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自分のやることに価値を見出だせるようになり、挑戦する勇気をもらったベイトソンの考え / Scr...

自分のやることに価値を見出だせるようになり、挑戦する勇気をもらったベイトソンの考え / Scrum Fest Fukuoka 2025

bonbon0605

March 07, 2025
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Transcript

  1. 1 KDDI Agile Development Center Corporation 1 KDDI Agile Development

    Center Corporation 自己紹介 所属 KDDIアジャイル開発センター なまえ 小笠原 晋也 Discord ogasawara その他 Scrum Fest Mikawa実行委員 DevOpsDays Tokyo実行委員 ひとこと スクフェス福岡2年振り2回目の参加です 人生で福岡に来たのも2回目です
  2. 2 KDDI Agile Development Center Corporation 2 KDDI Agile Development

    Center Corporation 最初の注意事項 • グレゴリー・ベイトソンの話をしますが、私が特別詳しいというわけではないです • あくまでも私の理解としては、という前提で聞いて頂ければと思います
  3. 3 KDDI Agile Development Center Corporation 3 KDDI Agile Development

    Center Corporation グレゴリー・ベイトソンとは • 主な著書:「精神の生態学へ」「精神と自然」 • アメリカ合衆国の人類学者、社会科学者、言語学者、映像人類学者、サイバネティシスト ◦ ダブルバインド理論 ◦ 学習のレベル理論 ◦ システム思考の基盤となる理論 • RSGT2021でZuziのキーノートに出てきた文化人類学者マーガレット・ミードの元夫 (私の印象) 本を読んでも簡単には分からないことばかりが書かれているが、基礎的で大事だと思える考え方を学べる人
  4. 5 KDDI Agile Development Center Corporation 5 KDDI Agile Development

    Center Corporation ストカスティック(確率論的)・プロセス ➢ ここに、「情報なくして無から有は生じない」という命題の逆が、ストカスティックな過程に関して、成立する。備 えがあればランダムな世界からしかるべきものを選択し、新しい情報とすることができるのだ。 『精神と自然』 p.94より引用 ランダムな要素の中から、自然淘汰などで選択されていくプロセスをストカスティック・プロセスと呼びます。 そして、私たちは大いなるストカスティック・プロセスの中に包まれているとベイトソンは言っています。 その内容を説明するために、これから生物の進化の過程の話をします。 要素 選択 要素 選択
  5. 6 KDDI Agile Development Center Corporation 6 KDDI Agile Development

    Center Corporation 種としての進化(ジェネティックな変化) 『オオシモフリエダシャクの工業暗化』と呼ばれる事例があります。 元々は、白っぽい蛾が大半の種でした。 白っぽい方が木の幹の色と同化して鳥から身を守りやすいからです。 一部、黒い蛾もいましたが、目立ってしまい捕食されやすい状態でした。 ところが、産業革命が進み、大気汚染で木が汚れて黒くなることが多くなりました。 すると、黒い蛾が生存有利になったため、大半が黒い蛾に変わっていきました。 ここでポイントとなるのは、木が黒くなってから黒い蛾が生まれているわけではないということです。 黒が正解、白が正解、ということではなく、黒と白という違い(差異)があることが重要なのです。 その違いが自然淘汰などによって選択されているのです。
  6. 7 KDDI Agile Development Center Corporation 7 KDDI Agile Development

    Center Corporation 個としての進化(ソマティックな変化) 生物の進化のプロセスの中には、個の変化もあります。 人間を例に考えると、子どもから大人になるにつれて身体的に成長しますし、 知識やスキルなどを身に着けて出来ることも変わってきます。 遺伝的に持っているものだけで全てが決まるわけではなく、 周囲の環境や学習などによって個が進化(変化)することができます。 遺伝子的に「身長が高くなりやすい」人がいたとして、 食事や運動などの環境によってもどのくらいの身長になるかは影響を受けるでしょう。 私たちが変化(学習・成長)するとき、様々な経験や知識などから有効なものが選択されます。 つまり、ここにもストカスティック・プロセスが存在しています。 私たちの経験や知識に繋がる差異が色々なところに存在しているのです。
  7. 8 KDDI Agile Development Center Corporation 8 KDDI Agile Development

    Center Corporation 種と個を並べて考える 同じストカスティック・プロセスであっても、種の進化と個の変化には違いがあります。 例えば、以下のように大事なポイントが違ってきます。 種の変化は個の変化に比べると慎重に行いたい(木が黒くなる前に大半が黒くなってしまったら滅んでしまう) 個の変化は速く行いたい(自分が生きている間に活用できないと意味がない) これを、2つのストカスティック・プロセスに対してそれぞれの論理階層が違うために発生していると考えます。 ベイトソンはこの論理階層の違いを表現するために「フォーム」「プロセス」という概念を定義しました。 ジェネティックな進化が「フォーム」で、ソマティックな進化が「プロセス」です。 そして、この考えは生物の進化だけでなく、我々の様々な活動に適応することができるものとしました。
  8. 9 KDDI Agile Development Center Corporation 9 KDDI Agile Development

    Center Corporation フォームとプロセスとは 様々な「フォーム」と「プロセス」があります。 種の形態的特徴がフォーム、個体の発生や成長がプロセス 個人の考え方がフォーム、実際に思考するのがプロセス 組織文化がフォーム、その組織での人々の活動がプロセス フォームを基盤としてプロセスが展開され、 プロセスの結果としてフォームが作られる。 フォームとプロセスは互いに影響を与え合います。 フォーム プロセス フォーム プロセス
  9. 11 KDDI Agile Development Center Corporation 11 KDDI Agile Development

    Center Corporation フォームとプロセスの例 「問題は自分で解決すべき」という信念で行われるプロセスが失敗することが多くなれば、この信念自体が変わる可能 が高まりますし、逆に成功することが多ければ信念を強化することに繋がることが考えられます。 【フォーム】 「問題は自分で解決すべき」 という信念 【プロセス】 信念に基づいた行動 【ランダムな要素】 直面する問題の種類や文脈 (業務、人間関係、技術など) 【フォーム】 結果に基づいて更新された信念 「やはり自分で解決すべき」 「協力した方が良い場合もある」 【ランダムな要素の選択】 その信念に基づく行動の結果 【プロセス】 信念に基づいた行動 【プロセス】 信念に基づいた行動 【プロセス】 信念に基づいた行動 【ランダムな要素】 具体的な実施内容、環境、 周囲のメンバーなど 【ランダムな要素の選択】 状況に適応することを通じての学習 【プロセス】 信念に基づいた行動 【プロセス】 信念に基づいた行動 【プロセス】 信念に基づいた行動 【プロセス】 信念に基づいた行動
  10. 12 KDDI Agile Development Center Corporation 12 KDDI Agile Development

    Center Corporation プロセスの結果からフォームがどのような影響を受けるかは分からない 先ほどの例は、プロセスの結果が直接フォームに影響を与えたように見えるかもしれませんが、実際には、 プロセスの結果がフォームにどう影響を与えるかはプロセスからは分かりません。 仮に協働での成功体験を積んだとしても、それだけで簡単に信念が変わるとは限らないはずです。 何度も様々な経験を積むことで、少しずつ考え方や信念が変わっていきます。 つまり、論理階型が違うところの結果から別のレベルの変化を予測するのは難しいのです。 例えば、個人が何かに挑戦して失敗したとしても、すぐに組織全体がそれに適応できるか難しいことは多いです。 また、一般にフォームは比較的安定していて、プロセスに比べるとゆっくり変化することが多いです。 その違いが生まれる理由の1つとして、変化は必ずしもプラスに働くとは限らないことがあります。
  11. 13 KDDI Agile Development Center Corporation 13 KDDI Agile Development

    Center Corporation 良い変化もあれば悪い変化もある 一見すると良いと思える変化も、耽溺という状態を招いてしまうこともあります。 例として、『ギガンテウスオオツノジカ』を紹介します。 名前の通り大きな角を持つシカで、より大きな角を持つシカがメスに好まれたことから、 世代を重ねるごとに角が大きくなっていきました。 その影響で、角に栄養が取られて体の骨がスカスカになってしまったため絶滅したと言われています。 短期的には優れていると思えるものでも長期的には悪影響となるものもあります。 事前に何が優れていて何が劣っているか決めるのは難しいのです。だからこそのランダムでもあります。 ただし、滅びることも必ずしも悪いわけではなくて、もっと大きな視点から見れば学びかもしれないです。 とはいえ、無謀に取り入れていくのは違いますが。 Wikipediaより引用
  12. 14 KDDI Agile Development Center Corporation 14 KDDI Agile Development

    Center Corporation 優れているものが生き残るわけではない 何が優れていたのかは後になってみないと分からない、とも言えるかもしれません。 同じ内容であっても、その時の環境やコンテキストによって意味は変わってきます。 また、変数が1つなわけでもないので、何によって生き残ったのか分からないものも多いと思います。 普段、何となく人と比べて優劣を考えてしまいますが、人間万事塞翁が馬、 その結果がどうなるかは、そんなにはっきりとは分からないことが多いのではないでしょうか。 • 能力が低いと思っていた人が出世する • なんであの人が出世するの?と思っていたらすごく忙しくて苦労しているみたい • 出世して苦しんでいるのだと思っていたら、それを乗り越えて大きなことを成し遂げる • 大きなことを成し遂げてすごいと思っていたら、ストレスが大きくて病み始めているらしい
  13. 15 KDDI Agile Development Center Corporation 15 KDDI Agile Development

    Center Corporation ストカスティックプロセスで覚えておいてもらいたいこと ランダムな要素(差異)から選択される フォームとプロセスという異なる論理階型があり、フォームとプロセスは相互に影響を与える でも、ある階層の結果から別の階層への影響を予測することは難しい 変化や成長が常にプラスに働くとは限らない(耽溺) 優れたものが生き残るわけではない、どのような結果になるか分からないことが多い
  14. 16 KDDI Agile Development Center Corporation 16 KDDI Agile Development

    Center Corporation (余談)ストカスティック・プロセスから創造されるということ ベイトソンはランダムなものからしか創造的なものは生まれないと言っています。 もしかしたら、ランダムと創造性を関連付けるのはあまりピンと来ないかもしれません。 ここで例として挙げたいのがクジラです。私は生き物としてクジラが大好きなのですが、(詳しくはないですが) クジラは海で暮らしていますが、陸上哺乳類から進化していて、肺呼吸です。 深く潜れるように、肋骨は他の哺乳類よりも少なく、柔らかいです。 仮に自分が自由に進化の道を選べるとして、陸上哺乳類が海に戻る選択をするでしょうか? 肺呼吸で海で暮らす時点で詰んでいるようにしか思えません。 しかし、クジラはまだ絶滅しないでいます。結果的には正解と言っても良い選択だったはずです。 ストカスティック・プロセスの創造性を感じられる1つだなと思っています。
  15. 18 KDDI Agile Development Center Corporation 18 KDDI Agile Development

    Center Corporation 例えば、組織のチェンジ・エージェントを想定してみます 組織にアジャイルな文化や取り組みを広めたいと頑張っているチェンジ・エージェントがいたとします。 こんな壁にぶつかったり、苦しんだりすることが多いのではないでしょうか。 • なかなか成果が出ない。新しい挑戦をしても上手くいかない ◦ 上手くいったと思っても、組織が変わっている様子が感じられない • 自分ではスキルや能力が足りなくて、推進役に向いていないのではないか ◦ 知識や経験が足りない自分ではなく、別の適任者がやればもっとうまくいくのではないか • 取り組みに賛同してくれる人が少なくて、そもそも誰のためにやっているのか分からなくなってきた ◦ 今はまだこの組織で実施するタイミングではないのかもしれない
  16. 19 KDDI Agile Development Center Corporation 19 KDDI Agile Development

    Center Corporation 短期的な成功や失敗では、最終的な影響は分からない • 失敗をして大きな迷惑をかけたことで組織が救われるかもしれない • 大きな成功を収めたと思っても、それが組織の衰退を招くかもしれない 組織の方針がフォームで、そこでの実践がプロセスだとして、プロセスがうまくいかなかったことはフォームに影響を 与えます。プロセスから見たら失敗に思えることでも、フォームにとっては重要な学びになることもあるのです。 ここで論理階型のことを思い出してください。 仮に組織の方針を変えるとした場合、1つの結果だけを見て変えることはしないでしょう。失敗の経験も大きな学びには なりますし、あくまでも影響を与えるものの1つでしかないとも言えると思います。
  17. 20 KDDI Agile Development Center Corporation 20 KDDI Agile Development

    Center Corporation すごいことに価値があるのではなく、差異に価値がある • そもそもすごいすごくないが分からない ◦ 何かの基準でそれは言えるかもしれないが、最終的な影響という意味では分からない • 過学習が耽溺になることもあるし、耽溺も耽溺に見えているだけかもしれない 『オオシモフリエダシャクの工業暗化』の例で言えば、黒い蛾が白い蛾よりもすごかったわけではないと思います。 先見の明があったわけでも(おそらく)ないと思います。ただ、差異があったことには価値がありました。 黒い蛾が優位になる前に、捕食されてしまったたくさんの黒い蛾がいるはずです。 黒い蛾が優位になった後にも、捕食されているたくさんの白い蛾がいるはずです。 色はあくまでも差異の一例に過ぎず、色々な差異が試みられることで、変化や創造に繋がる価値になっています。
  18. 21 KDDI Agile Development Center Corporation 21 KDDI Agile Development

    Center Corporation つまり挑戦すること自体に価値がある • 何かに挑戦して差異を作り出す、それだけで価値のある行動 • それが短期的にはうまくいってもいかなくても、そういう行動があることが重要 何か人と違うことを行う場合、不安にはなりますが、そうした挑戦を行う人がいるおかげで組織が変化できます。結果 はその時の環境や状況に影響を受けますが、仮にうまくいかなかったとしても、そこには意味があります。うまくいか なかったように思えるだけで、実はプラスの流れを生み出すトリガーになっているのかもしれないのです。全然大した ことをやっているように思えないことでも、実際にどうかは分からないです。 ちなみに、これはどちらかというとフォームから見た話。ではプロセスから見たら場合はどうでしょうか?
  19. 22 KDDI Agile Development Center Corporation 22 KDDI Agile Development

    Center Corporation 個として、いきいきと活動することが重要 • いろいろ大変なことがあるかもしれないけど、それらに対応しながら、いきいきと活動を続ける • 「組織のためと思って頑張っているけど、報われない」そういうこともあるけど、ちょっとずつ変わっていくはず、 その一歩一歩を歩んでいるはず プロセスの結果はフォームに少しずつ影響するので、プロセスとの活動の結果は、気付かない間にフォームに取り入れ られて変わっていきます。 フォームが変わるのには時間がかかることが多いので、プロセスではそこで出来る範囲で良い変化・成長をできるよう に取り組めば良いのです(それしか出来ない)。 みんなが同じことをするのではなくて、それぞれがそれぞれの個性を活かせると様々な差異が生まれます。 つまり、色んな環境や状況はあるけれど、その中で、それぞれがいきいきと過ごせるように工夫しながら活動する。 フォームから見たときの成功/失敗は重要ではなくて、自分としてどう過ごすのかが重要。 黒い蛾は生存に不利だったかもしれないですが、その中で何とか生き延びようとしていることが大切なのです。 木が黒くなった後でも、余裕で生きられるわけでもないはずです。
  20. 23 KDDI Agile Development Center Corporation 23 KDDI Agile Development

    Center Corporation 世界は希望に満ちている 「出来ないところではなく、出来ることに注目しよう」ではない 「結果はどうでも良いので、何の工夫も努力しないで、ただ今のままいれば良い」ではない 「今、出来ていないことが、この先の良い結果に繋がるかもしれない」 「今のあなただから出来ることがあるかもしれない」 「あなたの取り組みが、短期的な結果に関わらず今後プラスの影響をもたらすかもしれない」 「すごい人がいて、そうじゃない自分がいて、どちらの存在も大事」 私たちは皆、大いなるストカスティック・プロセスの中にいて、そこでは、個人個人の存在に価値があって、1人1人が 学んだり、挑戦したりすることに意味がある、そういう世界であることが、とても希望に満ちているなと感じています。 誰しも今のAs-Isに価値があって、次のTo-Beを目指すことに意味があります。
  21. 24 KDDI Agile Development Center Corporation 24 KDDI Agile Development

    Center Corporation (余談)幸せは決断、アジャイルは希望 • Management3.0の本を読んでいたら「幸せは結果ではなく、決断なのだ」という言葉がありました。 • 幸せは辿り着いたときではなくて、幸せに向かっていると思えるときに感じるという意味らしいです。 • 幸せになるのを待つものではなくて、自分から得にいくものだという話みたいです • 渋谷アジャイルで「アジャイルを一言で表すと」というお題で話していて辿り着いた答え「アジャイルは希望」 • 「よりよい開発方法を見つけだそうとしている」という部分はどんなやり方にも適応できる考え方 • 今置かれている状況に関わらず、未来を目指せるアジャイルを希望と表現した 何となく今回の話との共通点を感じたので、時間が余れば話したいです