Upgrade to Pro — share decks privately, control downloads, hide ads and more …

エビデンスベースト英語教育入門:エビデンスは科学的知見(だけ)ではない,制度だ!

Avatar for TerasawaT TerasawaT
August 15, 2026

 エビデンスベースト英語教育入門:エビデンスは科学的知見(だけ)ではない,制度だ!

小学校におけるエビデンスに基づく英語教育シンポジウム
2026年8月11日
青山学院大学

Avatar for TerasawaT

TerasawaT

August 15, 2026

More Decks by TerasawaT

Other Decks in Education

Transcript

  1. 「学術知→意思決定」へのマシな見方 • 制度としてのエビデンスが,学術知と意思決定の緊張関係を調停する 意思決定 (「すべし」の知識) 変換装置(エビデンス生成装 置)としての制度 学術知見 (「である」の知識) FBの例

    FBの例 ・それ,あんまり関係ないので却下 ・エビデンスを調べやすくして ・できれば今度はもっといい感じのデザインで ・研究の文脈が大事とか自明なことを言われても,現場は判断 できないのでもっと優先順位付けをして ・こんな独自定義で知見を出されても困る ・「実際の効果は複雑だ」とか自明なことを言われても,現場 は判断できないのでもっと単純化して ・そもそも役立たずっぽい科学的知見を押し付けて来ないで 7
  2. エビデンスに基づく医療 (EBM) の言葉で言うと • エビデンスの「つくる・つたえる・つかう」(正木・津谷, 2006; Cf. 亘理 2021, pp.

    28-30) 作る • 研究者は,質の良い知見(「である」の知識)が得られるように研究する 伝える • EBM運営組織は,学術知見を集約・統合・体系化し,情報アクセシビリティを向上さ せる 使う • 医師や保健機関は,データベースなどで適宜,エビデンスを参照し,意思決定を行 う 8
  3. 地味だがきわめて重要な「伝える」の次元 いろいろな「伝える」事例 • EBM: コクラン共同計画 • 社会政策: キャンベル共同計画 • 教育(米国):

    What Works Clearinghouse (WWC情報センター) • 英国: What Works Centres SLAのデータベースとは設計思想が違う • IRIS: 資料・研究ツールのリポジトリ(研究者向け) • 「伝える」:実務家・政策担当者等に向けて,この人たちがエビデンスを 意思決定に使う際に参考にするインフラ 9
  4. 重要なのはパッケージではなく「階層を貫く原理」 (亘理ほか,2021 Ch. 5) 因果推論+ (内的妥当性+) 対象集団フィット+ (外的妥当性+) 対象集団フィット- (外的妥当性-)

    日本の英語教育のためのEBEE まずは集団準拠を優先する(日本への示唆 因果推論- (内的妥当性-) という点では日本のエビデンスのほうが強い) そのうえで因果推論の質を向上させる 13
  5. 標準化をめぐるハードル:合意可能性 (亘理他, 2021, p.40) 社会政策 EBM 科学的推論 科学的推論 科学的推論 科学的推論

    処遇 処遇 アウト カム アウト カム 基礎科学基礎科学 基礎科学基礎科学 基礎科学基礎科学 基礎科学基礎科学 基礎科学基礎科学 基礎科学基礎科学 介入 介入 常識的推論常識的推論 レトリックレトリック 論争中の科学 論争中の科学 アウト カム アウ カ 常識的推論常識的推 レトリックレトリック 論争中の科学 論争中の 14
  6. 英語教育研究者と「動機づけられた推論」 動機づけられた推論 (motivated reasoning) (林, n.d.) • あらかじめ自身がコミットした方向性に都合がよい形で推論が行われる (=捻じ曲げられる) •

    確証バイアス • 例:早期英語プログラムについて,「成果」らしい実証研究・知見・エピソードを 選択的に拾い集める • 特定の方向にだけ発揮される懐疑主義 • 例:早期英語の効果について,否定的な研究に対しては懐疑主義が発揮され,限界 を逐一指摘し,多くを「参考にならない」と切り捨てるのに,肯定的な研究の問題 点は大目に見てレビュー対象にどんどん含める 寺沢 (2026. Mar.) 言語教育 エキスポでの講演スライド 16
  7. 児童英語推進に動機づけられた研究 1980–90年代の児童英語教育研究の動向 • 「早期英語の有効性の実証」に動機づけられた 研究が隆盛(寺沢, 2020, pp. 32-33) • 疑似科学的脳科学論文の掲載

    • 早期英語の意義アピールのために行なわれた… • 程度問題の無視 • チェリーピッキング • 文脈を超えた一般化 寺沢 (2026. Mar.) 言語教育 エキスポでの講演スライド JASTECプロジェクトチーム. (1986).「早期英語学習 経験者の追跡調査:第一報」『日本児童英語教 育学会研究紀要』第 5 号, 49-67. 19
  8. 提案 学界として • 「動機づけられた推論」のリスク周知 • 研究倫理(情報発信倫理・アウトリーチ倫理) • 科学コミュニケーション上の制約設計 学会として •

    啓蒙 • その前提となる反省 • ガイドラインの設計 • 「健全な批判」の制度化 寺沢 (2026. Mar.) 言語教育 エキスポでの講演スライド 20
  9. 標準化の必須条件:合意形成 標準化は自動的に実現しない • 標準的枠組みは制度であり,学術知識では自動的に導かれない • 枠組み作りに必要なのは,科学的知見や著者の権威ではなく,論証(アーギュメント) • 異なる研究観・教育観・効果観をもつ人々のなかで合意形成 重要な条件 •

    否定的なエビデンスが出ることも許容する • 自分が推すアプローチの有効性を留保する • 妥当性や定義が不透明な知見・アプローチについて(偉い人や友達の研究だからといって甘やかさず)きちんと批判する • そもそも論として,ちゃんと議論・対話・相互批判をする → こういう論証に基づく合意形成が,日本の英語教育学に可能なのか? 21
  10. 文献 寺沢拓敬. (2018). 「小学校英語に関する政策的エビデンス:子どもの英語力・態度は向上したのか?」. 『関東甲信 越英語教育学会誌』 32, 57–70. 寺沢拓敬 (2020)

    『小学校英語のジレンマ』岩波書店 寺沢拓敬 (2026) 「英語教育 “研究” のあり方: 学術知とアウトリーチの緊張関係」言語教育エキスポ講演資料 2026 年3月1日 中央大学茗荷谷キャンパス. PDF: https://researchmap.jp/read0150016/presentations/54599875 豊永耕平・須藤康介. (2017). 「小学校英語教育の効果に関する研究 : 先行研究の問題点と実証分析の可能性」. 『教 育学研究』 84(2), 215–227. 林岳彦 (n.d.) 「はじめての「相関と因果とエビデンス」入門:“動機づけられた推論” に抗うために」 https://speakerdeck.com/takehikoihayashi/hazimeteno-xiang-guan-toyin-guo-toebidensu-ru-men-dong-jidukeraretatui-lun-nikang-utameni 正木朋也・津谷喜一郎. (2006). 「エビデンスに基づく医療 (EBM) の系譜と方向性:保健医療評価に果たすコクラン共 同計画の役割と未来」. 『日本評価研究』, 6(1), 3–20. 亘理陽一・草薙邦広・寺沢拓敬・浦野研・工藤洋路・酒井英樹. (2021). 『英語教育のエビデンス:これからの英語 教育研究のために』 研究社 23