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(メタ)科学コミュニケーターからみたAI for Scienceの同床異夢

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November 14, 2025

(メタ)科学コミュニケーターからみたAI for Scienceの同床異夢

2025年11月14日に第4回AIロボット駆動科学研究会にて行った話題提供「(メタ)科学コミュニケーターからみたAI for Scienceの同床異夢」の資料です。

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November 14, 2025
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  1. 20251114  丸山資料 ⾃⼰紹介 2012  修⼠課程:理論神経科学 2012- 理⼯書編集者 2020- JST研究開発戦略センター 2024- 個⼈事業主 - 研究アウトリーチ

    - AIスタートアップにて調査‧執筆 - メタサイエンス研究会 “(メタ)サイエンスコミュニケーター”
  2. 20251114  丸山資料 一介の科学コミュニケーターから
 AI (・Robot) for Science が
 どう見えているかという
 余興的なお話です

    🙇
 ⾃⼰紹介 2012  修⼠課程:理論神経科学 2012- 理⼯書編集者 2020- JST研究開発戦略センター 2024- 個⼈事業主 - 研究アウトリーチ - AIスタートアップにて調査‧執筆 - メタサイエンス研究会 “(メタ)サイエンスコミュニケーター”
  3. 20251114  丸山資料 ⽬次 1.なぜ「AI for Science」がブームなのか 2.科学コミュニティから見た AI for Science

    3.AI/Robot for Scienceが科学に突きつける問い 4.構想:「メタサイエンス分科会」?
  4. 20251114  丸山資料 「AI for Science」という⾔葉 • AI for Science 米国で2010年代後半~ •

    AI in Science 欧州の政策文書ではこちら • AI in/for Research • AIロボット駆動科学 • 第5の科学 • Automated Research Workflow • 研究DX … 最⼤公約数:科学にAI(+ロボット?)を使っていこうというコンセプト
  5. 20251114  丸山資料 ⽬次 1.なぜ「AI for Science」がブームなのか 2.科学コミュニティの中から見た AI for Science

    3.AI/Robot for Scienceが科学に突きつける問い 4.構想:「メタサイエンス分科会」?
  6. 20251114  丸山資料 「外」からの注⽬①:AI産業から OpenAI/Sam Altman: 「2028年3月までの自動 AI研究 実現を社内目標に」 https://www.youtube.com/watch?v=ngDCxlZcecw 2025年末:AI投資加熱

    各社は「科学の⾃動化∕加速」を掲げる Anthropic/Dario Amodei: 「20世紀に100年かかった 生物学・医学研究が、 10年で可能に」 https://www.darioamodei.com/essay/machines-of-loving-grace 1兆ドル規模の投資を正当化する⽤途としての“cure cancer”, “solve climate change”, etc.
  7. 20251114  丸山資料 「外」からの注⽬①:AI産業から • Google DeepMind:Alphafoldをはじめ各種ドメ インの科学AIを精⼒的に開発。リスクを含めた議論 形成もリード • Microsoft:2022年「AI

    for Science Lab」を設 ⽴。創薬、材料科学、気候科学など。 ビッグテックによるリード 科学特化AIスタートアップ隆盛 • Future House(non-profit):AIによる科学的発 ⾒のためのプラットフォームKosmosを2025年11⽉ 公開 • Periodic Labs:2025年にChatGPT開発メンバーら が創業。シードで3億ドル調達。物質科学における AI科学者+ラボ⾃動化を掲げる。 https://edisonscientific.com/articles/announcing-kosmos
  8. 20251114  丸山資料 「外」からの注⽬②:科学政策から • American Science Acceleration Project(ASAP)構 想:「2030年までに科学を10倍に加速」することを掲げ る超党派の提案(2025年6月)。

    • NAIRR(National AI Research Resource): 研究用途の計算資源やデータ整備の事業。 ⽶国 EU • 2025年10月「欧州AI in Science戦略」 • 2025年11月 RAISE(Resource for AI Science in Europe)始 動:AIリソース(データ、計算資源、人材)を欧州の科学者に提 供。パイロットフェーズは€107M。
  9. 20251114  丸山資料 ⽂科省2026年度 概算要求 AI for Science関連に355億円 https://www.mext.go.jp/content/20250805-mxt_jyohoka01-000044376_03.pdf 「外」からの注⽬②:科学政策から(⽇本) “科学の再興

    ”を掲げる我が国とし て、…分野横断的・組織横断的な 「AI for Science」の先導的実装に 取り組むことが喫緊の課題。 https://www.mext.go.jp/content/20251006-mxt_jyohoka01-0000451 88_04.pdf
  10. 20251114  丸山資料 ⽬次 1.なぜ「AI for Science」がブームなのか 2.科学コミュニティから見た AI for Science

    3.AI/Robot for Scienceが科学に突きつける問い 4.構想:「メタサイエンス分科会」?
  11. 20251114  丸山資料 AI for Scienceの歴史は⻑い 記号的AI 機械学習(識別的なAI) ⽣成AI(基盤モデル)‧汎⽬的 エージェント 20c

    2010s 2020 ドメイン特化基盤モデル 2025 DENDRAL BACON ほか データ駆動型の科学研究 (バイオインフォマティク スなど) ChatGPTほか 「科学基盤モデル」 AI Scientist AI Co-scientist ⽣成AIとそれを⽤いたエージェント技術が出そろったのが2025年現在。
  12. 20251114  丸山資料 AI(‧ロボット)が使われる場⾯は多様 A. 狭義の研究プロセス: (研究projectのサイクル) • 問いを⽴てる • 仮説⽣成

    • 実験検証 • 仮説の採⽤‧棄却 など B. 広義の研究プロセス: (研究者のサイクル) • チームビルディング、資⾦調達 • 実験準備、論⽂執筆、アウトリーチなど
  13. 20251114  丸山資料 AI(‧ロボット)が使われる場⾯は多様 A. 狭義の研究プロセス: (研究projectのサイクル) • 問いを⽴てる • 仮説⽣成

    • 実験検証 • 仮説の採⽤‧棄却 など B. 広義の研究プロセス: (研究者のサイクル) • チームビルディング、資⾦調達 • 実験準備、論⽂執筆、アウトリーチなど C. 科学の社会的なプロセス (研究コミュニティのサイクル) • 学術コミュニケーション(査読など) • 資⾦配分(グラント審査) • 評価 • 産学連携 • シティズンサイエンス など
  14. 20251114  丸山資料 ① どんな技術? ③ AIはどんな存在? ② どのサイクルを扱う? × ×

    1.記号的AI 2.機械学習(識別的) 3.汎⽬的な⽣成AI 5.エージェント 4.分野特化基盤モデル A. 科学的発⾒のコアプロセス B. 広義の研究サイクル C. 社会的な科学プロセス α. AIは科学の道具 β. AIは共同研究者 γ. 科学者としてのAI A B C AI for Scienceの多様性:ひとまずのまとめ AI for Science
  15. 20251114  丸山資料 科学者たちのいろいろな実践∕期待 材料創成の プロセス探索 AIロボットには、R&D部門と生産技術 部門の間にある垣根を下げる効果 が ある。サンプル作成法の暗黙知を形 式知化することで、両部門が同じプロ

    セスを共有できる。 生命科学における 実験ロボット活用 データ収集の「効率化/無人化」に とどまらず、人間だけでは探索でき ない条件空間を AIロボットと人間が 協調して探索する「外挿的」な活用 ことが重要。 心理学研究の 実験設計 心理尺度開発で、質問項目案の生成 やLLMで実施。人間の研究者が限ら れた時間では着手できなかった研究 に取り組めるように なる。 数学研究 Terence Tao Transcript for Terence Tao: Hardest Problems in Mathematics, Physics & the Future of AI | Lex Fridman Podcast #472 学術情報の活用 「化学×薬学」「材料×エネルギー」など、異 なる分野をまたぐ学際的な知見 や、R&D と事業をつなぐ新発想 が生成AIで可能に なるのではないか。 ※Tao氏以外は丸山のヒアリングに基づく 2026年までに、AIと数学者の共同 研究が実現。数学者のスキルを すべてでなくても、 30~40%のス キルは再現できる だろう。
  16. 20251114  丸山資料 ⽬次 1.なぜ「AI for Science」がブームなのか 2.科学コミュニティから見た AI for Science

    3.AI/Robot for Scienceが科学に突きつける問い 4.構想:「メタサイエンス分科会」?
  17. 20251114  丸山資料 この間のどこかに 落ち着くはず Q. 研究の各プロセスは どう変わる? Q. ⼈間の科学者の役割は どうなる?

    Q. 科学の組織や制度は どう対応すべきか? そもそも … • 科学の⽬的とは? 科学的な創造性とは?  • 科学的知識の「正当化」とは? 科学における「理解」とは?etc. AI/Robot for Scienceは多くの「メタサイエンスの問い」を連れてくる Business as Usual “完全⾃動化” “x10に加速” 2035年の諸科学はどうなっているのだろうか?
  18. 20251114  丸山資料 • 2025年8⽉、Center for Open Scienceが汎⽤プレ プリントサーバーへの投稿を停⽌(その後、恒久 的に停⽌) •

    2025年のNeurIPSでは投稿数急増(2万件超)を受 け、査読後に追加Rejectする事態に • 2025年10⽉、ArXivが投稿数の急増への対策でCS 分野のレビュー∕ポジションペーパーの投稿に査 読通過を求める変更 • 2025年10⽉、FrontierやPLOSはNHANESなどの公 開データベース「だけ」に基づく投稿論⽂を⾃動 的にリジェクトするポリシーを採⽤。 (⼀部分野で)preprint & 査読を軸とする学術情報流通の“終わりの始まり”? 例:一部分野の学術情報流通で起こっていること
  19. 20251114  丸山資料 橋本幸⼠先⽣(物理学)  GPT o3を使って、1時間で理論物理学の 論⽂を作った事例を紹介。⽣成AI時代の 科学をどう考えるかという問題提起。 “研究者-as-⾒巧者” 時代の到来? 堀⽥昌寛先⽣(物理学)

    「研究結果の⽬利きのプロである⼈間の 「⾒巧者(みごうしゃ)」が⽟⽯混交の研 究を選別するコンサルタント企業のニー ズが、急速に⾼まることでしょう。」 https://www.u-tokyo.ac.jp/gen03/kouhou/1599/end.html https://note.com/quantumuniverse/n/n10 d0d2c6a2b5 ⼩川光先⽣(経済学) 「AIを引っ提げてやってきた⼤学院⽣」 「研究とは何か、研究者とは何者か。私⾃ ⾝が揺さぶられる経験となりました。」 https://www.youtube.com/watch?v=W_M535lP7bI&t=1s 生成AIが論文を書ける時代に研究者は?
  20. 20251114  丸山資料 AI‧ロボットで逆に⾮効率に? AI やロボットを研究プロセスに導⼊する ことで、逆に⾮効率性が⽣まれる可能性 「理解なき科学」の落とし⽳? AIで探索空間が狭まる? Messeri, L.,

    Crockett, M.J. Artificial intelligence and illusions of understanding in scientific research. Nature 627, 49–58 (2024). The digitalisation paradox of everyday scientific labour: How mundane knowledge work is amplified and diversified in the biosciences AI の持つバイアスが科学の探索 を特定の⽅向へと誘導してしまう可能性 Kapoor & Narayanan. Could AI slow science? 科学の発展性のために ⼈間の理解が不可⽋である可能性 その他の「メタサイエンスの問い」
  21. 20251114  丸山資料 ⽬次 1.なぜ「AI for Science」がブームなのか 2.科学コミュニティから見た AI for Science

    3.AI/Robot for Scienceが科学に突きつける問い 4.構想:「メタサイエンス分科会」?
  22. 20251114  丸山資料 異分野間‧異業種間での 発展的な対話のため 科学政策‧public understanding of scienceを刷新するチャンス 同床異夢を確認しつつ、 ⾔葉を合わせながら互いから

    洞察が得られるかもしれない A B C 耐⽤年数を迎える科学の制度を少しでもよりよく変えるため、 (AI以前からあるディスコミュニケーションを乗り越えつつ) 政策担当者や有権者との対話が必要 “メタサイエンス‧コミュニケーション” 「居酒屋談義以上」の議論をする意味があるとしたら…
  23. 20251114  丸山資料 参考:メタサイエンスとは? 伝統的メタサイエンス※ • 科学を研究対象にする諸学問 ◦ 例:科学哲学‧科学史‧STS • 科学横断的な⽅法論を指すことも

    ◦ 例:統計学や情報学など 昨今のメタサイエンス「運動」 • 科学のよりよい営みを⽬指す研究&実践 • 2010年代後半〜⽶国‧英国を中⼼に起こった • disciplineではなく“movement” ※伝統的メタサイエンスの⽤語は、 メタサイエンス研究会の清⽔右郷⽒による。
  24. 20251114  丸山資料 “メタサイエンス” メタサイエンス運動とは 参考文献:Peterson & Panofsky (2023). Metascience as

    a scientific social movement. 
 再現性の危機 学術情報の 
 ビッグデータ化 オープンサイエンス 運動 “Meta-research” 
 “Science of Science” 
 “Research on Research” 科学の◦◦学 
 • STS • 科学史・科学哲学 • イノベーション研究 
 • 科学計量学 
 • STI政策研究 …
 
 
 研究エコシステム変革を担う企業や 
 アントレプレナー 
 各ドメインの科学 
 • 心理学
 • 生物学
 • 医学
 • 社会科学
 • …
 
 背景 メタサイエンス運動を構成するもの 共有された目的 記述的側面 複雑化する「社会的営みと しての科学」を理解する 
 実践的側面 その知見を生かして「社会 的営みとしての科学」を よ り良く変える 
 2000年代後半~
 データサイエン ティスト フィランソロピー 
 からの投資 各国政府 も
 「メタサイエンス」のラベルを採用 

  25. 20251114  丸山資料 参考:なぜメタサイエンスがもりあがるのか? なぜメタサイエンスに注⽬が集まるのか?  1. 拡⼤するR&D公的投資のインパクトの説明への要求 2. 科学の停滞への懸念 3. R&Dシステムの⾮効率性の懸念

    4. 再現性‧研究インテグリティ問題 5. 学術コミュニケーションの環境変化 6. 科学における卓越性の問い直し 7. AIなどを使った新たな研究評価の可能性 Research on Research Institute Executive Director, James Wilsdon⽒の説明  出典:https://doi.org/10.6084/m9.figshare.27850683.v1
  26. 20251114  丸山資料 英国のメタサイエンス UKRI「メタサイエンスユニット」 • 2024年, 英国UKRIが初期予算は£10mで設⽴。 • 資⾦配分の実験、政策⽴案へのエビデンス産出 のための研究を推進。

    【参考】UKRI, Introducing The DSIT/UKRI Metascience Unit, https://engagementhub.ukri.org/esrc-1/introducing-metascience/ 
 Metascience AI Early Career Fellowship • AIの科学への影響に関する研究を公募。 • 2025年10⽉に29⼈の研究者を採択。 International fellowships to explore AI’s impact on science – UKRI
  27. 20251114  丸山資料 参考文献 • JST-CRDS (2021) 『⼈⼯知能と科学 〜AI‧データ駆動科学による発⾒と理解〜|戦略提案‧報告書』 https://www.jst.go.jp/crds/report/CRDS-FY2021-SP-03.html •

    Chen et al. (2025) AI4Research: A Survey of Artificial Intelligence for Scientific Research. https://arxiv.org/abs/2507.01903 • Wei et al. (2025) From AI for Science to Agentic Science: A Survey on Autonomous Scientific Discovery. https://arxiv.org/abs/2508.14111 • 嶋⽥‧丸⼭ (2023) 「基盤モデルとAI‧ロボット駆動科学」 https://www.mext.go.jp/content/20230620-mxt_kiso-000030314_3.pdf • National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine (2022) Automated Research Workflows for Accelerated Discovery: Closing the Knowledge Discovery Loop https://www.nationalacademies.org/catalog/26532/ • DOE (2020) AI for Science Report 2020. https://www.anl.gov/ai/reference/ai-for-science-report-202 • European Commission (2023) AI in Science Policy Brief https://research-and-innovation.ec.europa.eu/research-area/industrial-research-and-innovation/artificial-intelligence-ai-science_en • European Commission (2025) Living guidelines on the responsible use of generative AI in research. https://research-and-innovation.ec.europa.eu/document/download/2b6cf7e5-36ac-41cb-aab5-0d32050143dc_en • Royal Society (2024) Science in the Age of AI. https://royalsociety.org/news-resources/projects/science-in-the-age-of-ai/ • ⽇本学術会議 (2021) 回答「研究DXの推進-特にオープンサイエンス、データ利活⽤推進の視点から-」 https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-25-k335.pdf • ⽂部科学省「第7期科学技術‧イノベーション基本計画に向けた政府及び⽂部科学省の検討状況について」 https://www.mext.go.jp/content/20250805-mxt_jyohoka01-000044376_03.pdf • Google DeepMind (2023) A New Golden Age of Discovery. • Kitano, H. (2021) Nobel Turing Challenge: creating the engine for scientific discovery. npj Systems Biology and Applications 7, 29 https://doi.org/10.1038/s41540-021-00189-3 • Ribeiro, B. et al. (2023) The digitalisation paradox of everyday scientific labour … Research Policy 52(1): 104607 • Messeri, L., Crockett, M.J. (2024) Artificial intelligence and illusions of understanding in scientific research. Nature 627, 49‒58 • Kapoor, S., Narayanan, A. (2025) Could AI slow science? https://www.aisnakeoil.com/p/could-ai-slow-science
  28. 20251114  丸山資料 関連資料 2024.4 勉強会資料 AI科学の何が “哲学”の問題になるのか ~ 問いマッピングの試み~ 2025.12

    日経サイエンス記事 研究できる AIは科学をどう変えるか? 2025.7 ブログ Metascience 2025(@ロンドン)簡易報 告:メタサイエンス運動/連合の現在地