‐ 1 ‐ 大学発ベンチャーの上場審査における知財の取扱い実務 エグジットを見据えた知財戦略 東証2022新規上場ガイドブック(グロース市場編)「VI 上場審査に関するQ&A」(2) Q53:大学が保有している特許などの知的財産権を利用して主要な事業を行っている場合、 上場承認までに当該知的財産権 を譲り受けていることが必要でしょうか。 他者が保有する特定の知的財産権を契約により独占的に利用して主要な事業が行われている企業(注1)については、当該知的財産権にかかる契約 が解除された場合には 事業の継続が困難になる等の理由から、上場に際しては、原則として、当該知的財産権を保有先から譲り受け、自社で保有す ることが望まれます。 しかし、大学については公的な性格を有することから、その研究成果は社会への還元が求められており(注2)、譲渡後に当該知的財産権が活用されな かったり(知的財産権の死蔵化)、大学が想定していない目的(注3)に使用されたりする懸念は現状においては相当程度排除されなければならないと 考えられることから、当該知的財産権の保有先からの譲り受けが困難であることが想定されます。その場合には、当該知的財産権の実施にかかる申請会 社の権利の保護が上場後においても大学との契約において適正に講じられていることを、以下のようなポイントを踏まえ、合理的に説明していただく必要が あると考えられます。 ① 例えば、専用実施権(注4)の付与を受けることにより、申請会社が排他的に当該知的財産権を利用でき、また、申請会社自身が特許等侵害に 対抗できるような契約になっていますか。 ② 当該知的財産権を保有している大学が当該知的財産権にかかる管理や保護を組織的かつ適正に行っていますか。 ③ 契約期間は申請会社が上場後も継続的に事業を行っていくうえで適正な期間になっていますか。 ④ 当該知的財産権の実施にかかる費用について、当該契約で明確化されていますか。 ⑤ 大学(注5)から一方的に解除もしくは不利益な条件に変更されない契約内容になっていますか。 なお、知的財産権にかかる契約内容等は投資家の投資判断に重大な影響を与える可能性が高い情報であると考えられることから、当該契約内容の開 示が可能となるよう事前に守秘義務を解除する等の対応が必要であると考えられます。 (注1)代替技術の利用が可能な場合や多くの要素を複合的に使用して事業を行っている場合など当該知的財産権の事業上の重要性が低い場合はこの限りではあ りません。 (注2)例えば国立大学では、国立大学法人法 22 条第1項第5号において、国立大学法人の行う業務として、「当該国立大学における研究の成果を普及し、及びそ の活用を促進すること。」と定 められ、研究成果の社会還元が求められていま す。 (注3)大学によっては軍事目的や非倫理的目的等に研究成果を利用することを禁止 しています。 (注4)専用実施権とは、特許発明を独占的に実施することができ、また、権利の侵害者に対して自ら差止請求や損害賠償ができる権利であり、特許庁への登録 により効力が発生します。なお、申請 会社による知的財産権の排他的な利用 について専用実施権と同等に一定の保護が図られるスキームであると評価で きるものであれば、必ずしも専用実施権に限定するものではなく、審査上 認 められるものと判断することもあります。 (注5)申請会社の事業継続の観点から問題ないと評価できる相手先であれば、知的 財産権の保有者が大学でない場合についても、審査上認められるものと判断 することもあります。