Upgrade to Pro
— share decks privately, control downloads, hide ads and more …
Speaker Deck
Features
Speaker Deck
PRO
Sign in
Sign up for free
Search
Search
ADRを運用して3年経った僕らの現在地
Search
Takafumi ONAKA
PRO
October 05, 2024
Technology
18
7.6k
ADRを運用して3年経った僕らの現在地
2024-10-05 YAPC::Hakodate 2024
https://yapcjapan.org/2024hakodate/
Takafumi ONAKA
PRO
October 05, 2024
Tweet
Share
More Decks by Takafumi ONAKA
See All by Takafumi ONAKA
強いチームと開発生産性
onk
PRO
33
11k
すこやかなサービス運営のための PWG (Performance Working Group)
onk
PRO
0
36
オブザーバビリティの Primary Signals
onk
PRO
2
3.6k
Cache Stampede
onk
PRO
1
1.9k
ORM - Object-relational mapping
onk
PRO
1
3.4k
デュアルトラックアジャイルとの向き合い方
onk
PRO
4
11k
技術記事を書く&楽しむチームの作り方
onk
PRO
0
110
グルーミングしながら進めるプロダクト開発
onk
PRO
0
230
エンジニアの個人ブランディングと技術組織
onk
PRO
0
100
Other Decks in Technology
See All in Technology
[FOSS4G 2019 Niigata] AIによる効率的危険斜面抽出システムの開発について
nssv
0
310
Terraform Stacks入門 #HashiTalks
msato
0
350
The Role of Developer Relations in AI Product Success.
giftojabu1
0
120
【Pycon mini 東海 2024】Google Colaboratoryで試すVLM
kazuhitotakahashi
2
490
100 名超が参加した日経グループ横断の競技型 AWS 学習イベント「Nikkei Group AWS GameDay」の紹介/mediajaws202411
nikkei_engineer_recruiting
1
170
Exadata Database Service on Dedicated Infrastructure(ExaDB-D) UI スクリーン・キャプチャ集
oracle4engineer
PRO
2
3.2k
AGIについてChatGPTに聞いてみた
blueb
0
130
なぜ今 AI Agent なのか _近藤憲児
kenjikondobai
4
1.3k
rootlessコンテナのすゝめ - 研究室サーバーでもできる安全なコンテナ管理
kitsuya0828
3
380
Shopifyアプリ開発における Shopifyの機能活用
sonatard
4
250
TypeScript、上達の瞬間
sadnessojisan
46
13k
EventHub Startup CTO of the year 2024 ピッチ資料
eventhub
0
110
Featured
See All Featured
The Power of CSS Pseudo Elements
geoffreycrofte
73
5.3k
[RailsConf 2023 Opening Keynote] The Magic of Rails
eileencodes
28
9.1k
Scaling GitHub
holman
458
140k
Why You Should Never Use an ORM
jnunemaker
PRO
54
9.1k
What's new in Ruby 2.0
geeforr
343
31k
The Art of Programming - Codeland 2020
erikaheidi
52
13k
Making the Leap to Tech Lead
cromwellryan
133
8.9k
The Cult of Friendly URLs
andyhume
78
6k
Product Roadmaps are Hard
iamctodd
PRO
49
11k
Save Time (by Creating Custom Rails Generators)
garrettdimon
PRO
27
840
Gamification - CAS2011
davidbonilla
80
5k
How GitHub (no longer) Works
holman
310
140k
Transcript
ADRを運用して3年経った 僕らの現在地 id:onk 2024-10-05 YAPC::Hakodate 2024 1
自己紹介 • 大仲 能史 a.k.a. id:onk • 芸歴20年目 • 株式会社はてな
◦ チーフエンジニア ◦ 好きなPerlプロダクトは箱庭諸島 ◦ 京都から陸路で来ました 2
3 ADRとは
ADRとは • Architecture Decision Records ◦ アーキテクチャ上の設計判断を記録する ◦ 意思決定を記録、共有する手法 •
2017年ぐらいから流行り始めた • Design It!やソフトウェアアーキテ クチャの基礎に詳しく書いてある 4
ADRとは • アーキテクチャが何故そうなっているかは 記録に残りづらい ◦ コンテキストはコード上に残らない • 最初は口伝で伝わるが、記憶が薄れたり 人が入れ替わったりして、いつか形骸化する ◦
徐々に色褪せていき、意図不明なルールだけが残る 5
ADRとは • ADRと既存のアーキテクチャ文書との違い ◦ 継続的に書き残していくことに重きを置いている ◦ 決定事項だけではなく、コンテキストも書かれる ◦ "軽量"で、カジュアルに書きやすい •
Design Docには設計の詳細も書く ◦ 意思決定に関わる内容だけを書くのがADR 6
7 はてなのプロダクト
はてなのプロダクト • 2001年7月設立 • 15年物のプロダクトも現役 ◦ 2001 人力検索はてな ◦ 2005
はてなフォトライフ、はてなブックマーク ◦ 2006 はてな匿名ダイアリー ◦ 2007 はてなスター 8
はてなのプロダクト • 15年前は完全に他人 ◦ 生き字引たちも記憶が無い • すべてがテキストで残ってはいる ◦ 社内グループウェア最高! •
ただし検索が上手くないとたどり着けない ◦ グループウェアのログ、IRCのログ、Slackのログ、 GitHub Issue/PR、コミットメッセージ、…… 9
10 考古学が必要になる
11 何故こうしたのかが 分かりやすく一覧に 残っていれば……
12 今、開発している 新しいプロダクトも 経緯を追いやすくしたい
13 ADRがドンピシャっぽい
14 ADRの始め方
ADRの始め方 • 導入は難しくない ◦ なんせ"軽量"なドキュメント ◦ テキストの保存場所さえあれば始められる • テンプレートもいっぱいある ◦
https://github.com/joelparkerhenderson/archit ecture-decision-record 15
ADRの始め方 • 導入は難しくない ◦ なんせ"軽量"なドキュメント ◦ テキストの保存場所さえあれば始められる • テンプレートもいっぱいある ◦
https://github.com/joelparkerhenderson/archit ecture-decision-record 16
ADRを保存する場所 • Helpfeel Cosense • GitHub Repo (ソースコードと同じ場所) に置 いたこともあるが、すぐにCosenseになった
• 「書きやすさ」「会話しやすさ」を大事にす るとGitHubは不向きだった 17
ADRをいつ書くのか • 実装内容が自明でないとき • 「設計したぞ」と思うことをしたとき • 迷ったら書きましょう 18
ADRのテンプレート • 作成日・作成者 • ステータス • 問題 • コンテキスト 19
• 決定 • 影響 • 代替案 • 感想コーナー
ADRのテンプレート • ステータス ◦ proposed, accepted, rejected, … • 問題
◦ 問題は何なのか。それはなぜ問題なのか • コンテキスト ◦ 問題が発生する背景は何なのか 20
ADRのテンプレート • 決定 ◦ 問題を解決するために導入するもの。その根拠 • 影響 ◦ この決定による影響やトレードオフ。影響にどう対応 するか
21
22 書き始めたら数年で 全チームに波及した
23 起きた出来事を 8個ほど紹介
24 GitHubが使われない
GitHubが使われない • 下書きをCosenseで、レビューをGitHubで ◦ 下書きの段階で軽く揉む ◦ ある程度書けたらGitHubに持って行き、 「提案済み」ステータスにする ◦ GitHubで改めてレビューし、採択か破棄を決定する
• GitHubに持って行ったのは最初の2件だけ 25
GitHubが使われない • 教訓:ワークフローよりも対話 • 対話したいからADRにしている ◦ 自信が無い ◦ チームの決め事にしたい •
対話するなら、いつもの場所 ◦ いつもの定例、いつもの議事録のそば 26
27 RFC文化の発達
RFC文化の発達 • Requests for Comments • 是非を問う前に有識者のコメントが欲しい ◦ 叩き台の選択肢からガラッと変わることも 28
RFC文化の発達 • テンプレートに議論コーナーができた ◦ インラインや感想コーナーで議論した後、ストック 情報として清書し、後から見返せるドキュメントに • ステータスにRFCが増えた ◦ draft
-> rfc -> proposed -> accepted/rejected 29
30 レビューに時間がかかる
レビューに時間がかかる • やりたいことがあるから提案しているのに、 理想の速度で決定されない • RFCの裏返し ◦ いつまでコメント募集なのか ◦ Proposeしたものはいつどこで決定されるのか
31
レビューに時間がかかる • ステータスに期日を設けた ◦ RFC 〜2024-10-01 ◦ proposed 〜2024-10-05 ◦
accepted/rejected 2024-10-05 • proposedになったらApproverに責任が移る ◦ 責任を持って期日までにaccept or reject 32
レビューに時間がかかる • ADRのレビュータスクをスクラムに乗せた ◦ 普段のタスク管理と同じところに置いて、 常に視界に入るように 33
34 書きすぎる
書きすぎる • 選択肢を丁寧に書きすぎる ◦ 認識が揃っているところは省略されている方が良い ◦ レビューで構えなきゃいけない度合いが誤って伝わる • 選ぶ理由はだいたい分かる ◦
選ばない理由の方が理由があることが多い ◦ 後世ではコンテキストが薄すぎるので「もっと書け」 になるかもしれないが…… 35
書きすぎる • 防衛的になる必要はない ◦ ADRは意思決定を推進するために書くもの 36
書きすぎる • 何が決定的な要因になるかの想定を持つ ◦ 提案が受け入れられる条件は何なのか • 主な判断材料以外の要素は軽く書く ◦ すべての差分を明らかにする必要はない 37
38 書けない
書けない • やりたい、と言ってきたことに対して「ADR をください」を返した後に起きやすい • どこが議論ポイントになるのかの想定を持て てなく、何を書いたら良いか分からない • 壁打ちやペアライティングが必要 39
40 Approverが大変
Approverが大変 • 全方位の知識を要求される ◦ 難しい内容だったり、知らない内容だったり ◦ 自分を判断できる状態に持って行くのに数時間〜数日 かかることも 41
Approverが大変 • 強いテクノロジーマネジメントが必要 ◦ 提案されたら意思決定を下さなければならない ◦ この情報が足りない、を明確に打ち返す必要がある • 現場でレビューが回るなら大丈夫 ◦
技術領域 (c.f. Webフロントエンド) ごとに委譲する ◦ できていないならApproverが頑張ることになる 42
43 下書きで止まる
下書きで止まる • 書き始めたはいいが、完成させられなかった ADRたち • proposedになっていないので accepted/rejectedに到達しない 44
下書きで止まる • 下書きで共有されるのは素晴らしいこと ◦ 隠し持っておくより全然いい ◦ 何度か書きかけると、徐々に気運が高まっていく ◦ 問題の形が徐々に削り出されていく •
Issueと同じく、仕掛品が溜まり続ける ◦ staleなADRは積極的にcloseしていくとヨサソウ 45
46 ADRが使われなくなる
ADRが使われなくなる • 異動や退職で、ADRを出す人、ADRにしてね と言う人がいなくなる • 数ヶ月動かないと、ADRというテンプレート が存在していたことが意識に上らなくなる 47
ADRが使われなくなる • テンプレートが使われない、1箇所に記録が集 まらないだけで、議論は行われている ◦ 昼会ページ等に議事録は残っている • テンプレートに沿っていないと、提案の質は 担保しづらい ◦
問題が明らかでないまま解決案を会話しているとか、 選ばなかった他の選択肢が書かれていないとか 48
49 始める前の期待は 満たせたのか
始める前の期待 • 意思決定がまとまって残っているので ◦ 新メンバーのオンボーディングが楽になる ◦ 未来の運用者が決定の過程を楽に追える • アンチパターンを避けられる ◦
繰り返し何度も議論してしまう ◦ コンテキストが変わったのに変化できない 50
51 意思決定が残っていて 嬉しい
意思決定が残っていて嬉しい • 元々記録はかなり残っていた ◦ 僕らの問題は散らばっていることの方が大きかった • 検索が楽になった! ◦ 雑多な情報を「ADR」で絞り込むと一覧が出る 52
• 今のところ強い嬉しさは少ない ◦ まだ3-4年なので会話した記憶が残っている ◦ 離職率も割と低く、当時の担当者がゼロではない • コンテキストを想像しなくて良いのは最高 ◦ この理由で選んだのであれば理由なくなってるよね、
という確認ができる 意思決定が残っていて嬉しい 53
54 意思決定のアンチパター ンを避けられるか
意思決定のアンチパターンを 避けられるか • そもそも問題があったか自信が無い • 逆に問題が出てきそうな雰囲気が無くもない ◦ 決定した記録が残っているので、変化に躊躇する ◦ 逆にコンテキストが変わったら、その意思決定は
deprecatedとすべきである、と繰り返し伝えていく 55
56 議論に持って行く ハードルは下がった
議論に持って行くハードルが下がった • 提案フローが明らかである ◦ RFC -> propose -> accept/reject ◦
ここに持って行けば絶対に会話して貰える安心感 • 提案のフォーマットも明らかである ◦ 「この問題をこの決定で解く」を書く ◦ 問題が何かを明らかにすることで解決に導く 57
58 まとめ
まとめ • ADRは始めやすい施策である ◦ 軽量であるのが強み • 考えた記録がちゃんと残りやすい ◦ コードの変更にPRを出すようなもので、提案やレ ビューを通じて表出化、共同化される
• 提案フローが明らかになる効果があった ◦ レビューする体制、提案してと言い続ける体制は必要 59