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FERMENSTATION Impact report

FERMENSTATION Impact report

私たちファーメンステーションは、自分たちの活動内容や成果を多面的に可視化し、社会やステークホルダーとの対話を通じて、事業性と社会性の両面でインパクトを最大化します。

FERMENSTATION

April 07, 2025
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Transcript

  1. FERMENSTATION Impact report Fermenstation is a biotech startup advancing the

    circular economy by upcycling unused resources through proprietary fermentation technology. 2024
  2. Fermenting a Renewable Society “発酵技術で 資源循環型社会を作る” 未利用資源に価値が見出され、発酵技術によってより価値あるものに生まれ変わることで、再生・循環する社会。 未利用資源をキーとした新しい資源活用のあり方、 資源廃棄という概念をなくし、資源循環をベースとした世の中を構築することを目指して、 パーパスを「Fermenting

    a Renewable Society」と制定しました。自然環境や社会、 関係するすべてのステークホルダーが、ファーメンステーションという「駅」を通過することで、前より良くなり続ける。 そんなあり方を目指しています。 発酵における微生物のように、 社会に対してポジティブに作用する存在でありたい 微生物の作用によって、有機物が人間にとって有益なものに変化 する現象を指す発酵(Fermentation) は、当社の原点であり、最 も得意とする技術です。同時に、ファーメンステーションという 会社のあり方を象徴する現象でもあります。 私たちは発酵における微生物のように、社会に対してポジティブ に作用する存在でありたいと考えます。Fermenting という現在 進行形の言葉を使うことで、やり続ける、動き続けるという意志 や想いを込めています。 また、私たちは事業や社会が常に生まれ変わり、より良く変化し 続けることが大切だと考えています。そのために Sustainable (持 続可能)ではなく、Renewable(再生可能)という言葉を選びま した。 「再生」の過程には様々な困難がありますが、それらを乗 り越えて新たな価値を生み、社会や事業を更新していくことこそ が、当社の事業の醍醐味であると考えています。 さらに私たちの事業の根幹は、すべての未利用資源排出者やそれ を有効活用したい企業、地域、行政、インパクトコミュニティな ど、 国内外のさまざまなステークホルダーとの関わりにあります。 社会と幅広い接点を持っていることはファーメンステーションの 特長でもあり、社会の担い手としてコミュニティーの視点を持ち 続けるという意思を込めて Society という言葉を使っています。 発酵技術によって未利用資源を活用し、 さまざまな資源の姿を変える ファーメンステーション(FERMENSTATION)という社名は英 語の発酵(fermentation)と駅(station)を掛け合わせた造語で す。発酵技術によって未利用資源を活用することで、さまざまな 資源が姿を変える。また、通過すると必ずいいことがある。そん な 「駅」 のような存在になりたいという想いが込められています。 Purpose パーパス 004p Impact report 2024
  3. Perspectives ファーメンステーションとは? 「ファーメンステーションは何の会社ですか?」と聞かれることがよくあります。発酵技術を使ってい るので「Fermentation Tech」と言えますが、社会課題を解決する革新的な技術という意味では「Deep Tech」でもあり、循環型社会を目指すという文脈では「Circular Economy」の会社とも言えます。他に も 「Impact startup」

    「Climate Tech」 「Food Tech」 …さまざまありますが、 どれも正解だと考えています。 多様性やグローバル化により、さまざまな要素が複雑な絡み合う昨今の社会やビジネスシーンにおいて は、ジャンルや垣根を越境、横断しながら大きな課題解決に挑んでいく必要があります。 「複雑なものは 複雑なままに」 、あらゆる方向性に対して真摯に向き合うことが、ファーメンテーションのあり方です。 「複雑なものは 複雑なままに」 is Fermenting a Renewable Society Circular Economy Climate Tech Food Tech Regenerative Fermentation Upcycle Deep Tech Impact startup 006p Impact report 2024
  4. Introduction はじめに ファーメンステーションは、発酵技術を活用し、世の中にあふれ る未利用資源が活用され資源が循環する社会を創ることを目指し ています。 私たちは、事業に取り組む上で、たとえ事業として成立しても、 社会にも良い影響がなかったら意味はないと考えています。しか し、事業を成長させながら、地球環境、地域などの社会において もよりインパクトを生み出すこと、事業性と社会性を両立させる ことは、財務諸表など従来の考え方や指標だけで測定することは

    できず、明確な答えもないため、多くのチャレンジを伴います。 インパクトレポートを発行して 3 年目。 このレポートでは、事業性と社会性を両立させるために、ファー メンステーションがインパクトをどう創出しようとしているの か、どんな取り組みをしているか、事業、技術、組織などの観点 で活動と成果をお伝えしています。 昨年からの進化、特にインパクトモデル作成の過程や内容も是非 ご覧ください。 さらに試行錯誤の様子も取り上げています。志を共有する方々の 何らかの参考になれば幸いです。 私たちのチャレンジは、 到底 1 社だけで達成できるものではなく、 事業に関わるステークホルダーの皆さま、地域の皆さま、私たち のアップサイクル原料が入った商品を手に取ってくださる方々と 一緒に取り組むことで、実現します。 このレポートが、一人でも多くの方に届きますように。そして、 ご意見をいただきながら、このレポートを読んでくださった方々 と一緒に事業性と社会性の両立が当たり前の世の中を作りたいと 考えています。 国際基督教大学(ICU)を卒業後、富士銀行、ドイツ証券など金融 系複数社に勤務。その後、発酵技術に興味を持ち、東京農業大学応 用生物科学部醸造科学科に入学、2009 年 3 月卒業。同年、株式会 社ファーメンステーションを創業し代表取締役就任(現任) 。 酒井里奈 株式会社ファーメンステーション 代表取締役 “皆さんと一緒に 事業性と社会性の両立が 当たり前の 世の中を作りたい” Fermenting a Renewable Society 008p Impact report 2024
  5. History 創業ストーリー ファーメンステーションは、世の中にあふれる「未利用資源」を 活用し、資源が循環する社会を作ること、事業性と社会性を両立 するビジネスを確立することを目指して創業されました。 代表の酒井は、大学を卒業後、都市銀行に入社、3 年目に出向し た国際交流基金日米センターで、社会課題の解決に向き合う人々 と出会ったことが転機となり、 「世の中の課題をビジネスで解決

    していきたい」と考えるようになりました。 その後、銀行でエネルギーやインフラなどのプロジェクトファイ ナンスを担当、環境への関心を強めますが、環境に配慮したプロ ジェクトに関与することはできませんでした。その後、転職した 外資系証券会社でニューヨークに出張。 ファストフードチェーンでチーズバーガーを注文した際、1buy2 のキャンペーンをしていて、1 個しか頼んでいないものが 2 個出 てきたので断ったところ、 「食べないなら捨てて」と言われたこ とに猛烈な違和感を覚え、帰国しました。 「食べ物が大量にムダになる世の中はおかしいのでは」という疑 問を抱えながら、なんとなく見ていたテレビで紹介されていた東 京農業大学(東京農大)の「生ゴミをエネルギーに変える」とい う研究テーマを見たことが契機となり、東京農大農学部醸造学科 の受験を決意し、発酵について学びました。卒業と同時に、発酵 技術を軸とし、未利用資源活用をビジネスにするため、ファーメ ンステーションを 2009 年に創業。 創業時は、 SDGs も採択前であり、 サステナブルな素材自体のニー ズが少なかったことから、自社で製造した素材を使った化粧品な どの販売からスタートし、未利用資源を活用する事例を見せるこ とで、サステナブルな素材の市場を作ってきました。 サステナビリティの追求に加え、未利用資源から機能性のある素 材を作る技術の確立と、その先にある資源循環型社会の実現に向 けた、パイオニアの自負を持って走り続けています。 「世の中の課題を ビジネスで解決して いきたい」 「食べないなら 捨てて」と 言われたことに 猛烈な違和感を 覚えた。 「生ゴミを エネルギーに変える」 という研究テーマを 見たことが きっかけに。 「未利用資源から 素材を作る 技術の確立」と、 「資源循環型社会の 実現」 010p 009p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024
  6. Contents 003p 005p 007p 009p 011p 013p 019p 021p 023p

    025p 029p 033p 035p 039p 041p 043p 047p 051p 061p 069p 071p 073p 045p 目次 Fermenting a Renewable Society ύʔύε ϑΝʔϝϯεςʔγϣϯͱ͸ ͸͡Ίʹ ૑ۀετʔϦʔ ໨࣍ ಛผରஊഅాོ໌ʷञҪཬಸ औΓ૊Ήࣾձ՝୊ ࢲͨͪͷΞϓϩʔν ࣄۀʹ͍ͭͯ  ೥ͷϋΠϥΠτ ٕज़ʹ͍ͭͯ ਺ࣈͰݟΔ  ೥ ೥ؒτϐοΫε ࣄۀੑͱࣾձੑͷཱ྆ ૊৫ʹ͍ͭͯ ࢲͨͪͷόϦϡʔ    Purpose                   Perspectives    Introduction         History Contents    Special talk session           Social Issues            Approach       Business Overview             Key Highlights        Core Technology            2024 in Numbers         Annual Topics              Impact Certification        Our Team            Value ΞϯϦʔζφϒϧࣾͱ όʔΫϨΠζࣾͷڞ૑ϓϩάϥϜ Unreasonable impact in partnership with Barclays  ΠϯύΫτϞσϧ ΠϯύΫτϞσϧ࠲ஊձ અ໨ͱͳͬͨ  ೥ ࠓޙʹ޲͚ͯ ऴΘΓʹ                                             Voices from Stakefolders        Imapct Model            Dialogue about the New Impact Model             Summary of 2024     Looking Ahead In Closing εςʔΫϗϧμʔ͔Βݟͨ ϑΝʔϝϯεςʔγϣϯ
  7. 「目指している社会や課題が共感されない中で頑張 り続ける難しさがある」 (酒井) 酒井:馬田先生に最初にお会いしたのはスタートアップ・エコ システム 東京コンソーシアムが 2024 年に開催した「Green × Global Startup

    2024 KICKOFF」でしたね。 「日本初クライメー トテックスタートアップ急成長のカギ」というトークセッション で一緒に登壇させていただいて。 馬田:そうでしたね、その節はありがとうございました。それを ご縁に、私たちがイベントを開催するときに酒井さんにお声がけ させていただいたりして、色々とご一緒させていただくようにな りました。 酒井:今日は弊社のインパクトレポートに掲載する記事というこ とで、ソーシャルインパクトに絡んださまざまなお話をできれば と思います。私たちは社会課題の中でも特に、有効活用されてな い未利用資源を活用することと、それによってゴミの量を減らす という二つをまずは何とかしたいと考えています。 ただ未利用資源に関連する法律が「食品リサイクル法」くらいし かなかったり、エンドユーザーにも資源の有効活用が大切である というインセンティブがあまりなくて…。会社を作って 16 年に なりますが、最初はソーシャルインパクトのことを前面に出しな がら物を売っていました。でも、なかなかうまくいかなくて。そ のうち分かる人に分かればいいというスタンスにしましたが、そ れはそれで広がりにくい…。一般的にはまだまだサステナビリ ティや社会課題への本質的な関心が広がっていないこともあり、 目指している社会や課題が共感されない中で頑張り続ける難しさ があります。先生は 「あるべき社会像を提示する力」 が大切とおっ しゃられていますが、どうしたら広く人々に興味を持っていただ けるのでしょうか。 馬田:まずは一部のニッチな人たちに働きかけていき、小さくて も熱量の高いコミュニティを作ることが正攻法ですね。そうして 徐々に理念に共感する人を増やしていくと、どこかで一気に広が るタイミングが来ることが多いです。ただそれだとスピードやス ケールが十分ではないときには、政策を活用していくことも一つ の手だと思います。例えば具体的な例として世界で導入されつつ ある「砂糖税」です。イギリスでは「ソフトドリンク税」と呼ば れ、ソフトドリンクに砂糖税が導入されているので、多くの炭酸 飲料や甘いジュースが高いんです。よくよく考えると、砂糖の社 会的コストってすごく高いですよね。砂糖の摂取過多で肥満にな り、それによって不健康になる人が増えると、医療費も上がりま す。そうすると、社会保障費用が高くなって、多くの人の負担が 増えてしまいます。一方、 砂糖税を導入することで肥満が減れば、 医療費や社会保障費用も下がります。そこで砂糖の多い食品が高 くなり、砂糖の少ないものが相対的に安くなれば、消費者も自ら 安く健康的な食品を購入するでしょう。そのような社会的システ ムと健全な市場を作ることで、社会も得をするし、そこに貢献で きる社会的インパクトを持つ企業も得をします。 酒井:政策ということでは、食品リサイクル法も変えていく必要 があると考えています。政策に働きかけたり、変えるとなると大 きな仕掛けが必要だと思いますが、一企業としてどのようなアプ ローチが考えられますでしょうか。 馬田:ご自身たちだけでやろうとするとさまざまな問題が生じる こともあるので、うまく中間団体や業界団体などを作って、そう した団体が公益性を意識した上で何かを訴えたり、政策を進めて いくような流れが良いのではないでしょうか。また、政治家側の 視点に立つと、例えば砂糖税を導入するにしても、それを解決で きる方法があるかどうかも非常に大切なんです。例えばファーメ ンステーションさんの技術を使うことで、肥満という問題を解決 しながら、美味しいものを食べたいという人々の幸せもちゃんと 充足できる、ということがわかれば、難しい政策の実現であって も推進力を持つようになります。 Special talk session インパクトレポート 2024 年度版の巻頭トークセッションは、東京大学 FoundX ディレクター馬田隆明さん をお迎えして、 ソーシャルインパクトと事業成長の両輪をまわす理想的な方法について議論を交わしました。 日本のクライメートテックのスタートアップに必要な思考法や正しさや労働者の尊厳から、酒井が「私にも できる!」と心を躍らせた「わらしべ長者的リソースフルネス」の考え方まで、気づきのぎっしり詰まった トークセッションをお楽しみください。 “ソーシャルインパクトと事業成長の 両輪をまわす理想的な方法とは” 馬田隆明×酒井里奈 特別対談 東京大学 FoundX ディレクター及び公益財団法人 国際文化会館 上席客員研究員 PEP ディレクター 日本マイクロソフトを経て、2016 年から東京大学。東京大学では本郷テック ガレージの立ち上げと運営を行い、2019 年から FoundX ディレクターとして スタートアップの支援とアントレプレナーシップ教育に従事する。スタート アップ向けのスライド、ブログなどで情報提供を行っている。著書に『逆説の スタートアップ思考』 『成功する起業家は居場所を選ぶ』 『未来を実装する』 『解 像度を上げる』 『仮説行動』 。 【Guest profile】 馬田隆明 014p 013p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024
  8. 「インパクトモデルは出来上がったものが正しいか どうかも大事ですが、作っていくプロセスが大事」 (馬田) 酒井:私たちが食品残さから開発しているアップサイクル原料 は、発酵技術によりつくられているため、ナチュラルで満足度の 高い香りや風味を表現できるんです。環境にとっても人々の健康 にとっても良いインパクトを生み出せるので、同じような文脈で 役に立てそうです。 実は最近、 ソーシャルインパクトをしっかりと出していくために、

    独自のインパクトモデルを作っています。目指すところは「資源 が循環する社会」なんですけど、技術的に届いていないところも あるし、市場もこれから開拓しなければなりませんし、未利用資 源の量もまだ少ないので定量的なインパクトを出していく必要も あります。 最終的にはものすごくたくさんの量の未利用資源が活用されて、 世界中のさまざまな製品に私たちが製造する原料が入っている状 態を目指すんですけど、いきなりそこにはいけないから、考え方 を広めるフェーズ、商品として流通させるフェーズ、さらにそれ らの環境負荷がちゃんと見えるようにモデルを設計しました。た だどうしてもわかりやすくならないんですよね…。 というのも、私たちのビジネスはステークホルダーがすごく多い んです。未利用資源を提供する人、製造過程で残った残さを使っ てくださる農家さん、原料を買ってくださる方、エンドユーザー …。八方美人なのですべての方々にちゃんとインパクトを出して いきたいと思うと、非常に複雑になってしまって。最終的にはわ かりやすくすることを諦めました(笑) 馬田:フェーズ分けは非常に大事ですよね。短期、中期、長期と 分けて目指すアウトカムを意識的に設定しつつ、全体としての戦 「ソーシャルインパクトのゴールに向けて、本当に 必要なルートを導き出していく考え方が面白い」 (馬田) 酒井:海外のクライメートテック領域でユニークな動きをされて いるスタートアップや投資家などをご存知ですか? 馬田:アメリカの脱炭素特化の組織「ブレークスルー・エナジー」 や米国エネルギー省傘下の研究開発投資機関 ARPA-E はユニー クな思考をしていますね。例えば彼らの考え方を聞いたとき、と ある脱炭素化技術を開発するとなった際、技術的には 5 つのパス ウェイがあって、その中の 3 つはコスト的にも、スケール的にも 世界の温室効果ガスを劇的に減らせるソリューションにはならな いと判断し、残りの 2 つのパスウェイに集中的に投資するという 戦略を取るようです。このようにトップダウンで考えて、ゴール 達成するためにはこのルートしかないから、そこにリソースを集 中投下していくという考え方は大切だと思います。 酒井:技術からのボトムアップではなく、ゴールから必要な技術 略を考えていくことが必要なのだろうと思います。あとインパ クトモデルは出来上がったものが正しいかどうかも大事ですが、 作っていくプロセスも大事だと思っていて。作ろうとする中で、 チームでさまざまな議論を重ねていく中で「自分たちの社会的イ ンパクトって何だっけ?」とか「5 年後、10 年後はここに辿り 着きたいよね」という会話を生めるツールでもあるのだと思いま す。 酒井:まさにそれを実感しています。今回半年くらいかけて主要 メンバーで取り組んだのですが、考えが一致していたり、微妙に ずれているところもあって。そんな視点もあったんだという気づ きや、ファーメンステーションができることが思った以上にある と思えたり。 馬田:自分たちの山の登り方を、改めてじっくり考える機会にな りますよね。最近、とあるスタートアップと一緒にワークショッ プに参加したのですが、そのワークショップを通して、現在のや り方だと世界を大きく変えるスケールまでは辿り着けそうにない ということが分かって。なので考え方をガラリと変えて、技術や ビジネスモデルを大胆にピボットするというようなことがありま した。 酒井:ビジネスの目線でもそうですし、インパクトの目線でも同 じように考える必要がありますね。もちろん同時に考えるのは難 しいし、どうしても複雑化してしまうのですが、そこをうまく融 合させた事業計画やインパクトモデルを作ることで、新しいイノ ベーションが起こせるのではないかと思います。事業の話をする 際に、その事業のソーシャルインパクトの話も同時にすることが 当たり前になるといいですね。 を見つけていくという考え方ですね。 馬田:イノベーションを促進させるアメリカの国防省が所管する 研究開発投資機関 DARPA のモデルでいうと、まずゴールを考え てからどう進めていくかを計画する、ライトレフトモデルやエン ドゲームアプローチと呼ばれるものです。日本の技術開発は、既 にある技術をどう活かしていくかというボトムアップの発想にな りがちです。そうではなくてソーシャルインパクトのゴールから トップダウンで考えて、本当に必要な場所に辿り着けるような ルートを導き出していく考え方が有効だと思います。 酒井:ファーメンステーションは私がもともと技術畑の人間では ないこともあり、大学発など何か飛び抜けた技術を持っている人 が作ったスタートアップではありません。でも、共感してくれた 研究開発のスペシャリストがジョインしてくれて、R&D部門を 牽引してくれています。今のお話でいくと、このようなタイプの ディープテックカンパニーが技術という観点で取るべき戦略とし て、どのようなことが考えられますか? ロールモデルとなる会 社をご存知でしょうか? 016p 015p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024
  9. 「わらしべ長者のようにリソースを集めて向かいた いところに向かうことは、 私にも出来そう (笑) 」 (酒 井) 馬田:スペースデブリ(宇宙ゴミ)観測衛星を世界で初めて打ち 上げた、宇宙ベンチャーのアストロスケールは良い例かもしれま せん。代表の岡田さんは宇宙に関する技術者や研究者ではありま

    せんが、事業に必要な技術や人などのリソースを集めてきて、実 績を作った上でその実績をてこにして、資金というリソースを調 達し、さらに実績を作って…ということを繰り返して、大きな成 長を遂げられています。今、ちょうど「リソースフルネス」とい うテーマで本を執筆しているのですが、まさにゴールのためのリ ソースをいかに集めるかということをテーマにしています。起業 家の皆さんってリソースをうまく活用するだけではなく、まわり から獲得してくることが大事じゃないですか。資金調達もそうで すし、機材もそうだし、人もそう。そのような能力が非常に大切 だと考えています。 技術という観点でも、特定のテクノロジーを元にビジネス化して いくのではなく、ビジネス目標に対して必要な技術を集めてくる 馬田 : 壮大で意義のある目標を掲げ続けられること自体が、 ユニー クでかけがえのないアセットなのだと思います。そして目標に対 して足りないものがあれば、どこかから獲得してくることを繰り 返していけば、きっと企業としても大きく成長できるのではない でしょうか。 「ソーシャルインパクトという観点でも、利益と いう観点でも、両輪をうまくまわしているロール モデルは少ない」 (馬田) 酒井 : リソースフルネスという考え方は、 次の自分たちのキーワー ドになりそうです。以前に先生がイベントで「正しいことを正し く行う労働者が正しく評価される世の中になるべき」とおっしゃ られていて、非常に B Corp っぽい考え方だと思って深く共感し たのですが、その辺りのお話について聞かせていただけますか? 馬田:正しいことについては、DEI(ダイバーシティ・エクイティ &インクルージョン)ムーブメントの後退感や、SDGs について の対策がトーンダウンしていく中で、それらに乗っかっていれば 良かった時代から、改めて企業体としてどのように取り組んでい くのかを、自分たちで考えなければならない時代になってきまし た。ダウントレンドに乗って自分たちも引っ込めるのか、あるい は何が自分たちや地球にとって正しいことなのかを突き詰めて考 えてそこに向かっていくのか、という選択肢を迫られている状況 です。逆に「自分たちの正しいってこうだよね」と主張していけ るチャンスでもあります。 労働者の話でいうと、 労働者の尊厳が毀損され続けてきたこの二、 三十年があるのではないかと。特定の金融やビッグテックだけが 稼げて、他の人たちが稼げないというような格差が生まれている 中で、 それをどう是正していくのかという問題があると思います。 社会に貢献している人たちが正しく評価されてお金をもらえる社 会にすれば、労働者の尊厳も守れるでしょう。私も含めて労働者 側もお金のために仕事をしているというより、社会のために、正 しいことのために仕事をやっているという自覚を持てれば、給料 というアプローチも有効になってくるでしょう。 ファーメンステーションはまず酒井さん自身ができることをやっ て、初期の商品開発や事業化の実例などを作って実績を積み上げ た後に、技術や経営のプロフェッショナルに参画してもらって新 しいアセットを作り、そのアセットを梃子にして SBIR フェーズ 3 基金事業(農林水産省中小企業イノベーション創出推進事業) の実証事業の採択を取って…と、わらしべ長者的にリソースを集 めて向かいたいところに向かわれていて、まさにリソースフルネ スを体現されてる会社だと思います。 酒井:わらしべ長者! そのイメージなら私にもできそうです (笑) 。最近は会社がちゃんと大きくなる感じがしているんです。 ちょうど年始に会社でオフサイトミーティングを行なったのです が、新しくジョインした方も多いので、創業からの 16 年を振り 返ってみたんです。最初は私が廃業した酒蔵で細々と実験を繰り 返していたのが、徐々に実績ができて経営メンバーや開発や事業 の人がジョインして、資金調達もして、時代もちゃんとついてき ている感覚もあって。自分ではいろいろ足りないんじゃないかと 思っていたんですが、リソースを集めるわらしべ長者的な成長で あれば出来てきている実感はあります。 だけではない労働の価値が生まれます。 そこをアラインさせていくことで、労働者の尊厳を大切にしなが ら健在な市場を作り、社会を安定させていくことに繋がっていく のではないかと。 酒井: 「自分たちが社会にちゃんと貢献できているんだ!」とい う誇りが高いモチベーションに繋がり、それが良い成果に繋がっ て、結果的に報酬も上がっていくという好循環を生み出しますよ ね。 馬田:鉄鋼のリサイクルを手掛けられている会社をご支援してい るんですが、環境にすごくいいことをやっているのに、働いてい る人たちはあまり自覚されていないという話を聞きます。やっぱ りその価値をちゃんと伝えていくべきですし、その価値に見合っ た報酬をもらっていることを当事者が自覚することで、会社と労 働者の健全な関係性が生まれると思います。 酒井:私としては先生が常々おっしゃっている「あるべき社会像 を提示する」ことをやりつつ、ちゃんとみんなに価値に見合った 報酬を払えるような事業展開の両輪をしっかりまわしていかなけ ればなりませんね。 馬田:あとはインパクトモデルを使って、皆さんの日々の仕事は 最終的にこのような形で社会に繋がってるということを伝え続け ることも大切です。それが出来ている会社はまだまだ少ない。特 に大企業になればなるほど事業部が複数あって、自分たちの社会 的インパクトが描きづらかったりするので。 ソーシャルインパクトという観点でも、利益という観点でも、両 輪をうまくまわしているロールモデルとなる会社がまだまだ日本 には少ないので、ぜひ成功していただいて、みんなが目指すよう な会社になっていただきたいです。それによりみんなが「自分た ちもできる!」と後に続けば、日本全体にソーシャルインパクト の輪が広がっていくでしょう。 018p 017p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024
  10. Social Issues 社会課題を多面的に捉え、 ひとつの解決方法が ほかの課題も解決するような マルチなインパクトを創出 私たちが今、特に力を 入れているのはこの 3 つです

    「廃棄物」 「石油依存」 「資源不足」 循環型社会の実現が 解決できる社会課題は多岐にわたります。 取り組む社会課題 パーパスの章でご紹介した通り、私たちは、“Fermenting a Renewable Society” の実現に向けて、未利用資源に新たな価値 を見出し、再生 ・ 循環する社会を構築することを目指しています。 単に未利用資源を取り扱うベンダーとしてではなく、産業を横断 する基盤技術やプラットフォームを展開することを視野に入れ、 活動を進めています。そのため、特定の課題のみに焦点を当てる のではなく、複雑に絡み合う社会課題を多面的に捉え、あるひと つの解決方法がほかの課題も解決するような、マルチなインパク トを生み出すことがファーメンステーションの事業の特徴のひと つです。特に、廃棄物を未利用資源と捉え、発酵アップサイクル というアプローチで課題に取り組むことで、石油依存や資源不足 の課題解決にも貢献できると考えています。 まず、廃棄物の課題についてです。大量生産、大量廃棄が前提と なっている現在の社会では、本来活用できるはずの多くの未利用 資源が、産業廃棄物や家庭ごみとして焼却や埋め立て処理されて おり、二酸化炭素の排出や土壌の劣化などの環境問題を引き起こ しています。未利用資源の活用については、肥料化や家畜飼料化 など、 一部の活用が進んでいるものの、 さらなる拡大が急務となっ ています。 ファーメンステーションは、特に食品廃棄物の削減に注力してい ます。UNEP(国連環境計画)の推計によると、食品廃棄物は世 界の食料生産量の 3 分の 1 を占めるとされ、また、世界で排出さ れる温室効果ガスのうち 8% から 10% が食品廃棄物に起因する とされています。世界各国が SDGs に基づき、2030 年までの食 品廃棄物削減目標を掲げていることからも、この問題がグローバ ルな共通課題であることが分かります。日本においても、農林水 産省の推計では、 2021年度の食品廃棄物は2,402万トンにのぼり、 そのうち 732 万トンが一般家庭から、1,670 万トンが主に食品製 造過程で発生しています。この食品製造過程で発生する廃棄物の 約 8 割は再生利用されていますが、そのうち 9 割は飼料や肥料と してサイクルされるにとどまっています。 ファーメンステーションでは、食品廃棄物をより高付加価値な原 料や商品へと生まれ変わらせるアップサイクルに注力していま す。アップサイクルにより、未利用資源を新たな機能性原料とし て活用し、 資源の浪費と廃棄を同時に防ぐことが可能になります。 さらに、食品廃棄物に限らず、森林の剪定・伐採後に発生する木 材、畑の剪定・収穫後に出る茎や葉、穀物の脱穀時に発生する籾 殻、バイオマスなどの一次産業における産業廃棄物、工業製品の 製造過程で発生する副産物の活用にも取り組んでいます。 廃棄物削減のインパクトは、石油依存や資源不足の課題解決にも 及びます。ファーメンステーションでは、近年注目を集める「バ イオものづくり」のアップサイクル技術を活用し、石油などの化 石資源を生物由来の原料に置き換えるとともに、微生物の力を活 用して有用化合物を生み出す持続可能な製造プロセスを確立して います。OECD の推計によれば、このバイオものづくり分野の市 場規模は 2030 年にグローバルで約 200 兆円に達するとされてい ます。未利用資源由来のアップサイクル原料を活用することで、 石油の使用削減と脱炭素社会の実現に貢献することができます。 さらに、日本ではバイオマスの生産量が限られているため、バイ オものづくりの拡大に伴い資源不足の問題が懸念されています。 加えて、海外からの原料調達においては、原材料の透明性確保も 課題の一つです。こうした状況の中で、食品廃棄物などの未利用 資源を活用することは、バイオものづくりを持続可能な形で普及 させる有効なアプローチであると考えています。国内で資源を循 環させることで、原材料の透明性確保や食の安全保障にも寄与す ることができます。 これらの課題を解決した先に私たちが目指しているのは、単に廃 棄物を減らすだけではなく、資源を「使い、捨てる」という一方 通行型の消費のあり方から、新たなアップサイクルエコシステム へと移行することです。未利用資源を最大限に活かし、資源の価 値を循環させることで、持続可能なバイオものづくりの新たな基 盤を築いていきます。これからも多様なステークホルダーと協力 しながら、1 人 (1 社 ) では実現不可能な社会課題の解決と新たな エコシステムの構築を目指していきます。 020p 019p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024
  11. Approach 私たちのアプローチ 私たちは「発酵技術」で「未利用資源」を高付加価値な「機能性バイオ原料」にアップサイ クルする事業を展開しています。アップサイクルとは、廃棄物や副産物など、一度使われ、 従来の仕組みの中では廃棄されてきた資源を、様々なアイデアや手法で価値の高いプロダク トに転換することです。資源の再活用という意味では、 リユース(再利用)やリサイクル(再 循環)と同じですが、価値を高めているところに違いがあります。 未利用資源に関する豊富なデータベースや、微生物ライブラリー、発酵法に関する知見・開 発体制を保有しており、未利用資源を機能性バイオ原料に転換する独自のアップサイクルモ

    デルの構築に挑戦しています。 バイオ原料とは、植物由来バイオマスなどを用いて開発される、 生物由来の原料です。いまだに多くが石油などの化石資源に依存 する素材を置き換えるために、様々な産業を横断して注目を集め ている領域です。私たちが発酵技術を使ってつくる原料は、食品 向け原料(フレーバー、 呈味向上原料、 機能性原料) 、 プラントベー スドフード向け原料、植物由来エタノール、化粧品向け発酵エキ ス、など多岐に渡りますが、これらはすべてバイオ原料にあたり ます。 発酵の一般的な定義は、 「微生物の働きで有機物を分解し、人間 にとって有益な特定の物質を生成すること」です。一般的になじ みのある漬物やチーズなどの発酵食品や、お酒などの発酵飲料、 醤油や味噌などの発酵調味料の製造に加えて、 医薬品等の製造や、 家畜の糞尿や野菜くず等を活用した堆肥の生成などにも、発酵技 術が使われています。 また、近年注目が集まる「バイオものづくり」でも発酵技術は活 用されています。バイオものづくりとは、バイオマスなどの生物 由来の素材を用いてものづくりを行うこと、さらには微生物など の能力を活用して有用化合物などを作り出すことですが、発酵技 術はそれらのプロセスを実現する主要な技術と位置付けられてお り、発酵によりバイオ燃料やバイオプラスチック原料が作られて います。 当社の発酵技術の特徴は、組成の異なる資源を、高機能のバイオ 素材に転換できる、 アップサイクル技術のプラットフォームです。 麹・酵母・細菌等の多様な微生物のライブラリーを保有し、様々 な有機物に対して適切な技術や条件の組み合わせを適用できるノ ウハウを構築しています。また、有機物ごとに異なる発酵の最適 化条件や、発酵による生産物のデザインを最短距離で特定するた めの技術プラットフォームを保有。さらに、自社工場による製造 機能を持つことで、事業化まで一気通貫で対応しています。 発酵技術 未利用資源とは、有効活用されずに廃棄されていたり、従来不要 とされていた資源を指します。私たちが取り扱うのは、その中で も食品にまつわるサプライチェーンを横断して食品廃棄物として 排出され、発酵技術が適用可能なものです。 例として、下記のようなものがあります。 単糖を含むもの さとうきび、果物、糖質の多い野菜、糖そのものなど ・一次産業の現場で、規格外等で廃棄される果物や野菜 ・食品・飲料の製造工場で出る製造副産物 でんぷんを含むもの 穀物(米、麦など) 、イモ類、でんぷんそのものなど ・休耕田を再生して栽培したお米 ・規格外で食用にならない穀物やイモ類 ・食品工場や飲食の現場で出る余剰品(ごはんなど) 繊維質(セルロース)を含むもの 木、紙、繊維質の多い野菜など ・食品・飲料の製造工場で出る製造副産物(果汁の搾り かす、ワインの搾りかすなど) ・有効に活用されていない伐採木・剪定枝 ・有効に活用されていない古紙やパルプ 未利用資源 バイオ原料 022p 021p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024
  12. Business Overview 事業について ファーメンステーションでは、独自の未利用資源・微生物データベースと発酵アップサイクル技 術で、4 つの事業を展開しています。2024 年は食品・飲料市場へ本格参入し、当社開発のアッ プサイクル原料を機能性原料として採用した飲料が上市しました。 主に食品・飲料工場で排出される製造副産物から、食品 メーカーや化粧品ブランドとともに機能性バイオ原料を

    共同開発し、事業化に至る場合には、製造受託やライセ ンスまでを含め、開発から事業化まで一気通貫での協業 を行っています。また、 フードロス削減や脱石油、 クリー ンラベルなどの社会的ニーズに応え、未利用資源アップ サイクルの社会実装を推進しています。 共創事業 すべての事業を支えるのは、東京での研究開発 と岩手県奥州市の工場における製造です。東京 の研究開発拠点では、最先端のバイオものづく りをはじめ、新しい技術の開発や素材の試作・ 試験などを進めます。奥州市の製造拠点では、 これらの研究と連携し、スケールアップや商品 化などを行っています。 研究開発・製造 植物由来の発酵エタノールや発酵エキス を、主に化粧品原料用途で製造・販売し ています。環境にも配慮した製法で未利 用資源をアップサイクルしているため、 サステナブルであると同時に、発酵由来 の高い機能性を備えた原料です。 化粧品原料 発酵ならではの特長を活かし、風味やコクの増強・ 改善に加え、美容やヘルスケア分野での機能性向上 を実現する食品バイオ原料を製造・販売しています。 現在、乳製品、製菓、調味料など幅広い用途に対応 可能な発酵エキスや、酒類 ・ 清涼飲料水向けのフレー バーエタノールの開発を進めています。 食品原料 未利用資源を活用することでス トーリーと機能性にこだわりなが ら、環境に配慮したブランドづく りに伴走します。衛生用品・化粧 品・日用品の商品開発をコラボ レーション型で受託し、ナチュラ ル・オーガニック処方の化粧品ブ ランドの立ち上げ、サステナブル なライフスタイル雑貨の立ち上げ などを行っています。 OEM 事業 未利用資源を活用することでス トーリーと機能性にこだわりなが ら、環境に配慮したブランドづく りに伴走します。衛生用品・化粧 品・日用品の商品開発をコラボ レーション型で受託し、ナチュラ ル・オーガニック処方の化粧品ブ ランドの立ち上げ、サステナブル なライフスタイル雑貨の立ち上げ 未利用地を活用し栽培した有機 JAS 米 由来の原料として USDA NOP Organic、 エコサート COSMOS を取得 宝酒造株式会社と 共同開発したアル コールを使用した “ タ カ ラ「 発 酵 蒸 留サワー」 ” 認証取得 ೝূ൪߸1 ̧̛̣̚ ༗ػ࠿ഓถ 未利用資源アップサイク ル原料の価値をみずから 一般消費者に伝える手段 として、オーガニック米 由来のエタノールや発酵 原料を使ったオーガニッ クコスメの自社ブランド を展開しています。 自社 ブランド事業 お米でできたアウトドアスプレー 原料事業 024p 023p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024
  13. 既存原料の製造における環境負荷を直接比較することは難しい こと、製造規模の課題など、当社開発品を対象とした LCA にお ける課題も多いのが現状です。今後、事業のスケールアップと 共に製造規模が拡大する中で、環境負荷軽減の面でもより競争 力のある状態を作れるよう、本質的な LCA の実施に向けて、 引き続き見直しや改善を行います。

    ファーメンステーションでは、事業や商品開発においてもソー シャルインパクトの観点を重要視しており、発酵アップサイクル 原料の開発を進めるにあたって、開発した原料が実際に製造され る際の環境負荷も考慮しています。 未利用資源のアップサイクルにおいてはその製造過程も、既存産 業が当たり前としてきた製造方法と比べて、より環境インパクト がプラスになるべきであると考えており、それを図る指標のひ とつとして LCA の実施を位置付けています。 2024 年、当社では、自社開発中の特定の香 り成分を高含有する機能性原料の製造に おける LCA を実施し、実製造を見越 した CO2 排出量の算定を行いました。 当社の開発原料は、単に既存香 料の代替となるものではなく、 新たな価値や機能を複合的に 持つ原料であるため、同一 条件での比較にはなりえま せんが、LCA の結果、既存 の化学合成香料と比較して CO2 排 出 量 は 10 分 の 1 以 下になる見込みと試算してお り、当社開発原料が実際の製 造工程においても環境負荷低減 に貢献するものであることが見え てきています。 ただし、CO2 排出量の算定においては、 実製造時の設備や調達の流れに関して一定 の仮定を置いていること、前述のように既存原 料の代替ではないため、当社が新しく開発した原料と Key Highlights 1 2024 年のハイライト と口に含んだ瞬間から感じる厚みを実現しています。 参入を果たした食品・飲料市場においても、脱炭素・脱石油、ク リーンラベルなどの社会的ニーズや、プラントベースドフード等 の新領域での技術課題解決ニーズが高まっており、昨年上市した 宝酒造との協業以外にも、複数の大手メーカーと、食品・飲料市 場をターゲットとした共同開発や技術供与がプロジェクトとして 進行しています。 並行して、パートナー企業が持つ未利用資源だけでなく、国内で 発生する未利用資源を広く対象とした発酵アップサイクル原料の 開発ニーズも高まっています。より自由度が高く、社会課題解決 に直結するテーマとして、独自の発酵技術に加え、全国の未利用 資源へアクセスができるという当社の強味をより一層活かした事 業共創を進めています。 2024 年の事業に関する大きなトピックとして、食品・飲料市場 への参入が挙げられます。食品 ・ 飲料分野は市場規模が大きい (事 業拡大により生み出せるインパクトも大きい)ことに加え、これ までも食品メーカーとの協業が多く、食品出口への原料開発ニー ズがあったこと、研究開発も大きく進捗し、食品に対しても技術 拡張されてきたことなどが主な理由です。 7 月、宝酒造株式会社と共同開発した柑橘搾汁副産物(果皮)由 来のアップサイクル原料が宝酒造の RTD※ 新商品に採用決定さ れたことを公表し、食品・飲料市場への本格参入いたしました。 従来は搾汁後に廃棄されていた柑橘の果皮を、飲料用途として原 料化した果皮発酵スピリッツが、RTD 商品の新ブランド “タカ ラ「発酵蒸留サワー」 ” に採用されています。 果皮発酵スピリッツは、独自の発酵・蒸留技術を用いて、柑橘の 果皮を発酵させることで果皮に含まれる香り成分を引き出し、さ らにそれを蒸留することで必要な成分のみを抽出し、複雑な香り 2 LCA(Life Cycle Assessment) の実施 食品・飲料市場への参入と 事業共創の拡大 End of life Resources Processing Manufacturing LIFE CYCLE ASSESSMENT Distribution Use 026p 025p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024 ※ Ready to Drink の略。缶入りチューハイなど、 そのまま飲むことができるアルコール飲料のジャンルを指す
  14. Core Technology 技術について 1アップサイクルの重要性 アップサイクルは、リサイクルとは異なり、廃棄物に新たな価値を付与することで持続可能な資源 のあり方を実現する考え方です。従来は廃棄されていた、食品工場などで発生する副産物を「未利 用資源」と捉え、発酵技術や高度な加工技術を適用することで、新たな資源として有効活用するこ とが可能となります。アップサイクルの重要性は、このように環境への負荷を軽減し、同時に新た な経済価値を創出する点にあります。 2発酵アップサイクル技術

    プラットフォーム 当社は、食品製造時に発生する副産物や規格外農産物等の未利用資源から、高付加価値 な食品原料や化粧品原料などを生産することを目的とした「発酵アップサイクル技術プ ラットフォーム」を構築しています(図 1) 発酵プロセスでは、未利用資源の組成に応じて最適な微生物や酵素を選定・組み合わせ ることで、ターゲットとする成分を高効率で生産。未利用資源データベースと微生物ラ イブラリーを保有しており、これらを活用して特定のバイオマスから特定のターゲット 素材へ変換するパスウェイを柔軟に設計可能です。また、非遺伝子組み換え微生物を使 用し、安心・安全な製品を速やかに市場導入できることを強みとしています。 (図 1) 発酵アップサイクル 3 つの特徴 1 特徴 未利用資源 多様な原料 100 種類以上の経験 食品製造原料としての扱い 広いネットワーク 2 特徴 発酵アップサイクル技術 方向づけ 非遺伝子組み替え微生物 食経験 種類×組合せ×順番 3 特徴 発酵アップサイクル素材 目的の素材 機能性のターゲット成分 A 複合的な機能性素材 発酵食品素材 他、多数 工程内不良品 大豆搾油粕 規格外農産物 米(休耕田) 規格外ごはん りんご絞り粕 ※イメージ ターゲット成分 A ラクトン バニリン エタノール グリコシルセラミド エステル 原料由来成分 ( ポリフェノール、 特長成分、など ) 菌体由来成分 (脂質、など) 発酵由来成分 ( ターゲット成分 A、 各種代謝産物、タンパク、 アミノ酸、ビタミン、 など ) 種類 存 在 量 030p Impact report 2024
  15. 32 つの技術モジュール 糖化モジュールと発酵モジュール バイオラクトン 生産における 技術モジュール 未利用資源は、単一原料ではなく、非常に多種多様な原材料であるため、 各々の未利用資源に対して、個別の糖化プロセスや発酵プロセスを開発し、 生産プロセスを実証していくことは多くの工数を要します。 当社が開発してきた発酵アップサイクル技術プラット

    フォームでは、 「糖化モジュール」と「発酵モジュール」 の 2 つの技術モジュールで構成されています。既に、複 数の技術モジュールが大規模実証可能なレベルに達して おり、いくつかの発酵アップサイクル素材開発に適用さ れています。 糖化モジュールは、未利用資源を微生物 が発酵可能な糖へと分解するプロセスを 担います。未利用資源は、非常にバラエ ティーに富んでいます。発酵性の糖質を 含むものだけでなく、果実残渣や剪定木 などの木質バイオマスまで、多様な種類 があり、それぞれに適した酵素の選定と 最適な反応条件の設計が重要です。当社 では、さまざまな未利用資源に対応でき る汎用的な糖化モジュールを持つことで、 最小工数で糖化条件を導き出すなど、広 範な未利用資源に対応しています。 糖化液を非遺伝子組み換え微生物によっ てバイオコンバージョンし、香料成分や 着色料成分を生産するのが発酵プロセス です。複数の微生物が相互に作用しなが らターゲット成分を効率的に生成する混 合培養技術を基盤プロセスとしています。 合成生物学的なアプローチと異なり、複 数微生物が共創的に物質生産するユニー クな発酵プロセスです。 さらに、発酵モジュールは、ターゲット とする香味成分の生産性を最大化するよ う設計されています。 最適な発酵モジュー ルを組み合わせることで、顧客の要望に 応じた香味や風味に調整し、短期間で希 望の食品原料を開発できます。発酵アッ プサイクル技術によって生産された原料 は、非遺伝子組み換え微生物による安全 なプロセスを経ており、発酵液そのもの を食品として使用できる点も優位性につ ながると考えています。 糖化モジュール 糖化モジュール δ - デカラクトンを 含む発酵物 酵母の糖資化性を活用し、 ラクトン発酵原料を作るプロセス Step-1 乳酸菌の酵素変換能を活用し、 ラクトン前駆体を作るプロセス Step-2 酵母の脂肪酸代謝を活用し、 ラクトンを作るプロセス Step-3 アップサイクル 素材 発酵モジュール 発酵モジュール Core Technology 技術について 032p 031p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024 未利用資源 ・米ヌカ ・おから など 酵素処方 ・アミラーゼ ・セルラーゼ ・プロテアーゼ など ×
  16. 2024 in Numbers 数字で見る 2024 コンポスト導入による 発酵残さの有効活用量 奥州ラボ(現・奥州ファクトリー)で、 粕の粕(未利用資源発酵後の残さ)を肥 料化するコンポストの運用を開始。6

    月 ~ 12 月の 7 ヶ月で約 175kg の粕を肥料 として有効活用しました。資源廃棄の課 題を扱う企業として、粕の粕の活用に向 き合うことが重要だと考えています。 未利用資源、アップサイクル、 ソーシャルインパクトに 関する外部講演数 経営、技術、事業などの切り口で、24 年中に 39 件の講演やウェビナーなど に登壇しました。いずれの講演でも社会課題についての内容を織り込み、未 利用資源の現状と、当社の技術が提供できる解決策についてお伝えしました。 ソーシャルインパクトに関する 社内勉強会の開催数 ソーシャルインパクトを学ぶ活動として、3 チームに分かれて テーマを選出し、チームごとに調査や現場見学、外部講師を招 いてのセミナーを実施しました。テーマは 「ゴミ」 「生物多様性」 「気候変動」 。それぞれ、主に以下のような活動を行いました。 【ゴミチーム】 再資源化に配慮したゴミ処理場や産廃処理場を訪問。 【生物多様性チーム】 海藻養殖に取り組むフィッシャーマンジャパンの現場を見学、 ビオトープに関する講師を招いて社内向けセミナーを実施。 【気候変動チーム】 気候変動の影響を大きく受ける作物であるコーヒーについて 調査。コーヒーに関するセミナーと社内勉強会を開催。 取得した代謝物データ数 当社は、100 を超える未利用資源の取り扱い経験の中で、発 酵アップサイクル素材開発のノウハウを蓄積してきました。 その中で、代表的な食品残渣と菌の組み合わせによる発酵素 材について、1,100 成分の代謝産物を対象とした解析データ を取得しました。これにより、多様な未利用資源を対象とし たアップサイクル手法を編み出すことが可能となります。 174.3kg 100 × 1,100 6回 39回 Fermenting a Renewable Society Impact report 2024
  17. Annual Topics 年間トピックス 柑橘残渣を活用した スピリッツ配合の RTD 飲料が上市 未利用資源を活用した 発酵素材について特許出願 2

    件 「JOIF STARTUP PITCH 2024」にて 最優秀賞受賞 Culinary Action! On The Road Fourth Edition 東京大会優勝 亀田製菓と未利用資源 再生・循環パート ナーシップによる商品開発 未利用資源から開発した「ゆずのさのう エキス」が、オリジナル保湿成分として ポーラ「From Loss To Beauty」に採用 GSG Impact JAPAN National Partner 主催 「インパクト指標を題材とした投資家と インパクト企業との対話・議論ワークショッ プ」へ参加 未利用資源を活用する食品素材技術実証が 農水省 SBIR 事業に採択 「未利用バイオマスデータシート vol.2 - 発酵素材メタボローム 網羅的解析 1,100 成分 -」販売 「F ORGANICS (エッフェオーガニック) 」 の商品に初採用 新規アップサイクル原料 「ほおずき葉エキス」を 発売開始 ゆずさのうエキス開発の中で、 未利用資源を使用した素材に 有用性を発見 商品製造において、 奥州市内の福祉施設と連携 奥州市内で閉園した 幼稚園を活用した新工場竣工 2.3 億円の 資金調達を完了 1月 2023 年度 インパクト レポートを公開 4月 循環経済パートナーシップ 「2023 年度 J4CE 官民対話における 発表事例」に事例として掲載 SusHi Tech Tokyo 2024 にて 「SusHi Tech Challenge 2024 最優秀賞」を受賞 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 > > > > > > > > > > > > > > > > > > 036p 035p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024
  18. Impact Certifi cation 事業性と 社会性の両立 ファーメンステーションでは事業性と社会性を両立する企業のあり方を追求すべく、 日本国内の「J-Startup Impact」や、国際的な認証制度である「B Corp 認証」など、

    外部の評価や仕組を活用しています。 J-startup Impact B Corp ೝূ B Corp 認証とは、環境や働き手、顧客、そして コミュニティなどのステークホルダーに、ポジ ティブなインパクトをもたらす企業に与えられ る米国発の国際認証制度です。事業性と社会性 の両面の成果や取り組みに対して「スコア」と いう形で客観的な指標を提供。 また、 3 年ごとの再審査を通じて、 定点的なチェッ クや再評価の機会が与えられます。ファーメン ステーションは 2022 年の 3 月に国内のスタート アップとして認証を取得し、25 年に初回の更新 を迎え、現在、再審査中です。企業同士がコミュ ニティを形成し、ソーシャルインパクトという 共通の目標に向かって違いに助け合える仕組み が、国内でも模索されています。 認証を取得するだけではなく、同じ目的に向か う仲間として、互いに学び合いながらソーシャ ルインパクトを追求する。B Corp は当社にとっ て重要なコミュニティのひとつです。 経済産業省が、潜在力の高いインパクト スタートアップに支援を行う「J-Startup Impact」プログラムがスタート、ロールモ デルとなることが期待される 30 社の 1 社 としてファーメンステーションが選定され ました。 インパクトスタートアップは、 「社会的・ 環境的課題の解決や新たなビジョンの実現 と、 持続的な経済成長をともに目指す企業」 として注目されています。 https://www.j-startup.go.jp/ startups/165-fermenstation.html B Impact Score はこちらからご確認いただけます。 https://www.bcorporation.net/en-us/fi nd-a-b-corp/company/ fermenstation-co-ltd 040p 039p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024
  19. Our Team 組織について 新しい価値を作り、 社会に実装するための、 柔軟で自律的な組織へ ファーメンステーションは、R&D チームをはじめとして、事業開発 メンバーなど、合計 20

    名(2024 年末時点)の多様なメンバーで事 業を展開しています。世の中の新しい当たり前を作るため、みずか らが進化を続け、自律的な個々の集合体であるために、さまざまな 社内制度を作っています。学びに対して補助を提供する「学び制度」 がその一例です。 研究開発および製造は、東京と岩手県奥州市にある 2 つの拠点にて 行い、幅広いステークホルダーとの関係を大切に活動しています。 042p 041p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024 OSHU FACTORY 2 つの拠点 ファーメンステーションの組織を表す数字 岩手県奥州市 |製造・研究開発       東京都墨田区 | 東京オフィス兼研究開発       TOKYO LAB 出身業界・ 職種(一部) ・ 飲料メーカー(R&D) ・ 金融 ・ 地方自治体 ※ 24 年 12 月 時点で算出しました ・ コンサルティング ・ 食品メーカー(R&D /製造) ・ スタートアップ(事業開発) ・ 化学メーカー(R&D) ・ 設備メーカー(製造) 在籍拠点比率 岩手 東京 75% 25% 男性 女性 30% 70% 30代 30% 50代 15% 40代 55% 男女比率 年代比率
  20. Value New 私たちのバリュー 2024 年、当社のカルチャーに関するひとつの大きな変化として、バリューの刷新がありま した。事業領域の変更や向き合う課題が変わる中で、バリューや行動規範にも変化の必要が 出てきたことが大きな理由です。経営メンバーが合宿で議論する中でブレイクスルーになっ たのは、一見相反するような2つの要素を行き来するという考え方でした。 ファーメンステーションのバリュー 自分の立脚点を持ちながら、

    異なる視点を行き来できること。 当社はこれまでも、都市と地方に拠点を持ちながら、 事業性と社会性を追求する企業として、意思決定に おいても二者択一にしない、2 つの相反する意見のど ちらかを選び取るのではなく、より高次な 3 つめの 案がないかを思考することを重要視してきました。 天秤のようにふたつのバランスを取るのではなく、 振り子のように両極を行き来することで、より広い 範囲での視点を持ち、視座を高く持つ意味を持たせ ています。 同時に「8Principles」というバリューに基づく行動 原則を制定しました。 私たちは、事業を通じて、自然環境や社会、関係する全ての 人々、ステークホルダーに対して、常にポジティブなインパ クトを生み出す存在です。 事業性と社会性、この 2 つのポジティブなインパクトを、会 社や事業の規模に関係なく両立させ、拡大し続けます。 そのために、日常の業務の中でも、全ての意思決定において、 全員がこの観点を持ち、意識をして選択をしていきます。 バリューを実践するための 「8Principles」 ①自分の軸を持とう & 自分自身に変化を求めよう ②自ら動こう & 落ちたボールを拾おう ③仲間を認めて賞賛しよう & 仲間にフィードバックしよう ④成果にこだわりやり切ろう & 最善に向けて修正しよう ⑤ワクを超えた発想 & 有言実行 ⑥スピードで圧倒しよう & 本質を深く考えよう ⑦虫の眼 & 鳥の眼 ⑧感性 & サイエンスと論理 さらに slack 内にバリュー専用チャンネルを作り、バリューに 沿った行動を讃えたり、Thanks を伝えるスレッドを立ち上げる など、日常業務にもバリューを浸透させ、意思決定や判断の拠り 所となるよう、カルチャー形成のための活動を進めています。 一見、両立が難しそうなことに対して、どちらか一方に取り組 むのではなく(or) 、両方を行き来し実行すること (and)を目的 とした行動原則です。制定後、社内ではバリュー推進チームを 発足。朝の定例会議では、その週の自身の業務と合わせた注力 principle について話すバリューコネクトタイムを設けています。 代表の酒井が描いたバリューを体現する人のイメージ オフサイトでのバリューコネクトタイムの様子。 普段、 オンラインメインのメンバー が一堂に会し、オフラインでバリューについて話す貴重な機会になりました。 044p 043p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024 Stance
  21. Unreasonable impact in partnership with Barclays アンリーズナブル社と バークレイズ社の共創プログラム ソーシャルインパクトへの「本気」を 目の当たりにしたプログラム

    「大切なのは競争より共創。課題が大きくなるほど、 競争では解決できなくなる。いかに多くの問題を 一緒に解決できるかを考えよう」 。 グラムを提供)への参加をきっかけに、 この言葉に出会いました。 酒井が参加したのは成長ステージにある各国の社会起業家が、一 週間、寝食を共にしながらビジョンやアイデアを共有しあうプロ グラムで、その名も「Unreasonable Impact in partnership with Barclays」 。Unreasonable とはすなわち、 「非合理」の意味です。 アジア太平洋地域を対象にした今回は、マレーシアの離島で開催 され、日本のほか、インド、香港、シンガポール、オーストラリ アなどから起業家たちが集まりました。 「合理的な人間は、自分を世界に適応させる。非合理的な人間は、 自分に世界を適応させようと粘る。あらゆる進歩はこの『非合理 的な人間』に頼っているのだ」 。 これは、 ノーベル文学賞の受賞者でもあるイギリスの劇作家、 バー ナード・ショーの言葉です。社会に変化を起こす挑戦者とは、ま さにこの「粘る」側。ファーメンステーション代表取締役の酒井 は、世界的金融グループバークレイズによる社会起業家向けのプ ログラム(2010 年から毎年約 20 団体のベンチャーに対してプロ 「Unreasonable impact のプログラムでは 「I(私)より We(私たち) 」というフレーズが 合言葉のように繰り返されます」と、酒井。 「起業家と投資家の関係も We なのです」 。 組んでくれてありがとう。でも、変化の早い世の中を変えるの は、あなた達アンリーズナブルな人たちだと思います。 』という ダニエルの呼びかけが、非常に印象に残っています」と酒井。ス タートアップの価値は一般的に短期間で成果を出すことを求めら れますが、社会の課題に対してインパクトを出すのには時間がか かります。このような葛藤を抱える起業家にエールを送り続ける Unreasonable impact のあり方は、これからのビジネスと社会課 題解決の関係性や、成長とは何かを考える際のヒントになりそう です。 サポートを受けている社会起業家コミュニティの豊かさ、そして メンバー同士の近さにも特筆すべきものがあります。気候変動、 食、医療、資源、教育など、取り組む課題や事業のフィールドは 様々ですが、それぞれの分野を牽引するような錚々たる起業家が、 Unreasonable impact コミュニティのメンバーになっています。さ らには「メンバーになった起業家は、一生涯サポートする」という 方針で、具体的な相談事がある場合には、専用アプリ上でメンバー 同士やメンターを繋いでもらえる仕組みが構築されています。 「 『アンリーズナブルだと言われながらも、こんなに長い間取り く「相手に対して、自分が何をしてあげるのか」という視点に転 換するようです。 「こんな利他的な空気が流れるプログラムは、 珍しいのではないでしょうか」と、酒井は振り返ります。 「社会課題に一緒に挑む仲間である」という発想は、投資家との 関係においても例外ではありません。一週間のプログラムの終盤 には、参加者が各国から集まる投資家向けに事業のプレゼンテー ションをする機会が設けられていますが、そこで投資家たちに念 押しされるのは「起業家達をジャッジ(批判、批評)しない」と いうこと。 プログラムを担う Unreasonable Group の創業者ダニエル・エプ スタイン氏は、こう呼びかけます。ビジネスによるソーシャルイ ンパクトの実現は答えのない挑戦。ビジョンを共有する挑戦者同 士が助け合い、より大きな成果に繋げるための本気の支援を徹底 する彼の姿勢は、多くの起業家の共感を生んでいます。 共創を大切にする姿勢は、プログラム設計の至る所に現れている そうです。例えば、プログラムを通して繰り返される参加者同士 の対話のセッションでは「よき聞き手」に徹することが強調され ます。そうすると皆「自分の事業がいかに優れているか」ではな 046p 045p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024 text by Mari Minakuchi
  22. Voices from Stakeholders ステークホルダーから見た ファーメンステーション 2023 年秋に奥州ラボを見学させていただいた際、周り の方々との会話や土地の風景を通じて、B Corp ™︎の相

    互依存宣言にある「自分たちが目指す変化そのもので あること。すべてのビジネスが、人々と風土に関係あ るものとして営むこと」が体現されていると実感しま した。ビジネスをよりよい社会をつくるための力とし て活かすグローバルエコノミーを、B Corp の仲間とし て共に醸成していけることを嬉しく思います。 ファーメンステーションとの協業により、アルコール分 3% でもお酒の満足感が楽しめる缶チューハイ” タカラ 「発酵蒸留サワー」 ”の飲みごたえを実現するキー素材 「果 皮発酵スピリッツ」が開発できました。廃棄されるはず の柑橘果皮からキー素材を開発できたのは、様々な未利 用資源のアップサイクルに取り組んできた同社の技術 の賜物だと感じています。これからも共に、未利用資源 から新たな価値を生み出していきたいと思います。 サステナビリティに注力する海外の大手ファッション・ ビューティー等のメーカーもファーメンステーション の技術を高く評価し、注目をしています。ファーメンス テーションの発酵技術により生産される、低環境負荷か つ高付加価値な化合物は、これから世界中の多くの産業 のサプライチェーンに組み込まれていくことになると 思います。グローバルで活躍するスタートアップのロー ルモデルとして、より飛躍的な成長を期待しています! 当社は「独自の発酵技術」で「未利用資源」を「再生・ 循環」する社会の構築を目指し、インパクトと事業の両 立の好事例です。進化し続けるインパクトレポートを 通じ、自社のパーパース実現の道のりを高解像度化し、 活動と成果を可視化することで経営改善に確実につな がっています。他社にとっても良い道しるべとなるで しょう。インパクト・エコシステム形成に向けて事例提 供など積極的に活動され、心強いインパクト仲間です。 株式会社バリューブックス 代表取締役 鳥居 希さん 宝ホールディングス株式会社 執行役員 事業管理部長 佐藤 敬さん CIC Director of CIC Institute 名倉 勝さん インパクト・キャピタル株式会社 代表取締役 黄 春梅(ほぁん ちゅんめい)さん 料理人は食材を調理・提供する仕事ですが、 「消費」を 前提とした職業でもあります。無駄を省き有効活用を意 識する一方、食材を再生し社会や環境へ還元する難し さを痛感しています。そんな中、ファーメンステーショ ンの「食材残渣を活用したアップサイクルエッセンス」 に感銘を受けました。再生を超えた価値創造の可能性を 感じ、我々料理人もこの循環の輪に加わり、人と地球に 「美味しい未来」を創造していかなければと思います。 ファーメンステーションは、大きな変革をもたらす可能 性を秘めています。彼らのこの旅を支援できることは大 きな喜びであり、リナとファーメンステーションのチー ム全体が次の成長段階へ進むのを楽しみにしています。 彼らがサステナビリティとイノベーションの限界を押 し広げ、 「unreasonable な(非合理的な) 」姿勢を貫き 続けることを期待しています。なぜなら、すべての進歩 は、非合理的な人々によってもたらされるからです。 株式会社 PLUM KNOT 代表取締役/料理人 野田 達也さん Unreasonable Group Portfolio Manager, Asia Pacific  Akanksha Khurana 048p 047p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024 Nozomi Torii Masaru Nagura Tatsuya Noda Kei Sato Chunmei Huang Akanksha Khurana
  23. Impact Model インパクトモデル 循環を生み出したいと考えています。そのインパクト創出のモデ ルとして、 2023 年まで下図の 「未利用資源アップサイクルループ」 を掲げていました。 ファーメンステーションの事業の軸は、発酵技術で未利用資源を

    アップサイクルすることです。事業を通じて資源がアップサイク ルされ続けるだけではなく、多領域のステークホルダーがアップ サイクルの意義を理解し、積極的に未利用資源を活用していく好 いものの、掲げるインパクトモデルそのものをブラッシュアップ する必要性を感じるようになりました。2024 年は、これからの ビジネスの変化も視野に入れ、中長期でインパクトをもたらしう る最適なゴール設定やインパクトモデルの本格検討に着手。試行 版としてのβ版を策定しました。 2023 年まで歩んできたビジネスモデルに準ずる形で、多面的な インパクト創出を表していたのがこのアップサイクルループ図で した。しかしながら、進化途上のスタートアップとして、ビジネ スモデルやターゲット市場など、 事業や外部環境が変化する中で、 最終アウトカムとして目指すゴールや根幹にある理念は変わらな ること、アップサイクルを前提とした商品設計や製造ラインを組 むこと、法規制を変えることなど、従来の枠組みを取り払い、ス テークホルダーとともに既存システムそのものを更新していくこ とも含まれます。 一筋縄では行かない成果達成のため、ビジネスにおいてもインパ クトにおいても、既存のシステムや概念を覆すことを一足飛びに 考えるのではなく、4フェーズに区切ることで、段階的に創出す べきアウトカムを見据える形を取りました。フェーズが上がるに つれて、ビジネス面、インパクト面ともに受益者の種類と規模が 拡大することも私たちのインパクトモデルの特徴です。 上記は、左にビジネス、右にインパクトの段階的な変化とそれぞ れの規模の拡大を図示したものです。新しいインパクトモデルを 考える際にポイントとなったのは、従来のループ図のようなスタ ティック (静的) な表現ではなく、 時間軸を取り込んだダイナミッ ク(動的)なモデルであることでした。 私たちが取り組む未利用資源のアップサイクルは、概念そのもの を行き渡らせ、従来は廃棄物とされていたものを未利用資源とし て捉え直すことから始まります。 それは例えば、食品メーカーの工場で廃棄物を資源として分別す 次のあたりまえを目指す 新しいインパクトモデル 052p 051p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024 「インパクトモデル β版」 フェーズアップ図 1 Impact Model  ະར༻ࢿݯͷΞοϓαΠΫϧϧʔϓΛ௨ͨ͡ϚϧνΠϯύΫτϞσϧ ར༻Մೳͳ ະར༻ࢿݯ͕֦େ͢Δ Ξο ϓαΠ Ϋϧϧʔϓ धཁ૿Ճ ݮগ εʔύʔΰʔϧ ̐ͭͷࢹ఺΁ͷϚϧνΠϯύΫτ εςʔΫϗϧμʔΛͭͳ͗ɺ ਓ ʢࣾʣ Ͱ͸࣮ݱෆՄೳͳʠ॥ ؀͢ΔࣾձϞσϧʡ ΁ͷస׵Λ໨ࢦ͍ͯ͠·͢ ॥؀͢Δࣾձ΁ͷస׵ Ұ࣍࢈ۀ ҿྉ޻৔ ৯඼޻৔ খചΓ ੜ׆ऀ Խহ඼ϝʔΧʔ ৯඼ɾҿྉϝʔΧʔ ͦͷଞࣄۀύʔτφʔ ੜ࢈ऀ ஍Ҭ ίϛϡχςΟ ࣄۀ࣮૷ ٕज़ద༻ ࢢ৔૑଄ ΞοϓαΠ ΫϧݪྉΛ ׆༻ͨ͠঎඼֦େ ࢿݯͷ ࿘අ ૿Ճ͢Δ ࢿݯഇغ ΞοϓαΠ Ϋϧ ঎඼ͷফඅ֦େ ະར༻ࢿݯΛ ݪྉԽ ஍Ҭੜ࢈ऀ ॥؀͕લఏͷϏδωε΁ࣾձੑͱࣄۀੑΛཱ྆ͨ͠ɺ ॥؀ܕϏδωεϞσϧͷߏஙͱల։ ࣄۀऀ ࢿݯ॥؀Λ௨ͨ͡؀ڥͷอશ ɾ վળ৽ͨͳࢿݯͷ࿘අͱࢿݯͷഇغΛճආ͢Δͱಉ࣌ʹΞο ϓαΠΫϧࢿݯΛ૑ग़͠ɺ ࣗવ؀ڥෛՙΛܰݮ ࣗવ؀ڥ ஍ Ҭ ಺ ॥ ؀Λى ఺ ʹ ৽ ͨͳ஍ Ҭ ͷ ັ ྗɾՁ஋૑ग़֤஍Ҭ Ͱͷ ੡ ଄ Λ֩ ʹ஍ Ҭ ಺॥ ؀Λ࣮ ݱ ͢ Δ͜ͱͰɺ ஍ Ҭͷ৽ ͨͳ ັ ྗ΍ Ձ ஋ Λ ૑ग़͠஍Ҭ಺֎ͱͷ ࿈ܞΛ׆ੑԽ ੜ ׆ ऀ ͕॥ ؀ͷҰ ෦ʹߪೖΛ௨ͯ͡ࢿ ݯɾ؀ڥΛकΔιʔ γϟϧΞΫγϣϯΛ ߦ͍ɺ ࣗ෼Β͍͠ফ අɾੜ׆Λ࣮ݱ͢Δ ؀ ڥͮ͘Γɺ ҡ ࣋ʹ ࢀՃ ੜ׆ऀ 資源循環型社会 (石油依存からの脱却・資源不足の解消・廃棄物の減少) ※ ※インパクトモデル…ソーシャルインパクトの創出を示す論理モデルのこと アップサイクルを ビジネスとする企業が 多数出現し、 エコシステムを形成 Phase.4 アウトプットの質×量 = 付加価値量 ステークホルダー(受益者)の広がりとアウトカム 未利用資源 排出者 アップサイクルあ りきの資源廃棄デ ザイン、商品設計 がされる 未利用資源 活用者 アップサイクル原 料を積極的に仕入 れ採用している 消費者 アップサイクル製 品 へ を イ ン セ ン テ ィ ブ を 自 覚 し、 当たり前に購入・ 消費している 地球環境 オープンシステム や 技 術 に よ っ て、 環境でなく環境価 値を高めている 未利用資源 排出者 未利用資源排出量が 大幅に削減される 未利用資源 活用者 未利用資源からで きた高機能原料が 必須となり、それ ありきの商品設計 がされる 消費者 アップサイクル製 品を当たり前に購 入・消費している 地球環境 GHG 排 出 量、 資 源廃棄、石油依存 などの環境負荷を 低減 未利用資源 排出者 未利用資源が高機 能原料に生まれ変 わ り、 世 の 中 の 様々な製品に活用 される 未利用資源 活用者 未利用資源からで きた高機能原料を 活用することで商 品の機能、付加価 値が向上 消費者 アップサイクル製 品を購入・消費し 始める 未利用資源 排出者 未利用資源と考え られていたものが アップサイクルに よって機能性原料 に 生 ま れ 変 わ り、 自社製品に活用さ れる オープン化されたシステムで エコシステムが形成される 多品種大ロット × クリティカルマスを超え、 アップサイクル商品や素材の価値、 市場が拡大 少品種大ロット × 事例当たりの事業性を拡大し、 商品価値起点の利用が拡大 少品種中ロット × 1:1 の共創を多数創出すること でアップサイクル事例が増加 多品種小ロット × 市 場 創 出 市 場 確 立 市 場 拡 大 市 場 開 放 ア プ サ イ ク ル 概 念 浸 透 ア プ サ イ ク ル 製 品 流 通 環 境 負 荷 低 減 環 境 価 値 貢 献 Business Impact 食品メーカーなどの未利用 資源を活用したアップサイ クル商品を市場に送り出す ことで、アップサイクルと いう概念を浸透 Phase.1 未利用資源を活用した アップサイクル原料を、 機能性原料として活用した 商品を流通させることで 市場を確立 Phase.2 アップサイクル商品や 原料がクリティカルマスを 超えて流通し、 環境負荷を低減 Phase.3 Phase4 Phase4 Business Impact Phase3 Phase3 Phase2 Phase2 Phase1 Phase1
  24. アウトプットの質×量 = 付加価値量 ステークホルダー(受益者)の広がりとアウトカム 未利用資源 排出者 アップサイクルあ りきの資源廃棄デ ザイン、商品設計 がされる

    未利用資源 活用者 アップサイクル原 料を積極的に仕入 れ採用している 消費者 アップサイクル製 品 へ を イ ン セ ン テ ィ ブ を 自 覚 し、 当たり前に購入・ 消費している 地球環境 オープンシステム や 技 術 に よ っ て、 環境でなく環境価 値を高めている 未利用資源 排出者 未利用資源排出量が 大幅に削減される 未利用資源 活用者 未利用資源からで きた高機能原料が 必須となり、それ ありきの商品設計 がされる 消費者 アップサイクル製 品を当たり前に購 入・消費している 地球環境 GHG 排 出 量、 資 源廃棄、石油依存 などの環境負荷を 低減 未利用資源 排出者 未利用資源が高機 能原料に生まれ変 わ り、 世 の 中 の 様々な製品に活用 される 未利用資源 活用者 未利用資源からで きた高機能原料を 活用することで商 品の機能、付加価 値が向上 消費者 アップサイクル製 品を購入・消費し 始める 未利用資源 排出者 未利用資源と考え られていたものが アップサイクルに よって機能性原料 に 生 ま れ 変 わ り、 自社製品に活用さ れる オープン化されたシステムで エコシステムが形成される 多品種大ロット × クリティカルマスを超え、 アップサイクル商品や素材の価値、 市場が拡大 少品種大ロット × 事例当たりの事業性を拡大し、 商品価値起点の利用が拡大 少品種中ロット × 1:1 の共創を多数創出すること でアップサイクル事例が増加 多品種小ロット × 食品メーカーなどの未利用 資源を活用したアップサイ クル商品を市場に送り出す ことで、アップサイクルと いう概念を浸透 未利用資源を活用した アップサイクル原料を、 機能性原料として活用した 商品を流通させることで 市場を確立 アップサイクル商品や 原料がクリティカルマスを 超えて流通し、 環境負荷を低減 市 場 創 出 市 場 確 立 市 場 拡 大 市 場 開 放 ア プ サ イ ク ル 概 念 浸 透 ア プ サ イ ク ル 製 品 流 通 環 境 負 荷 低 減 環 境 価 値 貢 献 Business Impact 054p 053p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024 Business Impact アップサイクルを ビジネスとする企業が 多数出現し、 エコシステムを形成 Phase4 Phase3 Phase2 Phase1 Phase4 Phase3 Phase2 Phase1 (石油依存からの脱却・資源 不足の解消・廃棄物の減少) 資源循環 型社会
  25. アップサイクルを ビジネスとする企業が 多数出現し、 エコシステムを形成 Phase.4 アウトプットの質×量 = 付加価値量 ステークホルダー(受益者)の広がりとアウトカム 未利用資源

    排出者 アップサイクルあ りきの資源廃棄デ ザイン、商品設計 がされる 未利用資源 活用者 アップサイクル原 料を積極的に仕入 れ採用している 消費者 アップサイクル製 品 へ を イ ン セ ン テ ィ ブ を 自 覚 し、 当たり前に購入・ 消費している 地球環境 オープンシステム や 技 術 に よ っ て、 環境でなく環境価 値を高めている 未利用資源 排出者 未利用資源排出量が 大幅に削減される 未利用資源 活用者 未利用資源からで きた高機能原料が 必須となり、それ ありきの商品設計 がされる 消費者 アップサイクル製 品を当たり前に購 入・消費している 地球環境 GHG 排 出 量、 資 源廃棄、石油依存 などの環境負荷を 低減 未利用資源 排出者 未利用資源が高機 能原料に生まれ変 わ り、 世 の 中 の 様々な製品に活用 される 未利用資源 活用者 未利用資源からで きた高機能原料を 活用することで商 品の機能、付加価 値が向上 消費者 アップサイクル製 品を購入・消費し 始める 未利用資源 排出者 未利用資源と考え られていたものが アップサイクルに よって機能性原料 に 生 ま れ 変 わ り、 自社製品に活用さ れる オープン化されたシステムで エコシステムが形成される 多品種大ロット × クリティカルマスを超え、 アップサイクル商品や素材の価値、 市場が拡大 少品種大ロット × 事例当たりの事業性を拡大し、 商品価値起点の利用が拡大 少品種中ロット × 1:1 の共創を多数創出すること でアップサイクル事例が増加 多品種小ロット × 市 場 創 出 市 場 確 立 市 場 拡 大 市 場 開 放 ア プ サ イ ク ル 概 念 浸 透 ア プ サ イ ク ル 製 品 流 通 環 境 負 荷 低 減 環 境 価 値 貢 献 Business Impact 食品メーカーなどの未利用 資源を活用したアップサイ クル商品を市場に送り出す ことで、アップサイクルと いう概念を浸透 Phase.1 未利用資源を活用した アップサイクル原料を、 機能性原料として活用した 商品を流通させることで 市場を確立 Phase.2 アップサイクル商品や 原料がクリティカルマスを 超えて流通し、 環境負荷を低減 Phase.3 Phase4 Business Impact Phase3 Phase2 Phase1 「インパクトモデル β版」 フェーズアップ図 ビジネス側の図は、アウトプットの質× 量の面積でフェーズアップを表現してい ます。縦軸の「質」は提供価値、横軸の 量は未利用資源量を指し、それらの掛け 算によって、事業規模が拡大するモデル として描いています。 ビジネスフェーズ図 インパクト側の図は、それぞれのフェー ズにおける受益者と、受益者にもたらし うるアウトカムを描いたものです。ビジ ネス側で描いたような未利用資源活用量 の増加に比例する形で、受益者やアウト カムを拡大させるモデルです。 インパクトフェーズ図 フェーズ 1 の市場創出フェーズでは、排出者から購入した未利用資源をアッ プサイクルした機能性原料を排出者の商品として開発・製造し、消費者へ流 通させています。未利用資源排出者=活用者という 1:1 の活用事例を多数創出 することで、多岐に渡る未利用資源への対応バリエーションを増やしながら、 アップサイクルという概念の浸透に取り組みます。 市場 創出フェーズ Phase1 フェーズ 2 の市場確立フェーズでは、排出者から購入した未利用資源をアッ プサイクルした機能性原料を、別の事業者で採用してもらう N:N の活用を想 定しています。より高付加価値な原料化と N:N の活用を成立させることで、 商品価値起点でのアップサイクルを汎用的に広め、消費者がアップサイクル 製品を手に取る機会を増やしていくフェーズです。 市場 確立フェーズ Phase2 フェーズ 3 の市場拡大フェーズでは、未利用資源活用による環境負荷低減を 視野に入れています。アップサイクル原料の利用が一般的になりクリティカ ルマスを超えることで、未利用資源活用量のインパクトが出始め、環境負荷 低減が本格的になるフェーズとして描いています。 市場 拡大フェーズ Phase3 フェーズ 4 の市場開放フェーズでは、当社の技術基盤がプラットフォーム化し、 オープンシステムとして公開されることで、他のアップサイクル企業とともに アップサイクルエコシステムを形成する姿を描きました。環境に対してより包 括的に、一社にとどまらない大きなインパクトをもたらすことで、環境価値を 高め、資源循環社会の実現という最終アウトカムに近づいていくイメージです。 次の当たり前である「循環型社会への転換」には、多くのステークホルダーを 巻き込む必要があります。 市場 開放フェーズ Phase4 056p 055p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024 Impact Model インパクトモデル Business
  26. 消費者 アップサイクルという 概念がない 小売り メーカー 未利用資源を資源ではなく 廃棄物と認知していて廃棄している バージン資源を使用した商品の提供 バージン資源を使用した商品の流通 産廃事業者

    未利用資源と廃棄物を 分別せずに廃棄している 消費者 アップサイクル製品を 購入・消費し始める 未利用資源の購入 (多数の排出者 より購入) 未利用資源のアップサイクル および提供(素材数の増加・ 価値向上) アップサイクル商品の提供 アップサイクル商品の流通 未利用資源の購入 未利用資源のアップサイクルおよび提供 メーカー(未利用資源排出者) 廃棄物と考えられていたものが アップサイクルによって機能性 原料に生まれ変わることで 資源と認知される メーカー(未利用資源活用者) 廃棄物と考えられていたものが アップサイクルによって 機能性原料に生まれ変わり、 自社製品に活用される アップサイクル商品の提供 アップサイクル商品の流通 消費者 アップサイクルという 言葉を認知し始める 小売り 小売り メーカー(未利用資源活用者) 未利用資源からできた 高機能原料を活用することで 商品の機能、付加価値が向上 消費者 アップサイクル製品を当たり 前に購入・消費している 未利用資源の購入 (廃棄ではなく 提供が前提となる) 未利用資源のアップサイクル および提供(量のインパクト が出始める) アップサイクル商品の提供 アップサイクル商品の流通 小売り メーカー(未利用資源排出者) 未利用資源排出量が大幅に削減される メーカー(未利用資源活用者) 未利用資源からできた高機能原 料が必須となり、それありきの 商品設計がされる 地球環境 GHG排出量、資源廃 棄、石油依存などの 環境負荷を低減 消費者 アップサイクル製品へを インセンティブを自覚し、 当たり前に購入・消費し ている オープン システムの利用 未利用資源の購入 (未利用バイオマスはすべて資源に) 未利用資源のアップサイクルおよび提供 (提供量の圧倒的増加) アップサイクル商品の提供 アップサイクル商品の流通 小売り 未利用資源排出者 アップサイクルありきの資源 廃棄デザイン、商品設計がされる メーカー(未利用資源活用者) アップサイクルありきの資源廃 棄デザイン、商品設計がされる 地球環境 オープンシステムや 技術よって、環境負 荷を低減するにだけ でなく環境価値を高 めている アップサイクル 事業者 メーカー(未利用資源排出者) 未利用資源が高機能原料に生まれ変わり、 世の中の様々な製品に活用される 環境価値貢献 フェーズ Phase4 環境負荷低減 フェーズ Phase3 アップサイクル 製品流通 フェーズ Phase2 アップサイクル 概念浸透 フェーズ Phase1 資源廃棄 フェーズ Phase0 Impact 「インパクトモデル β版」 システムチェンジ図 2 2 つめの図は、上述のフェーズアップ図のインパクト側 を切り取り、未利用資源を取り巻くサプライチェーンを フェーズごとに図示したものです。 下から上のフェーズにスパイラルアップするに連れて、 未利用資源を取り巻くサプライチェーンが充実して次の あたり前が生まれて、社会が進化する様子と当社がいか に貢献するかを描いています。サプライチェーンにおけ るシステムチェンジを段階的に示すことで、当社の出現 により資源廃棄・資源消費のあり方が更新されていく様 子を描いています。 例えば、フェーズ 0 の当社出現前、廃棄されるだけだっ た資源が、フェーズ 1 では活用され始め、原料化、最終 商品となって市場に出始めます。 フェーズ 2 では未利用資源の排出者と活用者が別の事業 者となり、排出者と活用者が同一の 1:1 の活用から、あ る排出者の未利用資源を活用した原料を、別の事業者が 活用する N:N の活用のあり方へと進歩しています。 また、フェーズ 3 では未利用資源活用量の増加を矢印の 太さで表しており、環境へのインパクトを生み出したい と考えています。 057p Impact Model Impact Model インパクトモデル 資源循環型社会 (石油依存からの脱却・資源不足の解消・廃棄物の減少) β版とあるように、策定したインパクトモ デルは今後の変化や進化の余地を残して います。2025 年は、インパクトモデルや フェーズを実際の事業と具体的に照らし合 わせ、本質的で事業の肌感に合うインパク トモデルとなっているかを確かめ、社外の ステークホルダーからもフィードバックを もらいながらブラッシュアップを続けま す。また、このインパクトモデルを元に、 フェーズごとに達成すべき KPI を設定し、 モニタリングしていくことをネクストス テップとして位置付けています。 インパクトモデルの ネクストステップ Fermenting a Renewable Society
  27. 当社が取り組んできたアップサイクルにおける各フェーズの代表的なプロダクトを事例とした ロジックモデル※です。各フェーズにおけるインパクト創出の過程を具体的に表しています。 ニチレイフーズ ウェットティッシュの事例 製品における ロジックモデル 宝酒造 果皮発酵スピリッツの事例 同社(ニチレイフーズ)はこれまでも残渣をリ サイクルしたり、流通できない製品を寄付する

    活動等をしてきていましたが、アップサイクル に取り組むのは当社との協業が初めての事例と なりました。 第一弾として、焼きおにぎりの残さをアルコー ル化し、除菌ウエットティッシュを製造。小売 店で販売するほか、ノベルティとして活用され ました。遊び心が発揮されたパッケージは「身 近な商品を通じてアップサイクルや SDGs に興 味をもってもらいたい」との思いから誕生。 第 二 弾 と し て 今 川 焼 の 残 さ か ら も ウ エ ッ ト ティッシュを製品化しました。 宝酒造との共同開発においては、従来は搾汁後 に廃棄されていた柑橘の果皮を独自の発酵アッ プサイクル技術で飲料用途に原料化した “果皮 発酵スピリッツ” を開発。アルコール分 3% で ありながらお酒の満足感(飲みごたえ)が実感 できる缶チューハイ・タカラ「発酵蒸留サワー」 に採用されています。独自の発酵・蒸留技術を 用いて、柑橘の果皮を発酵させることで果皮に 含有する香り成分を引き出し、さらにそれを蒸 留することで必要な成分のみを抽出し、複雑な 香りと口に含んだ瞬間から感じる厚みを実現し ています。 ニチレイフーズ • 規格外のお にぎりの提供 • ウェットティッシュ の製造 • ウェットティッシ ュ の製造数 • ウェットティッシ ュ の販売数 (配布数) ニチレイフーズ • 新しい概念を 「面白さ」で伝え、 生活者に近寄っていく • 社内 における 資源有効活用の拡大 消費者 • アップサイクルとい う言葉を認知し 始める サーキュラー エコノミーの 実現への第一歩 ニチレイフーズ ウェットティッシュのロジックモデル ウエットティッシュ メーカー • 製造ラインを 環境対応に変更 ファーメンステー ション • 規格外品の 購入 • 発酵技術 ウエットティッシュ メーカー • パッケージ、 部材、原料 • ニワトリの エサとして提供 消費者 • メーカーとして、 資源を大切にして ることを知る 環境 (副産物をエサとして 提供することで) 製造過程における 廃棄物がゼロに • 製造副産物を 発酵エサにする • 廃棄ご飯を発 酵技術で エタノール化 ニチレイフーズ • 資源循環活動の拡大 • アップサイクルの 事例創出による 認知拡大と 他メーカーへの波及 • 今後のアップサイクル 実践に向けた 機運醸成 投入 活動 アウトプット 短期アウトカム 中期アウトカム 長期アウトカム ﹁ 冷 凍 の 機 能 ﹂ の 会 社 と ﹁ 発 酵 の 機 能 ﹂ の 会 社 が 循 環 型 社 会 に 向 け た タ ッ グ を 実 現 投入 活動 アウトプット 短期アウトカム 宝酒造 • チューハイ 製造のライン • 果皮発酵スピリ ッツ の原料開発 (ファーメン ステーションの 技術でなければ 達成できない 機能を実現) • 缶チューハイの 製造 • 缶チューハイの 販売 中期アウトカム 長期アウトカム • 缶チューハイの 製造数 • 缶チューハイの 販売数 宝酒造 • 新ブランドでおいしさ を実現 消費者 • アップサイクル製品 の購入・消費が 定着しはじめる • サーキュラー エコノミーの 実現への 第一歩 • 資源活用や 消費のあり方を 変革 宝酒造 果皮発酵スピリッツのロジックモデル 環境(宝酒造の サプライチェーン上に いる企業) • 残さの廃棄量が 減少する ファーメン ステーション • 残さの購入 • 発酵技術 宝酒造のサプライ チェーン上 にいる企業 • 柑橘残さの提供 肥料の利活用 (試験的製造のため 内部関係者での 利用に限定) 消費者 • 低アルコール飲料を 楽しみ、満足する (“3%でもお酒感”) 環境 製造過程における 廃棄物がゼロになる 製造副産物を 肥料化 宝酒造 • アップサイクル 製品の実績ができる • アップサイクル事例 が拡大する タ カ ラ ﹁ 発 酵 蒸 留 サ ワ ー ﹂ の 飲 み ご た え を 実 現 す る キ ー 素 材 ﹁ 果 皮 発 酵 ス ピ リ ッ ツ ﹂ 開 発 060p 059p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024 Phase1 Phase2 ※ロジックモデルとは…事業やプロジェク トなどの活動が、どのように成果につなが るかを視覚的に整理するフレームワーク
  28. 最新版ではインパクト・マネジメントの専門家 ブルー・マーブル・ジャパンの千葉直紀さんにアドバイザリーとして伴走 いただきながら、より精緻かつダイナミック(動的)なインパクトモデルが出来上がりました。ここではようやく完成し た独自モデルがどのような想いやプロセスで生み出されたのか、よくあるロジックモデルとはどう違うのかなど、生々し い現場の声とともにお届けします。 ファーメンステーションでは 2022 年に独自のインパクトモデルを作成しましたが、 そこから議論を重ねながらブラッシュ アップし、今回新たに

    2024 年度版のインパクトモデル(※)を再構築しました。 ついに公開!試行錯誤を重ねた独自の インパクトモデルができるまで 北畠勝太×千葉直紀×酒井里奈×杉本利和 ファーメンステーション 取締役 COO ブルー・マーブル・ジャパン 代表取締役 ファーメンステーション 代表取締役 ファーメンステーション CTO Dialogue about the New Impact Model インパクトモデル座談会 株式会社ブルー・マーブル・ ジャパン代表取締役 【Guest profile】 千葉直紀 社会的インパクト・マネジメント/ IMM(インパクト測定・マネジメント) 、プログラム評価、発 展的評価など、 社会的インパクトの取り扱いに精通している。これまで NPO/NGO、 ベンチャー企業、 中小企業、インパクト投資家、財団、行政 ・ 省庁等の評価支援や IMM 支援、人材育成、アドバイス、 国内外の調査等に多く携わっている。株式会社ブルー・マーブル・ジャパン代表取締役、一般社団 法人インパクト・マネジメント・ラボ共同代表、社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ 事務局、JANPIA(日本民間公益活動連携機構)評価アドバイザー、日本評価学会会員等。 ※インパクトモデル:インパクト創出のモデルのこと。 代表的な手法として、ロジックモデルやセオリー ・ オブ ・ チェンジなどがある。 「ロジックモデルに逃げない、既存の形で表現しよ うとしない姿勢に感動した」 (千葉) 千葉:2022 年度のファーメンステーションのインパク トモデルを見た時に、面白いと思ったポイントがいくつ かありました。一つは試行錯誤感が出ているのがすごくいいな と。まずどこから見始めていいのかわからなかった(笑)いわゆ るロジックモデルはお作法が決まっていて、複雑なものを単純化 してわかりやすく伝えるというものなのですが、複雑なものを複 雑なままにしていることが印象的でした。 北畠さんに、 ソーシャルインパクト(以下、 ” インパクト” と表記) を表現するにはインプットからアウトカムまでの連鎖で受益者 の変化がどう繋がっていくのかを書かないといけないので、やっ ぱりロジックモデルにするのが良いのではとお伝えしたんです が却下されて。 今回一緒に作った最新版のインパクトモデルも、基本的には 2022 年度版を踏襲した形になっています。ただフェーズに分 けたことで、進化に応じて巻き込むステークホルダーが拡大し たり、その過程で生まれるインパクトが変わっていったり、バ リューチェーンの中でファーメンステーションの果たす役割も 変わっていくというような、より立体的な仕上がりになっている と思います。 これは複雑なものを過度に単純化しすぎないで、複雑なものを複 雑なままなるべく表現しようとしている挑戦であると考えてい ます。 北畠:実は以前、ロジックモデルはやったことがあるん ですよ。全社員で集まってフレームワークどおりに、う ちの活動をとにかくポストイットでペタペタ貼って繋がりを図 示していったんですが、ポストイットの数が多くて繋がりも矢印 が合流したり分岐したりしてぐちゃぐちゃになってしまって…。 一旦みんなですべての情報を吐き出したことは良かったんです が、線形のモデルで表現することの限界も感じて。というのも、 事業が複数あったり、ステークホルダーも絡む人が多いので、う まくまとめ切れないジレンマがあったんです。じゃあどのように 表せるかとなった時に、複雑なまま表現することが良いのではな いかと。一応ロジックモデルを試みたことはお伝えさせてくださ い(笑) 千葉 : IMM(インパクト測定 ・ マネジメント)ではロジッ クモデルに当てはめて表現することが多いのですが、無 理やり当てはめて「インパクトを表現した」と納得してしまう怖 さがあります。そのような意味ではファーメンステーションの姿 勢は、率直にすごく大切だと思います。2022 年度版のインパク トモデルを見た時にロジックモデルに逃げないというか、既存の フレームで表現しようとしない姿勢に感動しました。 今回の最新版を作るにあたって、どのあたりがインパクトを考え る上での分岐点になったか、新たな気づきを得られたかについて 教えていただけますか。 062p 061p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024
  29. 「フェーズを分けすることで、フェーズによって生 み出すインパクトが変わるという発想になれた」 (北畠) 酒井 : みんなで改めて議論した際、 「こんな世の中になっ ていたらいいね」という理想を描けてイメージの共有が できたのと、 「方向性が一緒だよね」ということを確認できたの

    が良かったです。それまでは割とわかりやすい量や数値目標の話 が多く、方向性も平面で時間軸がなかったんですが、軸を定めて フェーズ分けをしたことで、最終的には「大きなチャレンジだけ ど達成できる!」という自信にも繋がりました。 北畠:これまでも事業計画としてのフェーズ分けはあっ たのですが、インパクトと直接紐づけながら対応関係で は示せていませんでした。インパクトの方ではあまり時間軸とい う概念を意識していなかったので。 酒井:暗黙の了解じゃないけど、 (未利用資源の活用) 量だけではなくアップサイクルの文化を作っていくとい うことはみんな考えていたんですけど、うまく整理して言語化で きていませんでした。 北畠:時間が経って事業が大きくなれば、その分使える 未利用資源が増えてインパクトも大きくなることはある 種当たり前なので、あまり深掘りしていなかったということが あります。フェーズを分けて思考することで、フェーズによって 生み出すインパクトが変わっていくという発想になれたのが良 かったですね。 「遠い先を見ながら技術をどう作っていくかという 視点が入るので、一般的なメーカーとはぜんぜん 違う」 (杉本) 酒井:2022 年度版から 2 年が経過して思うのは、技術 の進歩とともに解決できる課題の範囲が変わっていくん ですよね。例えば最新版のモデルでも、健康というキーワードが 入っていないな、とかすでに出てきているので。どんどん進化す るのだと思います。 杉本 : 技術や生産の視点でお話すると、一般的なメーカー の研究開発って目先の売れるものを作る、それをいかに 安く作るかということが重要視されます。でも僕たちがやってい る研究開発は、確かに今この瞬間売れるものも作らなければなり ませんが、遠い先を見ながら技術をどう作っていくかという視点 が入るので、一般的なメーカーとはぜんぜん違うと思っています。 思っています。それと同時に、会社のことをきちんと理解しない と中途半端になっちゃうので、こちらの説明責任とセットで考え なければならないとは思っています。 北畠:会社が立てた仮説に対して、第三者からのフィー ドバックをもらえるのはありがたいですよね。今回も千 葉さんに入っていただいて思考が広がりましたし。今までは内製 にこだわっていたので。 千葉:僕は第三者からの新しい視点を入れるというより も、先ほど写真撮影していただきましたけど、写真撮影 時のレフ板のようなイメージで、皆さんをどういう角度で照らし たら光るかということを常々考えています。ただし被写体が良く ないとレフ板の意味もないですから(笑) 北畠:触媒というのはコンサルのワードとしてよく聞き ますが、レフ板というのは新しいですね(笑) 千葉:世の中やインパクト界隈の方々に特に共有してお きたいことはありますか。メッセージや今回学んだこと で共有したいことなどがあればお聞きしたいです。 フェーズが上がって作る量が増える、質が変わるとなった時に、 インパクト目線でそれに対して必要な技術も一つひとつ違って きます。それを先回りしながらフェーズ 4 にいくための技術開 発を、今のうちから頭の中に置きながら進めていく必要がありま す。なので、これは今はお金にならないかもしれないけどやらな きゃいけない、というような判断も大切になるでしょう。商品の 価値も一般に売られている商品価値と違う価値を持たせていく じゃないですか。単純に美味しいとか機能性に優れているという 軸ではない研究開発を心がけています。 千葉:ちなみにフェーズ 4 の「オープン化されたエコシ ステムが形成される」というところが面白いポイントだ と思うのですが、どのような経緯でこのような発想が生まれたの でしょうか。 北畠:プラットフォームになるというようなことはわり とビジネスの世界では一般的なので、昔からこのような 考えはベースとしてはありました。今は一対一の協業関係の中で 自分たちの技術を売っていますが、世の中により広く使われる技 術基盤やサーキュラーエコノミーのハブとなるような機能が提 供できたらいいよねとみんなで常々話しています。 「簡単にわかりやすくしようとせず、モデルにこだ わらず、自分たちで考えるプロセスを大事にすべ き」 (酒井) 酒井:このインパクトレポートの巻頭対談で馬田先生が 話されているのは、ロジックモデルの一番の意義は作る までのプロセスだということです。確かにみんなで議論したこと がすごく良かったなと。例えば杉本さんがインパクトを考えるこ とで食品工場の設計自体が変わるというような話をしていて、な るほどそういう考え方もあるのかという気づきがありましたし。 千葉:この 4 人で議論しましたけど、4 人の視点も技術 の視点、経営の視点とそれぞれ違っていて。印象的だっ たのは描いている時間軸の違いでした。フェーズ 4 まで到達す るのに 4 年という人と 100 年という人までいて(笑) 。その辺り の目線のすり合わせはすごく意味のあるプロセスだと思います。 ちなみに理想としてステークホルダー参加型で価値を作ってい きたいという考えもあるんですか。 酒井:例えば B Corp はプロジェクトマネジメントに限 らずインパクト全般が会社にとって重要だから、ソー シャルインパクトに特化したアドバイザリーボードを設置して いる企業などがあります。そういう方向性は面白いだろうなとは 酒井:これ書けることじゃないかもしれませんが、投資 家に言われてインパクトモデルやレポートに取り組むと いうケースがあると思うんですが、自分から進んでやった方がい いと思います。もの凄く意味のあることだと思うので。 千葉:書いてしまっていいと思いますよ(笑)やらされ 感じゃなく自分でやっていくにあたり、自分たちの血肉 にするためにどんなことをやれば良いかという点でアドバイス はありますか。 酒井:先ほども話がありましたが、簡単にわかりやすく しようとしなかったことや、モデルにこだわりすぎずに 自分たちで考えるプロセスが良かったので、そのようなアプロー チで行なってみるのは良いのかもしれません。 北畠:ロジックモデルでばちっとハマったらいいですけ ど、ハマらない会社も結構あると思うので、その際に自 分たちのモデルを考えて、千葉さんのようなプロフェッショナル にもお手伝いいただきながら、ブラッシュアップしていくことは 非常に意味があると思います。各社にオリジナルのインパクトモ デルがあったら面白いと思いますし。 064p 063p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024 Dialogue About the New Impact Model インパクトモデル座談会
  30. 無理じゃないですよと(笑) 千葉:最近はインパクトを謳うことの責任感や使命感に ついて考えてもらいたいという個人的な思いがありま す。このファーメンステーションの試行錯誤を見れば、そこへの コミットを感じていただけるのではないかと。インパクトは答え があるものではないですし、自分たちで答えを作っていかなけれ ばなりません。世の中の社会課題もどんどん変わっていくので、 自分たちも変わり続ける必要があります。そのような理解のもと 実践していくこと自体がインパクトを創出することなんだろうな と思いますし、実際にそれを体現しているのがファーメンステー

    ションなので、ぜひインパクトビジネス(事業性と社会性の両立 の実践者)のロールモデルになってほしいと思います。 「インパクトを軸にしたトップダウンで事業を展開 していくロールモデルになれればいいと考えてい る」 (酒井) 杉本:メーカーが考えるインパクトモデルってなんだろ う? みたいなことってあまり語られていない気がして いて。先ほどもお話しましたが、メーカーって基本的にはすぐに 売れるものをいかに安く作るかという視点が土台としてあるの で、インパクトの視座が育ちにくいんです。我々が率先してメー カーのインパクトモデルを作ることで、メーカーが考えるインパ クトモデルの作り方やインパクトを考えた生産背景を提示でき れば、新しい事例になるのではないかと考えています。 千葉:どうしても技術があるとプロダクトアウト型にな りがちなので、 「長期的に世の中がこうあるべき」とい うところから逆算してもの作りをする感じではなくなりますよ ね。ファーメンステーションはディープテックで、基盤技術を有 したメーカーじゃないですか。その基盤技術を使って、世の中に 応用していければ無限に選択肢が広がります。今後、その基盤技 術を持つメーカーならではのインパクトの成長の描き方という 視点で、考えてらっしゃることはありますか? 酒井:馬田先生と話していた時に、海外の面白いインパクト目線 のアプローチの事例を教えてもらったのですが、その際もアウト カムを決めてから実現するためにどの技術を使ったらいいか、ど ういうやり方で達成するのかという目線が大切だとおっしゃっ ていました。先ほど千葉さんも言われてましたが、日本の技術系 スタートアップの多くは技術からのボトムアップで成長曲線を 描こうとします。でも到達したい目標を考えた時に、今の技術や やり方が合っていなかったら、ばっさり切り捨ててピボットする べきじゃないですか。インパクト目線で考えることで、そのよう な経営判断もできてくるのが興味深いですよね。 ファーメンステーションの場合も私がシーズを持っている会社 じゃないので、考えに共感してくださった技術の杉本さん、経 営の北畠さんたちが集まってきて、開発やチームを作っている ので、インパクトを軸にしたトップダウンで事業を展開していく ロールモデルになれればいいなと考えています。 千葉:インパクトから考える技術開発の目標、組むべき ビジネスパートナーの選定などにも繋がるので楽しみで すね。最後に今後の課題についてお聞きできればと思います。 「モデルは一旦作ると固定化されがちなので、飾っ て終わりにならないように進化させ続けることが 大事」 (千葉) 北畠:このモデルを使って実際に事業を進めてみた時に、 どういう齟齬が出てくるのかわからないので、日常の行 動に落としながらも、常にブラッシュアップしながら進めていく ことは必要でしょうね。あとは評価可能な数値の設定や定量化を したり、各フェーズにおける短期的な目標を設定していく必要も あるでしょう。 千葉:このようなモデルって一旦作ると固定化されがち なので、飾って終わりにならないように、いかに進化さ せ続けるかを意識することが大事ですね。そのためにはモデルを 健全に使用しながら、事業を推し進める必要があります。 酒井:バイブルではあるけど変わり続ける。終わりはな いですよね。 杉本:フェーズ 4 を目指す上で、今の段階から我々のモ デルを見て共感してくれるメーカーさんを巻き込んでい くことも必要ですね。というのもメーカーさんの生産システムを 我々のインパクトモデルに従って変えましょうとなった場合、そ れなりのコストや時間が掛かるので、フェーズ 4 に行った時点 でそれをやっていては間に合わないと思うんですよ。なので、ど のタイミングでどうメーカーさんを巻き込んでいくかという戦 略は必要だと考えています。 千葉:生産システムを変えるというのは大ごとですから ね。メーカーさんがその一歩目をどう踏み出していくの かというのは、早めに考えていく必要がありますよね。 酒井:インパクトレポートを初めて出した時もそうです けど、皆さんのタタキ台になるようなつもりで作ってい るので、今回もこの独自のインパクトモデル作成の試行錯誤やア プローチを見て、参考にしていただけるとありがたいと考えてい ます。自分たちのインパクトレポートを作ろうとか IMM をやろ うとなった時に、イチから考えるのは大変だけど、ファーメンス テーションのものを見ながら議論できたり、気づきを得たりする ようなことになれば嬉しいですね。 千葉:この独自のインパクトモデル作成における試行錯 誤のプロセスを公開することは、皆さんの刺激になると 思います。ちなみにこのインパクトレポートを誰に届けたいとい うのはありますか? 酒井:インパクトスタートアップ界隈の人たちにはもち ろんですが、まったく文脈の違う「事業性と社会性の両 立なんて無理だ」と言ってる人たちに読んでもらいたいですね。 066p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024 Dialogue About the New Impact Model インパクトモデル座談会 065p
  31. Summary of 2024 節目となった 2024 年 1 事業の発展 市場創出から市場確立フェーズへの 足がかりを構築

    事業性と社会性を接続した インパクトモデルを開発 中長期の市場や社会課題などを考察 2 3 インパクトモデルの発展 社外視点の取り組み 2024 年を振り返ると、これまでの当社のインパクト関連の取り組みを一旦総括し、 次のステージに向けた進化の第一歩を踏み出す年になりました。 未利用資源のアップサイクル という軸は不変的なものとし て維持しながら、特に食品・ 飲料向け原料をアウトプット とした技術開発と事業共創を 加速。より大きな市場に向け て、本レポートで新たに提示 したインパクトモデルにお ける、フェーズ 1(市場創出 フェーズ)を加速し、フェー ズ 2(市場確立フェーズ)へ の足がかりを築くことができ ました。食品・飲料領域での 事業拡大に伴う形で、より広 く大きなインパクトを創出す る未来像を描いた一年だった と言えます。 2022 年度版の初回レポートで提示したインパクトモデル 初版をブラッシュアップすることを試みました。スター トアップらしい継続的で動的な変化をする事業発展に対 応する形で、インパクトそのものが段階的に発展するモ デルへと進化させました。また、事業とインパクトの相 互作用、相互に生み出されるアウトカムをフェーズごと 対外的には、GSG Impact JAPAN が主催したインパクト IPO ワーキンググループにインパクトスタートアップの 立場で参加し、 「インパクト企業の資本市場における情報 開示及び対話のためのガイダンス 第 1 版」の策定に関与 しました。将来必要となる市場との対話を意識し、 フォー カスする社会課題や事業に関するストーリーの見せ方、 インパクトモデルやステークホルダーとの対話のあり方 を考える機会をいただき、現時点では相対していない将 来的なステークホルダーや、中長期なバックキャストの 視点での課題を見つめる機会となりました。 アップサイクルを ビジネスとする企業が 多数出現し、 エコシステムを形成 Phase.4 アウトプットの質×量 =付加価値量 ステークホルダー(受益者)の広がりとアウトカム 未利用資源 排出者 アップサイクルあ りきの資源廃棄デ ザイン、商品設計 がされる 未利用資源 活用者 アップサイクル原 料を積極的に仕入 れ採用している 消費者 アップサイクル製 品 へ を イ ン セ ン テ ィ ブ を 自 覚 し、 当たり前に購入・ 消費している 地球環境 オープンシステム や 技 術 に よ っ て、 環境でなく環境価 値を高めている 未利用資源 排出者 未利用資源排出量が 大幅に削減される 未利用資源 活用者 未利用資源からで きた高機能原料が 必須となり、それ ありきの商品設計 がされる 消費者 アップサイクル製 品を当たり前に購 入・消費している 地球環境 GHG 排 出 量、 資 源廃棄、石油依存 などの環境負荷を 低減 未利用資源 排出者 未利用資源が高機 能原料に生まれ変 わ り、 世 の 中 の 様々な製品に活用 される 未利用資源 活用者 未利用資源からで きた高機能原料を 活用することで商 品の機能、付加価 値が向上 消費者 アップサイクル製 品を購入・消費し 始める 未利用資源 排出者 アップサイクルあ りきの資源廃棄デ ザイン、商品設計 がされる オープン化されたシステムで エコシステムが形成される Phase.4 多品種大ロット × クリティカルマスを超え、 アップサイクル商品や素材の価値、 市場が拡大 Phase.3 少品種大ロット × 事例当たりの事業性を拡大し、 商品価値起点の利用が拡大 Phase.2 Output 少品種中ロット × 1:1 の共創を多数創出すること でアップサイクル事例が増加 Phase.1 Input ↓ Output 多品種小ロット × 市 場 創 出 市 場 確 立 市 場 拡 大 市 場 開 放 ア プ サ イ ク ル 概 念 浸 透 ア プ サ イ ク ル 製 品 流 通 環 境 負 荷 低 減 環 境 価 値 貢 献 Phase.4 Phase.3 Phase.2 Phase.1 Business Impact 食品メーカーなどの未利用 資源を活用したアップサイ クル商品を市場に送り出す ことで、アップサイクルと いう概念を浸透 Phase.1 未利用資源を活用した アップサイクル原料を、 機能性原料として活用した 商品を流通させることで 市場を確立 Phase.2 アップサイクル商品や 原料がクリティカルマスを 超えて流通し、 環境負荷を低減 Phase.3 Phase4 Business Impact Phase3 Phase2 Phase1 消費者 アップサイクルという 言葉を認知し始める 小売り メーカー 未利用資源を資源ではなく 廃棄物と認知していて廃棄している バージン資源を使用した商品の提供 バージン資源を使用した商品の流通 産廃事業者 未利用資源と廃棄物を 分別せずに廃棄している 消費者 アップサイクル製品を 購入・消費し始める 未利用資源の購入 (多数の排出者 より購入) 未利用資源のアップサイクル および提供(素材数の増加・ 価値向上) アップサイクル商品の提供 アップサイクル商品の流通 未利用資源の購入 未利用資源のアップサイクルおよび提供 メーカー(未利用資源排出者) 廃棄物と考えられていたものが アップサイクルによって機能性 原料に生まれ変わることで 資源と認知される メーカー(未利用資源活用者) 廃棄物と考えられていたものが アップサイクルによって 機能性原料に生まれ変わり、 自社製品に活用される アップサイクル商品の提供 アップサイクル商品の流通 消費者 アップサイクルという 言葉を認知し始める 小売り 小売り メーカー(未利用資源活用者) 未利用資源からできた 高機能原料を活用することで 商品の機能、付加価値が向上 消費者 アップサイクル製品を当たり 前に購入・消費している 未利用資源の購入 (廃棄ではなく 提供が前提となる) 未利用資源のアップサイクル および提供(量のインパクト が出始める) アップサイクル商品の提供 アップサイクル商品の流通 小売り メーカー(未利用資源排出者) 未利用資源排出量が大幅に削減される メーカー(未利用資源活用者) 未利用資源からできた高機能原 料が必須となり、それありきの 商品設計がされる 地球環境 GHG排出量、資源廃 棄、石油依存などの 環境負荷を低減 消費者 アップサイクル製品へを インセンティブを自覚し、 当たり前に 購入・消費している オープン システムの利用 未利用資源の購入 (未利用バイオマスはすべて資源に) 未利用資源のアップサイクルおよび提供 (提供量の圧倒的増加) アップサイクル商品の提供 アップサイクル商品の流通 小売り 未利用資源排出者 アップサイクルありきの資源 廃棄デザイン、商品設計がされる メーカー(未利用資源活用者) 未利用資源からできた高機能原 料が必須となり、それありきの 商品設計がされる 地球環境 オープンシステムや 技術よって、環境負 荷を低減するにだけ でなく環境価値を高 めている アップサイクル 事業者 メーカー(未利用資源排出者) 未利用資源が高機能原料に生まれ変わり、 世の中の様々な製品に活用される 環境価値貢献 フェーズ Phase4 環境負荷低減 フェーズ Phase3 アップサイクル 製品流通 フェーズ Phase2 アップサイクル 概念浸透 フェーズ Phase1 資源廃棄 フェーズ Phase0 Impact 070p 069p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024 出典: 「インパクト IPO ワーキンググループ会合」| GSG Impact JAPAN に可視化することで、事業性と社会性の接続をより具体 的に落とし込みました。いったん定性的なモデルを作り 上げたことで、インパクトを可能な限り定量的に計測し、 進捗を検証するベースが確立されました。
  32. Looking Ahead 今後に向けて 073p 外部環境の変化への適応 真のインパクトは 何かを模索・提示する 脱炭素化社会に代表されるような大きなソーシャルイン パクト実現に向け、社会課題解決のためにスタートアッ プの存在が当たり前となりつつあります。インパクトス

    タートアップ協会の正会員が 200 社を超え、 スタートアッ プ関連の協会で最大規模になったこともその象徴です。 ポジティブな潮流である一方、ソーシャルインパクトの 「コモディティ化」が進む中で、 真のインパクトとは何か、 事業とインパクトの接続性や質そのものが問われ始める と考えています。当社としても、資金・人材・共創パー トナー等の仲間を集め、目指すインパクトを実現するた めにも、今まで以上に独自性や、why(なぜその事業な のか?)への明確が答えが求められることとなります。 それらの問いを自分たちに常に投げかけながら、先頭で 模索し、新しい問題提起やモデルケースの試行を提示し ていきたいと考えています。 事業環境の変化への適応 海外への展開や インパクトの定量化を推進する 未利用資源のアップサイクルという軸は不変でありなが ら、事業のウェイトやアウトプット、ターゲット市場に 変化が生じてきている段階です。今後は海外市場も視野 に入れた事業開発と技術開発を進める予定であり、どう やってこれらの事業変化を動的にインパクトモデルと接 続し、さらに日々の業務に落とし込めるかが重要な課題 となります。動的な事業とインパクトの関連性をベース として、あるべき定量モニタリング手法を見出し、事業 成長とともにインパクトの定量化を推進する必要性があ ります。 組織の変化への適応 インパクトを 最大化できる体制を整える 事業の成長に伴い、組織の規模も拡大の最中にあります。 これまでは比較的小さな組織で職種や立場に関係なく、 「全員野球」のスタイルでインパクトの各種推進や活動に 取り組んできましたが、全員が同時に同じ活動に関わる ことが難しくなっているという実感があります。インパ クトへの熱量や個々人の日常業務でのインパクト視点を 維持しながら組織も大きくなるためには、従来のやり方 とは異なる関わり方を、組織として再構築する必要があ ると考えています。当社が向き合うインパクトに対して、 理想とする「会社・チーム・個人」の協働や組織のあり方、 インパクトを最大化できる仕組みを整えていく必要があ ります。 2025 年以降、変化す る環境に柔軟に対応 しながら、インパク トを持続的に創出す るため、 「適応」が重 要なキーワードにな ると考えています。 これからのインパクトを 考えるための というキーワード 適応 072p Impact report 2024
  33. い熱量とリソースをかけられる組織であることを再認識し、改め て誇りに思う機会となりました。 当社はビジネスにおいてもインパクトにおいても、まだまだ進化 の途上にあります。24 年にアップデートしたバリューにもある 通り、ビジネスとインパクト、グローバルと地域、感性と論理、 スピードと本質など、常に異なる領域間で視点を行き来し、単に 直線距離を行くのではないやり方で、最終ゴールを目指していま す。高い壁に挑むスタートアップとして、1 年後のインパクトレ

    ポートでより多くの成果をご報告できることを楽しみに、日々の 事業を進めて参ります。 最後になりましたが、このレポートを作成するにあたり、編集と クリエイティブを担って頂いた皆さま、アドバイスを頂いた専門 家の方々、 ソーシャルインパクトに関するコミュニティの皆さま、 いつも応援してくださる皆さま、事業性と社会性を共に追求する 社内外の仲間にお礼を申し上げます。 ありがとうございました。 取締役 COO 北畠勝太 インパクトレポートを読んでいただき ありがとうございました。 2024 年は事業や組織に大きな変化があり、インパクトモデルの 再考を始めとしてインパクトレポートそのものにも大きなアップ デートが求められる年でした。 昨夏に社内でプロジェクトを立ち上げ、インパクトモデルの策定 と並行してレポート作成を進めてきました。 インパクトレポートを通じて誰に何を伝えたいのか、複雑さや曖 昧さをどこまで許容するのか、どの抽象度で言い表すかなど、正 解のない難しさと格闘しつつ、本質を思考し、意見を出し合い、 時折訪れる「これだ」という感覚に喜びを感じながら、言語化や 可視化を試行錯誤した数ヶ月でした。 前回との大きな違いは、プロジェクト責任者を経営からインパク ト推進を担当するメンバーに委譲したことです。プロジェクト リーダーのもと、各拠点ごとにレポート用の撮影を入れたり、一 部の記事を分担して執筆するなど、社内メンバーで協力してこの レポートを作り上げました。スタートアップらしく事業や持ち場 の業務で手いっぱいな中、インパクトレポートの作成にも遜色な “ 「ビジネスとインパクト」 「グローバルと地域」 「感性と論理」 「スピードと本質」 異なる領域間で視点を行き来し、 最終ゴールを目指す” 074p Fermenting a Renewable Society Impact report 2024 In Closing 終わりに Photograph by Eichi Tano(Tokyo) , Yui sugawara(Oshu) Design by EISU(RIDE Inc.) Direction by Atsushi Koda (RIDE Inc.)