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いいソフトウェアを創るための組織と経営
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Yoshihito Kuranuki / 倉貫義人
October 28, 2024
Business
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いいソフトウェアを創るための組織と経営
SPI Japan2024での講演(2024/10)
Yoshihito Kuranuki / 倉貫義人
October 28, 2024
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Transcript
いいソフトウェアを 創るための組織と経営 倉貫 義人 株式会社ソニックガーデン 代表取締役 2024.10.15
© SonicGarden 2 倉貫 義人 https://kuranuki.sonicgarden.jp/ 株式会社ソニックガーデン 代表取締役 株式会社クラシコム 取締役CTO 1974年 京都府出身。学生時代はベンチャーで働きつつ、フリーソフトを公開する。 1999年
新卒で大手システム開発会社に入社し、アジャイル開発の普及に尽力する。 2011年 社内ベンチャーを立上げ、2年後MBOし株式会社ソニックガーデンを創業。 2018年 から株式会社クラシコムの社外取締役も兼任し、東証グロース上場に貢献。
© SonicGarden 3 株式会社ソニックガーデン
© SonicGarden 4 株式会社ソニックガーデン • ミッション(顧客)「一緒に悩んで、いいものつくる。」 • ビジョン (仲間)「いいコードと、生きていく。」 • パーパス (社会)「いいソフトウェアをつくる。」
© SonicGarden いいソフトウェアをつくりたい 5
© SonicGarden 6 いいソフトウェアを探る旅路 研究室での ゲーム開発 SIerでの 一括請負 アジャイル 開発
納品のない 受託開発 プログラマ 中心の組織 づくり 取締役CTO 製品開発 ベンチャー 新規事業
© SonicGarden 受託開発におけるアジャイル開発 7
© SonicGarden 8 いいソフトウェアを探る旅路 研究室での ゲーム開発 SIerでの 一括請負 アジャイル 開発
納品のない 受託開発 プログラマ 中心の組織 づくり 取締役CTO 製品開発 ベンチャー 新規事業
© SonicGarden 9 学⽣時代の原体験 • ベンチャーで働く、好きなプログラミングが仕事になる • 研究室でゲーム製作、考える人と創る人が一緒が最強 • 直接ユーザと繋がるインターネットに感動
• プログラミングできる会社を探して、システム開発会社へ
© SonicGarden 10 システムインテグレーターでの経験 • 入社年度に方針転換、マネジメント重視の会社へ • プログラミング能力が重宝されて、デスマーチも経験 • ウォーターフォールの悲劇、プログラマの不遇に怒り
• 一人では大型案件を立て直せず、プログラマとして挫折
© SonicGarden 11 アジャイル開発との出会い • プロジェクトを分析したら、上流工程は綺麗な世界が? • ウォーターフォールが元凶なのではないか? • アジャイル開発ならばプログラマが主役に?
• アジャイル開発を広げるための活動を始めた
© SonicGarden 12 アジャイル開発の限界を知る • 営業からマネージャまで、あらゆる立場で取り組んだが… ◦ 繰り返しても、全部の機能を作らないと成立しない ◦ 人月で見積る限り、生産性を上げても評価されない
◦ 開発と保守の分離により、内部品質が求められない
© SonicGarden 13 ⼀括請負のビジネスモデルが抱える問題 • 発注者と受注者で目指しているゴールが違う • 利用価値よりも、要件定義に従うことが価値 • 生産性が低いほど、見積もり金額が高くなる
• 労働集約と完成責任の捻れで利益が出せない
© SonicGarden いいソフトウェアがつくれない 受託開発から⾜を洗う 14
© SonicGarden 新規事業におけるアジャイル開発 15
© SonicGarden 16 いいソフトウェアを探る旅路 研究室での ゲーム開発 SIerでの 一括請負 アジャイル 開発
納品のない 受託開発 プログラマ 中心の組織 づくり 取締役CTO 製品開発 ベンチャー 新規事業
© SonicGarden 17 社内システムの内製をアジャイル開発で • 社内向けSNSの開発と運用、企画と展開まで • 社員ユーザの近さ、フィードバックの嬉しさ • 企画・開発・運用が同じチームのスピード感
• コストセンターであるがゆえの継続性リスク
© SonicGarden 18 社内ベンチャーでプログラマから経営者へ • コストセンターを脱却して、自分たちで稼ぐチームへ • 社内資産のオープンソース化から、新規事業の立上げ • 新しい制度「社内ベンチャー」として、経営を始める
• プログラミングを封印し、経営者の仕事にチャレンジ
© SonicGarden 19 新規事業が⽴ち上がらない‧‧‧ • 営業も、マーケティングも、広報も、経理も、未経験 • システム開発の発想で、新しい事業はうまくいかない • いいシステムを作っても、ユーザがいないと売れない
• 事業計画を作っても、現実に合わせないと実現しない
© SonicGarden 20 ユーザ中⼼に考え⽅をシフト • 儲けるための事業ではなく、お客さまの役に立つこと • 計画よりも適応させていく、現場からの学習を求める • 完成よりも成果を求めていく、ユーザが満足すること
• 開発よりも運用に重きをおく、継続性と保守性が大事
© SonicGarden 買った時点が最高品質 (製造業の発想) 利用中が最高品質 (サービス業の発想) 21 時間 構築 償却
時間 品質 品質 “Point of Sales”から“Point of Use”へ
© SonicGarden いいソフトウェアをつくるため 会社から独⽴を果たす 22
© SonicGarden 納品をなくせばうまくいく 23
© SonicGarden 24 いいソフトウェアを探る旅路 研究室での ゲーム開発 SIerでの 一括請負 アジャイル 開発
納品のない 受託開発 プログラマ 中心の組織 づくり 取締役CTO 製品開発 ベンチャー 新規事業
© SonicGarden 25 DX以前 品質重視で作ってから売る 事前の計画に従う 大きく投資してビックバン 減価償却するまで使う リリースまでのプロジェクト DX以降
スピード重視で市場に出す フィードバックから改修 初期投資はスモールスタート スケールアウトが前提 事業が続く限り改善も続く これから求められるソフトウェア開発
© SonicGarden 26 お客さまを中⼼に受託開発を考え直す • システムが欲しいのではなく、要件定義したい訳でもない • 事業の成長に合わせて、最適なシステムがあれば良い • 内製できればいいが、採用・育成・マネジメントが難しい
• 何をつくれば良いか、それを考えるのが一番難しい
© SonicGarden いいソフトウェアをつくるため ビジネスモデルから変える発想 27
© SonicGarden 28 納品のない受託開発 • 顧問型のチームで、企画から運用まで一気通貫で関わる • 工程を分業せず、開発と運用も分断せず、ずっと続ける • 開発責任者が、経営戦略に沿った組織作りまで実施する
• 月額定額で、時間管理はなく信頼を元にベストを尽くす
© SonicGarden 29 従来との違い 納期と機能は固定されない ドキュメントがない 月額費用が発生し続ける 時間が把握できない 完成して終わりがない 得られる利益
優先順位は柔軟に変えられる チームが維持される 作らない提案を受けれる 成果を期待できる 事業を継続する一体感がある トレードオフ
© SonicGarden 30 「⼀緒に悩んで、いいものつくる」 • 毎週の打ち合わせ中に、設計を終えて、1週間で実装する • コンサルティングからプログラミング、運用まで全部する • 基本ドキュメントは作らない、保守性の高いコードを書く
• 卓越した技術力でもって、問題解決と価値創造を実現する
© SonicGarden いいソフトウェアを 創るための組織 31
© SonicGarden 32 いいソフトウェアを探る旅路 研究室での ゲーム開発 SIerでの 一括請負 アジャイル 開発
納品のない 受託開発 プログラマ 中心の組織 づくり 取締役CTO 製品開発 ベンチャー 新規事業
© SonicGarden 33 株式会社ソニックガーデン • 「納品のない受託開発」を100社以上に提供している • 所属プログラマ 3名→50名、会社全体で 5名→60名
• セルフマネジメントによるコミュニティ型の組織 • 親方弟子の徒弟制度によるプログラマ育成の仕組み
© SonicGarden 34 顧問プログラマの仕事 • 仕事とは指示通りに働くことではない、それは作業 • 仕事とは価値を生み出すこと=誰かの役に立つこと • これから人に求められる仕事は、再現性の低い仕事
• 属人的でクリエイティブな仕事にこそ、価値がある
© SonicGarden 35 マニュアルワーカー • 上司からの指示命令に従う • 受動的に動く • 外発的動機づけ
• 現状を維持したい • 仕事の対価は報酬である • 仕事と生活は別物 • 業務の範囲は広げない • 担当を分業して働く • ルールが大事 • 組織と上司に従う • コンピュータやロボットが得意 ナレッジワーカー • セルフマネジメントで働く • 主体的に動く • 内発的動機づけ • 改善し続けたい • 仕事は成長の機会である • 仕事は人生の一部 • 責任範囲にこだわらない • 他者と協業して働く • ゴールが大事 • 文化と価値観に従う • 人間の感性を活かして成果を出す
© SonicGarden 36 私たちの考えるマネジメント • マネジメントは管理することではない、管理は手段 • マネジメント=なんとかする=良い感じにすること • セルフマネジメントで自律的に働ける環境をつくる
• 組織づくりにチームとコミュニティの違いを活かす
チーム コミュニティ • ミッションから始まる • 目標・ゴールのために集まる • 終りと解散がある • 活動(doの価値)
• メンバーは役割を果たす • 事業と貢献が価値 • 提供の目線は外向き(社会や顧客) • よりスキルを重視した採用 • 即戦力で働ける人材が好ましい • チームの段階を進めることが大事 • 戦争や冒険に似ている • ビジョンから始まる • 価値観・理念に共感して集まる • 続くことが前提である • 状態(beの価値) • メンバーは居るだけで良い • 安心と安全が価値 • 提供の目線は内向き(中の人) • より人間性を重視した採用 • 将来のための人材が好ましい • 定期的なイベントの開催が大事 • 国や街の統治に似ている
© SonicGarden 38 私たちの⽬指す経営 • 経営とは、資本の再生産だけを目指すものではない • 文化資本/関係資本/経済資本の循環で幸せを増やす • 投資ではなく経験への対価なら何も失うものがない
• 予測に基づく計画よりも、現実からの適応で考える
予測型マインドセット 適応型マインドセット(アジャイル思考) • 未来の目標を先に設定する • 目標から逆算して計画を立てる • 計画通りに進める • 準備して将来の変化に備える
• 予測を元に不足を補う • 役割に人をアサインする • 想定外をなくす • 結果や評価にこだわる • 数字は達成すべきもの • 無駄がないよう見極め大きく賭ける • 大量生産や製造に向く • 未来の成功を獲得する • 現在できることに集中する • 今の積み上げで見通しを立てる • 臨機応変に進める • 変化に対応できる状態を保つ • 実績を元に充足を知る • 人に合わせた役割がある • 例外を歓迎する • 手段や過程にこだわる • 数字は状態を測るもの • 無駄も受け入れて小さく試し続ける • 問題解決や創造に向く • 現在の幸せを続けたい
© SonicGarden 40 「遊ぶように働く」 • 働くのは、ただ労働の対価を得るためだけではない • 普通に働いていることが、遊んでいるように見える • 「遊びながら働く」「消費的に遊ぶこと」ではない
• ついやってしまう没頭する好きなことを仕事にする
© SonicGarden 41 4つの要素 • 成長が続くこと(フロー状態が続けられる) • 裁量があること(内発的動機づけで動ける) • 正解がないこと(創意工夫と失敗ができる)
• 仲間がいること(自分の強み弱みを活かす)
© SonicGarden 42 「遊ぶように働く」ためには • 高い生産性で成果をあげ続けられる卓越した技術力 • 己の強み弱みを知って、行動の改善を続ける内省力 • 「問題vs私たち」ができるコミュニケーション能力
• 高い視座を得て、全体が良い感じになるよう動ける
© SonicGarden セルフマネジメント 43
© SonicGarden 44 セルフマネジメントの5段階 仕事 対人 自分 視座 第1段階 進捗管理
ホウレンソウ 自己管理 自分 第2段階 タスクばらし ザッソウ ふりかえり 上司・同僚 第3段階 プロジェクト遂 行 チームビルディング 自己マスタリー 顧客・チーム 第4段階 事業経営 人材育成 自己幸福 組織・業界 第5段階 属人的価値創造 社会的ミッション 自己中心的利他 社会
© SonicGarden 45 第2段階を超える⼿引き • タスクばらし・ザッソウ・ふりかえり • 自分の頭で考えて仕事ができるように • リアリティのある小説で追体験できる
• 「倉貫書房」で検索
© SonicGarden 46 ⼈材育成:徒弟制度で育つ • 育成は教育や研修ではない、自律で育つまでの支援 • 技術向上と仕事を通じて、人格まで含めた人材育成 • ただ技術力だけでなく、文化や価値観も身につける
• 再現性のない仕事は、職人の徒弟制度で真似て育つ
上司 親方 • 部下のできることを増やして成果を出させる • 部下が成果を出せるよう手は出さず支援する • 必ずしも部下の上位互換である必要はない • 多様な部下を取りまとめて、相互協力させる
• 部下に対する権限をもって接する • 不確実性には部下と一緒になり取り組む • いずれ部下との関係性が逆転することがある • 部下に対して助言する。判断は部下が決める • ふりかえり(KPT)で共感と肯定に重きをおく • すりあわせ(YWT)で賞賛と過去に重きをおく • 人徳と人柄で慕われるとうまくいく • 部下が仕事をしてくれたら感謝を示す • 組織をまとめるのに共通のミッションを持つ • 安心して意見を言える関係をつくる • 弟子を自分と同じことができるコピーにする • 弟子が成果を出せないときには取って代わる • 職においては絶対的な上位互換であること • 弟子の足並みを揃えず、伸びるやつを伸ばす • 弟子からの権威でもって従わせる • 弟子にとって正解がある前提で取り組む • 弟子からすると生きてる限り師匠でい続ける • 弟子に対して指導する。師匠に従い判断する • ふりかえり(KPT)で期待と成長に重きをおく • すりあわせ(YWT)で挑戦と未来に重きをおく • 実力と経験で敬われるとうまくいく • 厳しく指導したら弟子から感謝される • ビジョンをまとめた結果で組織になっている • 畏怖されることも厭わずに指導する
© SonicGarden 48 ソニックガーデンの⽬指すビジョン • 高い技術を身につけ知性を磨き、自立心を育むこと • 自立できる人材が、働きたいと望む会社とすること • 自立した人同士が、切磋琢磨しながら貢献すること
• 志を共にする仲間として、自立した人が増えること
© SonicGarden いいソフトウェアを 創るための経営 49
© SonicGarden 50 いいソフトウェアを探る旅路 研究室での ゲーム開発 SIerでの 一括請負 アジャイル 開発
納品のない 受託開発 プログラマ 中心の組織 づくり 取締役CTO 製品開発 ベンチャー 新規事業
© SonicGarden 51 株式会社クラシコム • 「北欧、暮らしの道具店」を運営 • 「フィットする暮らし、つくろう。」 • 記事、ドラマ、映画、ポッドキャスト
• 2022年上場、売上高70.1億(24年7月期)
© SonicGarden 52 クラシコムを⽀えるソフトウェア • 「北欧、暮らしの道具店」のウェブ/スマホアプリ • コンテンツの編集と配信 • 受注・在庫の管理、倉庫との連携、商品・発注の管理
• 財務会計との連携、データ分析との連携
© SonicGarden 53 内製ソフトウェア開発で起きがちなこと • 事業サイドが発注側、開発サイドが下請けみたいな構造 • スケジュールを先に決めてしまいたい経営サイドの要望 • 新しい機能の開発を優先し、技術的負債が溜まり続ける
• エンジニアの興味を優先し、複雑化したアーキテクチャ
1章 完成しても、終わりではない 2章 人を増やしても速く作れるわけではない 3章 たくさん作っても生産性が高いとは言えない 4章 人に依存せず同じ品質で作ることはできない 5章 プレッシャーをかけても生産性は上がらない 6章 見積もりを求めるほどに絶望感は増す 7章 一度に大きく作れば得に見えて損をする 8章 工程を分業しても、効率化につながらない
© SonicGarden 55 経営から⾒たソフトウェア開発 • 完成させること、納期を守ることに重大な意味はない • ソフトウェアと開発組織の持続可能性を確保すること • 事業に影響するスコープでの優先順位をグリップする
• 事実や証拠に基づき、蓋然性の高い説明ができること
© SonicGarden 56 ソフトウェア開発に経営ができること • 共通のロードマップを用いて、アップデートし続ける • 現状を把握した上で、優先順位を変えて戦略を見直す • 組織の生産能力を高めるため、外部資源に予算を使う
• 作らなくても解決できるように、事業や業務を見直す
© SonicGarden ソフトウェアをとりまく環境も ソフトウェアと捉えるのはどうか 57
© SonicGarden 58 ソフトウェアを⽣態系だと再解釈する • ソフトウェアを、使う人考える人作る人から切り離さない • ソフトウェアは、使う人との相互作用で価値が発揮できる • ソフトウェアは、学習を受け入れ実態を元に変化し続ける
• ソフトウェアに完成はなく、価値の循環で拡大・縮小する
© SonicGarden 良い⽣態系をつくるように いいソフトウェアをつくる 59
© SonicGarden ありがとうございました(講演者について) 60 倉貫義人 株式会社ソニックガーデン代表取締役 https://kuranuki.sonicgarden.jp ブログ 連絡先
[email protected]