混合研究法による舞楽鑑賞の日独文化比較

2025年度日本認知科学会第42回大会で発表した資料です。
https://www.jcss.gr.jp/meetings/jcss2025/proceedings/pdf/JCSS2025_O2-3.pdf

Transcript

1. 混合研究法による舞楽鑑賞の 日独文化比較 櫃割仁平 (ヘルムートシュミット大学 / 日本学術振興会海外特別研究員) 2025. 9. 13 日本認知科学会第42回大会 プレプリント
2. 朝からお越しくださり，ありがとうございます！ プレプリント
3. これまでの研究 俳句 Sprengel, Hitsuwari, et al. (in prep) 書道 Hitsuwari, Hayashi, et al. (2023); Hitsuwari & Nomura (2022, 2023, 2024a, 2024b, 2024c, 2025); Hitsuwari, Ueda, et al. (2023); 櫃割・野村 (2025); Kato & Hitsuwari (2024) Hitsuwari et al. (under review) 雅楽 (舞楽) Hitsuwari & Jacobsen (in prep) いけばな
4. 研究の背景・目的 1 研究1：質的研究 (自由記述＋半構造化インタビュー) 2 研究2：量的研究 3 考察・結論 4 プレプリント
5. 研究の背景・目的 1 研究1：質的研究 (自由記述＋半構造化インタビュー) 2 研究2：量的研究 3 考察・結論 4 プレプリント
6. 経験美学 (Empirical Aesthetics) ▪ 心理学 (時に生理学，神経科学) の手法を用いて，定量的に「美しい」 と感じる人のこころを解明することを目指す ▪ その題材はさまざま (絵画，映画，書道，いけばな，etc.)
7. ダンスを対象にした経験美学 ▪ 近年，ダンスを題材にした研究が盛り上がりつつある (e.g., Rose et al., 2022) • 一定速度と速度変化ありのダンスを評価 (Orlandi et al., 2020) 速度変化ありの方が楽しさの評価が高く，再現可能性の評価が低い
8. ダンス鑑賞の文化比較 ▪ 文化によって，ダンスの見方，評価が異なる (e.g., Darda & Cross, 2022) • インド人はインドのダンスをより好み，ヨーロッパの人はバレエをより好む (専門家ではこのバイアスは見られない)
9. 雅楽とは何か？
10. 雅楽とは何か？ 奈良・平安時代に成立 し，中国・朝鮮の影響 を受け発展 宮廷儀式，神事で用いられる 笙・篳篥・龍笛などの 管楽器，琵琶・箏など の弦楽器，太鼓などの 打楽器を用いる 管弦，謡いもの，舞楽 などの演奏形態
11. FYI: 高校時代，雅楽部でした！ 「還城楽」という舞 を踊りました！ 3つの管楽器のうち， 篳篥を吹いていました
12. 日本独特のリズム・間 ▪ 間 (ま)：日本の伝統音楽では，リズムが一定ではなく，時間間隔が伸縮 することが特徴 (Daikoku & Yumoto, 2020) • 適切な間によって，ダンスの表現が豊かになり，より深い感情的・身体的な共 鳴・一体感が生まれる (Tseng et al., 2021) ▪ 日本人に独特で，ドイツ人は同じように感じない可能性
13. 本研究の目的 具体的には， • 楽しさや美しさの印象に違いがあるか？ • 舞への違和感や動きの理解の違いがあるか？ • 違和感や動きの理解が楽しさなどの印象をどのように変えるか？ 日本人とドイツ人の雅楽の舞に対する印象を比較，検討する
14. 研究の背景・目的 1 研究1：質的研究 (自由記述＋半構造化インタビュー) 2 研究2：量的研究 3 考察・結論 4
15. ドイツで雅楽を学ぶ人たち ▪ ドイツケルンで雅楽を練習する人たち7名と雅楽を指導する日本人の 先生1名 (志水美郎先生) • 舞楽を鑑賞した時，どのような印象を持ちましたか？ • 舞楽はバレエなどの西洋の伝統的ダンスとどのような違いがあると思いますか？
16. 舞楽への印象 • 「印象的」「崇高」「畏 敬」など 感銘を受けた • 「流れるような」「ゆっく り」「穏やかな」動き • 「非常に正確」「緻密に細 部まで作り込まれている」
17. 研究の背景・目的 1 研究1：質的研究 (自由記述＋半構造化インタビュー) 2 研究2：量的研究 3 考察・結論 4
18. 方法 参加者 日本人392名 (平均年齢44.16歳, CrowdWorksで募集) ドイツ人409名 (平均年齢33.14歳, Prolificで募集) 素材 胡飲酒 by 雅楽 下熊健 https://youtu.be/GBjYtMPGJXA?si=L537LfNjS8l5-GQq 手続き 舞楽を動画で鑑賞し，39の観点 (先行研究と研究1で得られた 形容詞で構成) で評価を行う
20. 因子分析 (5因子) 好み Liking, Enjoyability, Familiarity など 超越的体験 Sublime, Awe, Transcendence, Inspiration など 優美さ Flowing, Elegance, Rounded など 調和・構造 動きの理解 Dissonance, Movement music relationship, Precise など Movement comprehension, Predictability of movements など
21. 結果❶ 平均値の比較 美的評価は日本人が高い一方で，動きの理解のみドイツ人が高い
22. 結果❷ 文化の交互作用 美的評価は日本人が高い一方で，動きの理解のみドイツ人が高い
23. 研究の背景・目的 1 研究1：質的研究 (自由記述＋半構造化インタビュー) 2 研究2：量的研究 3 考察・結論 4
24. 舞楽の印象の文化差 ▪ 「超越的体験」は他のダンス研究では，あまり見られない因子 ▪ 好み，超越的体験，優美さ，調和・構造の評価は日本人の方が高い • 雅楽の音楽や独特のリズム (間) に親しみを感じていた (Daikoku & Yumoto, 2020; Tseng et al., 2021) ▪ 予想に反して，動きの理解はドイツ人の方が高い • 分析的認知処理で1つひとつの動きを理解しようとした (Masuda et al., 2008)
25. 舞楽の印象の文化差 ▪ ドイツ人は，動きの理解度 が影響しやすい (理解できる程評価が低い) 好み，超越的体験，優美さ，調和・構造の評価は日本人の方が高い • コンテンポラリーダンスにおいて，曖昧さや分からなさをそのまま楽しむとい う研究と整合性が高い (Lee et al., 2025) ▪ 調和・構造は優美さを高めるがドイツ人において影響がより大きい • 日本人は不協和でもより楽しめる (Daikoku & Yumoto, 2020; Hitsuwari & Nomura, 2022)
26. 限界点と将来の方向性 ▪ 因子分析において，尺度不変性が保たれていない ▪ 1種類の舞楽映像のみを使用しており，舞楽には性質の異なる多様な演 目が存在するため，複数演目での検討が必要 ▪ 動画とライブで印象が大きく異なる可能性がある (Jola & Grosbras, 2013) ▪ 動画の要素解析やモーションキャプチャーを用いた解析も併用 (e.g., EMOKINE; Christensen et al., 2024)
27. 結論 • 好みや優美さ，調和はリズムや動きに親しみのある日本人の方が高い • 動きの理解は分析的認知を行うドイツ人の方が高い • 好みに影響を与える要素は文化によって異なる (日本人は曖昧性への態度， ドイツ人は動きの理解) 日本人とドイツ人の雅楽の舞に対する印象には違いがある
28. お聴きくださり，ありがとうございました！ 本研究は，日本学術振興会海外特別研究員制度，山岡記念財団若者文化・ ライフスタイル研究助成，academist Prizeの助成を受けて実施されました。 Dr. Selina M. Weiler Dr. Maria Manolika Dr. Thomas Jacobsen ホームページ