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秘密計算の有用性に関する検討ペーパー 〜『統計目的第三者提供』の実現にあたり〜

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秘密計算の有用性に関する検討ペーパー 〜『統計目的第三者提供』の実現にあたり〜

本ペーパーでは、個人情報保護委員会が取りまとめる「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しに係る検討」における「統計目的第三者提供(本人同意不要でのデータ提供)」の実現に向け、統計情報等の作成にのみ利用されることを担保する手段として、秘密計算が有用であることを整理しています。(公表日:2026年1月20日、作成者:プライバシーテック協会)

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  1. 1 秘密計算の有用性に関する検討ペーパー 〜「統計目的第三者提供」の実現にあたり〜 2026年1月20日 プライバシーテック協会 第1 本ペーパーの趣旨 個人情報保護法のいわゆる3年ごと見直しにおいて、統計情報等の作成にのみ利用される ことが担保されていること等を条件に、本人の同意なく個人データ等の第三者提供(以下 「統計目的第三者提供」という。)を認めることが検討されている(「個人情報保護法の制

    度的課題に対する考え方について1」(令和7年3月5日個人情報保護委員会。以下「考え方」 という。)及び「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しの制度改正方針2」(令和8年1月 9日個人情報保護委員会))。 統計目的第三者提供が実現すれば、複数の事業者が持つデータを共有し横断的に解析する ことがより簡易に、かつ、精度高く可能となり、新たなビジネスモデルの創出や社会課題の 解決など、新たな産業の創出や、活力ある経済社会、豊かな国民生活の実現に資するものと 考えられる。一方、個人情報の利活用により、個人の権利利益が脅かされることはあっては ならず、個人の権利利益の保護を担保すること(すなわち、統計情報等の作成にのみ利用さ れることが担保されていること)は、重要な論点となる。 この点、秘密計算は、統計目的第三者提供を利用した施策の実施にあたり、統計情報等の 作成にのみ利用されることを担保する手段として非常に有用である。 そこで、秘密計算を含むプライバシーテックの普及を促進する業界団体として、当協会は、 統計情報等の作成にのみ利用されることを担保する手段として秘密計算が有用であること の理解を得ることを目的として、本ペーパーを作成した。 AIの爆発的な普及により、データ利活用を行う事業者には、企業倫理として、自主的なプ ライバシーガバナンス(PIA等)やAIガバナンスの取組みが求められる時代がきている。本 ペーパーが、各事業者3において個人の権利利益に配慮したデータ利活用施策を検討・実施 する際の一助となれば幸甚である(秘密計算の有用性を示す前提として、各モデルケースに おける対策ポイントも抽出しているので、その点も合わせて、PIA等のリスクアセスメント の参考となると思われる)。 以下では、まず秘密計算の解説を行い(「第2」)、設定したモデルケース(「第3」) をベースとして、モデルケースごとに秘密計算の有用性を解説する(「第4」)。 1 https://www.ppc.go.jp/files/pdf/seidotekikadainitaisurukangaekatanitsuite_250305. pdf 2 https://www.ppc.go.jp/files/pdf/01-1_seidokaiseihousin.pdf 3 本ペーパーで設定したデータコラボレーション型やデータプラットフォーム型などの複数 の事業者が関与するデータ利活用施策のガバナンス検討にあたっては、個社ごとではなく、 施策全体を一体としてガバナンスを検討することが重要となろう。
  2. 2 第2 秘密計算について 1 秘密計算(機密コンピューティング)とは 秘密計算とは、データの処理を、暗号化ないし秘匿化した状態で行える技術の総称であ る4。マルチパーティ計算(MPC:Multi-Party Computation)、完全準同型暗号(FHE:Full y Homomorphic

    Encryption)、機密コンピューティング(CC:Confidential Computing) などの技術が該当する。 本ペーパーでは、特に急速に普及している機密コンピューティング(CC)を念頭に記載 している(以降、秘密計算と機密コンピューティングを同義として区別せず用いるが、可 能な限り機密コンピューティングに依存しない記載を心がけている)。 機密コンピューティング(CC)は、メモリ内のセキュアな領域(「Enclave」という。 同領域内はシステムの管理者であっても閲覧ができない。)内でデータ処理を行う技術で あるTEE(Trusted Execution Environment)を利用しており、誰からも内部を閲覧できな いEnclave内でデータ処理が行われることで秘密計算を実現するものである5。 4 「秘密計算」の定義や呼称は様々あるが、本ペーパーでは、本文記載のような技術と定義 している。 5 技術の詳細等については、「情報処理」2025年7月号(Vol.66 No.7。一般社団法人情報処 理学会)の特集「AI時代の安全なデータ処理「Confidential Computing」」の各記事を参照 されたい(web上で閲覧できるものとして「Confidential Computingの概要と動向 ─ AI時 代に急速に普及する機密コンピューティング─」(https://www.acompany.tech/privacytec hlab/ipsj_cc )など)。
  3. 3 2 実装にあたっての留意点 秘密計算を実装検討するにあたっては、例えば、以下の3点に留意が必要となる。 1点目は、秘密計算は主にデータの処理時を対象とした技術であるため、データ保有者 と秘密計算をする主体(事業者など)との間のデータ転送時や、秘密計算をする主体での データ保管時においては、秘密計算とは別に、適切な暗号技術等を用いたセキュリティ対 策を行う必要がある、ということである。 2点目は、秘密計算環境下で実行されるプログラムの適切性(例えば、不正にデータを 取得するバックドア等が仕込まれていないか)は別途、確認が必要である、ということで

    ある6。 3点目は、秘密計算の技術特性の確認が必要ということである。例えば、機密コンピュ ーティングは、ハードウェアの安全性が前提となる技術であり、メーカー毎に特性に相違 がある。そのため、機密コンピューティングと一言でいっても、その技術特性が異なる場 合が存在するため、実装にあたっては、各ハードウェアの技術特性の確認が必要となる7。 第3 モデルケース 秘密計算の有用性の説明にあたり、統計目的第三者提供が実現した場合にその利用が期待 される典型的なユースケースのモデルとして、データコラボレーション型とデータプラット フォーム型の2つをモデルケースとして設定した。 なお、これらのモデルケースは、現時点の個人情報保護法制下においても、本人から同意 を取得したり、個人データに一定の加工を施したりすることで、個人データの利活用施策と して既に実現されているものであるが、統計目的第三者提供が実現した場合には、本人の同 意が不要となり、かつ、個人データを加工することなく利用することができるようになるの で、現時点よりも柔軟な、かつ、精度が高い利活用が可能となる(その一方、個人の権利利 益の保護を担保することが重要となることは上述のとおりである)。 1 データコラボレーション型 データコラボレーション型は、特定の企業間でデータを直接やり取りし、統計情報を作 成するケースを指す。 例えば、2社以上の特定の事業者が保有する個人データを突合し、多角的に分析するこ とにより、より精緻なマーケティング戦略の策定や既存サービスの高度化が可能となる。 このように、各事業者が経済的利益を追求しつつ、より良いサービス提供が行えるような ユースケースである。 6 例えば、機密コンピューティングにおいては、リモートアテステーションという機能を利 用すれば、データ保有者が意図したプログラムが動作しているか(秘密計算の処理をする主 体において改ざん等がなされていないか)を、データ保有者が遠隔にて検証することが可能 である。 7 当協会は、機密コンピューティングに関する団体であるConfidential Computing Consort iumの技術文章の日本語訳を行っている(https://privacytech-assoc.org/document)。
  4. 4 具体的な処理の流れとしては、例えば、図1のように、A社が保有する個人データを、B 社に統計目的第三者提供をし、B社が持つ個人データと突合して、突合した個人データを 作成し、統計分析した統計情報を出力するような処理になる。 図 1 データコラボレーション型の処理の例 2 データプラットフォーム型 データプラットフォーム型は、不特定多数の事業者が、特定のプラットフォーム事業者

    (データの処理・分析等を一事業として行う事業者)に個人データを提供し、プラットフ ォーム事業者が統計情報を作成するケースを指す。 例えば、複数の金融機関が共通のプラットフォーム事業者にデータを提供し、不正取引 の検知モデルを作成するなど、業界内で連携したデータ連携により、社会課題の解決が可 能となる。このように、社会に対し利益をもたらすようなケースの創出が可能となるよう なユースケースである。 具体的な処理の流れとしては、例えば、図2のように、A社とB社がそれぞれ持つ個人デ ータをC社に統計目的第三者提供をし、C社においてこれらのデータを突合した個人データ を作成し、統計分析した統計情報を出力するような処理になる。 図 2 データプラットフォーム型の処理の例
  5. 5 第4 各モデルケースにおける秘密計算の有用性 以下では、秘密計算の有用性を示す前提として、各モデルケースにおける対策ポイント8 9をまずは示している(下記「1(1)」「2(1)」参照)。そして、各モデルケースの 各対策ポイントに対し秘密計算が有用かどうかという点を次に示している(下記「1(2)」 「2(2)」参照)。 1 データコラボレーション型 (1)対策ポイント

    ア 目的外利用 (ア)提供先での自己利用 B社は、A社の個人データ、及び、A社とB社の個人データを突合した個人データを 統計目的でのみ利用する必要があるが、これらのデータ自体をB社が統計目的の範 囲を超えて、自社サービスの分析など、自社のために利用してしまうことが想定さ れる。 これは、B社において意図してB社自身のために利用する場合だけでなく、B社従 業員間において統計目的以外での利用禁止が徹底されていない等の理由により、B 社として意図せず、B社のために利用されることも想定される。 8 各対策ポイントは、「考え方」で示されている担保手段の遵守により対策されることがま ずもって重要である。一方、事業者が取り扱う個人データの種類によっては、リスクベース アプローチにより、事業者の自主的な取り組みとして、上乗せの対策が検討されるべきであ り、その一つの対策手段として、秘密計算が存在するものである(もちろん、それ以外にも 有用な対策は存在し、秘密計算が万能であるという趣旨ではない)。 9 対策ポイントは、本ペーパーにおいては、個人データの統計目的外利用の防止と漏えい等 の防止に焦点を当てて整理している。なぜなら、統計目的第三者提供における個人の権利利 益の保護の担保にあたっては、提供元から提供先に提供した個人データを提供先が統計目的 以外で利用等することを防止するのが最も重要であり、また、統計目的第三者提供が実現す ると、複数の個人データが1つの事業者に集まり、利用する必要がある限りは継続的に保管 される可能性があるため、漏えい等の防止がより重要となるからである。
  6. 13 (エ)提供先従業員による個人データの窃取に対して 秘密計算を適切に実装すれば、B社がA社の個人データを閲覧等することはできな い状態のままで統計情報の作成が可能である。よって、秘密計算は、B社の従業員 がA社の個人データ等を窃取することを防ぐために有用である。 2 データプラットフォーム型 (1)対策ポイント 本ペーパーにおいて現時点で想定した範囲では、データプラットフォーム型において も、データコラボレーション型で示したものと同様の対策ポイントが想定される。

    (2)秘密計算の有用性 本ペーパーにおいて現時点で想定した範囲では、データプラットフォーム型において も、データコラボレーション型で示したものと同様の有用性が期待できる。 (3)データコラボレーション型との異同 上述のとおり、本ペーパーにおいて現時点で想定した範囲では、データプラットフォ ーム型とデータコラボレーション型とにおいて、それぞれの対策ポイントと秘密計算の 有用性には大きな差はなかった。 しかし、データコラボレーション型と比較して、データプラットフォーム型において は、(事業者のデータ利活用施策の内容によるところではあるが、)①データプラット フォーマーであるC社に多くのデータが継続的に蓄積、かつ、保管される可能性が高い、 ②社会課題を解決するために利用されると想定すると、金融データや医療データなどセ ンシティブな情報が収集される可能性が高い、といった特徴があると思われる。 そのため、(PIA等を通じたリスクアセスメントの結果次第ではあるが、)データコ ラボレーション型よりも高度な対策が必要(秘密計算を実装するメリットが大きい)と 判断される傾向になると想定される。