SRE本出版からまもなく10年！〜これまでに何が起こり、これから何が起こるのか〜

『＠ＩＴ 運用管理セミナー 2025 春 システム運用管理の足腰を鍛える 2025年の壁を突破せよ』にて登壇した際の資料です。
https://members05.live.itmedia.co.jp/library/ODQxOTM%253D?group=2505_Ope2025spr#keynote2

SRE（Site Reliability Engineering）の原典ともいえる書籍『Site Reliability Engineering』が出版されてから、まもなく10年が経とうとしています。
本セッションでは、この10年間でSREがどのように広がり、技術や文化の面でどのように進化してきたのかを振り返ります。
IaC（Infrastructure as Code）やコンテナ技術、Observabilityといった技術的な変遷に加え、SREコミュニティの発展や日本国内での実践の広がりについても触れます。
さらに、AIの台頭による今後のシステム運用の変化や、次の10年に向けたSREの可能性について、登壇者自身の経験や視点を交えて考察しています。

Transcript

1. SRE本出版からまもなく10年！ 〜これまでに何が起こり、これから何が起こるのか〜 一般社団法人 SRE NEXT 代表理事、株式会社スタディスト VPoE 北野 勝久 / @katsuhisa__ 1
2. 自己紹介 北野 勝久 SRE NEXT Founder 一般社団法人 SRE NEXT 代表理事 株式会社スタディスト 執行役員 VP of Engineering X(Twitter) : @katsuhisa__ 2
3. 発表背景 3
4. 発表背景 SREの原典である『Site Reliability Engineering』は2016年4月出版であり、 本発表時点で出版から10年目に突入した 日本国内でSRE LoungeやSRE NEXTといったコミュニティに関わってきた立場から これまでの技術的な変遷を振りかえり、今後について想いを馳せる 4
5. 本日お話すること 5
6. 本日お話すること SREとは SREのひろがり これまでの技術的変化と、SREの進化 これから何が起こるか 6
7. SREとは 7
8. SREとは SREの起源と概要 GoogleのBen Treynor氏による提唱 SRE is what happens when you ask a software engineer to design an operations team エンジニアリングによる、運用業務のあり方の再定義 信頼性を中心とした考え方 8
9. SREとは 代表的なSREプラクティス SLO エラーバジェット トイル削減 ポストモーテ厶 9
10. 信頼性目標とアーキテクチャ: The Reliability Map 10
11. SREのひろがり 11
12. SREのひろがり SRE本の出版 2016年4月出版『Site Reliability Engineering』が原典としての位置づけ 日本語版『SRE サイトリライアビリティエンジニアリング』は、2017年8月に出版 12
13. SREのひろがり 13
14. SREのひろがり SREconの開催 2014年にUSENIXにより第1回SREcon開催 SRE本の出版よりも、はやい開催時期だった その後、世界各地（米州、欧州/中東/アフリカ、アジア太平洋）での開催 14
15. SREcon2014: https://www.usenix.org/conference/srecon14/program 15
16. SREのひろがり SRE関連書籍の状況 Google SREページに公開されているのは三冊で、 それ以外はSREcon登壇者らで執筆されている書籍もある →SREはGoogle発から、様々な企業での実践が行われ続けていることが分かる SLOに特化した書籍や、SREの派生としてのDBREに関する書籍など、 引き続き広がりをみせている 16
17. Google SREページの三冊: https://sre.google/books/ 17
18. SRE書籍のひろがり 18
19. SREのひろがり 日本国内におけるSREコミュニティや情報発信 先進的な企業による、SRE組織の発足（2015年頃〜） 日本語版SRE本の出版(2017年) SREに関する勉強会「SRE Lounge」の発足（2018年〜） SREに関するテックカンファレンス「SRE NEXT」の開催（2020年〜） さらに現在は「もう一度読むSRE」や「SRE Kaigi」など 様々な活動で引き続き盛り上がりをみせている 19
20. SRE組織発足の例: メルカリ様の2015年頃のブログ記事 20
21. SRE Lounge開催初回報告ブログ: https://tech.uzabase.com/entry/2018/01/26/200021 21
22. SRE Lounge初のオープンな開催: https://sre-lounge.connpass.com/event/91566/ 22
23. SRE NEXT初回開催: https://sre-next.dev/2020/ 23
24. これまでの技術的変化と、SREの進化 24
25. これまでの技術的変化と、SREの進化 インフラのコード化(IaC)の普及 初期はChef、Puppet、Ansibleによるサーバー構成管理が中心 クラウド普及によりTerraformなどのリソース管理ツールへ発展 インフラ構築のプロセスが可視化され、構築業務の一部が自動化された 開発プラクティスとの融合が加速し、コードレビュー、テストなどの 開発プラクティスがインフラエンジニアの世界でも求められるように →自動化を駆使した堅牢なインフラをつくる技術者が求められ、SREとも不可分に 25
26. これまでの技術的変化と、SREの進化 コンテナ技術の台頭と成熟 2013年3月、dotCloud（現在のDocker社）がDockerをオープンソースとして公開 2014年6月、GoogleがKubernetesをオープンソースとして公開 2015年にはKubernetesの開発主体がGoogleから移管 2018年頃までに主要なクラウドプロバイダーすべてがKubernetesをサポート →クラウドネイティブを支えるプロジェクトが増加し、開発者の認知負荷にも影響 26
27. CNCF Landscape https://landscape.cncf.io/stats 27
28. これまでの技術的変化と、SREの進化 Observabilityの進化 クラウドネイティブなシステムの発展により、システムの観測性に注目が高まる OpenTracingとOpenCensusが2019年に統合しOpenTelemetryを形成 OpenTelemetryがメトリクス、ログ、トレースの標準化された収集方法を提供 2024年にはOpenTelemetryは貢献者数でCNCF第2位のプロジェクト →サービスレベル目標の管理においても、システム状態の観測は切り離せない 28
29. 『Observability Engineering』は2022年発売 29
30. これまでの技術的変化と、SREの進化 Platform Engineeringの台頭 インフラ技術の発展と管理の複雑化により、Platform Engineering実践企業が増加 Platform Engineeringは特定技術領域を指すわけではないが Platform Engineeringはエンジニアリングチームの認知負荷を減らす 内部セルフサービスプラットフォームを提供する →プラットフォームにより、SRE実践にあたり組織に根付かせたい標準を強化できる 30
31. 認知負荷の高まり: https://www.infoq.com/articles/platform-engineering-primer/ 31
32. Team Topologies: https://github.com/TeamTopologies/Team-Shape-Templates 32
33. これから何が起こるか 33
34. これから何が起こるか 技術トレンドとして私が感じていること インフラ管理のさらなる発展 AIによるシステムの複雑さの向上 AIによるシステム運用業務の次のフェーズ 34
35. これから何が起こるか インフラ管理のさらなる発展 引き続き抽象化が進み、開発者がビジネス価値へさらに集中できるように（？） ある意味では、ここ10年もずっと同じことが言われ続けているが、 クラウドネイティブなプロジェクトでも引き続き盛り上がりがある 抽象化が求められる背景としてScalingへの課題感も根強く、 たとえば2023年のSREconでは4セッションで「Scaling」に言及 「アーキテクチャの複雑性が私たちのメンタルモデルを追い越している」 ( https://www.gremlin.com/blog/five-trends-from-srecon-americas-2023 ) 複雑なシステムの管理における、コストと価値のバランスに集中するためにも FinOpsのような考え方や実践もますます注目されるようになるのでは 35
36. 『Cloud FinOps』は2nd Editionの日本語版が2025年03月に発売されたばかり 36
37. これから何が起こるか AIによるシステムの複雑さの向上 AI/LLMの発展や世間への受容が、ソフトウェア開発にもインパクトをもたらしている SREの領域においては、システムの不確実性が増すことにより、 Observabilityや、パフォーマンスを含めた広義での信頼性への影響が特に大きい 私も所属しているスタディストにてLLMを組み込んだ機能開発に携わり、 出力の評価や、パフォーマンスの安定性との向き合い方において、 価値観の転換の必要性を感じている （ https://biz.teachme.jp/function/teachmeai/ ） Datadogからは、LLM Observabilityの機能が発表された 余談: 発表の際のウェビナーをリアルタイムで視聴していたが、 OnCall機能発表時のほうが会場で拍手と歓声が起こっていた気が・・・ 37
38. Datadog LLM Observability: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000064.000077474.html 38
39. OSSでもLLM Observabilityはひろがっている 39
40. これから何が起こるか AIによるシステム運用業務の次のフェーズ AIによるObservabilityの強化は、Grafana Labsの調査でも注目されはじめている （ https://grafana.com/blog/2025/03/25/observability-survey-takeaways ） 注目領域は「training-based alerts」と「faster root cause analysis」 個人的には予測的なシステム最適化や、AIによる運用自動化全般の発展が楽しみ なおOnCallを管理するツールにおいては、 ポストモーテ厶の自動生成機能が実装され始めている 40
41. The state of observability in 2025 41
42. まとめ 42
43. まとめ SREの次の10年に向けて SREは引き続き普及し、盛り上がっている 今後は以下のような盛り上がりも楽しみ 非ITドメインや、ビジネスプロセスへの考え方の適用 Enterprise SRE システムの複雑性やツールの増加により、SREを取り巻く環境の変化が激しい この傾向はAIやLLMの登場によっても加速している 一方で、ビジネス価値への集中ができるよう、 支援する領域も、またAIやLLMによって盛り上がっており、悲観する必要はない 43
44. https://www.usenix.org/conference/srecon24americas/call-for-participation での言及 SREは技術中心の企業だけでなく、あらゆる規模と背景の組織にも存在 SRE as a practice (whether you call it SRE or something else) exists not only in technology-focused companies but also in organizations of all sizes and backgrounds. 44
45. Enterprise Roadmap to SREの日本語訳は2023年に出たばかり 45
46. まとめ さいごに 今日お話しした内容は、私なりのSREを取り巻く解釈でしかない SREの実践全般において言えるが、 各社による実践を通じた学びをお互いに意見交換することで、進化・発展していく →ということで・・・ 46
47. SRE NEXT 2025 でお会いしましょう: https://sre-next.dev/2025/ 47