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プロダクトマネージャーこそがリーダーだった!? リーダーシップ論から見るPdMとスクラムのいび...

Takeo Imai
January 09, 2025

プロダクトマネージャーこそがリーダーだった!? リーダーシップ論から見るPdMとスクラムのいびつな関係

Regional Scrum Gathering Tokyo 2025 での講演資料です。
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スクラムを実践する皆さんに「あなたのチームのリーダーは誰ですか?」と質問したとします。すると多くの人は、プロダクトオーナー(PO)もしくはスクラムマスターと答えるのではないでしょうか。

しかし、ここにプロダクトマネージャー(PdM)が絡んでくると、そのリーダーシップの構図が一気に複雑になります。

私は研究者として、PdMとスクラムチームの関係を研究してきました。そこで得られた洞察のうち特に注目しているのが「実はPdMこそがチームのリーダーとして機能しているのではないか?」という仮説です。しかもPdMとPOが別々の場合、スクラムチームのメンバーは、PdMを真のリーダーと捉え、POをチーム内のリーダー、あるいは中間管理職として見てしまう傾向にある、という初期の調査結果もあります。

このようにして考えると、スクラム界隈でよく言われる「POとPdMは同一人物であるべき」という主張は、リーダーシップの観点から見ると「真のリーダーがチーム内にいるべきかどうか」という根本的なテーマに結びつく可能性があります。

現在検証中のこの仮説を基に、この講演ではスクラムチーム内でリーダーシップがどのように機能しているのか、その実態に迫ります。

また関連して、いわゆる「フィーチャーファクトリー」のような問題がなぜ発生するのかも、リーダーシップが鍵を握っているかもしれません。検証の結果次第では、そのメカニズムについてもお話しできるかもしれません。

スクラム実践者としての視点から、PdMとスクラムチームの関係性を新たに見つめ直し、あなたのチームにどのように応用できるのかを一緒に考えてみませんか? この講演を通じて、スクラムとリーダーシップの新たな可能性を探っていきましょう。

Takeo Imai

January 09, 2025
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Transcript

  1. 近刊「なぜイノベーションは 起こらないのか」 書名 なぜイノベーションは起こらないのか ―真正の需要を捉えるプロダクト創出の科学 原著者 Matt Chanoff, Merrick Furst,

    Daniel Sabbah, Mark Wegman 訳者 今井健男 アイデアからイノベーションは生まれない?? 世界を変えるプロダクトを作りたい方必携の書 2025年1月下旬に丸善出版より刊行予定 7
  2. 前回のあらすじ @ RSGT2024 V&R論文 (Verwijs & Russo, 2023) に惹かれて自分もスクラムの研究を始めたよ プロダクトマネージャー(PdM)に焦点を当てたよ

    参照:Verwijs, C., & Russo, D. (2023). A Theory of Scrum Team Effectiveness. ACM Transactions on Software Engineering and Methodology, 32(3). https://doi.org/10.1145/3571849 9
  3. なぜPdMに着目したか(2)Product Mandate 続き 論文での考察 the autonomy of Scrum teams to

    make decisions about how to do their work (self-management) is mainly orthogonal to their autonomy to decide what is most valuable to their stakeholders (product mandate). つまり、 i. Howの自律性(自己組織化)... どのように開発するかの判断 ii. Whatの自律性(プロダクト・マンデート)... 何を開発するか の判断 の2つは独立しているのでは? 18
  4. PdMとPOの歴史(1/2) Ken Schwaberの記した文献から、そもそもPdMとPOの関係を歴史的に探る 1995年 "SCRUM Development Process" POはまだ登場しておらず、スクラムのマネジメントはPdMのリードで行う、 というような記述がある マネジメントチームを想定するような記述もある

    2004年 "Agile Project Management with Scrum" Product Owner が(初めて?)文献に登場 紹介している事例で、あるプロダクトマネージャーを「影のPO」とみなして いた、という記載がある 24
  5. PdMとPOの歴史(2/2) 2007年 "The Enterprise and Scrum" "Product managers and customers

    are now Product Owners." という言及など があり、POはPdMが担うことがほぼ前提となっている POは(従来のPdMとは違い)プロジェクトマネジメントに責任があり、 上位のマネージャーに対して説明責任がある 、と説明 cf. 2008年 "The Scrum Primer" では「従来のPdMと違い、プロジェクトマ ネージャーに判断を委譲しない」といった趣旨の説明がされている 2009年 スクラムガイド初版 25
  6. しかし現状、PdMとPOは多くの組織で併存している Toikkanen et al. (2023) POとPdMの関係は文脈依存だが、だいたい5つのシナリオにまとめられる まとめ直すと実は3つ i. POがPdMを兼務している ii.

    PdMがチーム外にいて、POはチームとPdMとの仲介役になっている iii. どちらかのロールが実質的に置かれていない 参照:Toikkanen, T., Hyrynsalmi, S., & Paasivaara, M. (2023). How does the role of a Product Owner relate to the role of a Software Product Manager? In Lecture Notes in Informatics (Ed.), ICSPM 2023: International Conference on Software Product Management. Gesellschaft für Informatik e.V. 26
  7. 適合性の例(2):「価値の一致」 価値の一致(Leader-Follower Value Congruence) ... リーダーとフォロワーの価値観 の整合性のこと リーダーとフォロワーで価値観が一致することは、フォロワーの仕事への満足度 や組織への愛着にポジティブな影響がある (Byza

    et al., 2019) コンティンジェンシー理論とは違い、リーダー ⇔ フォロワー 間で 双方向 参考:Byza, O. A. U., Dörr, S. L., Schuh, S. C., & Maier, G. W. (2019). When Leaders and Followers Match: The Impact of Objective Value Congruence, Value Extremity, and Empowerment on Employee Commitment and Job Satisfaction. Journal of Business Ethics, 158(4), 1097–1112. 41
  8. 「距離」の考え方 リーダーシップにおいて、複数の「距離」の概念が存在し、適合性とも関連 認知的距離 開発プロセス・アジャイル理解度の差 専門知識のレベル差 使用する用語の理解度の差 文化的距離 トップダウン vs ボトムアップなどの組織文化

    コミュニケーションスタイル(ドキュメント重視 vs 口頭での対話重視) 権力格差(Power Distance) 社会的距離 正社員 vs 業務委託 人事制度での等級、社内でエラい人 vs エラくない 人 雇用形態の違いや物理的条件で生じる溝 56
  9. 例:正社員 vs 業務委託 インタビュー調査でも、正社員と業務委託の区別を意識する発言が本人含む複数人からあった 社会的距離(Social Distance) 集団・階層・雇用形態などの違いによって感じる心 理的・物理的な「壁」 「私たち vs.

    あなたたち」という 内集団 / 外集団 の意識 例)会社内での「正社員 vs. 業務委託」による 疎外感 「外部の人」という印象から、業務委託エンジ ニアは発言を遠慮しがち 文化的距離(Cultural Distance) 国・地域・組織などがもつ価値観・慣習の違いによ る距離 例)日本独特の SI 文化 SE(上流)>プログラマ(下流)の水平分割 コーディングを"軽視"する風潮 57
  10. 『EMPOWERED』  by Marty Cagan & Chris Jones 大半のプロダクト企業では、真のプロダクトリーダーシップ はほとんど見失われている。 その代わり、プロダクトリーダ

    ーは取りまとめ役として、社内(もっとひどい場合は外注) の 「機能工場」 に人を配置し、列車の運行管理のごとく、業 務が時間通り進行するように責任を負っている。 プロダクト組織は、他部署に従属する 機能開発工場 ではな く、組織の価値を牽引する存在でなければならないのです。 (強調は引用者。強調箇所は、原文ではいずれも "feature factory") 64
  11. そもそも『EMPOWERED』では、 プロダクト開発が成功するためには 自律し、自ら価値を創造できる「エンパワーされたプロダクトチーム」 (empowered product team)が必要であり、 多くの企業ではそうならず、ただの 「機能開発チーム」(feature team) になっ

    ている PdMなどのリーダーは、自律したプロダクトチームを育成・支援すべき というのが書籍を通しての主張である。 この「機能開発チーム」が、アジャイルの文脈で言う「フィーチャーファクトリー」 とほぼ同義。 65
  12. 2つの「フィーチャーファクトリー」まとめ 観 点 Cutler Cagan & Jones 定 義 アウトプット・短期成果優先

    の企業文化 指示された機能群を開発するだけのチーム/組 織 視 点 外部からの俯瞰的視点 プロダクト開発リーダーの視点 問 題 組織文化・事業戦略の欠如 プロダクトリーダーシップとチームのエンパ ワーメントの欠如 ただし、どちらも「機能を量産するだけで価値を創造しない」という点では同じ。 66
  13. 2つの「フィーチャーファクトリー」まとめ 観 点 Cutler Cagan & Jones 定 義 アウトプット・短期成果優先

    の企業文化 指示された機能群を開発するだけのチーム/組 織 視 点 外部からの俯瞰的視点 プロダクト開発リーダーの視点 問 題 組織文化・事業戦略の欠如 プロダクトリーダーシップとチームのエンパ ワーメントの欠如 ただし、どちらも「機能を量産するだけで価値を創造しない」という点では同じ。 以降は、Cagan & Jones 流の「フィーチャーファクトリー」の定義で考える 67
  14. まとめると アウトプット志向なPdM アウトカム志向なPdM プロダクト志向なチーム 適合しない エンパワーされたチーム 技術志向なチーム フィーチャーファクトリー 適合しない クエッション

    1. 適合しないチームは有効性が低くなるか? 2. エンパワーされたチームはフィーチャーファクトリーより有効性が高くなるか? 76