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なぜエネルギーは保存する? 〜自由落下でわかる“対称性”とネーターの定理〜

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November 13, 2025

なぜエネルギーは保存する? 〜自由落下でわかる“対称性”とネーターの定理〜

【はじめに】
「エネルギー保存則」は物理学の最も基本的な法則の一つですが、なぜエネルギーは保存するのでしょうか?
このプレゼンテーションでは、自由落下という最もシンプルな運動を例に、ネーターの定理を通じて「対称性」と「保存則」の深い関係を解き明かします。

【主な内容】
・エネルギー保存則の本質的な理解
・自由落下運動における時間対称性と空間対称性
・ラグランジアンとオイラー・ラグランジュ方程式
・ネーターの定理:「対称性があれば保存則がある」

【対象者】

・解析力学に興味がある方
・エネルギー保存則の「なぜ」を知りたい方
・ネーターの定理について学びたい方

大学1-2回生程度の理工系基礎科目(微積分、力学)の知識を前提としています。偏微分やラグランジアン形式、変分法の基礎などを扱います。

📚 参考文献

江沢 洋『解析力学』培風館 (2007)
小出 昭一郎『解析力学』岩波書店 (1983)
竹内 修『解析力学』https://dora.bk.tsukuba.ac.jp/~takeuchi/

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November 13, 2025
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Transcript

  1. 自己紹介 さめ(мег-сск) ⚛️ VRChat物理学集会の主 催 🧑‍🎓 社会人学生として通信制 大学在学中 得意分野: 📸

    コンピュータビジョン (画像認識/点群処理) 🌍 空間情報処理 (地理情 報/リモートセンシング) ☁️ クラウドインフラ設 計/IaC (AWS, GCP) GitHub YouTube Speaker Deck
  2. 自由落下運動の時間対称性 自由落下の結果は時間に依存しない 高さ から物体を落とした時、地面に衝突する時 の速度 は 今日の0 時に落としても 明日の12 時に落としても

    時間によらず結果は変わらない! 自由落下運動は時間に対して対称性を持つ ものすごく長い時間スケールで考えると地球の質量分布が変わって 重力加速度 が変わることはあり得るが... h V g
  3. 対称性とは? 物理における対称性 ある変換に対して性質が変わらないこと 例: 自由落下運動 時間を にずらしても → ✅ 結果は変わらない

    高さを にずらすと → ❌ 結果が変わる 対称性がある → 対称性に対応する保存量がある これがネーターの定理の核心! t → t + δt q → q + δq
  4. オイラー- ラグランジュ方程式 ラグランジアン が定まると運動方程式は以下の ように書ける : 位置 : 速度 (

    位置の時間微分 ) : 加速度 ( 位置の2 階時間微分 ) 最小作用の原理から導出可能だが今日は割愛 L ​ ​ = dt d ( ∂ ​ q ˙ ∂L ) ​ ∂q ∂L q ​ q ˙ dx/dt ​ q ¨ d x/dt 2 2
  5. 自由落下のEL 方程式 ラグランジアンがわかれば運動方程式は決まる! 左辺= ​ ​ ​ m ​ −

    ​ = dt d ( ∂ ​ q ˙ ∂ ( 2 1 q ˙2 mgq)) m ​ q ¨ 右辺= ​ ​ − mgq = ∂q ∂ ( ​ m ​ 2 1 q ˙2 ) −mg 左辺= 右辺⇒ ​ = q ¨ −g
  6. ラグランジアンの全微分-1 ラグランジアン を位置 , 速度 , 時刻 の 関数として考え、全微分する L(q,

    ​ , t) q ˙ q ​ q ˙ t dL = ​ dq + ∂q ∂L ​ d ​ + ∂ ​ q ˙ ∂L q ˙ ​ dt ∂t ∂L ​ = dt dL ​ ​ + ∂q ∂L q ˙ ​ ​ + ∂ ​ q ¨ ∂L q ¨ ​ ∂t ∂L
  7. ラグランジアンの全微分-2 ライプニッツ則 より EL 方程式を右辺第2 項に代入すると、 この式はラグランジアンの全微分の第1−2 項と一致 (fg) =

    ′ f g + ′ fg′ ​ ​ ​ = dt d (q ˙ ∂ ​ q ˙ ∂L ) ​ ​ + q ¨ ∂ ​ q ˙ ∂L ​ ​ ​ q ˙ dt d ( ∂ ​ q ˙ ∂L ) ​ ​ ​ = dt d (q ˙ ∂ ​ q ˙ ∂L ) ​ ​ + q ¨ ∂ ​ q ˙ ∂L ​ ​ q ˙ ∂q ∂L
  8. ラグランジアンの全微分-3 ライプニッツ則から得られた結果をラグランジアン の全微分の式に代入し、 ​ = dt dL ​ ​ ​

    + dt d (q ˙ ∂ ​ q ˙ ∂L ) ​ ∂t ∂L ​ ​ ​ − L = dt d (q ˙ ∂ ​ q ˙ ∂L ) − ​ ∂t ∂L
  9. の時の保存量 自由落下運動で は時間変化しないので、 ​ = ∂T ∂L 0 L ​

    = ∂t ∂L 0 ​ ​ ​ − L = dt d (q ˙ ∂ ​ q ˙ ∂L ) 0 ​ ​ − q ˙ ∂ ​ q ˙ ∂L L = 時間変化に対して一定
  10. 時間対称性とエネルギー保存則 この時間変化に対して不変な量 をエネル ギーと呼ぶ! ​ ​ − q ˙ ∂

    ​ q ˙ ∂L L ​ ​ − q ˙ ∂ ​ q ˙ ∂L L = ​ ​ ​ m ​ − ​ − q ˙ ∂ ​ q ˙ ∂ ( 2 1 q ˙2 mgq) ​ m ​ − mgq ( 2 1 q ˙2 ) = ​ m ​ + 2 1 q ˙2 mgq = エネルギー
  11. ネーターの定理の一般系 ネーターの定理(一般形) 連続的な対称性変換 に対して ラグランジアンが不変 ならば 保存量 (Noether charge) が存在する

    相対論や統計力学でも活躍する重要な定理! q → q + εδq δL = 0 Q Q = ​ ⋅ ∂ ​ q ˙ ∂L δq = 一定
  12. より進んだ内容: 4 元運動量 相対論では時間と空間を統一的に扱う エネルギーと運動量をまとめた4 元運動量 時空の対称性から2 つの保存則が同時に導かれる 時間並進対称性 →

    エネルギー保存則 空間並進対称性 → 運動量保存則 相対論では両者が統一される! p = μ ​ , ​ = ( c E p) ​ , p ​ , p ​ , p ​ ( c E x y z )
  13. 主要参考文献 江沢 洋, 解析力学, 培風館 (2007) ものすごく丁寧に広い話題を扱った教科書。光 学や量子力学への応用例も豊富。 小出 昭一郎,

    解析力学, 岩波書店 (1983) 初学者向けの教科書。最初はこれがオススメ。 竹内 修, 解析力学, 強制振動、空気抵抗のラグランジアンなど、よ り発展的な話題を取り上げています https://dora.bk.tsukuba.ac.jp/~takeuchi/