COVID-19によってミュージアムが直面した数々の困難によって、改めてデジタルミュージアムが問われている。とはいえデジタル化されて「実体を引き剥がされたたもの」はどのようにしたら価値を認めてもらえるのだろう。
ところでそれは、これまでボーンデジタル(つまり「実体のないもの」)が抱えてきた課題によく似ている。ボーンデジタルを生み出そうとしてきた人たちにとっても、その価値づけは切実な課題であり続けてきた。なぜそれが面白いのか。なぜそれがお金を払ってもらえるのか。なぜ人が集まってくれるのか。ゼロからなんらかのサービスを生み出そうとするときに、多くの開発者が頭を悩ませてきた。そうしたボーンデジタルを取り巻く状況は、近年大きく好転している。特にインパクトが大きかった側面として、人間中心設計(HCDやUXデザイン)の浸透によるところが大きい。人間中心設計において重要なのは、ユーザーとの対話を目指す姿勢である。このパラダイムでは、発信した情報を受け取ってもらうこと(ストーリーテリング)だけではなく、受け手が語りを生み出せること(ナラティブ)、発信者と受信者の相互作用を重視する社会構成主義的なアプローチが取られる。
本発表では、橋爪氏のTwitterにおける投稿に呼応するかたちで、2020年2月に開催された新しいミュージアムのありかたを考えるワークショップ「World IA Day Fukuoka 2020」の報告を通じ、Webサービス設計・開発領域における「デジタル化」の基本姿勢を紹介し、今後どのようなデジタルミュージアムの可能性が描きうるのかを考える一助としたい。