL v3 発表
 ◦ 自由の維持を目指してアンチパテント条項の追加
 • ずっと反 FLOSS だった Microsoft は 2013 年頃から方針転換
 ◦ 突如 “Microsoft ♥ Linux” とか言い出し、現在は世界最大 の OSS 企業に

  15. …とはいかない
 
 • 忘れられる自由の維持 / バランスをどう取るか
 ◦ OSS は広まったけど、 Free

    Software はそんなに
 ◦ GPL v3 への移行はあまり進んでいない
 ◦ GNU 曰く SaaSS (Service as a Software Substitute) によりユーザの自由が守られない
 • 大きなクラウドプロバイダ (AWS, GCP...) と OSS 開発企業との軋轢
 ◦ OSS 開発元とは関係なくクラウドベンダがマネージドサービスを提供し、還元されない
 ◦ Redis, kafka (confluent), MongoDB, Elasticsearch などが一部を非OSSライセンスに変更
 • 時代の波 (ポリコレとキャンセルとか)
 ◦ 「良いことだけさせよう」みたいなライセンスの再来
 ▪ 過去に何度もこれで失敗している

  16. • 自由ソフトウェアとは? • The Cathedral and the Bazaar: Japanese •

    なぜ、オープンソースは自由ソフトウェアの的を外すのか • The Halloween Document: Japanese • Debian 社会契約 (Version 1.0) • オープンソースの定義 (v1.9) 注釈付 • FLOSS and FOSS • Alternative terms for free software • History of the OSI • It's Time to Talk about Free Software Again 日本語訳 • オープンソースライセンスの背景と歴史 • Microsoft and open source
 参考
 引用画像は全て Wikipedia より
 • 岐路に立つオープンソース クラウド時代で変革迫られる 
 • Redis、MongoDB、Kafkaらが相次いで商用サービスを制 限するライセンス変更。AWSなどクラウドベンダによる 「オープンソースのいいとこ取り」に反発 • Elasticもライセンス変更でAWS対抗 対立するクラウドと OSS企業 • AWSのOpen Distro for Elasticsearchに異議を唱えるベン ダたち • AWSをElasticが名指しで非難 ElasticsearchとKibanaの ライセンスを、AWSが勝手にマネージドサービスで提供で きないように変更へ • 政治的問題のためRuby GemsとGitHubからChef関連の 諸々が消えた件について • Richard Stallman、FSFおよびMITを辞職 • 我々はフリーソフトウェアの定義を再考すべきなのだろう か?