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生成AIで小説を書くためにプロンプトの制約や原則について学ぶ / prompt-enginee...

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June 29, 2025

生成AIで小説を書くためにプロンプトの制約や原則について学ぶ / prompt-engineering-for-ai-fiction

諸君、聞かれよ。本日、私は「女オタ生成AIハッカソン2025夏東京」なる前代未聞の催しにて、生まれて初めて登壇することと相成った。かつての私は純朴なプログラマーであり、「変数名を30分悩んだ挙句、結局tmpにする」という、実に平凡な悩みを抱える程度の技術者であったのだ。

歳月は容赦なく流れ、今や私はプロンプトエンジニアリングという名の魔境に足を踏み入れた哀れな求道者となり果てた。昨夜も丑三つ時まで、私は薄暗い書斎でディスプレイの冷たき光に照らされながら、「なぜ生成AIは『簡潔に』と百回唱えても、源氏物語の長文を生成するのか」という哲学的難題と格闘していたのである。

30分という持ち時間に対し50枚のスライドを用意するという、まるで賽の河原で石を積む如き徒労に及んでいる。そのうち半分は「プロンプトという名の現代呪術における失敗例集」と題した、私の苦悩の結晶である。ああ、AIとの対話とは、かくも人間の正気を奪うものなのか。

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June 29, 2025
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Transcript

  1. なぜ技芸として学ぶのか? 理論だけでは身につかない 楽器の演奏 楽譜を読めても 弾けるわけではない 実際に触って、失敗して 感覚を掴む 料理 レシピを知っても 美味しく作れない

    何度も作って 加減を体で覚える 絵画 技法を学んでも 描けるわけではない 手を動かして 自分の表現を見つける プロンプトエンジニアリングも同じ技芸の領域 6
  2. 「読むのがしんどい」問題 あらすじは面白そうなのに... なぜか読むのが疲れる 情報整理の負担 「彼女は振り返った。 そこには男が立っていた。 『久しぶりだね』と彼は言った。 」 → え?この男誰だっけ?

    → 二人の関係性は? 感情の急変 「私は激怒した。 でも彼の笑顔を見ると なぜか許してしまった。 」 → 怒りはどこへ? → 心理描写が雑すぎる 9
  3. 原則1: Give Direction(方向性を示せ) 具体的で明確な指示を与える 曖昧な指示 「面白いキャラクターを作って」 「感動的なシーンを書いて」 「いい感じの展開にして」 明確な指示 「30代女性、図書館司書、人見知りだが本の話題では饒舌になる」

    「母の形見の指輪を見つけた瞬間の、悲しみと温かさが混じる感情」 「主人公が自分の弱さを認めることで、真の強さに気づく展開」 AIは「面白い」 「いい感じ」の解釈ができない 16
  4. 原則2: Specify Format(形式を指定せよ) 出力の形式を明確に指定する 形式指定なし 「キャラクター設定を教えて」→ AIが勝手に形式を決めて、使いにくい出力に 形式を明確に指定 以下の形式でキャラクター設定を出力してください: 【基本情報】

    - 名前: - 年齢・職業: - 一言で表すと: 【内面】 - 大切にしている価値観: - 隠している弱さ: - 無意識の口癖: 形式を指定すると、すぐに使える出力が得られる 17
  5. 原則3: Provide Examples(例を示せ) 具体例でAIの理解を深める 例示なし 「キャラクターの感情を行動で表現して」 → 「彼女は悲しかった」のような説明的な文章に 例を示して方向性を明確に 感情を行動で表現してください。例:

    - 怒り → 手に持っていたペンを強く握りしめ、インクが滲んだ - 不安 → 何度も同じページを読み返すが、一文字も頭に入らない - 喜び → 図書館なのに小さく飛び跳ねて、慌てて周りを見回した では「後悔」を行動で表現してください。 例があることで、AIは「どのレベルの具体性」を求められているか理解する 18
  6. 原則4: Evaluate Quality(品質を評価せよ) 明確な評価基準を設定する 評価なし 「キャラクターを作って」 → 作りっぱなしで、良し悪しが分からない 評価基準を組み込む キャラクターを作成し、以下4項目で評価(各10点):

    1. 独自性:他にない個性があるか 2. 一貫性:矛盾がないか 3. 共感性:感情移入できるか 4. 成長性:変化の余地があるか 30点以上を目指して調整する 評価基準でAIも自己改善できる 19
  7. 原則5: Divide Labor(作業を分割せよ) 複雑なタスクは段階的に実行 一度に全部 「感動的な短編小説を書いて」→ 浅い、ありきたりな物語に 段階的に構築 Step 1:

    テーマと核となる感情を決める 「喪失からの再生」「悲しみの中の希望」 Step 2: 感情を体現するキャラクターを作る 「大切な人を失った主人公」 Step 3: 転換点となる出来事を設計 「亡き人の未完の作品を発見」 Step 4: 各シーンを丁寧に描写 「無機質な日常から始める」 段階的なアプローチで、深みのある物語が生まれる 20
  8. 効果的な作業フローと実践 段階的アプローチ + 柔軟な調整 3ステップ作業法 1. 全体構想 AIにストーリーライン作成依頼 2. 段階的詳細化

    細部を少しずつ詰める 3. 柔軟な調整 結末や展開を必要に応じて修正 成功のコツ 要求を小分けに AIの素直な反応を活用 予想外の出力は軌道修正 人間の創造性 × AIの処理能力 28
  9. バージョン管理で創作を効率化 複数のストーリー展開を同時に試せる Gitの活用例 メインルート: 主軸の物語 別展開A: ハッピーエンド版 別展開B: バッドエンド版 実験用:

    キャラ性格変更版 メリット いつでも前の版に戻れる 複数案を比較できる 共同執筆が簡単に アイデアを失わない プログラマーの道具を創作に応用 32
  10. Git worktreeという便利な仕組み 同じ作品の複数バージョンを別フォルダで同時編集 フォルダ構成のイメージ 小説プロジェクト/ ├── メイン版/ ← 今ここで執筆中 ├──

    実験版/ ← 新しいアイデアを試す └── バックアップ版/ ← 安全な状態を保存 使い方の例 1. メイン版で執筆を進めながら 2. 実験版で「もしこのキャラが違う性格だったら?」を試す 3. 良ければメイン版に取り込み、ダメなら破棄 ※ エンジニアはこの方法で効率的にコードを書いています 33
  11. 段階的品質向上ワークフロー Phase 1: 基本設計 目標:キャラクターの核を確立 制約:価値観1つのみに集中 Step 1: コアとなる価値観 「この人物の人生で最優先事項は?」

    例: 「家族の安全と幸福」 Step 2: 行動指針化 「この価値観はどんな行動を導く?」 例:危険回避、情報収集、犠牲的行動 ✓ 価値観が具体的か ✓ 行動パターンが明確か Phase 2: 複雑性の追加 目標:内面の矛盾を設定 制約:Phase1を維持しつつ対立要素追加 Step 1: 矛盾する欲求 「家族優先」の人の対立する欲求 例: 「個人的成長への憧れ」 Step 2: 葛藤の場面設定 矛盾が表面化する状況 例:転職オファー(成長 vs 家族) ✓ 矛盾が人間らしさを生むか ✓ 葛藤の解決が自然 か 35
  12. 品質保証:継続的改善システム 各シーン生成後の必須確認 キャラクター一貫性 □ 行動は価値観と一致? □ 話し方は統一? □ 関係性は維持? □

    性格変化は自然? 読者体験 □ 感情の流れは論理的? □ 物理法則は正しい? □ 理解しやすい? □ キャラは「生きてる」? 40
  13. 品質向上の3段階 段階的に深みを積み上げる 第1段階: 基本 一貫性 目標: 土台を固める ✓ 単一制約(核となる価値観)の 維持確認

    ✓ 明らかな矛盾の修正 ✓ 基本的な話し方パターンの統一 重点:シンプルな一貫性 第2段階: 複雑 性バランス 目標: 深みを加える ✓ 内面の矛盾が適切か ✓ 成長や変化は自然か ✓ 理解可能な複雑さか 重点:人間らしさの追加 第3段階: 読者 体験最適化 目標: 読みやすさを磨く ✓ 共感しやすさの確認 ✓ 予測と意外性のバランス ✓ 感情的インパクト測定 ✓ 読む労力の軽減 重点:没入感の向上 41
  14. まとめ:制約を味方にする創作アプローチ 成功のための6原則 1. 段階的設計: Chain-of-Thoughtで複雑さを管理 2. 制約の明示化: 曖昧な表現を避け、具体的定義を使用 3. 赤ずきん原則:

    訓練データに慣れ親しんだ形式の活用 4. 階層的管理: 不変コア・準安定・可変の3層構造 5. 継続的検証: 各段階での品質確認を怠らない 6. 現実的適用: AIの得意領域での効果的活用に集中 44
  15. 今すぐ始められる実践ステップ Phase 1 今週 • 1人のキャラクターで実践 • CHARACTER.md作成 • 一貫性チェック習慣化

    Phase 2 今月 • 短編小説で経験蓄積 • 品質チェックリスト • 描写バランス調整 Phase 3 3ヶ月 • 長編作品への挑戦 • 自動化ツール活用 • 読者フィードバック 46
  16. 参考文献 書籍 James Phoenix, Mike Taylor (2024) 『Prompt Engineering for

    Generative AI』 O'Reilly Media John Berryman, Albert Ziegler (2024) 『The Art of Prompt Engineering』 O'Reilly Media 荒木飛呂彦 (2015) 『荒木飛呂彦の漫画術』集英社 大塚英志 (2006) 『ストーリーメーカー』アスキー・メディアワークス カール・イグレシアス (2001) 『 「感情」から書く脚本術』フィルムアート社 50