本研究では、暗黙知の形式知化をはじめとする組織のナレッジマネジメントに関わる活動とデザインの方法論との関係性を考察し、本稿ではナレッジマネジメント活動にデザインの専門性を活かす際の特徴とその意味の仮説を示す。
本事例で行われた暗黙知の形式知化方法の特徴、特にデザインとの関連性を考察した。形式知化方法の特徴としてわかったのは、情報把握と解釈を繰り返しながら形式知化を進めている点だった。これは、コンテクスチュアル・デザインの前半プロセスと類似していると解釈できる。さらに、情報把握と解釈の行き来による暗黙知の形式知化方法のデザイン知としての特徴は何かを考察した。そこで見えてきたのは、デザイン知の一つである「じゃない感」が起点になって情報把握と解釈の行き来が起きているのではないかという仮説だった。その仮説を「じゃない感」が駆動する知の省察・創作サイクルとして図にした。
加えて、組織のナレッジマネジメント活動にデザインの知を活かすことには、暗黙知が形式知化される以外にも意味があるのではないか、集団内の関係性構築にもつながるのではないかという仮説を示す。形式知化と関係性構築の相互補完関係として、「じゃない感」が生まれ、集団内で開かれていくことが起点となって形式知化と関係性構築が進む仕組みを図にした。
今後は、「じゃない感」をデザイナー以外にも広げ、ナレッジマネジメント文脈への応用を試みたい。そして、形式知化と関係性構築の相互補完関係が生まれるしくみづくりを探究していきたい。