Upgrade to Pro
— share decks privately, control downloads, hide ads and more …
Speaker Deck
Features
Speaker Deck
PRO
Sign in
Sign up for free
Search
Search
ソリトンとリー代数 / soliton history
Search
USAMI Kosuke
February 11, 2023
Science
0
820
ソリトンとリー代数 / soliton history
※ Docswell に移行しました
https://www.docswell.com/s/usami-k/5JLENN-soliton-history
USAMI Kosuke
February 11, 2023
Tweet
Share
More Decks by USAMI Kosuke
See All by USAMI Kosuke
Onsager代数とその周辺 / Onsager algebra tsudoi
usamik26
0
550
Apple HIG 正式名称クイズ結果発表 / HIG Quiz Result
usamik26
0
130
ゆめみ大技林製作委員会の立ち上げの話 / daigirin project
usamik26
0
290
@ViewLoadingプロパティラッパの紹介と自前で実装する方法 / @ViewLoading property wrapper implementation
usamik26
0
430
これからUICollectionViewを実践活用する人のためのガイド / Guide to UICollectionView
usamik26
1
700
Xcodeとの最近の付き合い方のはなし / Approach To Xcode
usamik26
2
620
UICollectionView Compositional Layout
usamik26
0
700
Coding Swift with Visual Studio Code and Docker
usamik26
0
460
Swift Extension for Visual Studio Code
usamik26
2
930
Other Decks in Science
See All in Science
生成AI による論文執筆サポートの手引き(ワークショップ) / A guide to supporting dissertation writing with generative AI (workshop)
ks91
PRO
0
320
証明支援系LEANに入門しよう
unaoya
0
460
拡散モデルの原理紹介
brainpadpr
3
5.2k
ほたるのひかり/RayTracingCamp10
kugimasa
0
410
理論計算機科学における 数学の応用: 擬似ランダムネス
nobushimi
1
370
HAS Dark Site Orientation
astronomyhouston
0
5.4k
私たちのプロダクトにとってのよいテスト/good test for our products
camel_404
0
200
白金鉱業Meetup Vol.15 DMLによる条件付処置効果の推定_sotaroIZUMI_20240919
brainpadpr
2
590
WeMeet Group - 採用資料
wemeet
0
3.7k
Analysis-Ready Cloud-Optimized Data for your community and the entire world with Pangeo-Forge
jbusecke
0
110
創薬における機械学習技術について
kanojikajino
13
4.7k
ベイズ最適化をゼロから
brainpadpr
2
900
Featured
See All Featured
Practical Orchestrator
shlominoach
186
10k
Designing for Performance
lara
604
68k
Agile that works and the tools we love
rasmusluckow
328
21k
[Rails World 2023 - Day 1 Closing Keynote] - The Magic of Rails
eileencodes
33
2k
Easily Structure & Communicate Ideas using Wireframe
afnizarnur
191
16k
Product Roadmaps are Hard
iamctodd
PRO
49
11k
How To Stay Up To Date on Web Technology
chriscoyier
789
250k
A Tale of Four Properties
chriscoyier
157
23k
Creating an realtime collaboration tool: Agile Flush - .NET Oxford
marcduiker
26
1.9k
Visualizing Your Data: Incorporating Mongo into Loggly Infrastructure
mongodb
44
9.3k
Code Reviewing Like a Champion
maltzj
520
39k
Documentation Writing (for coders)
carmenintech
66
4.5k
Transcript
1/11 ソリトンとリー代数 宇佐見 公輔 2023 年 2 月 11 日
宇佐見 公輔 ソリトンとリー代数
2/11 はじめに 今年 1 月に佐藤幹夫先生が亡くなられました。 佐藤幹夫先生の業績はいろいろとありますが、個人的にはソリト ン理論が印象深いです。 今回は、佐藤幹夫先生の理論を中心にソリトン研究の歴史につい て話します。 なお、このあたりの話はすでに専門家による優れた解説文や書籍
があります。もし興味を持った方がおられたら、それらをぜひご 参照ください。 宇佐見 公輔 ソリトンとリー代数
3/11 線形な波・非線形な波 波は微分方程式で記述される。 たとえば、真空中の電磁波は以下の方程式で記述される。 𝜕2𝑢 𝜕𝑡2 = 𝑐2 𝜕2𝑢 𝜕𝑥2
線形な波: 解と解の和も解になる(重ね合わせの原理) 。 真空中の電磁波などがある。 非線形な波: 解と解の和が解になるとは限らない。 水面の波などがある。 宇佐見 公輔 ソリトンとリー代数
4/11 ソリトン 非線形な波は通常、波と波が衝突すると形が崩れて元に戻らない。 しかし、非線形な孤立波でありながら、衝突しても崩れないもの がある。これをソリトンと呼ぶ(1965 年にザブスキーとクルスカ ルによって命名された) 。 ソリトン解を持つ非線形方程式は、たとえば KdV
方程式がある。 ほかにも、KP 方程式、非線形シュレディンガー方程式、サイン- ゴルドン方程式、戸田格子、などがある。 宇佐見 公輔 ソリトンとリー代数
5/11 ソリトンの発見 1834 年、ラッセルが、エジンバラの運河で形を変えない水面波 (ソリトン)を観測。この孤立波に関する実験をおこなう。 1895 年、コルテヴェーグとド・フリースが、ラッセルの波に対応 する微分方程式(KdV 方程式)を提出。1-ソリトン解を求める。 𝜕𝑢
𝜕𝑡 + 6𝑢 𝜕𝑢 𝜕𝑥 + 𝜕3𝑢 𝜕𝑥3 = 0 ソリトン発見当時は、特定の方程式に対する特殊事情と思われて いた。また、非線形方程式であるため、研究が困難だった。 宇佐見 公輔 ソリトンとリー代数
6/11 逆散乱法 1965 年、ザブスキーとクルスカルが、コンピューターによる実験 で KdV 方程式の 1-ソリトン解を得る。 1967 年、ガードナー、グリーン、クルスカル、ミウラが、逆散乱
法で KdV 方程式の 𝑁-ソリトン解を求める。 逆散乱法の成功を機に、ソリトンの数理的研究が盛んになる。こ の時代にさまざまなソリトン方程式が発見され解かれる。 ソリトン方程式は「無限自由度の可積分系」として数学の研究対 象となる。 宇佐見 公輔 ソリトンとリー代数
7/11 佐藤理論 1970 年代、広田が、ソリトン方程式に対する広田の直接法を考案 する。逆散乱法を使わず、双線形方程式に変換して解く手法。 1981 年、佐藤幹夫が、KP 方程式(ソリトン方程式)の解全体が グラスマン多様体をなすことを示す。 これによって、広田の直接法の幾何的・代数的な意味がわかると
ともに、ソリトン方程式の可積分性の根源が見えてきた。 これを機にさまざまな可積分系の代数的構造の研究が盛んになる。 宇佐見 公輔 ソリトンとリー代数
8/11 ソリトン方程式とアフィンリー代数 1970 年代、素粒子論の研究で頂点作用素という概念が現れた。 1978 年、レポウスキー、ウィルソン、カッツ、フレンケルが、頂 点作用素がアフィンリー代数の実現と結びつくことを発見する。 1981 年、伊達、神保、柏原、三輪が、ソリトン方程式の解の変換 群のリー代数がアフィンリー代数であることを示す。
これによって、ソリトン方程式や可積分系とアフィンリー代数が 関連していることが見出された。また、ソリトンや可積分系にあ る対称性が見えてきた。 宇佐見 公輔 ソリトンとリー代数
9/11 その後の展開 1970 年代〜1980 年代は、ソリトンに限らず、物理と数学とで別 個に研究されていたさまざまな事柄が結びついていった時代。 統計物理の格子模型がアフィンリー代数と関連していることが見 出されたのもこのころ。格子模型はソリトンとも関連がある。 また、リー代数の変形が研究され、量子群が生まれた。量子群は 数理物理のさまざまなところで関連がある。
宇佐見 公輔 ソリトンとリー代数
10/11 余談(最近個人的におもしろかったこと) Perplexity に何気なく Onsager 代数のことを質問したら、以前に 僕が関西日曜数学友の会で話した件が返ってきた。 チャット AI、日曜数学の情報まで捕捉しているとは。 宇佐見
公輔 ソリトンとリー代数
11/11 参考文献 上野喜三雄、ソリトンがひらく新しい数学、岩波書店、1993 理論が生まれた当時の熱気が伝わってくる読みものです。今回の 話はこの本の内容をベースにしました。 三輪哲二・神保道夫・伊達悦朗、ソリトンの数理、岩波書店、1993 理論の内容を詳しく解説した本です。もともとは岩波講座応用数 学シリーズのなかの 1 冊で、2007
年に単行本化され、2016 年には 岩波オンデマンド版が出ています。 宇佐見 公輔 ソリトンとリー代数