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AIエージェントのメモリについて

 AIエージェントのメモリについて

2026/02/18
「Engineers GUILD Vol5 実装から考えるAIエージェント設計勉強会」登壇資料
https://layerx.connpass.com/event/384255/

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shibuiwilliam

February 17, 2026
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  1. © LayerX Inc. Next-Gen Agent Memory AIエージェントのメモリについて 2026/02/17 LayerX Ai

    Workforce事業部 R&D、データ検索基盤チームマネージャー Yusuke Shibui
  2. ⾃⼰紹介 shibui yusuke • いろいろ → Stability AI → LayerX(いまここ)

    • R&D, データ検索基盤チームのマネージャー • MLOpsコミュニティ運営 • 最近やりたいこと ⽣成AIの⽣成AI以外のエンジニアリング • Github: @shibuiwilliam • FB: yusuke.shibui 猫のようで サイズは犬 猫耳メガネ LLMに聞いてみた
  3. © LayerX Inc. 5 ステートレスからステートフルへ LLMは本質的にステートレス。 セッションを超えて⻑期的な⼀貫性を維持できない。 課題: • コンテキストウィンドウの制限:

    すべての履歴を⼊⼒する ことはコストと精度の⾯で⾮現実的。 • RAGの限界: 静的な事実検索には強いが、「ユーザーの状 態変化」や「⽂脈の推移」を理解するのは苦⼿。 • パーソナライゼーションの⽋如: 過去の対話に基づいた振 る舞いの調整が困難。 ⽬指すべき姿: • ユーザーの好みを学習し続ける。 • 過去の失敗から学び、⾏動を修正する。 • 数ヶ⽉前の対話内容を適切に引⽤する。
  4. © LayerX Inc. 6 エージェントメモリの3つの要件 単なるデータベースへの保存ではなく、⼈間の記憶プロセスに近い「動的なライフサイクル」を持つシステムが必要。 1. 永続性 (Persistence): ブラウザセッションやチャットウィンドウを閉

    じても情報が消えず、次回の対話に引き継がれること。短期記憶 (RAM)から⻑期記憶(Disk/Vector/DB)への移⾏。 2. 適応性 (Adaptivity): 新しい情報が⼊ったときに、古い情報と⽭盾があ れば修正し、知識を更新する能⼒。静的なアーカイブではなく、常に 書き換わる「⽣きている記憶」。 3. 個別化 (Personalization): ユーザー固有のコンテキスト(⼝調、好 み、⽣活習慣)を理解し、エージェントの応答スタイル⾃体を変化さ せる能⼒。
  5. © LayerX Inc. 7 Memory in the Age of AI

    Agents: https://arxiv.org/pdf/2512.13564 メモリ、コンテキスト、RAGの整理
  6. © LayerX Inc. 8 Memory in the Age of AI

    Agents: https://arxiv.org/pdf/2512.13564 メモリの種別
  7. © LayerX Inc. 9 記憶の保存媒体による分類 • トークンレベル:明⽰的‧ 離散的な記憶 • パラメータレベル:モデル

    重みに暗黙的保持 • 潜在レベル:隠れ状態とし て保持 メモリの⽬的に基づく分類 • 事実的メモリ:世界知識の 保持 • 経験的メモリ:洞察‧スキ ルの蓄積 • 作業記憶:現タスク⽂脈の 管理 運⽤ライフサイクルの解剖 • 形成:抽出から作成までの 過程 • 進化:記憶の定着‧忘却プ ロセス • 検索:必要時の情報アクセ ス Memory in the Age of AI Agents: https://arxiv.org/pdf/2512.13564 パラダイムシフト:動的な認知アーキテクチャへ 形態 機能 動態
  8. © LayerX Inc. 10 形態 機能 動態 トークンレベル 会話ログ‧外部⽂書など 明⽰的に保持される記憶

    事実的メモリ 世界知識‧ドメイン固有知識 を格納する⻑期記憶 形成 (Formation) 情報の抽出‧フィルタリング から記憶単位の作成まで パラメータレベル ファインチューニングにより モデル重みに暗黙的に符号化 経験的メモリ 過去の相互作⽤から得た 洞察‧スキル‧戦略を保持 進化 (Evolution) 記憶の定着‧統合‧忘却 ⽭盾の解決と抽象化 潜在レベル RNNの隠れ状態やKVキャッシュ として保持される潜在的記憶 作業記憶 現在進⾏中のタスクの⽂脈を アクティブに管理する短期記憶 検索 (Retrieval) 適切な情報に効率的にアクセス クエリ意図に基づく検索 メモリ分類の詳細フレームワーク Memory in the Age of AI Agents: https://arxiv.org/pdf/2512.13564
  9. © LayerX Inc. 13 モノリシックなメモリの限界 従来のMAGアプローチの問題点: • 単⼀のベクトルストアに対するセマンティック類似度のみの検 索では、時間的順序‧因果関係‧エンティティネットワークが 単⼀の埋め込み空間内で交絡する。

    • クエリ意図と検索された証拠のアラインメントが致命的に損な われ、マルチホップ推論の精度が著しく低下する。 • 語彙的アンカーが類似するだけで時間的に離れた事象を誤って 検索したり、因果関係のある重要な⽂脈を⾒落とす。 ⽂脈の交絡 意味‧時間‧因果‧エンティティが単⼀空 間で混在し、正確な検索が不可能になる 問題。 求められる解決策 関係性ビューの分離による構造化された検 索と、推論の透明性の確保が必要。 https://arxiv.org/pdf/2601.03236 MAGMA:解決すべき課題
  10. © LayerX Inc. 14 Semantic 意味グラフ ベクトル埋め込みによる 意味的類似性の表現 Temporal 時間グラフ

    不変の時間的バックボーン によるイベント順序の保持 Causal 因果グラフ 事象間の因果関係を 明⽰的に構造化 Entity エンティティ 固有表現のネットワーク による知識の連結 ポリシー主導型トラバーサル 検索プロセスは単純なベクトル距離の 計算ではなく、これらの関係性ビュー 上をポリシーに従って探索 メモリの各項⽬を4つの独⽴したグラフ上にマッピングし、ポリシーに従って探索(トラバーサル)する MAGMA:4つの直交グラフ構造 https://arxiv.org/pdf/2601.03236
  11. © LayerX Inc. 15 Fast Path(シナプス的取り込み) リアルタイムで同期的に実⾏ • イベントのセグメンテーション •

    ベクトルインデックスの作成 • 不変の時間的バックボーンの更新 LLMによる重い推論を同期処理から排除し、メモリサイズ増 ⼤時もエージェントの即応性を維持 Slow Path(構造的定着) バックグラウンドで⾮同期に実⾏ • マルチリレーショナルグラフの再構築 • ノードの統合と整理 • 因果関係‧エンティティリンクの更新 豊富な計算資源を⽤いた複雑な進化プロセスにより、⻑期的 な推論の忠実度を維持 ⼈間の脳の相補的学習システム(CLS理論)に着想を得た⼆重経路メカニズム MAGMA:デュアルストリームのメモリ進化 https://arxiv.org/pdf/2601.03236
  12. © LayerX Inc. 17 低エントロピーノイズの蓄積 ⻑期間の相互作⽤で蓄積されるノイズ: • 相槌‧反復的システムログ • タスクに直結しない雑談

    • 冗⻑な反復情報 これらをすべて保持すると、メモリバッファの情報密度 が極端に低下し、検索精度が悪化するだけでなく、推論 時‧検索時のトークン消費量が指数関数的に増⼤する。 既存⼿法の限界 Mem0、ReadAgent等は反復的推論でノイズをフィ ルタリングするが、推論サイクルの繰り返しによ り、レイテンシ増⼤とトークン使⽤量増加を招く。 SimpleMemの⽬標 意味的ロスレス圧縮を中⼼に構築し、限られたトー クン予算とコンテキスト制約の下で情報効率を最⼤ 化するメモリフレームワーク。 https://arxiv.org/pdf/2601.02553 SimpleMem:解決すべき課題
  13. © LayerX Inc. 18 SimpleMem:3段階のメモリ圧縮、整理、推論 第2段階:OSS Online Semantic Synthesis 再帰的統合とマルチビューインデックス

    • 関連する断⽚を⾼密度として合成 • 例:「コーヒーを欲している」 「オーツミルクを好む」「ホッ トが好き」→「オーツミルク⼊ りホットコーヒーを好む」 • ⻑期記憶の冗⻑性を排除し、メモリト ポロジーをコンパクトかつ⼀貫性ある 状態に保持 • 複数インデックスによる多⾓的検索 • Semantic:ベクトル埋め込み • Lexical:キーワード検索 • Symbolic:メタデータ 第3段階:IARP Intent-Aware Retrieval Planning LLMでユーザーの潜在的意図を推論 • 情報ニーズを分解し検索範囲‧深さを 動的に計画し決定 • 各インデックスに並列検索を実⾏ • IDベースの重複排除で結果を統合 • 複雑な線形重み付けに頼らずトークン 効率の⾼い正確なコンテキストを構築 第1段階:SSC Semantic Structured Compression 対話ログを「使える記憶」に変換 • テキストの情報量(エントロピー)評 価しフィルタリング • Memory Unitへの蒸留:コンテキスト から独⽴した記憶に変換 • 「彼」「それ」等の代名詞を具 体的なエンティティに変換 • 「昨⽇」「1時間後」等の相対時 間を絶対時間に変換 • 複雑な会話を事実の単位に分解 https://arxiv.org/pdf/2601.02553
  14. © LayerX Inc. 21 エージェントメモリの誤進化(Misevolution) タスク成功率のみを単⼀の報酬信号として利⽤する従来のメモリ進化戦略では、スコアを追求するエージェントがタスクを最 速でクリアするために初期の安全制約やアラインメントを徐々に侵⾷する。結果として安全性‧堅牢性‧真実性‧プライバ シー‧公平性といった多次元の信頼性が体系的に低下する「報酬ハッキング」現象が発⽣する。 安全性 Safety

    堅牢性 Robustness 真実性 Truthfulness プライバシー Privacy 公平性 Fairness 致命的トレードオフ プロンプト調整や安全ガードレール等の初歩的対策は、信頼性 のわずかな向上をもたらす⼀⽅で、タスクパフォーマンス (ユーティリティ)を損なう。有⽤性と安全性の両⽴が必要。 TAME:解決すべき課題 https://arxiv.org/pdf/2602.03224
  15. © LayerX Inc. 22 エグゼキューター (Aexec) 能⼒の獲得と戦略の認識 • 過去の軌跡から汎⽤的な問題解決⼿法(メソドロ ジー)を抽出

    • 戦略の抽象化メカニズムにより、特定データセッ トに依存しないクロスデータセット推論パターン を学習 • 未知の問題に対する適応⼒を⾼め、汎⽤性のある 実⾏能⼒を獲得 エバリュエーター (Aeval) 品質と安全性の同時評価 • タスク実⾏品質(ユーティリティ)と安全性コン プライアンスを同時に評価 • 「評価メモリ」を独⾃に構築し、過去の失敗例や 陥りやすい罠に対する警告を発信 • メタ認知的ガイダンスとしてシステム全体の進化 ⽅向を制御 有⽤性と安全性の進化メカニズムを分離する「戦略認識型」アーキテクチャ TAME:⼆層メモリ進化フレームワーク https://arxiv.org/pdf/2602.03224
  16. © LayerX Inc. 23 1 メモリ‧フィルタリング Evaluatorがタスクに無関係なノイズを排除し、有害なショート カットを事前ブロック。純化された安全な実⾏コンテキストを 確⽴する。 2

    ユーティリティ優先ドラフト⽣成 安全制約より問題解決の有効性を⼀時的に優先し、⾼レベルな ⼀般化計画を⽣成。過度なアラインメントによる推論阻害を防 ⽌。 3 信頼性の⾼い洗練 メタ認知的知識と憲法上の制約に基づく安全境界を注⼊。論理 とプロンプト構造を最適化する包括的洗練作業。 4 ガイド付き実⾏ 洗練された計画に導かれ、タスクパフォーマンス要件と安全コ ンプライアンスの双⽅を満たす最終応答を⽣成。 5 デュアルトラック‧メモリ更新 戦略的洞察はExecutorメモリに、評価の前例と安全知⾒は Evaluatorメモリに定着。堅牢な⾃⼰補正ループを確⽴。 TAME:5段階の閉ループ進化プロセス https://arxiv.org/pdf/2602.03224
  17. © LayerX Inc. 25 結論と将来展望:記憶から「⼼」へ 01 「構造」への回帰と進化 ベクトル検索の限界が認識され、グラフ‧タイムライン‧トピックボックス等のLLMが⽣成する構造が復権。 02 「忘却」と「圧縮」の戦略的活⽤

    無限の記憶はノイズと同義。何を捨てるか、どう要約するかが⻑期的な性能維持の鍵。 03 メモリの「スキル化」と「OS化」 メモリ操作⾃体を学習対象とし、インフラ層へ沈み込み標準化が進⾏。 2026年は「⼈⼯的な海⾺」の実装が、AIエージェントが真のパートナーになれるかを決定づける年となる(かも?)
  18. © LayerX Inc. 27 We are hiring! AIシニアデータエンジニア Applied R&D

    リサーチエンジニア https://open.talentio.com/r/1/c/layerx/pages/110834 AI検索エンジニア https://open.talentio.com/r/1/c/layerx/pages/107758 https://open.talentio.com/r/1/c/layerx/pages/109629 カジュアル⾯談はこちら!!!