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2024年度ICT職専門研修(海外派遣研修)報告書 No.6

2024年度ICT職専門研修(海外派遣研修)報告書 No.6

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  1. 3 01 研修概要 渡航テーマ 東京都では、シン・トセイ4※に示しているように、 各局業務システムのクラウド転換を推進している。 クラウド転換を効果的に進めるためには、他の先進的な事例 や成功体験から学ぶことが重要である。また、クラウド技術の 導入には、職員のデジタルスキルの向上が不可欠である。 本研修を通して、海外の行政機関におけるクラウド活用やデ

    ジタルスキル向上の施策を学び、都の更なるクラウド転換の 促進や、デジタルスキルの向上に貢献する。 ※シン・トセイとは、東京の更なる新可児向けて定められたデジタルをもとした戦略 https://www.spt.metro.tokyo.lg.jp/seisakukikaku/shintosei4 図 シン・トセイ4 都政の構造改革QOSアップグレード戦略 version up 2024 p41 より抜粋 海外のクラウド転換の施策とデジタル人材育成戦略
  2. 研修内容 6 02 訪問先1:NSW州政府 カスタマーサービス部門 NSW Government Department of Customer

    Service 2018年に新たにクラウド戦略とポリシーを策定。 戦略の中で成功指標としていた、 2023年度までに政府の デジタルサービスの25%をパブリッククラウドに転換する 目標を達成するなど、クラウド転換を効果的に進めている。 これまでのクラウド転換の経験や都のクラウド施策を紹介し、 現在の課題や今後の目標等についてディスカッションした。 参考:Digital NSW Cloud strategy and policy https://www.digital.nsw.gov.au/policy/cloud-strategy-and-policy 当日ご対応いただいたNSW州政府の職員様 右から T. Jagadeeson, P. McMillan and A. Pathak https://www.nsw.gov.au/
  3. 研修内容 7 02 訪問先1:NSW州政府 カスタマーサービス部門 NSW州政府のクラウドの利用状況 • 業務システムのクラウド転換率:約50% • コスト効果:現時点ではあまり出ていない

    • 国産クラウドの利用状況:数% クラウド転換を進める上で直面した課題 • 人材育成とクラウド転換を同時に進めることに苦労した。 まずは育成に力を入れ、クラウド転換を進めた方が移行を スムーズに進めることができたと感じている • CSP※の競争関係を作ることが難しい。大手のCSPの方 が対応範囲が広く、業務要件に柔軟に対応できるため 利用が進みやすく、CSPの利用率に偏りが生じてしまう ※CSP(Cloud Solution Provider):クラウドサービスを提供する事業者 Revenue NSWでは、 4年間かけて全ての業務 システム(約1500台のサーバー)をクラウド転換 した。CSPとの契約に含まれる教育プログラムを 活用し、外部に委託せず内製でクラウド転換した。
  4. 研修内容 8 02 訪問先1:NSW州政府 カスタマーサービス部門 ディスカッションを得て感じたこと・学んだこと • 月に1度各省の代表が集まり、各省の取組やCSPか らベストプラクティスについて紹介・学ぶ機会があり、 省を横断して学ぶ機会が確保されている。

    • クラウド転換を進めるにあたり、職員からの抵抗が ないか質問したところ、新しい技術を好む人が多く 抵抗は少ないとのことだった。新しい技術に前向き に取り組む風土が、クラウド転換を促進する要因の 1つになっていると感じた。 • NSW州政府では、各省にクラウド転換を推進する 部門があり、クラウド転換を進めている。そのため、 東京都にデジタル人材が少ないことに驚かれた。 これまではクラウド転換することを目的としていた。 今後はクラウドのメリットを生かし、業務システムの 運用コスト削減と、クラウドに移行するシステムとオ ンプレミスに残すシステムの選定に取り組んでいく。
  5. 研修内容 10 02 訪問先2:CreativeHQ 1000本の花:プロジェクトの真の価値 • 行政機関には、超えなければならない課題が多くあり、 プロジェクトの本質的な価値を十分に考えることが難しい • その結果、行政機関では、新しいプロジェクトが次々に立ち上が

    るが、多くのプロジェクトは最終的に消えてしまう傾向にある CreativeHQの研修プログラム • プロジェクト開始時に集中的にプロジェクトに必要な知識を増や す。またプロジェクトのエンドユーザの視点で課題を深堀りする。 • 職層問わずチームに参加し、多様な視点で課題の本質を捉える。 • 初期段階に知識を早く増やすことで、その後の決断が迅速かつ 的確になり、プロジェクトのリスクを減少させることに繋がる。
  6. 研修内容 11 02 訪問先2:CreativeHQ ディスカッションを得て感じたこと・学んだこと • プロジェクトを成功させるためには、プロジェクトのユーザの 視点に立ち、課題の本質や価値を捉えることが重要である。 • イノベーションのスキルは、行政機関のどの部署や役職でも

    必要なスキルであると思うため、職層問わず、こうした研修 を増やしていけると良いと感じた。 CreativeHQの実績 CreativeHQが携わったプロジェクト(67%)が 2年後にも成果を残し続けることができている。 プロジェクトの真の価値、課題の本質を見つけ、 人々から必要とされる事業を展開できている。 CreativeHQ 研修 一例 はじめに6週間かけて課題の 本質を議論する。 その後、ユーザインタビューを 通じて、提供する価値を評価 する。
  7. 研修内容 12 02 訪問先3:ニュージーランド政府 内務省(DIA) DIA (Department of Internal Affairs)

    2012年からクラウド転換を進めており、2023年には更なるクラウド サービスの転換を進めるためにポリシーの更改を実施し、積極的にクラ ウド転換を進めている。 これまでのクラウド転換の経験や都のクラウド施策を紹介し、現在の課題 や今後の目標等についてディスカッションした。 Cloud adoption policy and strategy https://www.digital.govt.nz/standards-and-guidance/technology-and- architecture/cloud-services/cloud-adoption-policy-and-strategy 当日ご対応いただいたDIAの職員様 右から C.Blackford, C. Lin https://www.dia.govt.nz/
  8. 研修内容 13 02 訪問先3:ニュージーランド政府 内務省(DIA) クラウドの利用状況 クラウド転換率:約47%(省庁の規模によって転換率が異なり、小さい省庁約67%、大きい省庁約29%) コスト効果:これから評価していくため現時点では明らかではない クラウド利用を進める上で直面した課題 特に予算・税金を管理している省庁では、クラウド利用が進みづらい傾向にある。例えば、クラウド転換により、シ

    ステムのパフォーマンスや可能性が向上し、サービスの利用者が増えたとき、同時にクラウド利用料も増える。 コストだけを見ると、システムの運用費用が増加したように見えるため、コスト以外のメリットを示し、クラウド転 換のメリットを理解してもらうことが必要である。 学んだこと クラウド移行をスムーズに進めるためには、クラウドを利用する部門がそのメリットを理解することが重要である。 そのためにもクラウド化を推進する部隊として、クラウドのメリットについて各局等に示していく必要がある。
  9. 研修内容 14 02 訪問先3:シンガポール在住者ヒアリング SINGPASS • シンガポール政府が提供するデジタルIDシステム • シンガポール在住者は、SINGPASSを利用して 認証を行い、行政サービスにログインが可能である

    • またシンガポール政府は、SINGPASSのAPIを 公開しており、民間企業もSINGPASSを活用して 利用者認証や情報取得が可能である FormSG • シンガポール政府が提供するフォームシステム • シンガポール政府では、FormSGを用いて、 行政手続きに必要な申請フォームの作成が 可能である https://www.ocbc.com/group/media/release/2020/ocbc- bank-is-first-to-enable-singpass-to-access-digital-banking https://www.tech.gov.sg/products-and-services/for-government-agencies/productivity-and-marketing/formsg/ 政府が提供する認証を用いる ことで行政サービスに安全に ログインすることができる。 サービスごとにパスワードの 管理や情報の入力が不要であ り、ユーザ体験が向上する。 フォームのデザインが統一され どの手続きでも同じように画面 を操作できる。 またデータの形式が統一され、 データ処理や分析がしやすい。
  10. 研修内容 15 02 訪問先3: プンゴル地区 街中DX・データセンター プンゴル地区 街中DX (プンゴル図書館) •

    プンゴル地区は、シンガポール政府が進める開発地域で あり、スマートシティ技術の活用が進められている • 特にプンゴル図書館では、あらゆるものにデジタル技術が 活用されており、図書館内での人手が削減されていた • 単にデジタル技術を活用するだけではなく、ユーザ体験を 向上させるための工夫が見られた BORROW N GO 本を借りる人は、機械の中を通り、アプリを かざすことで、本を借りることができる。 これにより、車いすの方も人手を介さず本を 借りることができる。 キーボードの文字が大き いことや、握りやすい形 状のマウスが導入され、 あらゆる方が操作しやす いように工夫されていた。
  11. 研修内容 16 02 訪問先3:プンゴル地区 街中DX・データセンター シンガポールで学んだこと • あらゆるものがデジタル化されており、生活のさまざまな 場面でデジタル技術が活用されている •

    教育面では、感染症の拡大を考慮し、現在も月2回程度 オンライン授業を実施しているとのことであった • 公共施設では、単なるデジタル化だけでなく、利用者に配 慮されており、誰もが使いやすいようにユーザビリティに 優れていることが印象的だった • デジタル化すること自体を目的とせず、デジタル化する前 よりも便利で効率的な行政サービスや手続きを実現する ことが重要であると感じた データセンター 環境への配慮のため(冷却設備による電気 消費を削減する工夫等)の技術を見学した。 ※建物内は写真NGのため外観のみ
  12. 研修内容 17 02 オーストラリア 市内視察(シドニー・キャンベラ) シドニー市内の図書館 • 図書館内にはキオスク※が設置されており、人手を介する ことなく、本の貸出や貸出期間の延長が行える •

    画面を操作することで、言語の切替やフォントの大きさが 変えられ、誰もが使いやすいようにデザインされている 環境への配慮の取組 • 貯蓄した雨水を建物内で利用し、飲料水の 使用量を削減する取組 • 市内では、レンタルサイクルやレンタルの キックボードがさまざまな場所で見られた ※キオスク(KIOSK):自立式の小型情報端末。街中のさまざまな場所で見られた。
  13. 19 03 まとめ まとめ クラウド施策について • クラウド転換が容易なアプリケーションから転換を開始し、段階的に進めている。クラウド転換 の実績や経験を重ね、転換プロセスの理解を深め、リスクを軽減しながらスムーズに移行を実 現している。 •

    クラウド転換のメリット(災害復旧の容易さ、可用性の向上、ユーザー体験の改善等)を整理し、 クラウド転換を前向きに進められる環境を整えること(風土づくり)が重要である。 • 将来的には、クラウド転換を進める中で、どのシステムをクラウドに転換し、どのシステムをオ ンプレミスに残すかの判断が必要になる。業務システムの特性(データのセキュリティ、可用性 の要件等)を評価し、最適なインフラ構成を選定することが求められる。
  14. 20 03 まとめ まとめ デジタル人材の育成について • CSPが提供する研修プログラムを活用し、最新のクラウド技術やシステム運用について学んでいる。 技術職員がクラウド転換に必要な知識を身に着け、内製化して、クラウド転換に取り組んでいる事 例もある。 •

    行政職員としては、座学的な知識を身に着けるだけではなく、その技術をどのように活用して業務 改善や新たなサービスの創出に繋げるかという創造的な発想を養うことが必要である。ただ技術 を理解するだけでなく、それをどのように行政サービスに応用できるかを考える力が求められる。 ※CSP(Cloud Solution Provider):クラウドサービスを提供する事業者
  15. 21 03 まとめ 都政に還元したいこと 全体を通して • 東京都の職員がクラウドのメリットを理解し、積極的にクラウドを活用していけるような風土を作る ことが重要だと感じた。そのためにも、クラウドのメリットを明確に示した資料や、移行に向けた ロードマップを作成するなど、職員一人ひとりが理解しやすい形でクラウドのメリットを伝えること に取り組んでいきたい。

    • 本研修を通じて、行政サービスのデジタル化がどのようにユーザビリティを向上させるかを実際に 利用されている方の声を聞き、学ぶことができた。 この経験を活かし、単にデジタル化をするのではなく、利用者の体験や利便性を向上させることで、 都民の方々がより使いやすい行政サービスの提供に注力したいと思っております。