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良いチーム作りを、意思決定という側面から眺める

sobarecord
September 18, 2021

 良いチーム作りを、意思決定という側面から眺める

XP祭り2021登壇資料
https://confengine.com/conferences/xp2021/proposal/15525

意思決定。我々は個人でも、チームでも、たくさんの意思決定をしながら働いています。ひとつひとつの意思決定が、アウトカムに通じている。そう言っても過言ではありません。

例えば、スクラムにおいてはどうでしょう。プロダクトオーナーは、プロダクトバックログアイテムの優先順位を決めます。開発者は、アーキテクチャからコーディングルールといった開発に関すること。スクラムチームとしては、レトロスペクティブでどういった改善をしていくかを決めていきます。

この他にも、様々な場面で、様々な意思決定が、個人にもチームにもあります。このひとつ一つの意思決定が、チームのゴールへと結びついていればどれほど良いでしょう。

良いチームは、良い意思決定が作る。そんなお話しをします。

sobarecord

September 18, 2021
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Transcript

  1. チーム作りの理想型 ▼コミュニティ仲間の体験談 • 災害ボランティアは初対面同士で チームを組む • ボランティア慣れしている 人が多くスムーズだった • ワークショップ慣れしている人なら

    同じようにいけるのでは? 目的・情報・動機が揃っている から意思決定が早い ↓ コミュニティの人たちと「このメン バーで仕事したいね」と思った ことないですか? 8
  2. ところで、「意思決定」って何でしょう? 精神薬理学や神経倫理学、神経心理学といった分野の権威であるバーバラ・サハキア ン教授の著書『 Bad Moves 』では、意思決定を 4 つのステップとして定義 1. 情報を発見する

    2. 情報の解析と関連情報の選択 3. 情報を組み合わせる 4. 結果を受け取る このプロセスの質が意思決定の良し悪しに繋がる プロセスの重要性について みんなに身近な「投票」を例に考えていこう
  3. オリンピック開催地も「投票」で決まる • 第14回 冬季オリンピック(1984年)にて ◦ 札幌に決定することは、ほぼ確実と言われていた ◦ 1度目の投票結果は、札幌: 33票、サラエヴォ:31票、イエテボリ:10票、無効票:1票 ◦

    過半数を満たす候補がなかったため、上位 2候補の決選投票となる ◦ 2度目の投票結果は、サラエヴォ: 39票、札幌:36票となり、 サラエヴォに決定した。 ※書籍『「きめ方」の論理』より なんで?!
  4. • 優れている案=他の案と一騎打ちしても勝つ案 • 選択肢が3つ、投票者が101人の時、優れた結果が選ばれる確率は8割以下 • 選択肢が7つを超えると5割を切る=優れた選択肢を選ぶ方が難しい (Fishburn, P. C. Simple

    Voting Systems and Majority Rule. Behavioral Science, 19, 1974, 166-176.) 「多数決の勝者 = 優れている案」ではない ※書籍『「きめ方」の論理』より 決選投票をやらなけれ ば勝ってたのに…
  5. • 1位にした人が多い案を選択する多数決ではAが選ばれる 多数決では… 人数 4 3 2 1位 A B

    C 2位 D C E 3位 E D D 4位 C E B 5位 B A A ナーミの反例 A:4票 B:3票 C:2票 D:0票 E:0票
  6. • 多数決で1位と2位の案で決選投票をする場合はBが選ばれる 決選投票では… 人数 4 3 2 1位 A B

    C 2位 D C E 3位 E D D 4位 C E B 5位 B A A ナーミの反例 A:4票 B:5票 AよりもBが良いので 決選投票では Bに入れる
  7. • 総当たり戦では全ての戦いで勝つ(ペア勝者)Cが選ばれる 総当たり戦では… 人数 4 3 2 1位 A B

    C 2位 D C E 3位 E D D 4位 C E B 5位 B A A ナーミの反例 A vs C はCの勝利 A:4票 C:5票 ⇒上記の様に全てのペアで勝負 するとCが全勝する
  8. • ボルダルールは順位に応じて配点し、点数が高い案を選択する方法 • 一番得点の高いDが選択される ボルダルールでは… 人数 4 3 2 1位

    A B C 2位 D C E 3位 E D D 4位 C E B 5位 B A A ナーミの反例 A:25点 B:23点 C:30点 D:31点 E:26点 ※1位5点、2位4点、3位3点、4位2点、5位1点
  9. • 是認投票は有権者が案の中からいくつでも丸を付けられる方法 • 下記の点線部分に丸を付けるとEが選択される 是認投票では… 人数 4 3 2 1位

    A B C 2位 D C E 3位 E D D 4位 C E B 5位 B A A ナーミの反例 A:4票 B:3票 C:5票 D:4票 E:6票 ナーミの反例では「決め方」によって 全ての案が選ばれる可能性がある!!!
  10. それぞれの決め方には特徴がある 決め方 傾向 欠点 多数決 ・特別な選択肢が選ばれる ・はやい、やすい ・票割れからダメな選択肢を選んでしま う 決選投票

    ・多数決を繰り返すだけなので同上 ・多数決を繰り返すだけなので同上 総当たり戦 ・他の選択肢よりも優れた選択肢が選 ばれる ・勝敗に循環が生まれ、 1位が決まらな い場合がある ボルダルール ・満場一致に近い選択肢が選ばれる ・ペア敗者が選ばれない ・投票や集計に時間がかかる 是認投票 ・各々の選択肢ではなく、「類」への投票 となる ・多数決と同様になる可能性がある( 1 位にのみ丸をつける) ・他の選択肢の影響を受けるコントラス ト効果や判断軸のブレといった心理的 な影響がある
  11. それぞれの決め方には特徴がある 決め方 傾向 欠点 多数決 ・特別な選択肢が選ばれる ・はやい、やすい ・票割れからダメな選択肢を選んでしま う 決選投票

    ・多数決を繰り返すだけなので同上 ・多数決を繰り返すだけなので同上 総当たり戦 ・他の選択肢よりも優れた選択肢が選 ばれる ・勝敗に循環が生まれ、 1位が決まらな い場合がある ボルダルール ・満場一致に近い選択肢が選ばれる ・ペア敗者が選ばれない ・投票や集計に時間がかかる 是認投票 ・各々の選択肢ではなく、「類」への投票 となる ・多数決と同様になる可能性がある( 1 位にのみ丸をつける) ・他の選択肢の影響を受けるコントラス ト効果や判断軸のブレといった心理的 な影響がある 時と場合によって 使い分けられると 良さそう
  12. ちなみに、ボルダルールとは • 18世紀後半にフランス海軍の科学者ジャン=シャルル・ド・ボルダが考案 • 案の順位に応じて配点し、点数が高い案を選択する方法 人数 得点 4 3 2

    1位 3 A B C 2位 2 C C B 3位 1 B A A 3案ある場合の 有権者9人による順位づけの例 A:17点(3x4 + 1x3 + 1x 2) B:17点(1x4 + 3x3 + 2x 2) C:20点(2x4 + 2x3 + 3x 2) ⇒ C案が選択される
  13. ボルダルールの特徴 • ボルダルールは満場一致への距離が近い選択肢が選ばれる 人数 得点 4 3 2 1位 3

    A B C 2位 2 C C B 3位 1 B A A 3案ある場合の 有権者9人による順位づけの例 Aが1位になるには10ステップが必要。 ・3人が3位⇒1位(2ステップx3人) ・2人が3位⇒1位(2ステップx2人) 同様にBは10ステップ、Cは7ステップ ⇒満場一致へはCが一番近い
  14. 「人」も結果に影響する ・可用性ヒューリスティック ・確証バイアス ・コントラスト効果 ・心理的リアクタンス ・正常性バイアス ・バイアスの盲点 ・アンカリング ・ギャンブラーの誤謬 ・現状維持バイアス

    • 人の思考のクセが選択に影響を及ぼす ・コンコルド効果 ・双曲割引 ・フレーミング効果 ・システム正当化バイアス ・根本的な帰属の誤り ・同調バイアス ・集団浅慮 ・ピークエンドの法則 ・損失回避 などなどなどなど… 「最後の藁」 なんてことわざ もありますね
  15. • 選択肢の数の1/2票があると優れたものを選ぶ確率が最も高い • 例:選択肢が10個だった場合に優れた案が選ばれる確率 ◦ 1票:約3割 ◦ 3票:約6割 ◦ 5票:約7割

    ◦ 7票:約6割 ◦ 9票:約3割 ドット投票 ※書籍『「きめ方」の論理』より 何気なくやっている「1人3票で!」 は確率を上げる行為
  16. 対話(「熟議」の例で説明) • アメリカのオレゴン州で飲酒運転などの厳罰化を住民投票(2010年) • 住民代表が検討し、声明文を出すプロセスを入れると投票結果に影響が出た 熟議と投票の組み合わせで何が起こるのか?《後編》 熟議 × 投票 =

    民主主義のバージョンアップ https://www.youtube.com/watch?v=nWUQVJ5b46M より 検討プロセス 賛成5,反対6,保留13 ⇒ 賛成3,反対21 世論調査 賛成:67~73% 投票結果 賛成:57% →声明文を読んだ人 賛成:40% →読まなかった人 賛成:66%
  17. 完璧な「意思決定」など存在しない (2回目) • そう、完璧な「意思決定」など存在しない(3回目) • なので、チーム・個人の意思決定の質を上げるよう考えよう • 「方向性」「情報」「納得感」を意識すると良い「意思決定」になる確率UP ◦ 方向性を合わせるための活動を行う

    ◦ 情報量を増やすために情報共有・整理や話し合いの時間を設ける ◦ 納得感を醸成するためのプロセスを考える • 大前提は信頼関係 こうして、意思決定を整えると良いチームになる 良いチームは良い意志決定がつくるのです