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災害が科学に変わった瞬間 〜1755年リスボン大震災を境に科学はどう変わったか?〜

 災害が科学に変わった瞬間 〜1755年リスボン大震災を境に科学はどう変わったか?〜

1755年11月1日、ポルトガルの首都を襲った「リスボン大震災」。
マグニチュード8.5〜9とも推定されるこの巨大地震は、甚大な被害をもたらしただけでなく、科学史における極めて重要な転換点となりました 。

それまで「神の怒り(神罰)」として解釈されていた地震災害が、いかにして「観測可能な物理現象」へと定義し直されたのか 。
カント、ミッチェル、マレットといった科学者たちの考察と、英国王立協会によるデータ蓄積の歴史を紐解きながら、近代地震学が誕生するまでの過程を解説します 。

【もくじ】
・ 1755年リスボン大震災の概要:地震・津波・火災による「三重の災害」
・ 科学革命前夜の観察文化:英国王立協会とデータ収集
・ パラダイムシフト:「なぜ(神の意志)」から「どのように(メカニズム)」へ
・ 科学者たちの反応:
 ・ イマヌエル・カント:自然現象としての再定義
 ・ ジョン・ミッチェル:波動説と震源推定
 ・ ロバート・マレット:実験的地震学と世界地震地図
・ 現代への接続:災害が科学を変えた瞬間

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Syota-Sasaki

December 22, 2025
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Transcript

  1. 自己紹介 さめ(мег-сск) ⚛️ VRChat物理学集会の主 催 🧑‍🎓 社会人学生として通信制 大学在学中 得意分野: 📸

    コンピュータビジョン (画像認識/点群処理) 🌍 空間情報処理 (地理情 報/リモートセンシング) ☁️ クラウドインフラ設 計/IaC (AWS, GCP) GitHub YouTube Speaker Deck
  2. 三重の災害 1. 地震: 建物の倒壊(3 回の大きな揺れ) 2. 津波: 海水が一度引いた後、巨大な波が襲来 3. 火災:

    調理器具の転倒などにより市内各所で発生 当時の被害を描いた銅版画。リスボン市立図書館収蔵
  3. なぜこの地震が科学史を変えたの か? 🕯️ 万聖節( カトリックの祝日) の朝 — 敬虔な市民が 教会でミサ中に被災 ⛪

    教会が倒壊し、娼館が無傷だった矛盾 ❓ 「なぜ神は善良な市民の街を破壊したのか?」 神罰説 vs 自然現象としての科学的探求 の対立 地震という自然災害を科学的に捉える歴史的変遷
  4. 「神の怒り」から「観察可能な自 然現象」へ 🏛️ 1660 年: 英国王立協会設立 モットー「Nullius in verba 」

    (権威を鵜呑みにす るな) 組織的データ収集の始まり 📖 1665 年: Philosophical Transactions 創刊 地震報告の蓄積が始まる 90 年間で約70 件の観察記録
  5. リスボン以前の重要な観察事例 年代 出来事 意義 1692 ジャマイカ・ポート ロイヤル地震 ( 当時 英国の植民地)

    「地震は山岳中心部 から始まった」とい う観察 1750 ロンドン地震 多くの報告がPhil. Trans. に掲載
  6. 二つの対照的な反応 神学的解釈 科学的調査 Gabriel Malagrida ( イ エズス会宣教師) 宰相・ポンバル侯 爵カルヴァーリョ

    「市民の罪に対する神 罰」 科学的アンケート 「地震は何時に始まり、どれく らい続いたか?」 「海水は引いたか、満ちたか? 高さはどの程度か?」 「建物の倒壊に方向性はあった か?」 同じ災害に対する「なぜ」と「どのように」の分 岐点
  7. ミッチェルの貢献 💡 画期的な提案 1. 地震は波動として伝播する 2. 震央・震源深度の推定法 ( 幾何学的アプローチ) 3.

    伝播速度の推定(約20 マイル/ 分 ≒ 約530m/s )※ 4. 津波は海底地震によって引き起こされる 5. 断層(地層のずれ)と地震の関係を示唆 ※当時の推定値。現代では地震波(P 波)は約5 〜8km/s と判明
  8. データの力 📊 科学的考察を可能にした下地 1750 年ロンドン地震で「地震は移動する現象」 という経験則 Phil. Trans. の100 年分の観察記録

    カルヴァーリョをはじめとするリスボン大地震 の大規模な体系的アンケート調査(1756 ) 🎯 リスボン大地震の震央を大西洋上と正確に推定 💡 データに基づいた科学的な地震研究の始まり
  9. まとめ 🌍 1755 年リスボン大震災は災害を自然科学研究の 対象とする大きなきっかけとなった 🔬 カント、ミッチェル、マレットらが「どのよう に」を科学的に解明 📊 100

    年の観察蓄積と実験的検証が近代地震学を 確立 💡 災害が科学に変わった瞬間 現代の地震学や気象学への大きな影響 科学の知見を防災や減災に役立てる
  10. 主要参考文献 D. Oldroyd et al., The Study of Earthquakes in

    the Hundred Years Following the Lisbon Earthquake of 1755, Earth Sciences History Vol. 26, No. 2 (2007), pp. 321-370 K. van Blanken, Earthquake observations in the age before Lisbon: eyewitness observation and earthquake philosophy in the Royal Society, 1665–1755, Notes Rec R Soc Lond (2022) 76 (1): 27–48. ニコラス・シュラディ, リスボン大地震:世界を変 えた巨大災害, 白水社 (2023), 山田和子訳