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「困っていることはありません」は物事の見方を変えるチャンス

Yutaka Kamei
January 11, 2024
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 「困っていることはありません」は物事の見方を変えるチャンス

RSGT2024 での登壇資料です。

https://confengine.com/conferences/regional-scrum-gathering-tokyo-2024/proposal/19236

デイリースクラムで「困っていることはありません」というフレーズを聞くことがあります。この「困っていることがない」とはどういう状態でしょうか?私は次の2つのいずれかだと考えます。

本当に困っていることがない
困っていることはあるが気づいていない
ソフトウェア開発者として仕事をしている中で、私は「本当に困っていることがない状態」に出会ったことがありません。放置されているライブラリーアップデート、長年の蓄積によるメンテナンス性の乏しいクラスやメソッド、デプロイまでに立ちふさがる承認フロー、テストのない実装。これらのものを前にして「困っていない」と本当に言い切れるでしょうか?

私の経験上、「困っていることがない」状態は問題や課題に気づいていないことによるものだと思っています。では、なぜ気づかないのでしょうか?これまでいくつかのチームを観察してみると以下のことが原因としてありそうです。

ある特定のタスクに集中し過ぎてスコープを狭めることで、全体像への意識が薄れている
これまでのやり方に慣れ、つまり適応してしまい、やり方自体への疑問を持てなくなる
いずれも、チームが現在取り組んでいることをスムーズに完了させるという点では優れた戦略だと思います。こうした戦略によってプロダクトのデリバリーにかかるリードタイムは短くなります。実際、私の関わっているチームもこのような状況でデリバリーのリードタイムは短く、デプロイも頻繁に行われています。

こうした状況下で「困っていることはありません」という発言が出るようになり、私にとっての明確な課題がチームにとっての課題ではないことにショックを受けました。しかし、ふと立ち返ってみると、私はチームから少し離れた位置で仕事をしていたため、そのような違いが生まれたのだと思い至りました。そこから、「困っていることはありません」という言葉自体が、チームが見方を変えるタイミングを示すものと仮定して、それ自体をチームの気づきにする活動にしようと思い至りました。

チームが自ら気づきを得られるように、私からの問いかけ方法を見直しました。まずはスコープを限定することです。「困っていることはありますか?」と直接問いかけてもなかなか困っていることが思いつかない、という声があったので、もう少し具体的に「デプロイで困っていること、面倒なことはないですか?」のような問いかけを試してみました。

本セッションでは、「困っていることはありません」という発言をきっかけにチームの見方を変えることによる意義、取り組んだこと、そして、その効果について、これまでの経験から得られた知見を共有します。このセッションを聞くことで、チームや組織にはたくさんの気づきがあることに気づくことができると思います。

Yutaka Kamei

January 11, 2024
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Transcript

  1. Introduction 困っていることの例 ランタイムのバージョンが古い フレームワークのバージョンが古い その他ライブラリーのバージョンが古い テストコードで stub しすぎ たまにテストのないコードがある 何年も前のコードの意図がわからない

    デプロイまでの承認フローが煩雑 ステージング環境がたまに壊れる 別チームが何しているかわかりづらい 機能を100%揃えてリリースしたがるのでユーザーからのフィードバックが遅い 他部署との調整が難航しがち
  2. Introduction 「問題も答えもない」(=知らないことを知らない)を認知し、問題を「問題」としたい 問題も答えもない 問題はあるが答え はない 問題も答え もある 問題も答えもない 問題はあるが答え はない

    問題も答え もある 「問題も答えもない」領域が たくさんあると認識 問題の発見 細谷 功『問題発見力を鍛える』(講談社、 2020)に基づいて作成
  3. Methods 問いの基本性質 • 問いの設定によって、導かれる答えは変わりうる • 問いは、思考と感情を刺激する • 問いは、集団のコミュニケーションを誘発する • 対話を通して問いに向き合う過程で、個人の認識は内省される

    • 対話を通して問いに向き合う過程で、集団の関係性は再構築される • 問いは創造的対話のトリガーになる • 問いは、創造的対話を通して、新たな別の問いを生みだす 安斎勇樹・塩瀬隆之『問いのデザイン : 創造的対話のファシリテーション』(学芸出版社、 2020)
  4. Results — ある 1on1 の場面における成功例 聞き方を変える 「最近困っていることはありますか?」 「うーん、特にないですね」 私 相手

    「開発ワークフローで困っていることはありま すか?」 「承認フローの A の部分が面倒 ですね」 私 相手 問いかけを変えて答えが変わった!