本研究は、デザイン活動の省察からデザイナーの実践知であるデザイン知を見出し他者へ共有することで、組織内で相互理解を深め、協働しやすい状態をつくることを目指して実施している。本稿は、このデザイン知を表出させ他者へ共有する際の体験作文の有用性について考察する。本稿では株式会社MIMIGURI社内で実施したポートフォリオ制作会の事例を取り上げる。デザイン活動を省察する際、デザイン行為の背景にある「心象」を表出させるために、本事例では、4つの問いと体験作文の活用という2つの工夫をした。この結果、デザイン省察で用いる体験作文がデザイン知の表出と共有の観点で有用であることがわかった。業務中は、デザインにおける行為と心象が分かれた三人称的表現がされる。しかし、体験作文の中で行為と心象が一体となった一人称的表現として記述されることで、行為の背景にあるデザインに取り組む際の姿勢としてのデザイン態度や、デザインに対する価値観としてのデザイン哲学と向き合うことになり、デザイン知の表出に繋がる。また、体験作文の行為と心象を分けない表現が聞き手にとって追体験しやすい臨場感を生み出し、デザイン知の共有に繋がる。(第68回日本デザイン学会春季研究発表大会口頭発表にて発表しました)