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kanazawa2024

SatokiMasuda
December 12, 2024

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2024年12月6日の第6回交通・都市理論ドクター若手勉強会@金沢大学の発表資料です。

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December 12, 2024
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  1. 災害常襲地域の都市発展の⽅向を規定する要因 村尾ら(2012),⽥中(2013),萩原(2019)等 • ⼼理的要因 (津波への不安、防潮堤による安⼼感) • 地理的要因 (平地の有無、⾼所の⼟地供給、後背緩斜⾯の存在) • インフラ整備

    (道路・鉄道インフラ、学校など公共施設の整備) • 制度 (災害危険区域、氾濫原の農地の宅地転⽤) 2 研究の背景と⽬的 村尾修,磯⼭星 (2012). 岩⼿県沿岸部津波常襲地域における住宅⽴地 の変遷 —⽇本建築学会計画系論⽂集, 77(671):57–65. ⽥中正⼈ (2013). 南海・東南海地震の激甚被害が想定される沿岸地域の ⾃主的な⾼所移転の実態とその背景. 地域安全学会論⽂集, 21:251–258. 萩原拓也 (2019). 釡⽯市・⼤槌町におけるリアス式海岸集落の空間整備と居住地形成に関する研究. 都市計画論⽂集, 54(3):1051–1058. • 本研究 = 複数主体 (住⺠、開発者、⾏政)の戦略的意思決定 → ゲーム理論
  2. ⽴地⾏動における戦略的意思決定の特徴 • 主体内・主体間の⾏動に対する期待 住⺠は、将来の住⺠の⾏動や開発者の開発動向を予想して、現在の居住地を選択 • 情報の⾮対称性 住⺠は開発者の開発⾏為をもとに居住地を選択する = 時間的順序 •

    ⽴地による⻑期的な都市環境の変化 → ⾏動によるゲーム環境の変化とそれに対する期待を分析する必要性 3 研究の背景と⽬的 多期間の展開形ゲームによる⽴地⾏動の分析 研究の⽬的 1. リスク認知・⽣活利便性・開発費⽤等の⽴地要因が、互いの戦略的 ⽴地⾏動の均衡に与える影響を、理論的な分析により明らかにする 2. 住⺠と開発者の⾮協⼒的な⽴地⾏動のもとで、社会的に最適な⽴地を 実現するための、⾏政によるインセンティブの特徴を明らかにする
  3. 災害リスク地域における複数主体の相互作⽤の実証分析 • 浅野ら(2016) 浜松市 津波リスク地域 → 東⽇本⼤震災後の開発減少、住⺠のリスク認知の向上 • 坂本ら(2021) ⾼知県

    洪⽔・⼟砂災害リスク地域 →低リスクの都市で宅地開発・転⼊増。住⺠が防災⾯を重視。 4 既往研究 浅野純⼀郎,上⽥政道 (2016). 津波危険区域の市街化調整区域における開発許可制度運⽤と課題に関する研究. 都市計画論⽂集, 51(3):944–951. 坂本淳,佐伯進志 (2021). 地⽅⼩都市における洪⽔・⼟砂災害リス クと宅地開発・居住地選択・転出⼊⼈⼝の関係の変化分析. 都市計画論⽂集, 56(3):929–935. 坂本 淳, 津波リスクの⾒直しを受けた居住誘導の課題―⾼知市を対象としたケーススタディ―, ⼟⽊学会論⽂集F6(安全問題), 2019, 75 巻, 2 号, p. I_119-I_125 ⾼⽊朗義,森杉壽芳,上⽥孝⾏,⻄川幸雄,佐藤尚 (1996). ⽴地均衡モデルを⽤いた治⽔投資の便益評価⼿法に関する研究. ⼟⽊計画学研究・論⽂集, 13:339–348. Bier, V. M., Zhou, Y., and Du, H. (2020). Game-theoreKc modeling of pre-disaster relocaKon. The Engineering Economist, 65(2):89–113. Gorji, M.A., Hadavi, N., and Nahavandi, N. (2023). Improving urban resilience against climate change through government tax policies to housing companies: A game-theoreKc approach. Urban Climate, 49:101565. 坂本(2019)より、⾼台の宅地分譲 数理モデルによる災害リスク下の⽴地分析 • ⾼⽊ら(1996) ⽴地均衡モデルに災害リスク項を導⼊→治⽔投資の便益を評価 × 多主体の⽴地⾏動の相互作⽤の理論的分析と,メカニズムの理解 ⼟地の需要と供給の静学均衡 → ×⽴地主体が、⾃他の⾏動を予測して⽴地を決定する,動学的意思決定 • 気候変動による居住地事前移転のゲーム分析 Bier et al.(2020), Gorji et al.(2023) 政府と住宅購⼊者・政府と建設会社のゲーム → 移転補助、税制優遇の効果を確認 × ⽴地⾏動の動学的なモデル化、住宅購⼊者と開発者の相互作⽤の考慮
  4. • 2地域 (High land, Low land)、2プレーヤー (Developer, Residents) 6 ⽴地⾏動の展開形ゲームの記述

    H (High) L (Low) <仮定> • 開発者:対象都市の住宅開発を独占して⾏う1 つのプレーヤー • 住⺠:各期に対象都市に転⼊する新規住⺠を1プレーヤーとしてまとめる • 主体内異質性は考慮しない = 開発会社間の競争や住⺠の社会的相互作⽤は扱わない • 毎期⽴地する住⺠ (の集団)は異なるが、利得や割引率の意思決定機構は同じ →住⺠が将来に関して推論する際、⾃らと同じ意思決定機構をもつ仮想的な住⺠を 想定することを表現 開発者 住⺠ 毎期1住⺠が 対象都市に転⼊ 他都市 過去に転⼊した住⺠により市街化 住宅購⼊ H L 開発者は開発しない ことを選択可能 宅地開発 開発なし H L N
  5. 開発者:当期の住⺠の居住地と次期以降の都市発展を予想 →最終利得を最⼤にする開発⽴地を決定 住⺠:当期の開発者の開発を観測、次期以降の都市発展を予想 →最終利得を最⼤にする居住地を選択 7 利得関数 相⼿の⾏動に依存 𝐽! 𝒖; 𝒙"

    = & #$% & 𝜌! # 𝛼'()* × 開発コスト + 𝛼)(+, × 売却益 + 𝜌- & 𝛽./)0 × 被災リスク 開発者の当期の開発場所と ⼀致する場合、低コスト 開発者 住⺠ 𝐽- 𝒖; 𝒙" = & #$% & 𝜌- # 𝛽'()* × 住宅購⼊コスト + 𝛽123 × 居住地アメニティ 時間割引率 (将来をどれほど考えるか) ⾮市街地の⼈⼝増→アメニティ増 (市街地のアメニティは⼀定) 開発場所によって異なる 住⺠の当期の居住地と ⼀致する場合、利益を得る 𝐴! 𝑥 𝑡 = 𝑥! 𝑡 𝑇 , 𝐴" 𝑥 𝑡 = 1
  6. 開発者 住⺠ H L H L H L … N

    8 後向き帰納法による解の導出 先読み 先読み 先読み ① 住⺠は各局⾯について ⾏動を最適化 ② 開発者は各局⾯について ⾏動を最適化 ③ 住⺠は各局⾯について ⾏動を最適化 ④ 開発者は初⼿の⾏動を最適化 後向き帰納法 均衡概念: 各プレーヤーは各局⾯で最適反応をとる = 部分ゲーム完全均衡 完備情報・完全情報 (合理性)を仮定: ・全プレーヤーは、プレーヤー集合、状態遷移、⾏動空間、利得などのルールを保持 ・全プレーヤーは、それ以前に⾏われた全ての意思決定の内容を観察できる (𝑧!, 𝑧") (𝑧!, 𝑧") (𝑧!, 𝑧") (𝑧!, 𝑧") ① ②
  7. i) 0 < 𝛽456# + 𝛽7869 + 𝛽:;< ↔ −

    𝛽456# + 𝛽:;< < 𝛽7869 < 0 = 住⺠のリスク認知が低い場合 i-a) 𝛼" + 𝛼'()* > 0 (低地開発の利益が⾒込める場合) 開発者:低地開発。住⺠:低地居住。 i-b) 𝛼" + 𝛼'()* < 0 (低地開発の利益が⾒込めない場合) 開発者:開発なし。住⺠:低地居住。 9 1期間モデル (時間発展なし) → 開発者の開発⽬的に防災を追加 (+𝜶𝒓𝒊𝒔𝒌 )してもゲームの解は変わらない → ⾼台開発しても居住を誘導できない→売却益のある低地を開発 or 開発しない
  8. 10 1期間モデル (時間発展なし) ii) 0 > 𝛽456# + 𝛽7869 +

    𝛽:;< ↔ 𝛽7869 < − 𝛽456# + 𝛽:;< < 0 ii-a) 𝛽7869 < 𝛽456# − 𝛽:;< < − 𝛽456# + 𝛽:;< = 住⺠のリスク認知が⾼い場合 開発者:⾼台開発の利益が⾒込める場合、⾼台開発 住⺠:⾼台居住
  9. 11 1期間モデル (時間発展なし) ii) 0 > 𝛽456# + 𝛽7869 +

    𝛽:;< ↔ 𝛽7869 < − 𝛽456# + 𝛽:;< < 0 ii-b) 𝛽456# − 𝛽:;< < 𝛽7869 < − 𝛽456# + 𝛽:;< = 住⺠のリスク認知が中程度場合 開発者:開発利益が⾒込める場合、⾼台と低地のうち、開発コストの⼩さい⽅を開発。 住⺠:開発者の開発した⼟地に居住 → 開発者の開発⽬的に防災を追加 (+𝜶𝒓𝒊𝒔𝒌 )する場合、 𝜶𝑯 < 𝜶𝑳 + 𝜶𝒓𝒊𝒔𝒌 となるほど𝜶𝒓𝒊𝒔𝒌 が⼤きい場合、低地集中から⾼台集中へ変化
  10. • ⾼台開発コストが低地より⼩ → ⾼台に⽴地集中 13 4期間モデル (時間発展あり) ⾼台開発コスト 市街地のアメニティの重視度 ⾼

    低 低 ⾼ • 利得パラメータを変化させて数値的に均衡解を分析 • ⾼台開発コストが売却益を上回る場合 • 市街地のアメニティ 軽視 → 開発者は開発せず、住⺠は⾼台⽴地 (⾃主移転) • 市街地のアメニティ 重視 →開発と居住が低地集中 (開発者が住⺠の低地⽴地を予⾒) 住⺠が先⾒的な場合
  11. 14 4期間モデル (時間発展あり) 住⺠が先⾒的 住⺠が近視眼的 割引率中程度 ⾼台開発コスト 市街地のアメニティの重視度 ⾼ 低

    低 ⾼ • 利得パラメータを変化させて数値的に均衡解を分析 • 住⺠が近視眼的な場合 ⾼台開発コスト⼤、市街地アメニティ軽視の領域 = ⾃主移転から低地集中に変化 ← 住⺠が将来の⾼台の市街化や被災リスクを⾒通さず、近視眼的に低地の居住地を 選択し続け、開発者もそれによる利益を得ようとするため 将来の市街化や災害リスクを住⺠がどの程度考慮するかにより、 開発と居住の⽴地均衡が変化
  12. • 割引率1 (完全予⾒)の場合に、開発者と住⺠の利得の和 𝐽45 (𝒖) が最⼤の⽴地 15 社会的に最適な⽴地 均衡⽴地 差異

    ⾼台開発・⾼台居住が、多くの場合で社会的最適 ← 社会的最適解では,将来の被災リスクが住⺠ の利得の中で重視されるため
  13. • 割引率1 (完全予⾒)の場合に、開発者と住⺠の利得の和 𝐽45 (𝒖) が最⼤の⽴地 16 社会的に最適な⽴地 ⾼台開発・⾼台居住が、多くの場合で社会的最適 ←

    社会的最適解では,将来の被災リスクが住⺠の利得の中で重視されるため ⾏政の補助⾦により、均衡⽴地を社会的に最適な⽴地へ誘導するには?? 社会最適 𝜌1 = 0.9 住⺠が先⾒的 𝜌1 = 0.1 住⺠が近視眼的 ⾼台開発cost ⼩ 市街地重視度 ⼩ ⾼台開発cost ⼩ 市街地重視度 ⼤ ⾼台開発cost 中 市街地重視度 ⼤ ⾼台開発cost ⼤ 市街地重視度 ⼩ ⾼台開発cost ⼤ 市街地重視度 ⼤ 低地市街地
  14. 少なくとも⽚⽅のプレーヤーにとって、 (社会的最適⽴地のため協調することで得られる利得) < (⾮協⼒的に⽴地するときの利得) 18 社会的最適⽴地のためのインセンティブ設計 𝐽34 + 𝑆 =

    𝐽53 𝐽34 < 𝐽53 1期間の場合: 協調の場合の利得 ⾮協調の場合の利得 協調⾏動に誘導するための 最⼩のインセンティブ 𝜙'( t + S t + & =$#>% & 𝜌=?#{𝜙'( 𝜏 + S 𝜏 } = 𝐽@4 𝑥∗ 𝑡 協調の持続により将来に渡って得られる利得 𝑡期に協調を破棄して ⾮協調⾏動をとった場合の利得 多期間の場合: & # & 𝜌#𝜙45 𝑡 < & # & 𝜌#𝜙@4 𝑡 ? 𝜙 : 当期の利得 (即時利得)
  15. 最⼩インセンティブ𝑆 𝑡 の計算: 以下の値が求まれば、終端時刻𝑇から後ろ向きに𝑆 𝑡 を計算可能 19 社会的最適⽴地のためのインセンティブ設計 𝜙'( t

    + S t + & =$#>% & 𝜌=?#{𝜙'( 𝜏 + S 𝜏 } = 𝐽@4 𝑥∗ 𝑡 協調の持続により将来に渡って得られる利得 𝑡期に協調を破棄して ⾮協調⾏動をとった場合の利得 • 𝜙45(𝑡) • 𝐽@4 𝑥∗ 𝑡 ← 社会的最適解のときの各プレーヤーの利得 (容易) ← 𝑡期に協調を破棄して⾮協調⾏動をとった場合の利得 もしどちらかが協調を破棄すれば、両者が⾮協⼒的に⾏動を始める (⾃然な)仮定 𝑱𝒏𝒄 𝒙∗ 𝒕 = 状態 (⼈⼝分布) 𝒙∗ 𝒕 から始まる⾮協⼒ゲームの均衡利得
  16. 1. 動学的個⼈合理性 あらゆる期において、協調を持続することで得られる将来にわたる利得(左辺)が、 ⾮協⼒⾏動により得られる利得(右辺)より⼤きい。 20 インセンティブの満たすべき条件 2. 逸脱に対する安定性 あらゆる期において、協調を持続することで得られる将来にわたる利得(左辺)が、 ⾃分だけが協調を逸脱することによる利得(右辺)より⼤きい。

    Parilina and Zaccour (2022) 𝑥∗(𝑡)を初期状態とする部分ゲームに おいて、両プレーヤーが⾮協⼒に⾏動 する場合の、プレーヤー𝑖の利得 𝑥∗(𝑡): 𝑡期まで協調した ときの⼈⼝分布 両者が協調⾏動をとった時の、 プレーヤー𝑖のインセンティブを 含む利得 𝑥∗(𝑡)を初期状態とする部分ゲーム において、プレーヤー𝑖だけが⾃分 にとって有利な⾏動をとった際の、 プレーヤー𝑖の利得 次状態からの⾮協⼒ゲーム によるプレーヤー𝑖の利得
  17. 均衡⽴地が低地集中型、社会的最適⽴地が⾼台集中型のパラメータで計算 22 最⼩インセンティブの数値計算 インセンティブ額 期 期 期 住⺠が先⾒的 住⺠が近視眼的 割引率中程度

    開発者 開発者:全期において、協調からの逸脱 (低地開発)により、住⺠の⽴地を 低地に誘導し、売却益を得られる。 → ⾏政は、低地開発による売却益以上のインセンティブを、開発者の⾼台 開発に対して与え続ける 開発者への補助額: 4.0 開発者への補助額: 4.0 開発者への補助額: 4.0
  18. 均衡⽴地が低地集中型、社会的最適⽴地が⾼台集中型のパラメータで計算 23 最⼩インセンティブの数値計算 インセンティブ額 期 期 期 住⺠が先⾒的 住⺠が近視眼的 割引率中程度

    開発者 住⺠ • 住⺠:⾼台が市街化するまでは、協調⾏動 (⾼台居住)のインセンティブ。 開発者への補助額: 4.0 住⺠への補助額: 2.432 開発者への補助額: 4.0 住⺠への補助額: 5.250 開発者への補助額: 4.0 住⺠への補助額: 7.501 • 住⺠が近視眼的であるほど、⾏政の補助負担が増⼤ ← 住⺠が、協調によって将来得られる利得を過⼩評価するため、 ⾏政はその分、現在与えるインセンティブを多くする必要がある
  19. 開発者と住⺠の相互動学的な意思決定を、展開形ゲームに基づく動学的⽴地モデルで表現 → 時系列のインセンティブデザインの枠組みを⽰した ◼ 災害リスク地域の都市計画への⽰唆 • ⺠間開発事業者を巻き込んだ防災・事前復興の事例 • 標⾼の⾼い市街化区域での⺠間宅地分譲への助成 (焼津市)

    • ⾼台の市街化調整区域への⽴地規制緩和 → 移転先⽤地確保 (焼津市) • 建設会社による災害に強い宅地の販売 (阿南市、⾼知市) → 住⺠のリスク認知を⾼めるソフト施策なしには、⽴地誘導は困難 • ⾏政にとっても、住⺠が将来の被災リスクを軽視し、近視眼的に居住地を選択する場合、 補助負担が増⼤ ◼ 今後の発展 • 住⺠の異質性・集団を扱える枠組みの導⼊ • 開発許可や転居⾏動などのデータによる実証分析 24 まとめと今後の課題